義務化された相続登記ってどんな制度?手続きの手順ややらなかった場合に罰則はあるの?
今回の記事では、相続登記の手続き方法や相続登記をしないリスクについて詳しく見ていこう。
2023年後半くらいからテレビ等でも取り上げられることが多くなっているテーマとして「相続登記義務化」があります。
2024年4月1日から、いよいよ法改正による相続登記義務化が施行されました。
ただ、いつまでにどのようなことをすればよいのか、義務を果たさなかった場合はどうなるのかなど詳しい点についてはまだあまり周知されていません。
本記事では
- 「相続登記義務化の趣旨と内容」
- 「相続登記を放置するとどうなるか」
- 「相続登記の方法と費用」
といった点を解説します。
相続登記とは
相続登記とは、親などの死亡により発生した相続について、不動産の名義を相続人に移転することです。
具体的には、戸籍や遺産分割協議書、印鑑証明書等の必要書類を添付して登記申請書を法務局に提出し、登記簿(登記事項証明書)の名義を登記官によって書き換えてもらうことになります。
相続登記義務化の背景
相続登記が義務化されたことにはどのような背景があったのでしょうか。
従来、相続登記はあくまでも相続人が自分の所有権を第三者に主張するために行う、いわば「対抗力の取得」のための手段でした。
しかし、少子化により実家を引き継ぐ人がいない、遺産分割協議がなかなか成立しないといった事情を背景に相続登記未了の不動産が増加してきた結果、所有者不明土地が社会問題として徐々に大きなものになってきました。
所有者不明土地が増えれば増えるほど国や地方自治体としては困った事態を招いてしまいます。
例えば「収用」つまり、道路や公共施設などの建設するため土地を買い上げる必要がある場面で、誰を相手に交渉してよいのかわからない状況になります。
所有者不明土地を全部合わせると九州の面積を超えてしまっている現状では、手をつけられない土地があるというのは国家的損失といえるのです。
よって、極力土地の所有者を明確にし、国土を有効活用することを目的に今回の相続登記義務化が施行されることになったのです。
相続登記に罰則はあるのか
相続登記の義務化というのは「期限までに手続きをしないと10万円以下の過料を科せられる」という罰則を伴うものです。
基本的な期限の考え方としては
- 相続発生および不動産の取得を知った時から3年
となりますが、法改正(2024年4月1日)よりも前に相続が発生していた場合にも、やはり登記の義務は課せられます。
法改正「前」の相続については相続登記の期限が下記のようになります。
- 法改正「前」に相続が発生し、法改正「前」に不動産取得を知っていたら、「法改正より3年以内」
- 法改正「前」に相続が発生し、法改正「後」に不動産取得を知ったら、「不動産取得を知った日から3年以内」
これらを図解すると以下のとおりです。
ただし、3年を過ぎて相続登記がされていないケースであってもすべてに過料が科せられるわけではありません。
まずは法務局から「相続登記を行っていない」旨の催告書が届き、それを無視していると次の段階として過料の通知が来るという流れになります。
相続登記を放置するリスク
何年も放置した後に相続登記をしようと思うと、書類集めが大変になってしまうというリスクも出てくるよ。
相続登記を放置した場合、上記の「過料」以外にはどのような実質的リスクがあるのでしょうか。
遺産分割が難航する
相続登記を行うには、「法定相続分(民法で定められた相続分)」や「遺言書」に従った持分で登記をする場合を除いては、相続人全員による「遺産分割協議」を行わなくてはなりません。
しかし、相続開始から長期間が経過すると遺産分割協議をすること自体が難しくなることがあります。
なぜなら、いったん開始した相続により相続人となった人がまた亡くなり(二次相続といいます)、ネズミ算式に遺産分割協議に関与する人数が増えてしまうことです。
例えば、Aが亡くなりBとCが法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)であったが、Bも亡くなりBの相続人がDEFであったといったケースでは、もともと2人で協議すればよかったところが4人になってしまうのです。
BとCが両方死亡した後であればなおさら相続関係が複雑になっていることもあります。
もう一つのリスクとして近年増加しているのが「相続人の高齢化」です。
典型的な事例を一つ見てみましょう。
Aの相続人BCのうち、遺産分割協議を放置しているうちにBCともに高齢になり、Bが認知症になってしまったために遺産分割協議が不可能になるというものです。
たとえこのような状況でも、Bを無視して遺産分割を行うことはできません。
どうしてもBの存命中に遺産分割協議を行わなければならない状況なのであれば、Bの「成年後見人」を選任する必要があります。
成年後見人とは、被後見人(このケースではB)の財産を守ることを目的として選ばれるBの代理人ですが、家庭裁判所を通じて選任手続きをしなければならず、手間もお金もかかることになります。
成年後見人を選任しての遺産分割協議にはいくつか注意点があります。
- 成年後見人は申立時に「候補者」を立てるが、必ずしも申立人の希望通りになるとは限らず、弁護士や司法書士、社会福祉士などが選ばれることもある。
