法定相続情報証明制度ってなんですか?メリットやデメリットは?
相続をする場合には利用した方が良いと聞いたんだけれど、法定相続情報証明制度について詳しく教えて!
今回の記事では、法定相続情報証明制度のメリットやデメリットについて、詳しくみていこう。
相続にまつわる手続きを行う場合、まずは「法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)が誰なのか?」を戸籍を取り寄せることにより特定しなければなりません。
ただ、相続に必要な戸籍がどのくらいの種類(通数)になるかは人によってまちまちで、中には膨大な量になってしまうこともあります。
また、手続き先である金融機関などの担当者が戸籍の読解自体について不慣れで、そのため手続きに時間がかかってしまうこともあります。
このような不具合を解消するために設けられたのが「法定相続情報証明制度」です。
本記事では
- 法定相続情報証明制度の概要、メリットやデメリット
- 法定相続情報証明制度の注意点
- 法定相続情報証明制度を利用すべきケース
といった点について解説します。
法定相続情報証明制度とは
法定相続情報証明制度とは、法定相続人を特定するために必要なすべての相続人を示す「戸籍一式」と「相続関係を一覧にした図面」を法務局に提出することで、下記のような「法定相続情報一覧図」を作成、発行してもらう制度です。
要するに、自分たちで調査した法定相続人について「法務局からのお墨付きをもらう」というイメージです。
(法務局ウェブサイトより引用)
相続人は法務局提出用として一回だけ「法定相続人を特定するすべての戸籍を集める」作業を行わなければなりません。
しかし、いったん法務局で法定相続情報一覧図を相続手続き先の数だけ作成してもらえば、あとは各手続き先にこの一覧図一枚を提出すれば「相続を証明する戸籍一式の代わり」として使用することができます。
法定相続情報一覧図の作成を法務局に依頼すること自体は無料です。(ただし、法務局への申出自体を法律家に依頼した場合は法律家への報酬が発生します)。
また、申出時に必要な通数を記載するようになっており、何通でも発行してもらうことができます。
法定相続情報証明制度を利用するメリット
では、法定相続情報証明制度を利用するメリットを詳しく見てみましょう。
戸籍謄本を何度も集める必要がない
法定相続情報証明制度の最大のメリットといえるのが、「面倒な戸籍収集が一回だけで済む」という点です。
相続に必要な戸籍が何種類くらい必要になるかというのは、
- 被相続人(亡くなった人)に子供がいたかどうか
- 被相続人の転籍や婚姻等で戸籍が作り変えられた回数
- 兄弟姉妹が相続人となるケースで、何人の兄弟姉妹がいたか
など、さまざまな要因で変わってきます。
人によっては、相続人となる兄弟が10人近く存在し、その半数以上が被相続人より先に死亡している、など複雑なケースになることもあり、50種類もの戸籍が必要ということもあり得ます。
もしワンセットで膨大の数にのぼる戸籍を何回も取らなければならないとしたら、その労力ははかり知れません。
金融機関も手続きが終了すれば通常、原本を返却してくれますが、提出から返却まで1カ月程度かかることも多く、多くの機関を同時に手続きしたい場合などは非常に時間がかかってしまいます。
上記の通り、法務局に申請する法定相続情報一覧図自体は無料で作成してもらえるため、最初に多めに作っておけば多数の金融機関を同時進行で手続きすることが可能になります。
手続きが簡素化できる
上記のとおり、法定相続情報一覧図については「1枚で」法定相続人すべてを特定する情報を示すことが可能になったことで相続手続き全体が簡素化されました。
金融機関の支店などは職員があまり戸籍の読解に慣れていない場合もあり、従来であれば特定の職員しか相続手続きを処理できず時間がかかることが多かったといえます。
しかし、法定相続情報証明制度ができてからは「法務局のお墨付き」といえるこの一覧図があれば相続人を特定する作業をカットすることができるようになったのです。
