相続財産清算人ってどんな制度?普通の相続の時にも使えるの?
今回の記事では、相続財産清算人とは、相続財産清算人の要件や利用されるケースについて、詳しくみていこう。
人が死亡して相続が発生した際、多くの場合は「法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)」が存在します。
法定相続人がいれば全員で被相続人(亡くなった人)名義だった財産(つまり相続財産)の処分や管理を行うこととなります。
ただ、法定相続人が最初から存在しなかったり、法定相続人全員が相続放棄してしまって管理や清算が行えなくなっている状況も考えられます。
旧法では上記状況に対応するため「相続財産管理人」とよばれる人を選任することが可能でした。
ただ、旧法の相続財産管理人制度では
- 「共同相続人(法定相続人全員)が相続を承認したものの遺産分割が未了の状態」
- 「相続人のあることが明らかではない状態」
に対応する相続財産保存の規定がありませんでした。
そこで、2021年の民法改正では、相続開始後いずれの段階であっても「相続財産清算人」を選任して清算手続きをしたり、「相続財産管理人」を選任して相続財産の保存等に関する業務を行うことが可能になりました。
本記事では相続財産清算人につき
- 「相続財産清算人とは何か」
- 「相続財産清算人の要件や選任方法、費用など」
- 「相続財産清算人が選任される具体的ケース」
などについて解説します。
相続財産清算人とは
相続財産清算人は、文字通り相続財産の「清算(プラスマイナスゼロにする)」する業務をする人のことですが、2021年改正民法によって「相続人のあることが明らかではない状態」においては、「清算を目的とする相続財産『清算人』」「清算を目的としない相続財産『管理人』」のどちらかを選択することができるようになりました。
この記事では清算を目的とする相続財産清算人について解説します。
相続財産清算人が選任されるケース
相続財産清算人が必要になるケースを具体的に見てみましょう。
債権回収が必要なケース
被相続人に対してまとまった債権を持っていた債権者は、相続財産清算人を置くことで清算の手続きをしてもらい、自己の債権を回収できるというメリットがあります。
よって、債権者自身が申立人となって相続財産清算人を選任することがあります。
成年後見人が財産を引き継ぐケース
成年後見人とは、認知症や障害などで自己の財産の管理能力に欠けている人の財産管理のために置かれる役職です。
ただ、被後見人(後見を受ける認知症等の本人)の中には身寄りがなく、死亡後に財産を引き継ぐことのできる相続人がいない場合も多いものです。
被後見人が死亡して後見業務が終了した後であっても、成年後見人が相続財産についての事情を知っているため、成年後見人によって申立てが行われることに合理性があると考えられています。
ただ、成年後見人自身が相続財産清算人に選任されるか否かはケースバイケースといえるでしょう。
保存義務を課せられているケース
相続人が相続放棄したものの、被相続人が所有していた不動産の管理義務を免れることができないため、その責任から免れるために相続財産清算人の選任申立てをするケースも考えられます。
(相続の放棄をした者による管理)
民法第940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
現在の民法では、相続財産に属する財産を「現に占有する」相続人は、たとえ相続放棄しても相続財産清算人に引き渡すまでの間は自己の財産と同一の注意をもって財産を保存しなければなりません。
ちなみに2023年の民法改正より前は、「占有の有無を問わず」相続放棄をしても相続財産管理人に引き渡すまでは不動産の管理義務を負うことになっていました。
しかし、管理義務が残ることにより、不動産に起因する第三者への損害(空き家の外壁が崩れて通行人に当たる、など)への賠償責任が生じるなど、相続人に多大な負担が生じていました。
そこで民法が改正され、相続放棄をした相続人の管理責任を軽減したのです。
特別縁故者として財産分与を受けるケース
特別縁故者とは、家庭裁判所から認められると相続財産の全部または一部の分与を受けられる制度です。
- 「被相続人と生計を同じくしていた者」
- 「被相続人の療養看護に努めた者」
- 「その他被相続人と特別の縁故があった者」
が特別縁故者であるとされます。
