少額訴訟債権執行をされた!債務者として何をすればいいの?
今後はどうしたら良いのかな?
今回の記事では、少額訴訟債権執行や、少額訴訟と通常訴訟の違いについて、詳しく見ていこう。
もし、軽微な借金を返済しなかったことに基づいて債権者から「少額訴訟」を提起され、勝訴判決を取られた場合に、それでも任意に返済しなければ「少額訴訟債権執行」により強制的な取り立てを受けることがあります。
もちろん、納得いく判決内容であれば少額訴訟の判決や和解に沿って返済する、または返済不能な場合は債務整理等の措置を検討するべきです。
しかし、場合によっては債権者が主張する内容が事実と違っているなどの事態も起こりえますので適切な対処方法も知っておく必要があります。
少額訴訟債権執行の流れや対処方法、内容に不服がある場合はどのような対抗手段があるのかなどを確認してみましょう。
債権執行とは
「債権執行」とは、債権者が債務者の他人(第三債務者)に対する債権に対して「強制執行」をかけることです。
「強制執行」とは、裁判を起こして「勝訴判決」を取った債権者や、和解を成立させて裁判所で「和解調書」を作成した債権者が、任意に支払わない債務者に差押え等の措置を行って強制的に債権回収することです。
執行の根拠となる勝訴判決や和解調書を「債務名義」とよびます。
債権執行(債権差押え等)のイメージは下図のようになります。
AがBに対して貸金など債権を持っているがBが支払いをしないため、訴訟により判決等を取ったとします。
Bの持つ何らかの財産の中を差押えたい場合、BがCに対して持つ債権も一つの財産権となるため、そこに差押えの手続きを行うこともできるということです。
債権差押えの効力が発生すると、「第三債務者」とよばれるCは直接Aに支払いを行わなくてはならなくなります。
少額訴訟債権執行とは
少額訴訟債権執行は、判決等が出ても債務者が任意に支払いをしない場合に債権者が「債務者が第三者に持つ債権」を差押えて強制的に取り立てることです。
ただ、通常の債権執行とは手続きのプロセスが若干異なります。
簡単に言えば、通常の債権執行より簡素化して、手続きを行いやすくした形といえます。
少額訴訟債権執行の場合、その執行の根拠となるのが「少額訴訟」とよばれる特殊な訴訟を用いて作られた判決書や和解調書となります。
少額訴訟債権執行の細かい部分は下に解説しますが、まず執行の根拠、前提となる「少額訴訟」について確認しておきます。
少額訴訟債権執行の前提となる「少額訴訟」とは
少額訴訟債権執行を行うためにはまず「少額訴訟」で勝訴判決や和解調書を取らなければなりません。
少額訴訟は、通常訴訟のような費用や期間をかけることなく一般の人が比較的手軽に訴訟手続きを利用できるように簡素化された訴訟の制度です。
少額訴訟の利用にあたっては条件が限られているため、特徴や条件を確認してみましょう。
少額訴訟の特徴と利用条件
少額訴訟の特徴や利用条件を確認してみましょう。
「少額訴訟」という名前のとおり、訴額が軽微なものだけが対象となります。
- 「60万円以下」の「金銭の支払い」を求める場合に限る。
動産や不動産の引き渡し等を求めるなど、金銭以外の請求には利用することができない。 - 1回の期日で判決まで出すことを原則とするが、訴訟の途中で和解をすることもできる。
通常訴訟であれば判決まで数カ月を要するところ、スピーディに解決するという大きなメリットがある。 - 証拠は「即時に取り調べることができるもの」でなくてはならない。
証拠書類の原本となるものを少額訴訟当日に準備しておく必要がある。 - 同じ裁判所に少額訴訟を提起できる回数は年に10回まで。
消費者金融などが独占的に少額訴訟を利用することを防ぐ趣旨で設けられた制限。 - 少額訴訟に対する異議の申し立ては行うことができるが、控訴することはできない。
なお、被告が希望すれば「通常訴訟」に移行することもできる。
少額訴訟の流れ
少額訴訟の流れは以下のようになっています。
まず、原告は被告の住所地の簡易裁判所に訴状を提出します。