また、不動産の相続登記においては令和6年4月1日よりさらに便利な運用が行われることになりました。
相続登記申請書の添付書類欄に法定相続情報一覧図の右上に書いてある番号(法定相続情報番号)を記載することにより、法定相続情報一覧図自体の提出が不要とされたのです。
法務局は相続登記の申請先であり、また法定相続情報一覧図を作成した機関でもあるため、相続登記申請人から法定相続情報番号が示されれば、自らが作成した法定相続情報一覧図データを容易に照会できるからです。
この取扱いはあくまでの不動産の相続登記に限って行われ、金融機関や証券会社など法務局以外の機関では法定相続情報番号のみを提供することはできません。
費用を節約できる
法定相続情報証明制度を利用する人は戸籍を一回しか取得しないで済むようになったことから、戸籍取得のための費用を抑えることが可能になりました。
法定相続人を特定するための戸籍、と一言で言っても、相続関係が複雑な人などは相当多数の戸籍を集めなければならないこともあります。
配偶者と少数の子供が相続人などの場合、比較的通数は少なく済みますが、子供や親、祖父母がいないため兄弟姉妹が相続人になるケースでは、膨大な数の戸籍が必要になることもあります。
戸籍取得の実費としては「戸籍謄本=450円」「除籍謄本や改正原戸籍=750円」「戸籍の附票=300円」などに通数を掛けた金額となります(自治体により手数料が若干異なる場合があります)。
これが何十通もの数にのぼり、何セットも取得しなければならないとすればやはり大きな出費となるため、1セット限りで済むということは費用面でも大きなメリットがあるのです。
法定相続情報証明制度のデメリット
法定相続情報証明制度のデメリットを考えてみましょう。
作成に手間、時間がかかる
法務局に法定相続情報一覧図の作成を申し出てから完成するまでに1週間~2週間かかります。
また、申出の前提としての戸籍収集や申出のための申請書準備等にも時間がかかるため、相続関係が複雑な人だと準備から一覧図完成まで3カ月以上かかる場合もあります。
すべての手続きに利用できるわけではない
法定相続情報一覧図を使ってできる手続きとしては
- 不動産の相続登記
- 被相続人名義の預貯金の解約、払い戻し
- 相続税の申告
- 被相続人の死亡に起因する年金等手続き
があります。
一部の金融機関や証券会社等では使えないこともあるため、相続手続きの際に必要書類を確認することを忘れないようにしなくてはなりません。
ただ、法定相続情報証明制度そのものが現在ではかなり金融業界に浸透してきたことから、現在では使用できないケースはそれほど多くありません。
法定相続情報証明制度の注意点
その他にも住所記載の有無についての注意点や、養子がいる場合の注意点、相続放棄する人がいる場合の注意点についてもチェックしてみよう。
法定相続情報証明制度の利便性がわかったところで、利用を決める前に注意点も確認しておきましょう。
申出人のみが再発行可能
法定相続情報一覧図が不足したなどの場合には再発行を申し出ることができますが、再発行の申出は「最初に法定相続情報一覧図の申出をした人(申出人)」のみに認められています。
再発行は5年間
法定相続情報一覧図の再交付申出は最初の申出から5年間のみ行うことができます。
あまり長期間が経過してしまうと当初生存していた人ですでに亡くなった人がいるなど証明内容が変動している可能性が出てくるからです。
住所記載の有無を選べる
法定相続情報一覧図には「相続人の住所」を書くか否かは任意とされています。
ただ、住所を記載しない一覧図を作成した場合、各種相続手続きの際には別途住民票を添付する必要が出てくるため注意が必要です。
日本人のみ利用可能
被相続人、相続人が日本国籍を持たない場合は法定相続情報証明制度を利用することができません。
申出の際に必要な戸籍謄本を添付することができないからです。
また、日本人であるが海外に在住している人が法定相続情報一覧図に住所を記載したい場合には、現地の在留証明書等を添付して住所を証明しなければなりません。
養子がいる場合、養子の戸籍謄本が必要
