【第3回】借金玉が語る「愛のコストについて」
借金玉の連載シリーズ、第3回は「愛のコストについて」。
「ヤバい借金をして車を買う」という文化に僕は馴染みがあります。僕の故郷たるノーススラムは、結構みんな生活を破滅させるレベルのリスクを取って、無茶な高級車を買っていました。あるいは、中古のひどいコンディションの高級車を買って、その維持費に汲々としていました。安くて維持費の低い軽自動車に乗っていた人間はそれほど覚えがありません。
ところで私事になりますが、僕はちょっと前に車を手放しました。10万円ちょっとで買った中古の軽バンを営業車として使っていたのですが、会社をコカして事業が終わるとともに必要がなくなり、あの地獄のような車の維持費と手を切れて心から安心しています。都心で暮らす限り車なんて私生活には必要ありませんし、当分車を買うことは無いだろうと思います。
でも、我が故郷の低所得者の群れは皆こぞって結構高い車を買っていました。前述の通り、田舎ヤンキーのセンスで買うので、燃費も維持費も高かったはずです。この理由が、僕には痛いほどわかります。というのも、ノーススラムで「車を持っていない」というのは、男としてあまりにも大きすぎるハンデだったのです。多分、現在でもそうでしょう。
東京は交通機関が発達しており、そこかしこに楽しいところがあります。でも、僕の故郷は一応都市ではあるのですが、どこに行くにも完全な車社会。「車なしで女の子を口説くなんて不可能だろ」と言われたら「まぁ、そうかもしれない」と応えざるを得ない社会でした。遊びに行くには車が必要ですし、そもそも「車」というのは男の非常に重要なステータスなのです。「どんな車に乗っているか」で、女の子からの目線が結構大きく変化する社会でした。この傾向は、地方に行けば行くほど強くなるのではないかと思います。
価値観の多元性とモテバトル
東京は人でごった返しているので、様々な価値観の人がいます。「車を持ってない男なんて論外」と考えている女性は、東京では多分多数派ではないでしょう。「無理して都心で車を維持してる男は単なる浪費家だ」という考え方の人も多いと思います。しかし、ノーススラムには価値観の多様性はほとんどありませんでした。
「贅沢で身を亡ぼす」という人は結構います。車や服なんかが典型例でしょう。「趣味にお金を使いすぎて破滅」という例も多少はあります。僕の知り合いにも骨董と稀覯本で身代を潰した人間がいますが、実際これはレアケースだと思います。「骨董」を破滅するほど買うにはそれなりのハードルの高い知識が必要ですし、ある種の強烈な文化性が必要です。でも、「服」で破滅する人はそれが趣味だったのかというと、僕は「怪しい」と思います。前段で書いた「車」と通底するものがそこには働いている気がします。そう、これはテーマの通り「愛のコスト」のお話です。
ところで、「モテる」という概念は不思議なものです。僕が故郷にいた時「モテる」男の類型はわりと固定的なものでした。顔が良くて社交的かつ男性性が高い、いわゆる「マッチョ」な男がモテていました。バリバリのマチズモ社会だったと思います。ただし、ノーススラムの話なので「金と社会的地位」は必ずしも伴いません。具体的に言うと、インターネットな皆さんの最も嫌いな人物類型を考えてください。それです。
スラムに出て東京に来ると「モテる男」の類型が多元化することに驚きました。サブカルアピールで勝負する者、インテリアピールで勝負する者、文化人アピールで勝負する者。いわゆる「男性性」や「顔」あるいは「金と社会的地位」以外のモテ要素が多々あることに気づかされました。都心において「愛のコスト」は実に様々です。安かったり、天井知らずに高かったりして、各位好き勝手やっています。
僕はあまり男性的な人間ではないので、「愛のコスト」を投じたモテバトルには人生を通じて不参加表明で来ました。興味も持てなかったですし、僕の故郷で好まれた車は僕にとって「クソダセえ」以外の感情を持てませんでした。僕は人生の結構早い時期にインターネットな価値観を形成していましたので…。でも、この「モテバトル」が人間にとって非常に重大なものであることはよくわかります。いい服を着ていい車に乗ってモテたい。これは、最終的に「モテ」を越えた「至上の信仰」にまで至ります。
