子供の遺産を親が相続することってあるの?注意点はある?
今回の記事では、親が遺産を相続するケースや相続割合について、詳しくみていこう。
遺産相続という言葉は、どうしても「親の遺産を子供が引き継ぐ」というイメージを持たれやすいものです。
しかし、現在は子供のいない夫婦も増えていますし、高齢化に伴って、長生きした親が先に亡くなった子供の遺産を引き継ぐという「逆パターン」も時々みられます。
本記事では、
- 「日本の民法では基本的な相続人の規定はどのようになっているか」
- 「親が子供の相続人となるのはどのような場合か」
- 「借金を引き継がなければならない場合はどうすればよいのか」
などを解説します。
遺産相続の基本的な順序
日本の民法では、被相続人(亡くなった人)の名義だった財産(遺産)を相続する人の基本的順序が決められていますが、これを「法定相続人」といいます(民法第886条~第890条)。
法定相続人、そして法定相続分(民法で定められた相続分)を、相続の優先順位に沿って解説します。
配偶者がいる場合には必ず相続人となる
被相続人の死亡時に被相続人の戸籍に入っている「配偶者(夫または妻)」がいれば、その人は必ず相続権を持ちます(民法第890条)。
例えば、死亡の前日に婚姻した配偶者でも相続人になりますが、逆に、数十年結婚生活を営んだ配偶者といえども被相続人死亡時点で離婚または被相続人より先に死亡していれば相続人になりません。
配偶者は下記に説明する子、直系尊属、兄弟姉妹などの相続人が存在していても、必ずそれらの法定相続人とともに相続権を持ちます。
子供がいる場合
被相続人に子供がいれば、子供は相続人になります(民法第887条第1項、第1順位相続人)。
配偶者と子供が両方いれば両者が共同相続人となりますが、「配偶者が2分の1、残りの2分の1を子供の頭数で割る」という配分になります。
例:配偶者と子供が3人いる場合
配偶者が6分の3(=2分の1)、子供がそれぞれ6分の1ずつ相続する。
以前は非嫡出子(婚外子)は嫡出子の2分の1の相続分しかありませんでしたが、現在では非嫡出子がいても嫡出子と同じ相続分であり、また、実子と養子も同じ相続分とされています。
子供がいない場合
被相続人に子供がいない場合には直系尊属(親や祖父母)が相続人となります(民法第889条第1項1号、第2順位相続人)。
なお、両親のうち片方のみ生存していればその人のみが相続人になりますが、もし、両親ともに死亡している場合には祖父母のうち生存している人が相続人になります。
どちらの場合であっても、配偶者がいれば配偶者と直系尊属が両方相続権を持ちます。
直系尊属が相続する場合の割合について詳しくは下に解説します。
子供も親や祖父母もいない場合
被相続人に子供も直系尊属もいない場合には兄弟姉妹が相続人となります(民法第889条第1項2号、第3順位相続人)。
配偶者と兄弟姉妹が両方いる場合は、「配偶者が全体の4分の3、兄弟が残り4分の1を均等に分け合う」という配分になります。
なお、半血兄弟(父母のどちらかを同じくする兄弟)の場合、半血兄弟は全血兄弟の半分の相続分となります。
例:被相続人に配偶者と全血兄弟2人、半血兄弟1人がいる場合
配偶者が20分の15、全血兄弟2人はそれぞれ20分の2ずつ、半血兄弟は20分の1の割合で相続する。
子供が先に死亡している場合は代襲相続
被相続人である親Aよりも子供Bが先に死亡している場合、子供の子供、つまり被相続人の孫CがいればCが相続人となります(代襲相続)。
仮にCも死亡している場合、Cの子供DがいればDが再代襲相続人となります。
兄弟姉妹が相続人となる場合も同様で、被相続人であるAの兄弟BがAより先に死亡している場合、Bの子供、つまりAから見た甥姪CがいればCが相続人となります。
ただし、兄弟姉妹が相続人である場合、本例のCが死亡していてもCの子供Dは再代襲相続人にはならず、代襲するのは一代限りです。
子供の遺産を相続する場合の相続割合
子供に配偶者がいる場合には、3分の1を親が相続することになるんだ。