これら専門家後見人がつくと「Bの持つ資産に応じた報酬」を家庭裁判所が決定する。 - もし、Bと共同相続人の立場になる者(このケースではC)がBの成年後見人になった場合、Cは自分自身が相続人でもあるため、「利益相反」とよばれる状態になる。
よって、遺産分割協議にあたっては「特別代理人」を選任しなくてはならない。 - 成年後見人の業務は今回の目的となる行為である遺産分割協議が成立したら終わるのではなく、原則としてBの死亡まで続く。
- 成年後見人が選任されると、遺産分割協議は原則として「Bの法定相続分」を確保する形で行われる必要がある。
- 成年後見人がついている間はBの資産から一定額以上の出費がされる場合、成年後見人を通じて家庭裁判所の許可を得なくてはならない(Bの資産を守ることが制度の趣旨だから)。
上記のような点を踏まえると、成年後見人を選任して遺産分割協議をするよりもBの死亡後に協議を持ち越す方が望ましいケースもあるでしょう。
迷ったら、弁護士に相談して将来の相続関係等も踏まえた適切な方法を選択することが大切です。
売却が困難になる
相続登記が行われていない状態だと、そのままで不動産を売却したり、銀行等から借り入れをする際の担保とする(=抵当権や根抵当権を設定する)ことができなくなります。
故人の名義になっている不動産は「相続人の全員または誰かの名義に所有権を移転してから買主への所有権移転を行う」ことが必要です。
よって、上記に説明した「遺産分割協議が困難な状態」にならないうちに相続登記を終えておくことが重要なのです。
差し押さえのリスク
例えば、不動産が被相続人(亡くなった人)のままになっていると、その不動産はいっとき相続人の共有状態とみなされます(民法第898条1項)
仮に、その状態で相続人の1人が借金をしていたとして返済不能に陥ると、借金をした相続人の持分だけを確定判決などを得た債権者が差し押さえることが可能になります。
債権者によって差し押さえの前提とする場合は「債権者代位による相続登記」といって、法定相続分に応じた持分での登記が相続人の関与なしに行われます。
よって、他の相続人は全く知らない間に自分の持分も含めた相続登記がされ、他の相続人の持分のみとはいえ自分が共有者になっている不動産に差し押さえの登記が入ってしまっているという状況になるのです。
差し押さえられた持分を見知らぬ他人が購入すると、買い受けた他人との間で持分の売買や不動産全体の売買についての協議が必要になってしまいます。
公的書類の入手が困難になる
相続登記を何年も放置することにより、登記の際に必要な書類の種類が増えたり、入手が困難となる場合もあります。
例えば、住民票の除票や戸籍の附票(その戸籍にいる者の住所の変遷がわかる書類)については基本的な保存期間は役所側で「5年」となっています。
保存期間を過ぎてしまうと「保存期間経過による廃棄の証明書」しか発行できなくなり、不動産の相続登記で必要とされる、「被相続人最後の住所と登記簿上の住所との繋がり」を示すことができなくなることがあります。
書類の保存期間経過によって、相続登記において法務局に上申書などを添付しなければならない場合もあり、手続きが通常より大変になります。
また、相続人のうち1人または数人が死亡している場合(=二次相続が発生している場合)は、2人目以降に亡くなった人に関する「死亡~出生までの戸籍」も必要となり、取り寄せる戸籍の数が膨大になることがあります。
これらの事情から、手間、時間、費用を極力抑えるためにも早めの相続登記は必須といえるでしょう。
相続登記の方法
次に登記事項証明書の取得、遺産分割協議書の作成、そして申請という順に進める事になるよ。
相続登記を行うための具体的方法について確認しましょう。
書類の収集
不動産に限らず、すべての相続手続きにおいて最初にやらなければならないのは「戸籍の取得」です。
被相続人の死亡から出生までの戸籍をすべて追っていき取得しますが、80代くらいで亡くなった方の場合、5通から6通程度は出てくるのが一般的です。
戸籍が数通にのぼる理由として
- 「婚姻による新戸籍編製」
- 「法改正による3世代戸籍から2世代戸籍への入れ替え」
- 「転籍」
- 「離婚による復籍や新戸籍編製」
- 「コンピュータ化による戸籍改製」
といったものがあります。
これらを漏れなく揃えるのは、慣れていない人にとってはかなりの労力を伴うことがあります。
司法書士に相続登記を依頼した場合、司法書士の職権で戸籍一式を取得することも可能ですので、仕事で多忙な方や事務手続きが苦手な方は依頼してしまうのもひとつの方法です。
また、被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)、不動産取得者の住民票、固定資産税評価証明書などの書類も必要になります(その他、事案に応じて必要書類が追加される場合があります)。
戸籍がひととおり揃って法定相続人を確定させることができたら、「遺言書」がないかどうかを確認します。
「公正証書遺言」であれば公証役場に、「法務局保管制度を利用した自筆証書遺言」であれば、法務局に保存されています。
自宅保管の遺言書は家庭裁判所で検認の手続きを行います。
登記事項証明書を取得する