「愛のコスト」はおおよそにして、「社会的な外形を作るためのコスト」とも重なっています。いい車に乗っている俺、という社会的外形を維持することが義務化しているのだろうな、という人は僕もたくさん見ました。それは社会の空気みたいなものなんだと思います。僕は社会の空気を読めない人間なので、たまたま影響を受けなかったのでしょう。
愛のコストは投資と考えた方が良いですよ
年収250万(ノーススラムの若年層としてはものすごく立派な数字です)の友人が300万の車をあまりオススメしたくない手段で買おうとしている時、僕は「おいおい、なんでそんなもの買うんだ、要らないだろそれ」と言いました。でも、彼は「いや、欲しいんだ」と言うばかりでした。「せめて中古では」と言っても彼は一切聞く耳を持たず、その車はそれほど長い時を経ず、おっかないおじさんがやって来てドナドナされていきました。
彼が「車が大好き」だったかと言うと、僕はそうではないと思います。実際、車に詳しい男ではありませんでした。彼を突き動かし、身代を破滅させたのはまさしく「愛のコスト」だったと思います。わりと子供のころから彼はそういうところのある人でした。愛のコストはソロバンをバグらせます。
インターネットを眺めていても「愛のコスト」が健在であることはわかります。「女性はこの程度のアイテムも持っていない男は許さないぞ!今すぐ買え!」みたいな記事をたまに見かけて、「風説の流布やめろ」って思うことは皆さんもあるでしょう。幸い、インターネットは「愛のコスト」を徹底的に嫌う土壌が強いので、すぐにツイッターとかで玩具にされていますが。実際あの記事で「そうか、愛のコストを払わねば」と思ってしまう人もいるんだと思います。
僕は「愛のコスト」を払うことが悪いことだと思いません。それが良い投資であると思うなら、払えばいいと思います。ただ、そこに投資とリターンの観念がないと破滅がスゥっと背後に忍び寄ってきます。「愛のコスト」を拡大して「社会的コスト」について考えてみると、経営者の間にもそういうものはあります。例えば、僕はよく先輩経営者に「マトモな腕時計をつけろ」と怒られました。彼らにとって腕時計というのは社会的外観として人間を測る非常に大きな意味合いを持つアイテムだったんだと思います。
「このコストは減らせない」という強烈な強迫観念というのは人間に発生しがちです。また、「無理をして高い腕時計をつける」が投資として正解の場合ももちろんあるでしょう。「良い車を無理して買う」「無茶な値段の服を着る」が、結果合理的に働くこともあると思います。それが事態をややこしくしているのでしょう。「愛のコスト」の投資に成功した人は「あの投資は絶対に必要だった」と思います。こうして信仰的な消費が加速していきます。
あなたの生活を追い詰めているそのコストですが、本当に投資として見合っていますか?生活が厳しいなら、まずは不合理な投資を止めるべきです。消費というのは価値観と強く結びついています。そして、内面化した価値観というのはなかなか自分で観測することが出来ません。その投資、実はお布施じゃないですか?その神、本当に恵みを与えてくれますか?リターンの少ない神はさっさと見切りをつけて、別の神を探してみましょう。あるいは与えられる恵みに比して、どうもお布施が高すぎたりしませんか?神ってそういうとこありますよ。投資を10倍にしたらリターンが1割増しになる。そういうことは多いです。
愛のコストは時に意識せざる信仰となります。社会的コストは、時に天井知らずのお布施となります。神はベガスでバカラやってる可能性が高いです。是非、再検討をやってみましょう。そして、善き人生をやっていきましょう。
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