相続させたくない相手に相続させない方法があるって本当?相続廃除について解説します。
相続廃除とは相続の権利を剝奪することが出来る制度だよ。
ただし、裁判所へ申し立てても2割程度しか認められないんだ。
今回の記事では、相続廃除のができるケースやできないケース、相続廃除と遺留分や代襲相続との関係について、詳しくみていこう。
日本の民法には、被相続人(亡くなった人)の生前の人間関係を問わず一律に親族関係のみで定められる相続人が規定されていますが、これを「法定相続人」といいます。
ただ、将来自分の法定相続人になる可能性が高い人が、自分から見てどうしても相続させたくない相手であった場合はどのようにしたらよいでしょうか。
例えば「遺言書」を書いておいて相続させる人を指定しておく方法もありますが、兄弟姉妹以外が相続人となる場合は「遺留分」という一定の取り分が保障されています。
よって、どうしても自分の相続人になることが許容できない相手には「廃除」といって、相続人である立場そのものをはく奪してしまう方法があります。
とはいえ、単なる感情のみで廃除が認められてしまえば簡単に相続権を奪うことができてしまい、理不尽な結果となることもあります。
そこで、民法の廃除に関する規定、そして裁判例では廃除ができる条件を厳しく定めています。
本記事では、
- 廃除とはどのような制度か
- 廃除ができる場合、できない場合
- 廃除や廃除の取り消しの手続方法
- 遺留分や代襲相続等の関連制度と廃除の関係
などについて解説します。
相続廃除とは
「廃除」とは、被相続人の意思で推定相続人(自分の死後、法定相続人になるであろう人)の相続権そのものをはく奪することができる制度です。
廃除された相続人は、「廃除の申立てをした被相続人の相続においてのみ」相続権を失うこととなります。
例えば、自分の子供から暴力、虐待、犯罪行為など多大な迷惑をかけられてきたため相続権を与えたくないといった場合に利用することが考えられます。
廃除は被相続人が家庭裁判所に申し立てる、もしくは遺言によって(=廃除の旨と遺言執行者を記載して)行うことができますが、他の共同相続人など、被相続人以外の人が行うことは認められません。
また、廃除の対象(廃除される人)となるのは「兄弟姉妹以外の推定相続人」です。
兄弟姉妹にはもともと遺留分(下に解説)がないため、もし兄弟姉妹の相続分を完全に奪うことを目的とするのであれば、「遺言書」で兄弟姉妹以外の人を指定して相続(または遺贈)させると記せばよいからです。
ただ、廃除を行うにはそれなりの重大な事由が必要です。
単なる被相続人の好き嫌いなどの感情で簡単に廃除することができるとすれば制度の濫用につながりますので、廃除が認められる要件はとても厳格です(下記に解説します)。
相続廃除の対象となるのは
廃除が認められる要件は、民法上次の条文に定められています。
(推定相続人の廃除)
民法第892条
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
推定相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱をしたなどが典型例です。
また、推定相続人が多額の借金で被相続人に肩代わりなど迷惑をかけたり、配偶者である被相続人の存在を無視して長期間に渡り不貞行為に及んでいたなどのケースでも認められることがあります。
相続廃除ができる割合
廃除の申立ては家庭裁判所に対して行われますが、背景となる事情を考慮して認めるか否かの判断が行われます。
家庭裁判所の判断はかなり厳しく、全申立て件数の2割程度しか認められていないのが実情です。
民法第892条に挙げられた要件の一つである「著しい非行」であると認められた裁判例には以下のようなものがあります。
- 妻の親(夫も縁組で養子となっていた)から住宅の贈与を受けるなど多額の経済的恩恵を受けておきながら、愛人と出奔し所在不明となり養親(義父母)の介護も行わず妻子に生活費も送らなかった。
- 娘が暴力団員と婚姻し、両親が結婚に反対したにも関わらず父の名義で披露宴の招待状を出した。
- 長男が窃盗等により何度も服役したにも関わらず被害弁償等を行わなかったために両親が被害者への謝罪などで多大な心労を負った。
相続廃除が認められなかったケースとは
廃除が認められない典型例は次のようなケースです。
- 単にその推定相続人との折り合いが悪かった。
- 暴力や暴言があったが、一時の感情に伴うものであり継続的なものではない。
- 暴力や暴言を証明できない。
- 暴力、暴言があったが、暴力等に至ったことがそれまでの被相続人の言動に起因するものである。
また裁判例としては、推定相続人が巨額の横領で実刑判決を受けて服役したが、本件は著しい非行にあたらないとして廃除が認められなかったケースがあります。
複数が似たようなケースであっても、背景となる一切の事情が考慮されるため廃除の可否を一律に判断することはできないと考えておくべきです。
相続欠格との違い
相続人としての資格が奪われる制度としては廃除の他に「相続欠格」というものがありますが、廃除とはどのような点が異なるのか確認してみましょう。
相続欠格については以下のような条文があります。
(相続人の欠格事由)
民法第891条
次に掲げる者は、相続人となることができない。
- 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
上記条文のような被相続人や他の相続人への殺害や未遂、遺言書の偽造変造等の事由があると、相続権が「自動的に」失われます。
廃除の場合は生前の家庭裁判所への申立てまたは遺言が必要ですが、相続欠格は家庭裁判所への手続きを必要とせず、当然に相続権が奪われるということになります。
相続廃除の方法
遺言書に廃除する人を記載している場合でも、被相続人が家庭裁判所への申し立てを行う必要があるよ。
推定相続人を廃除する方法にはどのようなものがあるのか確認してみましょう。
廃除を申し立てるには2種類の方法があります。
- 生前に家庭裁判所に廃除を申し立てる
- 遺言書で遺言執行者を指定して、死後に遺言執行者から家庭裁判所に廃除を申し立てる
それぞれの方法について解説します。
被相続人が行う