裁判所から被告に訴状が送達される、口頭弁論の期日が指定され、呼出状が送達されるといった流れまでは通常訴訟とさほど変わりはありません。
もしここから被告が申述(裁判所に対して申し述べること)すれば通常訴訟に移行しますし、そのまま呼び出しに応じれば少額訴訟として進行します。
期日は通常訴訟のように法廷での厳格な雰囲気ではなく、「ラウンドテーブル」とよばれる円卓に当事者や裁判官、裁判所事務官などが着席して話しやすい雰囲気で行われます。
少額訴訟では上に説明したように、1回の期日でそれぞれの主張や証拠調べなどを全て済ませ、判決を出すというのが原則になります。
判決は単純な勝訴、敗訴という形だけではなく、原告の主張を認める場合であっても分割払いや遅延損害金の免除といった内容を含むことがあります。
少額訴訟を起こされた場合の対処
少額訴訟を起こされてしまった場合、被告としてまずやるべきことは「答弁書」の提出です。
答弁書とは原告が請求してきた金額や内容、原因に対し、被告側の主張を述べるものです。
全面的に原告の主張が合っている、部分的には合っているが間違っている部分もある、そもそも支払済などで債権が存在しない、など色々なパターンが考えられます。
特に少額訴訟は1回の期日ですべてを終わらせるため、被告もそこで自分側の主張を展開して対抗しなければ原告の主張が通ってしまい、最悪の場合は差押え等を受けることになりますから慎重に作成する必要があります。
一般的には答弁書というのは法律独特の言い回しなどが使われるため、通常訴訟では被告が自分で作成することには困難を伴います。
ただ、少額訴訟は極力簡易な手続きで済むような配慮がされており、裁判所のウェブサイトから少額訴訟用の答弁書のフォーマットをダウンロードすることができ、さらには記載例もあります。
※裁判所ウェブサイトより「民事訴訟・少額訴訟で使う書式>答弁書」
上記の通り、被告は少額訴訟として訴えられたものを通常訴訟に移行させることができます。
もし証拠調べなどを念入りに行い、数回の期日を重ねてじっくりと判決を出してもらうことを希望する場合は、答弁書の中の「通常訴訟の手続による審理及び裁判を求めます」という欄にチェックを入れます。
少額訴訟で行った場合は、上に紹介した流れ図のように、判決に対する対抗策としては「異議申し立て」という形でしかできず、控訴をすることは認められていません。
異議に対して行われた審理で決定された判決はその時点で「決定判決」となるため、これに対しても控訴も行うことはできないため、事実関係が複雑であるなどの場合は通常訴訟に移行させる方が望ましいといえます。
少額訴訟債権執行の特徴
「少額訴訟債権執行」とは、通常の債権執行とは異なる特徴を持っています。
上記に説明したように、債権執行とは、債務者が第三者に対して保有する何らかの「債権」を差し押さえる等の形で、強制的に回収を試みる法的手続きです。
ただ、通常の債権執行手続きを使って行おうとすると、少額訴訟を行った簡易裁判所と別の地方裁判所や執行官に対し、債務者の財産を特定する形で行わなくてはなりません。
要するに、手間がかかり知識を必要とすることになるため、一般市民が自ら行うことはとても困難といえます。
しかし、平成16年に設けられた民事執行法の改正によって、少額訴訟を行った簡易裁判所で、裁判所書記官が少額訴訟によって得られた債務名義(判決など)に基づいて、より簡単な手続きで債権回収が行えるようになりました。
この簡素化された手続きが「少額訴訟債権執行」です。
では、少額訴訟債権執行の手続きについてその内容を確認してみましょう。
債務名義
債務名義とは、強制執行の根拠となる文書等のことです。
債権者が債務者に対して回収すべき債権を持っている場合でも、何もない状態でいきなり債務者の財産を差し押さえたりすることはできません。
差押え等の前提として何らかの根拠が必要となりますが、少額訴訟債権執行における債務名義は次のようなものです。
- 少額訴訟の確定判決
- 仮執行宣言付少額訴訟判決
※仮執行宣言・・・判決が確定する前でも執行することができる効力を与えるもの - 少額訴訟における訴訟費用または和解費用の負担額を定める裁判所書記官の処分
