特別寄与料ってどういう制度?対象や条件は?
法定相続人以外の親族が介護をしていた場合、受け取れる金銭の事だよ。
今回の記事では、特別寄与料について、詳しく見ていこう。
3世代同居が当然の慣習となっていた時代の日本では、本来の法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)ではない同居者が高齢者の介護等をすることが珍しくありませんでした。
例えば、長男の嫁や養子縁組をしていない子供、また近居の兄弟などが挙げられます。
しかし、何年も自宅介護を続けて貢献した同居家族が法定相続人ではないため一切何も受け取れないのに対し、別居していた法定相続人が相続財産を受け取れることに不公平を感じる人は多かったのではないでしょうか。
その不公平感を是正するために2019年の民法改正により「特別寄与料(民法第1050条)」が制定され、介護などの貢献をした人に対して一定の財産を与えることが可能となりました。
本記事では
- 「特別寄与料とは何か」
- 「特別寄与料はどんな立場の人が何をすれば与えられるのか」
- 「特別寄与料の相場や請求方法」
といった点について解説します。
特別寄与料とは
特別寄与料とは、法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)以外の親族が介護などを行った労に報いるため、民法第1050条により介護者等に対して与えられる金銭です。
(特別の寄与)
第1050条
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。
以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。
ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。
前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
以前の民法では、法定相続人以外の親族は、たとえ実質的に介護等を担っていたとしても法定相続分(民法で定められた相続分)は与えられませんでした。
また、寄与分とよばれる生前の寄与に対する相続分の増加も、法定相続人のみにしか認められなかったため、結局法定相続人以外の介護者には被相続人(亡くなった人)が任意に遺贈や生前贈与を行うしかなかったのです。
しかし、上記の特別寄与料に関する条文が制定されたことにより、長男の嫁など本来の法定相続人ではない人に介護の対価として(相続人から)金銭を与えることが可能になりました。
なお、被相続人の遺言によって特別寄与料を定めたり、特別寄与料を排除したりすることは認められていません。
特別寄与料の要件
特別寄与料を与えられる要件について確認してみましょう。
親族の範囲や介護等の内容等についていくつか要件が定められています。
特別寄与料の対象となる親族とは
上記の民法第1050条1項では、特別寄与料を請求しうる対象者が「被相続人の親族」であることが明記されています。
「親族」にあたるのはどの範囲の人なのかは民法第725条に定められています。
(親族の範囲)
第725条
次に掲げる者は、親族とする。
六親等内の血族
配偶者
三親等内の姻族
「親等」とは、本人を0と数え、直系では1つ世代を上下するごとに1つずつ数を増やしていく数え方です。
例えば自分から見た父母は血族の1親等ということになります。
血族とは、主に血のつながりのある親族のことですが、養子縁組した親子も血族となります。
また、姻族とは「配偶者の血族」または「血族の配偶者」のことですが、「配偶者の血族の配偶者」「血族の配偶者の血族」は姻族に含まれません。
兄弟姉妹などの傍系についてはいったん上の世代を数えてから下に降りていきます。
つまり、自分の兄弟姉妹は血族の2親等となります。
この数え方に基づいて民法第725条の定義する「親族」の範囲をまとめると、下図のようになります。
上記を理解した上で特別寄与料を請求できる者の条件を整理するとこのようになります。
制度 |
趣旨 |
対象者(=請求権がある人) |
寄与分 |
法定相続分や指定相続分の修正 |
法定相続人のみ |
特別寄与料 |
法定相続人より、特別の寄与があった親族への財産付与 |
法定相続人を除く以下の親族 |
なお、上記表にも記載しましたが、特別寄与料を請求するべき相手は「法定相続人」となり、特別寄与料の額を各人の法定相続分に応じて割った金額を請求することとなります。
民法第904条の2の寄与分は法定相続人に限られていたため、寄与の程度に応じて相続分を調整するために存在する制度ですが、特別寄与料は法的な意味が異なります。
特別寄与料とは、あくまで請求を受けた法定相続人からの財産分配という趣旨であり、請求された金銭は被相続人から引き継いだ負債ではなく、相続人固有の負債という位置づけになります。
労務の提供とは
特別寄与料を請求できるのは「労務の提供」を行った親族です。
上記の民法第1050条1項には、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより~」とあります。
この「労務の提供」は必ずしも療養看護のみに限らず、被相続人の事業を手伝うなどの労働を行ったことも含まれます。
ただし、金銭援助など財産上の給付を含みません。
また、これら労務の提供は無償で行われたものでなくてはなりません。
「特別寄与料」の対象となる寄与が「金銭給付」を含まないことにに対し、民法第904条の2に定められる「法定相続人のみを対象とした寄与分」に関しては、もう少し広く、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により~」とされるため財産上の給付も含まれています。
特別寄与料についてある程度行為の態様を限定したのは、法定相続人以外への相続財産分配をあまりに広く認めると相続に関する紛争が複雑、長期化するおそれがあるからです。
財産の維持または増加について特別の寄与とは
特別寄与料を請求できるのは「被相続人の財産の維持又は増加」に寄与した親族だけです。
