損害賠償が払えない!自己破産したらどうなるの?専門家が解説
今回の記事では、自己破産手続において、損害賠償金はどのような扱いになるのか、詳しく解説していくよ。
他人に怪我をさせてしまった、他人の配偶者と不貞行為に及んでしまったなどの事情で、損害賠償請求をされた場合、支払い義務のある人が仮に自己破産したらどうなるのでしょうか。
本記事では、自己破産によっても免責されない債務はあるのか?
免責されないのであればどのような場合なのかを考えてみましょう。
損害賠償金は自己破産できるのか
非免責債権があるからといって自己破産ができないわけではないけれど、非免責債権を除いた借金のみを自己破産手続きによりチャラにする事になるね。
自己破産によってすべての債権者に負っている債務がなくなる、というのはよく知られていますが、特殊な性質を持つ債務の中には例外があり、自己破産してもなお残ってしまいます。
その例外である「非免責債権」について確認していきましょう。
免責債権と非免責債権
自己破産というのは、客観的に見て債務の支払いができなくなった状況の人が裁判所に「自分の財産をできる限り配当に充てますので、残りはチャラにしてください。」とお願いし、それを認めてもらう手続きです。
正しくは「破産」と「免責」という二段階の手続きに分かれていますが、これらをひとつの申立書で行います。
裁判所の管轄によって多少異なりますが、大体このようなフォーマットになります。
なお、一定の財産がある人は「破産管財人」が選任されて実際に財産を配当する手続きがされ、その後に残ってしまった債務が免責されます。
ただ、配当すべき財産を持たない人は「同時廃止」といって、すぐに破産手続きが廃止されてすぐ免責手続きに移ります。
※破産管財人・・裁判所により選任される、自己破産手続きを補助する役職。ほとんどは弁護士であるが、申立書を作成した弁護士とは別の者が選任される。破産事件の内容を調査したり、債権者集会を開催したり、財産の換価配当を行ったりする
※管財事件・・破産手続の種類。債務者に配当できる財産があったり免責不許可事由(詐欺的借入等)がある場合に破産管財人が選任されて配当や調査などが行われる。これらが終結すると免責手続きに移るが、全体として手続きが長期化することもある。
※同時廃止・・破産手続の種類。債務者に配当できるような財産および免責不許可事由(詐欺的借入等)がないため、破産手続開始決定と同時に破産を廃止(手続きを終わらせる)すること。通常この後すみやかに免責の手続きに移り、手続き全体が非常に早く終結する。
いずれにせよ、最終段階までいけばほとんどすべての債務がチャラになるはずなのですが、一定の例外があります。
一般の消費者金融、銀行、信販会社など債権者に負っている債務はすべて「免責債権」として免除してもらえるのですが、もともと免責してしまうことが不適当な性質の債務は「非免責債権」と呼ばれ、自己破産の後にも支払義務が残ります。
破産法第253条1項に定められている「非免責債権」は次のとおりです。
- 租税等の請求権(1号)
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(2号)
- 破産者が故意または重大な過失により加えた他人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(3号)
- 夫婦間の協力および扶助の義務、婚姻費用分担義務、子の監護に関する義務、親族間の扶養義務などに基づく請求権(4号)
- 雇用関係に基づく使用人の請求権または使用人の預り金返還請求権(5号)
- 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(6号)
- 罰金等の請求権(7号)
税金や社会保険料等を免除してしまえば国や自治体を維持することが難しくなること、また悪質な損害賠償等は道義的に免除すべきでないなど、それぞれの項目につき免責にふさわしくない理由があります。
賠償金は免責債権になるのか
損害賠償については、一部は非免責になりますが(支払義務が残る)、すべての損害賠償がそのような扱いになるのではありません。
非免責になるかどうかは、損害賠償を生じさせた行為がどのようなものなのかによります。
条文上は1項2号で「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」とされていますが、これは単なる「故意」ではなく、「積極的な害意」まで必要というのが判例です。
この点については争いがある部分もあるため、下に判例を交えつつ解説します。
非免責債権と免責不許可事由はどう違う?
