【元弁護士が解説】フーターズ経営破綻(民事再生)でその後の営業や店舗はどうなる?
2019年3月25日、チアガール風の女性店員による接客で有名な「フーターズ」が東京地方裁判所に民事再生の申請をしました。
民事再生を行うということは経営状況が極めて悪化していることを意味しますが、なぜフーターズの状況がそこまで悪化してしまったのでしょうか?
また今後フーターズの店舗が閉鎖されるのか、営業はどうなるのかなども気になるところです。
今回は、フーターズの経営破たんと今後の展望について、考えてみたいと思います。
フーターズとは
フーターズ(HOOTERS)は、アメリカ由来のカジュアルレストランです。
チアリーダー風のユニフォームを着た女性が応対してくれるのが売りで、人気を博していました。トレードマークは「Tシャツとホットパンツ」姿で、日本人だけではなくこうした服装のよく似合う外国人の女性もたくさん働いていました。店に行ったことがなくても、写真を見たら「知っている」方が多いでしょう。
日本でフーターズを運営していたのは「エッチジェー」という会社です。2005年8月に設立された会社で、米国のフーターズ運営法人から営業のライセンスを取得し、東京の赤坂や銀座など複数の店舗を構え、大阪、名古屋、福岡などの主要都市にも支店を拡大していました。
店舗数は多いときで7店舗に及び、2016年9月ころには17億円もの売上高がありました。
現在も、全国6店舗が営業中です。
ところが2019年3月25日、フーターズ(エッチジェー)は経営状態の悪化により東京地方裁判所に「民事再生法」適用の申請をしました。負債総額は約5億6000万円と発表されています。
フーターズ倒産の経緯
2016年には売上げ額が17億円を越え日本全国に店舗展開もして、順調そうに見えたフーターズですが、なぜ経営破たんに至ってしまったのでしょうか?
複数の要因が絡んでいますが、1つは「拡大戦略」に失敗したことです。
たとえばフーターズは最近福岡店をオープンしましたが、新店舗の業績は伸び悩んでいました。
また日本全体での飲食店の状況悪化も要因となっています。今、多くの業種で「人材確保」が困難となっていますが、特に飲食店で働く人材は不足傾向にあります。良い人材を雇用するには給料を多く支給する必要もあり、経営を圧迫していた可能性もあります。食材の仕入れ価格の上昇も、逆風となったでしょう。
もともとエッチジェーにあった現預金などの資産も、設備投資などに使われた分は店舗展開が失敗したことなどによって回収できませんでした。
このようなことが累積して、赤字がかさんできたと考えられます。
さらに最近では「Metoo運動」にみられるように、女性の権利意識の高まりが全世界的なトレンドとなっています。
フェミニズムが高まる中「チアリーダー風の女性による接待」というフーターズは、時勢の流れに逆行するものとも考えられます。
実際に、アメリカ本土のフーターズも、売上高の減少傾向が続いているという情報のようです。
このように、日本のフーターズは、さまざまな要因が絡み合って今回経営破たんに至ったと考えられます。
民事再生とは
今回フーターズが東京地裁に申請したのは「民事再生」という手続きです。具体的にどのような手続きなのか、破産との違いなども含めて理解しておきましょう。
民事再生は破産とは異なる
企業が破綻するとよく民事再生を利用するので、世間的には「民事再生=破産」と捉えられていることも多々あります。しかし民事再生は破産とはまったく異なります。
破産は企業を清算して「消滅」させる手続きであるのに対し、民事再生は企業を残して「再生」させる手続きだからです。
民事再生は、企業が抱える負債を大幅に圧縮し、圧縮された負債を企業が計画通りに返済することによって残りの債務を免除してもらう手続きです。
民事再生に成功したら、企業はそのままの形で残り、営業を継続できますし、旧経営陣がそのまま会社に残るケースもあります。
「経営が悪化したけれど、会社をつぶしたくない。できれば自分達で会社を経営し続けたい、再生させたい」と考える場合によく利用されます。
破産すると企業は消滅するので、経営を継続することは不可能です。
民事再生の流れ
民事再生で負債を圧縮してもらうには、まずは裁判所に民事再生の申立を行う必要があります。要件を満たしていたら、裁判所が民事再生の手続き開始決定をします。その後、債権調査や財産の調査などを行い、負債総額を確定させたら申立企業が「再生計画案」を作成して裁判所に提出します。
その再生計画に対し、債権者が同意すれば裁判所が認可決定を出し、再生計画に書かれている通りに負債が圧縮されます。
