親や家族を勝手に連帯保証人にしていた/されていた!借金が発覚したときどうなる
今回の記事では、知らない間に連帯保証人になっていた時、返済する必要があるのはどんな場合か、勝手に連帯保証人になっていた時の対処方法について詳しく見ていこう。
家族というのはお互い簡単に印鑑などを持ち出せる状況にあるのは事実ですが、中にはそれを悪用して勝手に家族を連帯保証人にしてしまう人もいます。
もし、そのようなことをしてしまった(されてしまった)場合には法的にはどのような取扱いになるのでしょうか?
また、勝手にされている連帯保証契約を覆すことができるのか?などについても考えてみましょう。
知らないうちに連帯保証人になっていた場合には
連帯保証人の責任はどの程度の範囲に及ぶのでしょうか、そして勝手に連帯保証人にされた場合の法律的な効果はどうなっているのでしょうか。
連帯保証人の責任は重い
連帯保証人になるというのは、自分が債務を負ったのとほとんど同義です。
保証には「通常保証」と「連帯保証」の二種類があり、連帯保証は通常保証よりも思い責任が課せられています。
その主なものは次の2つです。
保証人(通常保証人) |
連帯保証人 |
|
催告の抗弁権 |
あり |
なし |
検索の抗弁権 |
あり |
なし |
- 催告の抗弁権がない
催告の抗弁権とは、債権者が債務者に請求する前に保証人に請求してきた時に「先に債務者に請求してください」と言える権利のことですが、連帯保証人にはこれがありません。
実務的には主たる債務者から回収できない場合にはじめて連帯保証人に請求がいくことが多いのですが、理論上はその前に請求することもできます。
- 検索の抗弁権がない
検索の抗弁権とは、主たる債務者に財産があるのに債権者が連帯保証人に差押えなどしてきたら「まずは主たる債務者の財産にかかっていって下さい」と言える権利のことですが、連帯保証人にはこれがありません。
これらの規定から考えても、連帯保証人とは主たる債務者が支払えない時にはじめて責任が生じるわけではなく「債務者と連帯保証人はほぼ同一の立場」と考えることができます。
それだけ重大な責任を負うことをまず理解しておかなければなりません。
無権代理行為とは
このように保証と連帯保証は責任の重さが全く異なるのですが、貸金業者などのプロが締結する保証契約はほぼ100%「連帯保証」となっています。
では、もし自分の家族が自分の名前を勝手に使って連帯保証契約を締結してしまっていたら法律的にはどのような扱いになるのでしょうか?
家族であろうと他人であろうと、代理権を与えられていないにも関わらず「代理人である」と称して代わりに契約を締結してしまう行為は、民法上「無権代理」と呼ばれます。
民法第113条(無権代理)
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ本人に対してその効力を生じない。
たとえば、Bが「自分の借りたお金についてはCが連帯保証人になります」と債権者Aに伝えてCの印鑑を勝手に使用し、連帯保証契約を締結したとします。
このような契約は、勝手に名前を使われてしまった人(C)が「その契約を認めますよ(追認)」と言わなければ法律的効果がないということです。
※以下の解説では、上図の設例「A、B、C」の名前をそのまま使って解説します。
無権代理行為により連帯保証人になっていた場合には無効にすることが可能
上記のように無権代理により行われた契約は原則として「無効(最初から法律効果を発生させていない)」と扱われます。
つまり、上図のCは、Aに対し原則として追認しない限りは「これは無権代理人によってされた契約なので私には連帯保証債務を支払う義務はありません」と主張できるのです。
もちろんこれは、本人と無権代理人の関係が親子であるか他人であるかを問いません。
無効となっている保証契約が最初から有効だったと扱われる場合とは
ただし、Cが無権代理による無効を主張できない場合があることに注意が必要です。
表見代理(代理権があるかのような外観がある)が成立する場合
契約の相手方Aからすると、あたかもBには本当に代理権があるように見えていたのに、それでも無効にされてしまうというのは大変不利な結果となります。
そこでAの権利を保護するために、一定の状況が揃うと「表見代理が成立する(その法律行為が有効なものになる)」と扱われます。
表見代理とは「代理権が真に存在するように見える場合は、相手方の信頼を保護し、契約を有効にしましょう」という趣旨です。
表見代理にはいくつかのパターンがあります。
代理権授与の表示による表見代理(民法第109条)
本人が代理人に権限を与えているかのような外観を表示していた場合には、本人にその契約の効果が帰属します。
ただしここには条件があり、契約の相手方が代理権のないことについて「善意・無過失」であることです。
※法律上の「善意」とはある事実について「知らない」ことを表します。
例を挙げると、Cが「Dに白紙委任状を交付した」が、DがBに委任状を勝手に渡してしまい、Bがその委任状を冒用してAとの間で契約を締結すると、CはAが善意・無過失である限り契約上の義務を履行しなければならないということです。
この状態を「表見代理が成立している」といいます。
ただ、実際の事例では他の要素(委任状の一部のみ記入されていたなど)が絡んでくるため、単純に表見代理の成立を肯定できないこともあります。
実際に裁判までいった場合、上記例とは若干状況が異なるため責任が生じるかどうかの判断が変わることがあると考えなくてはなりません。
名前を勝手に使われた場合でも表見代理を成立させない(=無権代理行為を有効にさせない)ためには、家族といえども安易に印鑑などを預けっぱなしにせず、内容や受任者などが明示されていない委任状を渡すようなことはしないことが肝心です。
下記に触れますが、特に「実印が押されている契約書」についてはそれを覆すのは非常に難しくなります。
よって、実印や印鑑カードを自分で管理しないというのは「勝手に使われても構わない」旨の意思表示であるというくらいシビアに考えておかなくてはならないのです。
権限外の行為の表見代理(民法第110条)