不動産がある場合、法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得します。
もし物件の数が多い人の場合は登記漏れを防ぐために、市役所の資産税課などで「名寄台帳」を取り寄せることをおすすめします。
名寄台帳を請求すると、被相続人名義になっている不動産を(当該市区町村の管轄物件については)すべて検索することが可能となります。
遺産分割協議書の作成
不動産の登記事項証明書と戸籍や住民票などの必要書類が揃ったら、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、内容を書面化した「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議書には下記の内容を記載します。
- 被相続人の氏名、死亡日、最後の住所や本籍地、登記簿上の住所地
- 被相続人が死亡したことにより相続が開始し、法定相続人全員の合意が成立したこと
- 遺産の配分方法(誰がどの遺産を相続するか)
- 遺産分割協議書の作成年月日
これらを記載したら、末尾に各法定相続人の住所、氏名の記入、実印での押印(印鑑証明書を添付)を行います。
申請する
書類が調ったら法務局に相続登記を申請します。
司法書士に依頼する場合は司法書士がすべて登記申請書や委任状等を作成してくれるため、本人は必要な書類に署名押印をするだけです。
単純な登記申請であれば法務局の相談窓口で申請書の雛形などを提示してもらうことも可能ですが、本人申請の場合は「補正」といって、いったん申請した書類の不備を是正するために数回、法務局に出向かなければならないことが多くなります。
登記申請の際には「登録免許税」といって、物件の固定資産税評価額の0.4%の税金がかかるため、本人から申請する場合は郵便局あるいは法務局の窓口で購入します。
登録免許税の納付も司法書士に依頼した場合は代行してくれます。
登記識別情報通知の交付
登記を申請した後は、法務局の営業日でいえば10日~2週間くらいかけて法務局内部での処理、つまり登記簿の書き換えが行われます。
司法書士に依頼した場合は登記簿の名義が変更された後の登記簿や原本還付(返却される)書類も司法書士側で回収してくれますので、あとは自宅に送られてくるか司法書士事務所に取りに行くという流れになります。
相続登記にかかる費用
相続登記にかかる費用を確認してみましょう。
- 書類の取得費用
戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本、住民票、戸籍附票などの費用は各事例により異なりますが、数千円~2万円程度に収まることが多くなります。
兄弟姉妹が相続人となるケースでは、被相続人の父母両方、そしてすでに死亡している兄弟の死亡から出生まで戸籍を遡ることになるため、多いと5万円以上になるようなこともあります。
また、上記以外に司法書士に戸籍等の取得代行を依頼した場合は各事務所の規定に基づく報酬が発生します。 - 登録免許税
上記のとおり、固定資産税評価額に対して0.4%の登録免許税がかかります。 - 登記事項証明書(登記簿謄本)取得費用
不動産の数により異なりますが、ほとんどのケースでは数千円です。 - 司法書士報酬
司法書士に手続きを依頼した場合の報酬は不動産の個数、不動産の固定資産税評価額、相続関係の複雑さなどにより異なります。
現在は司法書士の報酬規程が存在しないため、各事務所によって異なる報酬が設定されていますが、依頼する場合、事前に見積もりを取っておくと安心です。
相続登記は専門家に相談
相続登記は法律上は自分で行うことができるとされているものの、事案により難易度の差が非常に大きい手続きです。
もし最初から司法書士に相談していれば、遺産分割協議がまとまらない場合は弁護士を紹介してもらって対処することもできますし、戸籍収集、遺産分割協議書の作成など面倒な部分はすべて任せることができます。
特に売買を前提とする場合、買主への所有権移転の前提として相続人に名義が移っていなくてはならず、日程に余裕がないことが多いため司法書士の介入が必須といえます。
また、相続関係が複雑な場合や被相続人の住所が登記簿と異なるなどのケースでは、特に添付書類がややこしく、もし本人申請した場合は何度も登記の補正を命じられることになってしまいます。
よって、スムーズな手続きのためにも極力、本人申請を避け、相続登記の専門家である司法書士に相談することをおすすめします。
まとめ
専門家に依頼すると費用がかかってしまうけれど、無料相談などを利用して、まずは相談してみよう。
- 相続登記は2024年4月1日より義務化されており、相続開始および不動産取得を知った日から3年以内に行わなければ10万円以下の過料を科せられることがある。
- 相続登記を長期間放置すると2回目の相続発生により関係人数が増えたり、登記に必要な書類の入手が困難になるといった不都合が生じることがある。
- 相続登記は事案による難易度がまちまちであるため、極力本人申請を避けて司法書士に相談、依頼することが望ましい。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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