一方債権者に反対されると、再生計画は否決されて、民事再生に失敗します。
今後エッチジェーが民事再生を成功させるには、まずは有効な再生計画案を作成して裁判所に提出し、債権者の理解を得る必要があります。
民事再生に失敗すると破産に移行する
経営破たん状態に陥ると、多くの経営者がいきなり破産するのではなく民事再生による再生を目指します。
ただ、希望したからといって必ず再生できるものではありません。
負債が大きいのに弁済能力がない場合には、債務を圧縮しても再生計画を立てられないこともありますし、債権者の同意を得られないケースもあります。
また資産や負債の状況が不透明で、裁判所が民事再生の進行を認めてくれないケースなどもあります。そうして民事再生が廃止されると、手続きは破産に移行します。
このように、当初は企業を再生させたいと考えて民事再生を申し立てても、その後破産手続きになって消滅してしまう企業も多数あります。
現時点で、フーターズは民事再生を申し立てたばかりの段階なので何とも言えませんが、今後負債の状況が明らかになるにつれて、再生が不可能であれば破産する可能性も0ではありません。
スポンサーについて
企業が民事再生をする場合、他企業に「スポンサー」についてもらうケースがあります。自力だけでは再建が難しいので、他企業に援助してもらうのです。
スポンサーの意向によっては従来営業していた店舗営業やブランド名などの維持が困難になる可能性もあります。
今回、フーターズの民事再生については、すでにスポンサー企業が内定しているようです。現時点においては、フーターズの店舗経営をそのまま続け、ブランド名も維持される予定とされています。
国内企業で経営破綻(民事再生)した例
民事再生法が施行されたのは2000年4月のことであり、比較的新しい制度です。
使い勝手が良いこともあり、これまで多くの企業が民事再生法を適用してきました。以下で、これまで国内企業が経営破たんして民事再生を利用した例をご紹介していきます。
過去に、消費者金融会社であり「アエル」という貸金業者がありましたが、この会社は過払金請求などが相次いだことから経営困難となり、2008年に民事再生を適用しましたす。
配当率は6.182%となっており、債権者による過払い金返還請求への対応が進められています。
https://www.kabarai-liberty.net/cashing/ael.html
過去にMtGoxという仮想通貨の取引業者がありました。
MtGox社は、ビットコインの流出事件によって、顧客から預かっていたビットコインを返還できなくなり、2014年に民事再生を申請しました。しかし裁判所の判断で破産手続きに移行し、最近まで管財人のもとで破産手続きが進められていました。
ところがその後、ビットコインの急騰によって保有資産の評価額が急騰したため、2018年になって再度民事再生に切り替わり、現在手続きが進められています。かなりイレギュラーな手続き進行を見せているパターンです。
http://www.mtgox.com/
エアバッグの破裂事件で有名なタカタです。
タカタは、製造したエアバッグが異常破裂して死傷者が出たため、製品のリコールなどに追われていましたが、最終的に営業継続が厳しくなって東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。負債総額は1兆円を超えており、製造業の倒産事例としては戦後最大とされています。
結果としてスポンサーがつき、国内外の大規模なリコールを裁判所の管理下で進めることとなりました。現在はスポンサー企業のもと、事業継続しておりエアバッグなどの商品提供も継続しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ15HZT_V10C17A6MM8000/
山形県の電機メーカーである「川﨑電気」は、民事再生法ができた直後、2000年9月に民事再生の申請をした企業です。配電盤や制御盤製造を主な事業としていました。
上場企業であったためいったんは上場を廃止されましたが、現在は「かわでん」と改名して、再上場を果たしています。民事再生を成功させた企業の代表と言えるでしょう。
洋菓子メーカーの「シベール」は、減収に歯止めがかからなくなっており、3期連続の赤字決算となっていました。キャッシュフローの悪化も顕著で資金繰りに限界がきたために、2019年1月18日に民事再生法の申請を決定しました。上場企業でしたが、廃止予定です。
民事再生した企業のその後
実際に民事再生を利用した場合、その後の再生に成功できている起業はどのくらいあるのでしょうか?