では、本記事のテーマである「子供の遺産を親や祖父母(直系尊属)が相続する」、つまり第2順位相続人が相続人となるケースで、相続割合がどのようになるのか詳しく確認してみましょう。
配偶者と親が相続する場合の相続割合
配偶者と直系尊属が両方相続人となる場合の相続割合を確認します。
被相続人の死亡時に配偶者が生存しており、かつ子供がいない場合には配偶者と直系尊属の両者が相続人となりますが、全体として見た場合、
「配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1を分け合う」
配分となります。
具体的なポイントとしては以下の通りです。
- 祖父母は被相続人の両親がどちらも死亡している場合に限って相続人となる。
- 両親二人とも生存していれば親の相続分である3分の1を均等に分け合う。
- 両親どちらかのみ生存している場合は生存している人が親の相続分3分の1を丸ごと相続する。
親のみが相続する場合の相続割合
直系尊属のみが相続人となる場合の相続割合を確認します。
被相続人より配偶者が先に死亡、または配偶者と離婚しておりかつ子供がいない場合は直系尊属のみが相続人となります。
配偶者がいない場合は、生存している親が(親が死亡していれば祖父母が)相続財産全体を頭割りする、もしくは1人だけ生存しているならその人が全部を相続することとなります。
相続割合に納得できない場合には
基本的な法定相続分の定めを上に解説しましたが、自分に割り当てられた法定相続分に納得できない場合はどうしたらよいのでしょうか。
特に配偶者がいる場合は、子供以外の人が共同相続人となることに配偶者が不満を抱くなどのケースもあります。
法定相続人がどのような組み合わせになった場合でも、必ずしも法定相続分通りに相続しなければならないわけではなく、「法定相続人全員が」合意すれば任意の相続分で相続することが可能です。
この合意、話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は全員が同じ場所に集まって行う必要はなく、合意さえ形成できていれば成立します。
ただし、合意の通りに不動産の名義変更(相続登記)を行うには「遺産分割協議書」という書面に合意内容を記載して全員が署名、実印を押印し、印鑑証明書を添付しなければなりません。
遺産分割協議書には登記の添付書類として求められるスタイルがあり、自己流に書くと相続登記が通らないこともありますので司法書士に作成を依頼するのが無難です。
また、銀行預金や保険などの手続きではそれぞれの銀行で独自のフォーマットがあり、各相続人が署名押印を求められるので相続開始後に各銀行の窓口で手続きを確認することが必要です。
相続をする上での注意点
相続における全般的な注意事項を確認してみましょう。
内縁の配偶者は相続人になるのか
上に解説してきた「配偶者」というのはあくまでも戸籍上の配偶者のことですので、内縁関係(事実婚)にあるパートナーは相続人になることができません。
どうしても戸籍上のパートナー以外に相続(厳密には相続ではなく「遺贈」とよぶ)させたい場合は、被相続人が生前に「遺言書」を作成しておく方法があります。
死亡した時間により相続人が異なる
相続人が誰なのかを判断する上で、死亡した日時というのは非常に大切な要素であり、死亡の順序で相続人がまったく変わってしまうことがあります。
事故死などのように、死亡の前後が明らかでない場合には「同時に死亡したもの」と推定されます(民法第32条の2)。
同時死亡の場合、お互いに相続は発生しません。
死亡の順番で相続に関係する人が変わってくる例を見てみましょう。
例1:父Aが死亡し(母は父より先に死亡)、長男Bと次男CがAの法定相続人であったが、遺産分割協議書を終えないうちにBも死亡した。
Bには妻Dと子Eがいた。
⇒Aの相続についての遺産分割協議をしなければならないのはC、D、Eである。
DとEはBの遺産分割協議権を承継しているため、参加の権利および義務がある。