養子については相続で実子と同様に扱われるため、養子も法定相続情報一覧図に掲載されますが、そのため養子の戸籍も提出することが必要です。
相続放棄した事実は法定相続情報一覧図に記載されないする人がいる場合には専門家に相談
法定相続情報一覧図には、相続放棄した人がいてもその旨の記載はされません。
相続放棄は家庭裁判所を介して行われますが、相続放棄した事実は戸籍に記載されるわけではありません。
よって、法務局側で法定相続情報一覧図作成のための書類確認をする際に相続放棄の有無を判断することができないからです。
また、法定相続情報一覧図を作成した後の日付で相続放棄がされることもあるので、放棄した人が一覧図に掲載されたままの状態になっていることも考えられます。
相続放棄した人は、他の相続人が相続放棄の事実を知らずに手続きを進めてしまうことがないよう、(法的に規定された義務ではないものの)自分が相続放棄した事実を伝えておくべきといえます。
特に、自身が相続放棄して同順位相続人がおらず次順位の相続人に相続権が移るような場合には、すみやかに次順位相続人に自己の相続放棄を伝えることが必要です。
例えば、下図のように父が死亡の場合に第一順位相続人である「子」が相続放棄し、第二順位である被相続人の両親や祖父母がすでに死亡しているなら、第三順位である父の兄弟が相続人となります。
先順位相続人が相続放棄したことにより相続人となる人には、被相続人の債権者から請求が来る可能性もあるからです。
そして万一、相続放棄を隠して(負債のみ免れて)遺産を受け取るようなことがあれば、相続放棄自体が効力を失い、被相続人の負債も承継しなければならなくなることに注意が必要です。
法定相続情報証明制度を利用する方が良いケースとは
上記で法定相続情報証明制度の概要やメリット、デメリットを解説してきましたが、具体的に法定相続情報一覧図を作成した方がよいケースを考えてみましょう。
相続財産の種類や手続先が多いが多い
相続手続きが(事務的な面で)大変になりやすい主なケースは、
- 相続財産の種類が多い(預貯金、不動産、有価証券、自動車など)
- 相続手続きをする相手先が多い(たくさんの銀行口座や証券会社)
といった場合です。
預貯金は金融機関、不動産は法務局、有価証券は証券会社など、手続き先の種類が多ければその分、提出する書類も同じものを複数揃えなければならなくなります。
また、預貯金しかないような場合でも、銀行の数が多ければやはりその数だけ同じ書類を提出しなければなりませんから、法定相続情報一覧図のメリットが十分生かしきれるケースといえます。
書類集めを1回で終わらせたい
相続人が仕事で多忙など、戸籍収集を1回きりで終わらせたい場合やなるべく費用を節約したい人なども法定相続情報証明制度の利用に向いています。
ひととおり戸籍を取って、一つの銀行だけで済むと思っていたら他の銀行も見つかった、などの場合に、法定相続情報一覧図を予備で2、3通取得しておけばすみやかに対応することができます。
特に、期限が決まっている「相続税申告(死亡を知ってから10カ月)」の準備として相続財産調査を急がなくてはならない人は、いちいち戸籍を取り直さなくても済む法定相続情報一覧図は非常に便利な制度といえます。
まとめ
相続財産が多い場合や戸籍が複雑な場合、相続放棄する人がいる場合には、専門家に相談してみよう。
- 法定相続情報証明制度とは、一度法定相続人を特定する戸籍一式を揃えて法務局に申出を行えば、「法定相続情報一覧図」によるお墨付きをもらえる制度である。
- 法定相続情報一覧図の発行を複数枚受けておけば、戸籍の束を提出しなくても不動産の相続登記、金融機関の相続手続き、相続税申告などの際に法定相続情報一覧図1枚の提出で済むため便利である。
- 相続財産の種類が多い、金融機関の数が多い、相続手続き全体を急ぎたいなどの人は法定相続情報証明制度を利用するとスピーディかつ簡単に手続きを進めることができる。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
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