この文言からもわかるように、寄与者による寄与が、被相続人の財産の維持増加との因果関係を持つものでなくてはなりません。
上記の民法第1050条1項には、「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族~」とあります。
民法第904条の2に定められる「法定相続人のみを対象とした寄与分」の場合には、当該身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献であることが要求されています。
特別寄与料については法定相続人ではない者への分与であることから考えても、一定の絶対的基準を超える貢献が必要であるのは言うまでもありません。
ただ、具体的な事案に応じてどの程度まで特別寄与料が認められるのかは、まだ比較的新しい法律であるため事例が積み重ねられていません。
今後、実務の中での裁判例等が出てくることにより、基準が徐々に明確になってくるはずです。
特別寄与料の相場
特別寄与料は具体的にいくらくらいが相場といえるのでしょうか。
民法の条文上では、具体的な計算方法は定められておらず当事者の協議が最優先となりますが、ある程度の目安となる以下の計算式があります。
「プロの看護人を雇った場合の報酬額×裁量割合(0.5~0.7程度)×介護日数」
ただ、特別寄与料の上限については「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない(民法第1050条4項)」とされているため、遺産総額とのバランスで減額されることも十分に考えられます。
なお、被相続人に負債があった場合はどうなるのでしょうか。
法定相続人は負債を承継することに対し、特別寄与者は法定相続人ではないため負債を承継しないことから、その点を考慮して特別寄与料の上限を設定すべきではないかという検討が立法の段階では行われていました。
しかし、相続財産や債務の全貌を明確にするには長期間かかる場合も少なくありません。
そこで、家庭裁判所が特別寄与料の金額を定める場合には案件ごとの事情を考慮することとし、一律に負債の額を控除するという規定は設けられませんでした。
特別寄与料の決め方
話し合いで決着つかない場合には、裁判所に委ねる事になる可能性が出てくるね。
特別寄与料は最終的にどのように決定されるのでしょうか。
当事者間での話し合い
上記に触れたように、特別寄与料の具体的な金額についてはまず当事者での話し合いが必要となります(民法第1050条2項)
当事者が直接話し合うことにより紛争がこじれ、長期化するおそれがあるなら弁護士に代理してもらうことも一つの方法でしょう。
裁判所に判断を委ねる
民法第1050条6項では、「(協議が調わなければ)家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める」としており、当事者同士で折り合いをつけられない場合は、最終的に家庭裁判所に判断を委ねる方法もあります。
特別寄与料の請求については「非訟手続」とよばれる、私人間の「訴訟によらない」解決方法であり、訴訟事件よりも柔軟な形で裁判所が後見的役割を果たし、法律関係を形成していくことになります。
なお、特別寄与料につき裁判所に対して行う請求は、相続人全員を相手にして行う必要はなく、相続人のうち一部を相手方とすることも可能です。
特別寄与料の注意点
特別寄与料を請求する際にはいくつか注意点がありますので確認してみましょう。
半年以内に請求する
特別寄与料は下記の通り、請求できる期間が限定されているため、被相続人が死亡したらすみやかに相続人に対し請求することが大切です。
特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したとき(民法第1050条2項)
特別寄与料の要件を満たす程度の貢献をしていた親族は通常、被相続人の死亡を知りうる立場にあると考えられるため「知った時から6カ月」と比較的短く設定されています。
なお、この「知った時から6カ月」については「時効期間」であるため、途中で期間がリセットされることもありますが、「相続開始の時から1年」の方は「除斥期間」とされ、伸長されることはありません。
制度があまり知られていない
特別寄与料の制度は2019年の民法改正により制定されたため、まだあまり一般の認知度は高くありません。
よって、特に法定相続人以外の人から請求が行われた場合、拒否される可能性があります。
もちろん、上記条文などを示して正当な請求権を持つことを主張すればよいのですが、要件等をめぐってはやはり争いになることも考えられます。
そのような場合には要件の充足を主張していく必要がありますが、弁護士に依頼して客観的資料を提示する方が交渉が進みやすいのは言うまでもありません。
介護記録の証明が困難
介護記録については、家庭内のことであるため証明が困難な場合もあります。
もし、被相続人の死亡後に特別寄与料の請求を検討している人は、日常の介護記録をつけたり、介護用品の購入に関するレシートを保管しておくなど、より立証がしやすいように工夫する必要があります。
万一、上記の裁判所による手続きになった場合にも、資料が揃っていれば裁判所の心証は特別寄与者にとってより有利になります。
法改正前は無償で奉仕することが当然のように扱われていた親族による介護等が、法により一定の保護を受けることになったわけですから、制度を正しく理解し適切に請求を行いましょう。
まとめ
- 2019年の民法改正で、法定相続人ではない親族に対し「特別寄与料」という形での金銭請求が可能となった。
- 特別寄与料を与えられるだけの貢献は、通常求められる程度を超えるものでなくてはならないが、比較的新しい制度であるためまだ明確な基準が存在しているわけではない。
- 特別寄与料には法ではっきりと定められた金額があるわけではないため、まずは当事者の話し合いが必要であるが、協議不能な場合には裁判所に諸事情を考慮した上で特別寄与料の定めをしてもらうこともできる。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
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