例2:父Aが死亡したが(母は父より先に死亡)、Aの長男B、次男CのうちCだけが生存していた。
長男Bには妻Dと子Eがいたが、BはAより先に死亡していたためBの子Eが代襲相続人となった。
遺産分割協議はまだ終えていない。
⇒Aの相続についての遺産分割協議をしなければならないのはC、Eである。
配偶者には代襲相続の権利がないから、DはAの相続には関与できない。
死亡の順序、そして相続人の判断を誤るとその後の手続きをやり直さなければならないこともあるため、死亡日の確認は非常に重要なプロセスといえます。
相続人や相続割合を変えるには
相続人や相続の割合が適切ではない場合には、いくつかの方法があります。
- 法定相続人ではない人に遺産を承継させる場合は、被相続人が生前に「遺言書」を作成して遺贈する。
- 法定相続人の間での配分に問題がある場合は、法定相続人全員での話し合い(=遺産分割協議)によって配分を変更する。
- 遺産分割協議で話し合いがうまくいかない場合は裁判所に調停を申し立てる。
また、遺産分割協議をする前段階で法定相続人全員に連絡を取ることができないケースもあります。
話し合いによる解決が不可能と思われる場合は、早い段階で弁護士に相談するようにしましょう。
負の遺産も相続対象となるのか
相続というのは、財産(プラス財産)だけでなく、負債(マイナス財産)も引き継がなければなりません。
負の遺産も分割できるのか
プラス財産であれば遺産分割協議を行って法定相続人が任意に分割することができますが、負債は債権者の同意を得ずに勝手に遺産分割することができません。
長男が不動産の名義を引き継ぐ代わりに銀行への負債も引き継ぐ、といったケースもよくありますが、そのような事情がある場合にはまず銀行に相談することが必要です。
原則的には相続人は法定相続分に応じて負債を相続するため、債権者は相続人の誰に対しても相続分に応じた弁済を請求できることになります。
相続に困ったら弁護士に相談
負の遺産を調べてもらったり、遺産の分割をお手伝いしてもらったりと、様々な面でサポートしてもらうことができるよ。
子供の借金を相続してしまって困っている、遺産分割協議がうまくいかないなど、相続にまつわる問題がある場合はなるべく早期に弁護士に相談しましょう。
特に借金が多く相続放棄を選択すべき場合、「被相続人死亡および自己が相続人となったことを知ってから3カ月」という期間の制限があります。
ただし、相続放棄については「債権者から突然請求書が来て、被相続人の借金を知った」などの場合には上記期間を過ぎても認められることがあります。
そのような場合には裁判所に「上申書」を出すなど、通常と異なる手続きが必要となります。
また、借金があるかどうか調べたい、他の相続人との遺産分割協議に立ち会ってもらいたいなどの希望がある場合でも弁護士に依頼することでスムーズに手続きが進むことがあります。
※司法書士や税理士などの専門家であっても弁護士法72条により遺産分割協議の仲裁などをすることはできないため、あくまで弁護士に依頼する必要があります。
とにかく大切なのは「早く相談すること」です。
被相続人死亡の後は葬儀や49日法要などであっという間に時間は過ぎていきますので、依頼するかどうかに関わらず相談だけは1日も早く行うことをおすすめします。
まとめ
困った時には弁護士に相談する方が安心だね。
- 被相続人に子供がいない場合、親や祖父母などの直系尊属が子供の遺産を相続することがある。
- 複数の法定相続人が相続する場合、相続割合はすべての法定相続人が合意すれば変更することができる(=遺産分割協議)。
- プラス財産だけでなく負債を相続することもあり、負債がプラス財産を上回る場合には相続放棄をした方がよいこともあるが、期間の制限もあるためとにかく早く弁護士に相談することが大切である。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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