まず、基本として確認しておきたいのは、廃除申立ての主体となれるのは「被相続人だけ」ということです。
遺言による廃除で遺言執行者が申し立てるのはあくまでも被相続人に代わって、という意味です。
廃除の対象者以外の「(推定)共同相続人」や、その他被相続人以外の人が行うことは認められません。
生前廃除を行う
まず、1つ目の方法は「生前廃除」です。
被相続人が自らの意思で、対象となる推定相続人に廃除事由があることを示して家庭裁判所に廃除の申立てを行いますが、次のような流れになります。
最初に以下の書類等を準備します。
- 家事審判申立書(ダウンロードまたは家庭裁判所の窓口で入手できる)
- 被相続人、廃除したい相続人の戸籍謄本
- 収入印紙800円
- 郵便切手(家庭裁判所ごとに異なるため電話等で確認が必要)
これらを被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出し、審判が下りたら審判書と確定証明書の交付を受けることができるようになります。
廃除が認められた場合は、10日以内に被相続人の本籍地の市区町村役場に「廃除の届出」を行いますが、この届出を忘れないようにすることが大切です。
遺言書で廃除する
2つ目の方法は「遺言書」による廃除です。
廃除する対象となる推定相続人と、廃除が相当と認められる事由を遺言書内に記載し、遺言執行者を指定しておくことが必要です。
相続が開始したら遺言執行者は被相続人に代わって家庭裁判所に廃除の申し立てを行います。
遺言執行者からの申立ての際は、生前廃除の項目で解説した必要書類に加え、遺言書または遺言書検認調書の写しを添付します。
ただ、家庭裁判所に廃除を認めてもらうためには、遺言書に記載された廃除事由が真実であると裁判所が判断できるだけの証拠がなければ難しいと考えなくてはなりません。
相続廃除の取り消し
いったん行われた廃除は、被相続人の気持ちが変わった場合にはいつでも取り消すことが可能です。
(推定相続人の廃除の取消し)
民法第894条
- 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
- 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
廃除の取り消しについては廃除の申立てと同様、家庭裁判所に申立て手続きを行わなくてはなりません。
また廃除と同様に、廃除の取り消しも遺言書に基づいて遺言執行者が手続きを行うことができます。
相続廃除となった場合の遺留分
廃除された相続人は遺留分を請求することもできません。
遺留分とは
遺留分とは、法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)に最低限保証されている相続分のことです。
大まかに言えば
- 法定相続分の2分の1
- 直系尊属(親や祖父母)のみが法定相続人になるケースでは法定相続分の3分の1
となります。
例を挙げると下図のようになります。
仮に、遺言書があり特定の相続人に全財産を相続する、などの内容だったとしても、他の相続人は遺留分を侵害されている部分につき「遺留分侵害額請求」をすることができます。
廃除されたら遺留分は請求不可
廃除された相続人は相続人としての立場を失ってしまうため、遺留分を請求することもできなくなりますので廃除の効力は絶大なものになります。
廃除の申立ての際には対象となる推定相続人への審尋(事情を聞く)が行われることもあるため、申立てが不当と感じた場合はきちんと反論しておくことも大切です。
代襲相続と相続廃除
廃除が認められた場合に、廃除された相続人に子供がいた場合、代襲相続の対象となります。
代襲相続とは
代襲相続とは、例えば被相続人が死亡した時点でその子供がすでに死亡しており、子供に子供(=被相続人から見ると孫)がいた場合はその人が相続人となる制度です。
具体例を見てみましょう。
【例1・直系の代襲相続】
父Aより長女Dが先に死亡していた場合、Dの子であるFとGはDが本来相続するはずだった4分の1(8分の2)の法定相続分を「株分け」する形で代襲相続する。
なお、甥や姪などに代襲相続が発生する場合もあります。
【例2・傍系の代襲相続】
Cに子供がおらず、父母ABも先に死亡している場合は本来、兄弟であるDが法定相続人になるところである。
しかしDもCより先に死亡していたら、Dの子であるGとHはDが本来相続するはずだった4分の1(8分の2)の法定相続分を「株分け」する形で代襲相続する。
相続廃除は当人のみ
廃除が認められた場合、虐待や非行などを行った本人のみにその効果が及ぶため、廃除された子供に子供や孫がいれば代襲相続の対象となります。
相続廃除の手続きは弁護士に相談
申し立てをしても難しいってことだよね…
認められる可能性がどのくらいあるのか、相談に乗ってもらうことができるし、手続きのサポートも依頼できるよ。
上記のように、廃除の認定基準は非常に厳格であり、家庭裁判所に認められる可能性は2割程度にとどまっています。
つまり手間や時間をかけて申立てを行っても、徒労に終わる可能性も十分あるということです。
そこで、あらかじめ相続に明るい弁護士に類似事例を聞くなどして、廃除が認められる可能性がどの程度あるのかの予測を立てておきたいものです。
もし、廃除が無理であることが明らかな場合は、手続きを断念するという選択をすることも大切だといえます。
まとめ
- 廃除とは、兄弟姉妹以外の推定相続人の相続権を「生前に」または「遺言書によって」奪うことである。
- 廃除は家庭裁判所に申し立てることにより行うが、廃除が認められる確率は申立て件数の2割程度にとどまる。
- 廃除の申立てを行う前には相続に精通した弁護士に相談し、廃除が認められるか否かの大まかな見通しを立てることが大切である。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
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債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
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