「非免責債権」と混同されやすいものに「免責不許可事由」があります。
ただ、両者は似ているように見えて全く異なるので正しく理解しておきましょう。
- 「非免責債権」とは、上記のように、複数ある債権の中でも免責にふさわしくない「特定の債権」を表す概念であり、破産手続全体について免責を認めるかどうかの話ではない。
- 「免責不許可事由」とは、その破産手続全体について免責を認めることが相当でない事情がある(債権者を騙して借入れしたなど)ことを表す概念であり、個々の債権についてひとつひとつ判断されるのではない。
なお、誤解されている面があるのですが、自己破産申立人の債務の中に多額の「非免責債権」が含まれていても、そのことが当然に免責不許可事由にあたるのではありません。
非免責債権を含むかどうかが破産手続自体の免責許可に影響を与えるわけではなく、単にその債権が免責対象ではなくなるだけのことです。
なお、免責不許可事由については(上記リンク記事でも説明していますが)、それがあったとしても破産管財人による事情の調査後に、最終的に裁判所の裁量によって免責される場合があります(裁量免責)。
これに対して、非免責債権と判断されたものについては、そもそもその債権の性質が免責に適さないということであり、破産手続きの中で裁量によって免責できるわけではありません。
損害賠償金が非免責債権とされるのは具体的にどのような場合か
では、損害賠償と免責の可否の関係についてもう少し詳しく見てみましょう。
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償
破産法第253条1項2号に定めている「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」については、一見免責されないのでは?と思われるような事例でも非免責債権とすべきかどうかの判断が分かれています。
【非免責債権ではない(免責が認められた)とされた例(平成18年6月28日神戸地裁明石支部)】
妻Aが夫Bの不貞行為の相手方女性Cに損害賠償請求をしたが、Cが自己破産したことにより免責された。
この事例では、Cが単にBに妻がいることを知っていただけでは足りず、非免責債権とするためにはさらに積極的な「害意」が必要とされた。
【非免責債権である(免責が認められない)とされた例(平成27年4月9日千葉地裁)】
Aは知人Bから預けられた現金につき返還を求められたが理由をつけて返還せず、結局一部を返還しないまま転居し自己破産、免責許可を受けた。
裁判所はAの行為を横領とみて、非免責債権であると判断した。
破産者が故意または重過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償
1項3号についても「非免責債権」とされなかった(免責された)判例をご紹介します。(平成24年5月23日東京地裁)
【AがBの運転する自動車に同乗していたが、Bの起こした交通事故によりCに後遺症を負わせた。】
この事例で、Cに保険金を支払った保険会社Dより同乗者Aに損害賠償請求が行われたが、AはBが事故を起こす危険があるほど酒に酔っていることやBに運転免許がないことを認識できなかったことや、Bの危険な運転を制止する行動をしていた。
よって、Aには3号の「故意または重過失」は認められず、Aの損害賠償債務は非免責債権とはならなかった。
このように、1項2号、3号の損害賠償については各事例の詳しい内容や事情によって免責可能かどうかの判断が分かれます。
大まかに言えば、「悪質性の高いもの、相手を積極的に害する意思がみられるものは免責されないが、そのレベルまで到達していないと判断されたら免責される」ということです。
もちろん、損害賠償請求をする側の感情にそぐわないこともあるでしょう。
判断基準は単純ではありませんので、申立人が事前にその点を判断することは難しいケースも多いといえます。
よって、損害賠償債務がある人が破産しようとする場合、弁護士と相談の上で免責について見通しを立てておくことは必要ですが、必ずしも予想通りにならないことを覚えておかなくてはなりません。
自己破産手続きは弁護士に依頼するのがおすすめの理由
自己破産の手続きは法律上は破産者が自分で行うこともできますが、弁護士に依頼することはさまざまな点からメリットが大きいといえます。
免責可能な借金が残ってしまうのを防ぐことが可能
上記のように、非免責債権かどうかの判断が微妙な場合、自己判断で免責可能だと思ってしまうと当てが外れることも考えられますし、逆に免責できるものを見落としてしまうリスクがあります。
微妙な事例は最終的に裁判所の判断を仰がなくてはなりませんが、過去の判例と酷似した事例であれば免責の見込みについて弁護士からアドバイスを受け、それらを漏れなく債権者一覧表に記載することもできるようになります。
損害賠償金の交渉が可能
最終的に「非免責債権」となった場合に、現実としてどのように支払っていくかという問題があります。
自己破産手続きが終わった後の破産者は生活再建のために必要最低限の資産しか持っていないことが普通ですが、非免責だった以上はどうにかして支払っていかなくてはなりません。
破産手続き終了後の収支を的確に判断して、生活を成り立たせつつ支払えるのは毎月いくらくらいなのかを計算し、場合によっては相手方との分割払い等の交渉が必要になります。
減額等は難しいかも知れませんが、現実的に一括で回収するのが難しいことがわかれば相手方も分割払いに応じざるを得ないでしょう。
また、損害賠償だけではなく税金滞納などもある人についてはそちらとのバランスも大切ですので、トータルでの適切な判断をするためにも、弁護士に相談できる状況にしておくことが大切です。
まとめ
非免責債権になるかどうかの判断が難しい時には、弁護士に依頼する方が安心だね!
自己破産手続きは、弁護士に相談して、今後の生活についてアドバイスをもらいながら進めていくようにしよう!
- 損害賠償債務を負っていても自己破産することはできるし、「非免責債権(チャラにするのにふさわしくない債権)」でなければ支払義務を免れることはできる。
- 非免責債権は破産法に定められているが、その中で「損害賠償」については個々の事例ごとに非免責債権になるかどうかの判断が分かれてくることがあり、強い悪質性、害意を認められる事例では非免責債権になることがある。
- 非免責債権となるかどうかの予測を立てたり、現実に非免責債権となってしまった場合の返済プランを相談するためにも自己破産手続きは弁護士に依頼した方がメリットが多い。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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