- 少額訴訟における和解または認諾調書
※認諾調書・・・原告の主張を被告が正しいと認めて文書にしたもの - 少額訴訟における和解に代わる決定
※和解に代わる決定・・・原告の主張を被告が争わない場合に、裁判所が5年以内の期間で分割払い等の決定を行うこと
ただ、上に説明したように、被告が「通常訴訟での審理を求める」との申述をすると裁判所は通常の手続きで裁判を行う決定をします。
その後、通常訴訟に移行した結果として出された判決で行うことができるのは「通常の債権執行」であり、「少額訴訟債権執行」によって行うことはできません。
申立て先
少額訴訟債権執行は、少額訴訟による債務名義が成立した簡易裁判所の裁判所書記官に対して行います。
通常の債権執行は、原則として債務者の普通裁判籍所在地(人の場合は被告の住所等を管轄する地方裁判所)とされています。
しかし、少額訴訟の場合は、執行のスピードや効率をより良くするために、少額訴訟を行った簡易裁判所で執行手続きまで行うことができるものとしました。
差押えの対象
少額訴訟債権執行の手続きでは、差押えの対象とできるものは「金銭の支払いを目的とする債権」に限られます。
上記の「債権執行とは」で債権差押えのイメージを解説しましたが、具体的にいえば差押えの対象は次のようなものです。
- 預貯金
債務者から銀行等に対し、預けた金銭を払い戻してもらう債権 - 給料債権
債務者からその勤務先へ給料を請求する債権 - 賃料債権
債務者が自己の不動産の借主に家賃などを請求する債権 - 敷金返還請求権
債務者が借主であり、家主に敷金を預けている場合に、その返還を求める債権
なお、少額訴訟債権執行では不動産、動産、自動車、建設機械など、債権以外の財産権を直接差押えの対象とすることはできません。
ただ、どうしても債権以外の財産権に強制執行をかける場合、少額訴訟債権執行ではなく通常の強制執行を使って行うことは可能です。
少額訴訟債権執行をされた場合の対処
少額訴訟債権執行が行われた場合、被告は執行裁判所(申立てされた裁判所)に対し、「執行異議の申立て」をすることができます。
執行異議の申立てがされると、執行異議に関する裁判が行われますが、裁判の効力が生じるまでの間、執行裁判所は「執行を停止する」「担保を立てさせて続行する」などの処分を行うことができます。
なお、停止や続行の処分について不服申し立てをすることはできません。
早期に弁護士に相談することが大切
ここまでに説明してきたように、少額訴訟は1回の期日でスピーディに手続きが完了し、その後の執行手続きも簡素化されていることから、被告側はできるだけ早期に弁護士に相談しなくてはなりません。
少額訴訟が提起されると被告には「訴状」が送達されますので、その段階で訴状を持参して、どのように対応するべきか相談するようにしたいものです。
また、原告との間にどのような事実関係があったのかを証拠資料を持参した上で説明し、答弁書の書き方についてアドバイスを受けることもできます。
判決や和解がすでに行われ、執行の場面まで来てしまってからでは手遅れということも多いため、繰り返しになりますが、くれぐれも「早い段階での相談」を心がけましょう。
まとめ
少額訴訟債権執行となってしまう前に、早期に対応が必要なんだね。
給与や預貯金の差し押さえになってしまい、生活がさらに苦しくなってしまう前に、早めに弁護士に相談しよう。
- 「少額訴訟債権執行」とは、少額訴訟の判決等に基づいて行われる強制執行のことである。
- 少額訴訟の手続きは原則1回の期日で判決まで出されてしまうため、非常にスピーディに債務名義の取得、強制執行まで進んでしまう。
- 少額訴訟の訴状を受け取ったら、すみやかに答弁書の書き方などのアドバイスを受けるべきであるため、早期に弁護士に相談することを心がける。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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