上記の特別縁故者であると考える者は、自ら家庭裁判所に相続財産の分与を申し立てる必要があります(必ずしも認められるとは限りません)。
相続財産分与を行うためには相続財産清算人が手続きを行わなくてはならないため、相続財産清算人選任申立てを特別縁故者自身が行う必要があるのです。
第三者への遺言書が存在するケース
被相続人が遺言書を残して第三者に相続財産を渡す(=遺贈)意思表示をしていることがあります。
遺贈を受けた人を「受贈者」といいますが、受贈者への財産受け渡しのために相続財産清算人が必要となり、受贈者によって相続財産清算人選任申立てが行われることがあります。
空き家被害を防ぐケース
近年誰も実家を相続する人がいないため空き家となる家が増えていますが、管理が行き届かないため放火や浮浪者の住み着きなど、さまざまなトラブルが発生することがあります。
トラブルを防止し空き家を適切に管理するため、当該不動産の関係者から相続財産清算人選任申立てが行われることがあります。
相続財産清算人の要件
要件を満たしていても、専門的な知識が必要になるから、専門家に依頼する方が良いね。
相続財産清算人については下記の条文で規定されています。
(相続財産法人の成立)
民法第951条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の清算人の選任)
民法第952条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
相続財産清算人を選任するためには
- 「相続が発生している」
- 「相続財産が存在する」
- 「相続人のあることが明らかではない」
といった要件を満たすことが必要です。
相続財産清算人に選ばれるの対象となるのは
相続財産清算人は家庭裁判所によって選任され
- 「相続財産の中から債権者への弁済」
- 「財産の換価処分(売却等でお金に換える)」
- 「国庫への帰属の手続き」
など、高度な法的知識を要求される手続きを行います。
家庭裁判所が関与して財産管理に関する役職を選任する場合には「申立人推薦方式(申立人が自ら候補者を立てる)」と「裁判所選定方式(家庭裁判所が公正な立場から選任する)」があります。
相続財産清算人選任については、業務の専門的な側面などを考慮し「裁判所選定方式」が望ましいとされているため、必然的に弁護士、司法書士といった法律専門家が選ばれることが多くなるのです。
具体的には被相続人との関係、利害関係の有無といったことも審査の内容に含まれます。
相続財産清算人が業務を行うを請負う期間
相続財産清算人の業務は「家庭裁判所による相続財産清算人の選任」が開始の時期となります。
また「相続財産の清算結了」が原則的終了時期となります。
つまり下記に説明する債権者への弁済や特別縁故者への相続財産分与、国庫帰属などを経て相続財産をプラスマイナスゼロにすることによって終了するのです。
ただし、イレギュラーな終了事由として下記のようなものがあります。
- 家庭裁判所が現在の相続財産清算人を不適任と認めたことによる改任
- 相続財産清算人の辞任(ただし、任意に辞任させると手続きが不安定になるため、相続財産清算人より家庭裁判所に改任の審判を求めることが必要)
- 相続財産清算人の死亡(家庭裁判所が後任者の選任審判を行う)
相続財産清算人の役割
相続財産清算人の役割は文字通り「相続財産を清算すること」ですが、具体的には次のような職務を行います。
- 相続財産の詳細な調査
- 預貯金の集中管理(相続財産清算人名義の口座に一本化)
- 不動産の査定などを行い、有価証券等も換価して預金に一本化
- 債権者や受遺者(遺贈を受ける者)、相続人捜索の公告
- 債務の弁済
- 特別縁故者への相続財産分与申立てがあった場合は意見提出、財産分与の実行
- 不動産等が共有者に帰属する場合は持分帰属の手続き
- 最終的な残余財産の国家帰属手続き
相続財産清算人の業務の大まかな流れ、順序は次のようになります。
相続財産清算人は、自身が選任されたこと及び債権者、相続人がいないかどうかの公告や、知っている債権者への催告を行います。
もし債権者が申出をすれば債権者への弁済などを行い、さらに余った財産があれば特別縁故者の申出を待ちます。
特別縁故者への財産分与が家庭裁判所に認められれば特別縁故者への財産分与の手続きを行います。
