不動産の清算価値というのがあると聞きましたが、よく聞く資産価値とは違うものですか?債務整理の時に影響ある?
清算価値って何?
個人再生の場合には、清算価値と同価値以上のものを債権者に弁済する必要があるんだよ。
今回の記事では、清算価値とはどのようなものなのか、資産価値との違いについて、詳しく見ていこう。
債務整理について調べていると「清算価値」という言葉が出てくることがありますが、清算価値とは、債務整理手続の一類型である「個人再生」において登場する概念です。
個人再生は債務整理の中でも「弁済型」に属する手続きであり、裁判所の認可を経て大幅に債務を減額してもらえるのが特徴です。
ただ、債務を減額するとはいえ債権者に及ぼす影響を極力少なくする、つまり一定の弁済額を保つ配慮もされており、清算価値とはその考え方にもとづくものです。
具体的にいえば、裁判所が債務減額を認める場合であっても、弁済額が一定の基準で計算した「清算価値」とよばれる価格を下回ってはならないということです。
本記事では
- 清算価値とはどのようなものか、いわゆる資産価値との違いは何か
- 個人再生手続きにおける清算価値保障原則とは何か
- 清算価値が高すぎる場合はどうすればよいのか
といった点を解説します。
清算価値とは
清算価値とは「債務者が仮に自己破産したとすれば配当に回される(債権者に分配される)総額」のことを表します。
かなり大雑把にいえば、「債務者が保有する財産総額」と考えることができます。
個人再生では、清算価値を「再生債務者(個人再生の手続きをする債務者)が最低限の義務として負う弁済額」とみる考え方をとっています。
要するに債権者から見て「個人再生よりも破産してもらった方が分配額が多かった、それなら破産してくれた方がよかったのに」とならないような(=債権者にとっても個人再生をするメリットがあるような)配慮がされているのです。
個人再生は裁判所が再生計画を認可しなければ行うことができませんが、認可の条件の1つとして「清算価値を下回らない弁済額となっているかどうか」が挙げられます。
自己破産の場合であれば不動産などの財産は換価(売却してお金に換える)し配当されることになりますが、個人再生手続きでは清算価値と同価値以上のものを弁済すれば売却処分自体はしなくてもかまいません。
清算価値に含まれるものとは
債務者の再生計画が認可される時点で、債務者が保有する次のような財産を合計して清算価値とします。
※下記は東京地裁の例であり、各地方裁判所により運用が異なる場合があるため、具体的な計算方法等については申立を行う地方の裁判所に確認する必要があります。
- 不動産
登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産税評価証明書、査定書(2通くらい)を取得して価格を算定します。
不動産は、時価からローン残額を差し引く必要がありますが、単純に両者の差し引きのみで計れない事情がある場合もあります。
特に、借地上に建物があったり、他の共有者がいるなど、それぞれの個別事案について状況を検討しなければならないケースもあり、一概に計算方法を断定することはできないのです。
東京地裁では個人再生の全件について「再生委員(再生手続きについてのサポートをする役割、管轄地域の弁護士が選任されるのが通常)」が選任されます。
そのため、再生委員が個々のケースを見ていき「売却可能性が低い」などの意見が出た場合は、意見を踏まえて清算価値が決められることもあります。 - 現金
通常は多額の現金を手元に持っていることは考えにくいのですが、失念しているタンス預金などには注意しなければなりません。 - 預貯金
預金通帳は裁判所も注意深くチェックするポイントであるため、しばらく使用していないため忘れているものがある可能性もあるため、極力遡って漏れがないようにすることが大切です。 - 債権(貸付金等)
債権について回収可能性がない場合は0と算定することが認められる場合もあります。 - 有価証券(株式等)
- 車両
- 20万円以上の動産
- 退職金見込額の8分の1(東京地裁の場合)(20万円に満たない場合は計上しなくてよい)
実際に退職する予定がない場合は退職金を受け取る可能性自体が低いため、8分の1という金額が定められています。
ただ、退職の時期、債務者の年齢によっては組み入れられる価格が変動する可能性もあります。
退職金の見込み額については会社から「退職金見込額証明書」を出してもらうことが一番正確な金額を把握できる方法です。
しかし会社に請求することが難しい場合などは、自社の退職金規程など客観的な算定基準に基づいて計算することもできます。 - 生命保険の解約返戻金
本人が失念している生命保険がある可能性もあるため、預金通帳の引き落とし履歴などで確認することが大切です。
意外と見落としがちなのが「未分割の相続財産」です。
たとえば親が亡くなり、兄弟の間でまだ遺産についての話し合いが行われておらず放置されている財産があったとします。
この場合、遺産分割が完了するまではひとまず法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)全員で法定相続分(民法で定められた相続分)に応じ共有されているとみなされている状態です。
このように相続財産を自己の財産であるという自覚がない状態まま保有しているケースは多いため、過去に相続が発生している人については未分割遺産についてのチェックも怠らないようにしなければなりません。
万一、金額の大きな相続分を見落としていた場合、個人再生を申し立てるための要件を欠いてしまっている事態になることもあります。
もともと自然人の民事再生は「債務者に破産の原因たる事実の生ずるおそれがあるとき」が申立原因となっています。
そのため、「そもそも支払不能ではないのに申立をした」という状況にならないよう留意しなければならないのです。
なお、東京地裁については下記のような「清算価値算出シート」が準備されていますので、これに基づいて清算価値を計算することになります。
資産価値とは
清算価値と類似する言葉として「資産価値」がありますが、両者は似ているようで異なる点があります。
清算価値と資産価値の違い