帝国データバンクは、民事再生法が施行された2000年から2015年までの15年間で、118社を対象にその後の経緯について追跡調査をしています。
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p150801.html
業種や負債総額について
民事再生を利用した業種としては「製造業」が29社でもっとも多く、負債規模別では118社中92社が100億円以上の大型倒産案件となっています
フーターズのように飲食店事業の会社はそう多くはなく、5億6000万円という負債総額は少額な部類であることがわかります。
存続率について
民事再生を利用した118社の2015年7月時点の現況は、存続している会社が46社で全体の4割弱です。
一方「消滅」してしまった会社は66社で55.9%にのぼり、「実質活動停止」も6社あります。後に再上場した会社は(株)かわでんで1社のみという結果です。
「消滅」した66社のうち、「解散」したのが35社で「破産」が16社です。
民事再生を利用した場合、その後存続する割合は4割弱で破産する会社もそれなりに多数です。破産しなくても、やはり営業が振るわないのか解散してしまう企業もあるので、再生は簡単なことではないことがわかります。
今後の店舗経営への影響は
フーターズは今回民事再生法の適用を申請したばかりですが、今後どのような展開を見せるのでしょうか?
店舗営業が継続されるのかが大きな関心の対象になるでしょう。
今回のエッチジェーの民事再生手続きでは、すでにスポンサー企業が内定しており、今後はそのスポンサー企業のもとで、フーターズの店舗経営が継続されるでしょう。「HOOTERS」の名称もそのまま使い続けるようです。
利用者側からすると、これまで通り変わらずフーターズの店舗を利用できる可能性が高いということです。
ただ運営母体が変わるため、いつ方針転換されるかわかりません。またフーターズの負債の状況次第では、破産に移行しないとも限りません。破産したら店舗は閉鎖される可能性が高くなります。
必ずフーターズの事業が継続されるとは言えない状況ですから、もしも「一度はフーターズに行ってみたい」「好きだから、なくなるまでにもう一度行きたい」という方がいるなら、早めに行っておいた方が良いかもしれません。
まとめ
企業でも個人でも、返しきれない負債(借金)を抱えてしまったときに救ってくれるのは法律です。支払い関係で困ったときには一人で抱え込まずに、早めに弁護士に相談にいきましょう。
福谷陽子
元弁護士・ライター。
弁護士としての活動した約10年間のうち、7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては債務整理案件を多数担当し、任意整理・個人再生・自己破産のみならず、過払金請求も手がける。
その経験をもとに、現在はライターとして法律関係の記事を執筆している。
■略歴
・京都大学法学部在学中、司法試験合格
・京都大学法学部卒業後、司法研修所入所
・弁護士登録・某法律事務所にて勤務
・独立し、陽花法律事務所を設立
・弁護士活動を停止し、ライターに転身
■ご覧のみなさまへのメッセージ
借金問題を抱えていると、追い詰められた気持ちになるものです。
「どうしようもない」「借りた自分が悪い」「借りたからには返さなければ」と律儀な思いを持ち、必死で返済を続けている方もおられるでしょう。
しかしどんなに頑張っても返済できない借金があるものです。
法律は借金返済できない方や苦しくなった方に救済手段をもうけています。
債務整理をすると嘘のように借金問題を簡単に解決できるケースが本当に多いです。
借金問題に悩んでいる時間はもったいないです。
債務整理は恥ずかしいことではないので、勇気を出して専門家へ相談していただきたいと思います。
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