ここまでのプロセスを経てもさらに余った財産があれば「共有財産は他の共有者に帰属させる」「その他の残余財産は国庫に帰属させる」という手続きを行います。
以上が完了すると家庭裁判所に報告を行って「相続財産清算人」としての業務が終了します。
相続財産清算人の選任方法
申し立てに必要な書類は非常にたくさんあるし、まとまったお金も必要になってくるよ。
上記の通り、相続財産清算人は家庭裁判所に申し立てることにより選任されます。
申立権者は「利害関係人」または「検察官」と規定されています。
具体的に利害関係人とは次のような人です。
- 「相続人ではない近親者で被相続人の財産を事実上管理していた者など」
- 「被相続人の成年後見人であった者(被相続人に相続人がいない場合)」
- 「被相続人の債権者」
管轄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
相続財産清算人の申し立ての流れ
相続財産清算人の申立にあたっては、上記に説明した申立権者が次の書類を管轄家庭裁判所に提出して行います(下記は東京家裁の場合の添付書類)。
- 申立書(裁判所ウェブサイトからダウンロードOK)
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本等
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本、除籍謄本等
- 被相続人の直系尊属の死亡記載のある戸籍謄本、除籍謄本等
- 財産目録
- 財産目録記載の財産の内容を証する資料
- 申立人と被相続人との間に利害関係があることを証する資料
- 相続関係図
- 相続人全員が相続放棄している場合は全員の相続放棄申述受理証明書
- 申立人が法人の場合は資格証明書
- 被相続人の子(及び代襲者)で死亡している者がいる場合は、その子の出生時から死亡時までの連続するすべての戸籍謄本、除籍謄本等
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している者がいる場合は、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までの連続するすべての戸籍謄本、除籍謄本等
- 代襲者としての甥、姪で死亡している者がいる場合は、その甥、姪の死亡記載がある戸籍謄本、除籍謄本等
申立書と添付書類が提出されると、家庭裁判所は案件に応じて適切な相続財産清算人を選定することになります。
事案にもよりますがおおよそ、選任されるまで2カ月程度はかかると考えておきましょう。
相続財産清算人にかかる費用
相続財産清算人の申立については必要書類収集のための実費や、予納金などの費用がかかります。
上記のとおり必要な書類の種類は数多くあり、戸籍の収集だけでも数千円から数万円がかかってしまうこともあります。
また、裁判所への申立書に貼る印紙、予納郵券(切手)などで数千円がかかります。
そして比較的大きい出費になりやすいのが「家庭裁判所への予納金」です。
上記の通り相続財産清算人はその業務の専門性、複雑性から弁護士等が選任されることが多いのですが、相続財産が少なければ相続財産清算人への報酬として充てる金額を「予納金」として納める必要があります。
予納金は東京地裁の場合100万円程度となっていますが、管轄や事案によっても異なり、この予納金は申立人が納めなくてはなりません。
被相続人と申立人との関係性にもよりますが、現実として予納金の負担は決して軽くないものといえますので、相続財産清算人を申し立てる必要性については弁護士に相談し、しっかり検討してみる必要があります。
まとめ
- 相続財産清算人とは、ある人の相続が発生したが「相続人のあることが明らかではない場合」に家庭裁判所への申し立てにより選任され、相続財産を清算する役職のことである。
- 相続財産清算人は、債権者が被相続人への債権を回収したい場合、特別縁故者が財産分与を受けたい場合などさまざまなニーズに応じて選任申立てが行われる。
- 相続財産清算人を選任してもらうには家庭裁判所に「予納金」を納める必要があるが、100万円程度かかることもあり、選任の必要性については弁護士に相談の上熟慮して決定すべきである。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
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