ここで言う「権限外行為」というのは、代理権授与表示がされた代理行為が前提としてあり、さらにそれを超えた範囲の代理行為をしてしまった場合です。
上記の前提でBが表見代理の成立する範囲外の行為を行った場合には、相手方AがBの行為について正当な代理権があると信じる正当事由がある場合にはやはりCには責任が生じることになります。
代理権消滅後の表見代理(民法第112条)
かつて正当な代理権が存在したことを前提として、それが消滅した後に代理行為がされた場合です。
この場合は相手方Aが「かつて代理権が存在していたが、それが行為の時点で消滅していたこと」を過失なく知らなかった(=善意・無過失)であればCに責任が生じることになります。
また、(代理権授与表示の場合と同じく)「基本代理権があるが、さらにそれを逸脱した行為がされた場合、相手方が代理権ありと誤信した正当事由がある場合には本人(上記例でC)は責任を負う」とされています。
このように、Cから見れば「預かり知らぬうちに勝手にされた」行為であっても、状況によっては連帯保証人としての義務を負うことがある点に注意が必要です。
繰り返しますが
- 「代理権を与える意思がないのであれば、印鑑を預けっぱなしにするなど、あたかも与えたような外観を作らない」
- 「代理権を一定の範囲で与える場合は受任者の氏名や行為の内容など、その範囲を明確にする」
といった配慮が必要になります。
連帯保証人を追認(容認)した時
追認とは、ある行為について「認めます」という意思表示をする(つまり容認する)ことです。
さきに引用した民法第113条では「(無権代理行為は)本人がその追認をしなければ本人に対して効力を生じない」と言っているため、逆に言えば「本人が追認することによって効力を生じる」ことになります。
また、「追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生じる」とされており、追認があれば最初から有効な行為として扱われます。
追認したり、追認を拒絶する場合は相手方(上記例ではA)に対してしなければなりません。
「認めます」という意思表示を口頭や書面ですることが追認となるのはもちろんですが、本人が追認となるような行為(債務の一部を支払う、相手に履行を請求する)といった事実があれば追認とみなされてしまいます。
無権代理人が本人を相続した時
家族間の無権代理であれば、そこに「相続」の問題が絡んでくることもあります。
たとえば、子供が自分の「親」を勝手に連帯保証人に立てて無権代理の状態で連帯保証契約を締結していたとします。
その状況で親が亡くなり、もともと無権代理人だった子供が本人である親を相続した場合には当然にその行為は子供に帰属する(=子供は責任を取らなくてはならない)という裁判例があります。
これは「自分でしたことの責任を取る」意味で当然ともいえます。
もし逆に本人が無権代理人を相続しても、当然に無権代理行為が有効にはなりません。
身に覚えのない督促状が届いたら
自分自身で債権者とのやり取りをして、連帯保証人を無効にすることができる可能性もあるけれど、連帯保証人を容認したと判断されてしまうと、連帯保証人としての返済義務が生じてしまう事になるから、専門家に相談して対処してもらう方が安心なんだ。
ここまで理論上の大枠を説明しましたが、実際の事例での対応を考えてみましょう。
もしも自分が連帯保証契約をした覚えがないのにいつのまにか連帯保証人にされていることがわかったらどうすればよいのでしょうか?
内容証明郵便にて相手に通知する
ひとまず、相手方債権者に対しては「自分は連帯保証人になった覚えはない、もし契約がされているならそれは自分の意思ではなく勝手にされたものであるし、追認するつもりもない」ことを明示した文書を内容証明郵便で送ります。
そして連帯保証人になっている証拠を提示してもらいましょう。
無権代理で連帯保証契約が交わされた当時、どういう状況だったかにより本人に責任が生じるか否かが決まる、というのは上の表見代理で説明したとおりです。
筆跡が本人のものであるかどうか、実印が押されているかどうかという点は裁判等になった場合は大きなポイントとなります。
もし、実印が押印されて印鑑証明書までつけられていたとなると、これを覆すのは非常に難しくなります。
ただ、連帯保証契約の際に債権者から一切確認、連絡がなかったなどの事情があれば争う余地もありますので、連帯保証契約の効力自体を争うのであれば法律家に委ねた方が賢明です。
弁護士に相談する
もし、自分にはまったく身に覚えがない連帯保証としての返済を要求された場合、単に「連帯保証人にはなっていない」と主張してもそれだけでは済まないことが多いでしょう。
よって、債権者への何らかの対応をする前に弁護士に相談し、状況をすべて説明して適切な対応についての指示を仰ぐ方が良いでしょう。
もし債権者との電話や文書とのやりとりで「追認したとみなされる」ようなことがあっては大変ですので請求が届き次第、すみやかに相談することが大切です。
まとめ
- 連帯保証人は通常の保証人より非常に重い責任を課せられており、その立場はほぼ主たる債務者と同じである。
- 家族や他人が「勝手に」自分の代理人として連帯保証契約を締結してしまっていても、契約までのプロセス、状況によっては自分に責任がかかってくることもある。
- 身に覚えがない督促をされた場合は、督促状や電話など債権者からの連絡を受け次第、弁護士に相談して適切な対応のアドバイスを受けることが望ましい。
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西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
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平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
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