資産価値といった場合には、市場に出して売却した場合の価格のことをさしますが、清算価値の場合は上記のように不動産評価額からローンの残額を控除した金額、または個々の不動産の事情を加味して計算した金額となります。
資産価値についていえば、土地であれば年数の経過とともに資産価値が低下せず、建物の場合は経年による資産価値の低下があることが特徴です。
清算価値保障原則とは
清算価値の除外対象となる物についてもチェックしてみよう。
個人再生においては「清算価値保障原則」が採られており、これは上記に述べたように「仮にその債務者が自己破産した場合、債権者に配当される額以上の金額を個人再生における最低の弁済額としなければならない」というルールです。
最低弁済基準額とは
清算価値保障原則と並んで個人再生で押さえておかなくてはならないルールが「最低弁済額の基準」です。
上記で「個人再生とは裁判所の認可を受けて債務を減額してもらえる手続き」と説明しましたが、減額できる範囲には限界があります。
「最低弁済額」といって、債務を圧縮するにしても最低限これだけは返済すると法定されている金額があり、具体的にどのくらいの額になるのかは負債の額によって下表のようになります。
どのような債権額であっても最低弁済額が100万円を下回ることはないため、100万円を少し上回る程度では個人再生をするメリットはあまりなく、ある程度まとまった債権額がある方が手続きの恩恵は多くなります。
特に3,000万円を超える債務を抱える人は10分の1まで圧縮してもらえる可能性があり、そのような意味では個人再生は非常に生活再建効果の高い手続きといえます。
最低弁済基準額と清算価値保障の関係
最低弁済額基準を確認したところで注意しなければならないのが「清算価値保障との関係がどうなっているか」ということです。
もし、清算価値を算出した結果、最低弁済額基準額を上回っている場合には清算価値が弁済の最低額ということになります。
つまり、両方を見比べて高い方を弁済しなければならないのです。
清算価値から除外となるのは
清算価値を計算する上で除外されることになる財産があります。
上記で、清算価値とは大雑把にいえば「債務者が保有する財産総額」であると説明しました。
しかし、清算価値とはあくまで自己破産した場合の配当額よりも債権者が損をしないようにという趣旨で設けられている制度です。
よって、自己破産の場合であっても換価処分される財産から除外される(=債務者の手元に残せる)財産であれば、個人再生における清算価値の計算でもそこから除外してよいという理屈になるのです。
具体的には次のような財産が清算価値からの除外対象になります。
自己破産した場合に債務者の手元に「当然に」残せる財産を「本来的自由財産」とよびますが、例えば下記のようなものです。
- 99万円以下の金銭
- 差押えが禁止されている財産
たとえば破産者の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、1ヶ月間の生活に必要な食料・燃料等
なお、本来的自由財産の他に、自己破産手続きでは「自由財産の拡張」が認められることがあります。
本来的自由財産以外にも債務者の手元に残した方がよいと認められる財産については「拡張」という形で自由財産を増加させることができるのです。
自己破産した場合に自由財産の拡張が認められるであろうと思われる金額を個人再生における清算価値から除外してもよいかという問題ですが、各地方裁判所によって取扱いが異なります。
よって、弁護士や司法書士に相談する際に自分の申立地域での取扱いを確認しておく方が安心です。
個人再生をする場合の清算価値にまつわる注意点
途中で退職金を受領する場合には、清算価値が大幅に増額する事があるから注意しよう。
上記で解説した清算価値の概要を踏まえて、個人再生手続を行う際の注意点を確認しておきましょう。
清算価値算定の基準時はいつになるのか
清算価値を算定する場合、いつの時点での価格を算出したらよいのでしょうか。
民事再生法第124条1項では
「再生債務者等は、再生手続開始後(管財人については、その就職の後)遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定しなければならない。」
とされているため再生手続開始の時と解釈できるものの、東京地裁の運用としては「再生計画の認可時」とされています。
再生手続の開始時から再生計画認可時までは1年から1年半程度かかるため、その間に債務者が勤め先を退職して退職金を全額受領したなどの事情があると、清算価値が大幅に増加することも考えられます。
清算価値保障原則に注意
上記の繰り返しになりますが、清算価値と上図の最低弁済額基準を両方とも確認しておかなくてはなりません。
それらのどちらか多い方が個人再生において最低限弁済しなければならない額となるからです。
清算価値が高額な場合には
債務者によっては算出した清算価値が非常に高額になってしまうことがあります。
そのような場合、個人再生を選択するメリットがなくなってしまいます。
対策としては
- 財産を売却(換金)して返済に充てる
- 債務整理の方針そのものを自己破産に切り替える
といった方法が考えられます。
自己破産であれば、財産は換価配当されてしまうものの、それでも残った債務については免責されるため、生活の立て直しとしては非常に効果的な方法です。
個人再生と自己破産、どちらが適しているかは債務者個々の事情により異なりますので、担当の弁護士とよく相談してベストな方法を選択できるよう熟慮することが大切です。
まとめ
資産価値との違いが良くわかったよ。
- 清算価値とは、自己破産したと仮定した時に換価配当される財産のことで、個人再生では最低限清算価値以上の金額を返済することが義務付けられている(=清算価値保障の原則)。
- 個人再生手続においては「清算価値」の他に法で定められた「最低弁済額基準」があり、両者を比較して高い方の金額が最低限弁済しなければならない金額となる。
- 清算価値が高くなりすぎると個人再生を選択するメリットがあまりなくなるため、自己破産に切り替えるなどの方法も含め弁護士によく相談し、慎重に手続きを決定すべきである。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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