生活保護の不正受給がばれるとどうなるの?専門家が解説します
今回の記事では生活保護の不正受給となってしまうケースや、生活保護費を受給している時に注意する点などをチェックしていこう。
マスコミにも時々取り挙げられる「生活保護の不正受給」については、世間から厳しい目が向けられています。
ただ、そもそも生活保護の受給については、申請する時に収入や資産等さまざまな条件を市役所の保護課等が調べ、支給の可否を判断するためそこまで簡単に受給できるわけではありません。
それにも関わらず不正受給となる背景には、もちろん申請時の内容に虚偽があるケースもありますが、後から生じた理由を黙っていたことによるものもあります。
では、具体的に不正受給とはどのような場合なのか、バレてしまったらどうなるのかなどを考えてみましょう。
不正受給の現状
厚生労働省が発表しているデータとして「生活保護を取り巻く現状」という資料があります。
これによると、2014年度(平成26年度)から2018年度(平成30年度)までの不正受給に関する件数や金額は次のようになっています。
年度 |
不正受給件数 |
金額(単位:千円) |
1件当たりの 金額(単位:千円) |
告発等(件) |
保護の 停廃止等(件) |
2014 |
43,021 |
17,479,030 |
406 |
152 |
10,512 |
2015 |
43,938 |
16,994,082 |
387 |
212 |
10,587 |
2016 |
44,466 |
16,766,619 |
377 |
220 |
10,509 |
2017 |
39,960 |
15,530,019 |
389 |
140 |
9619 |
2018 |
37,287 |
14,003,825 |
376 |
126 |
9658 |
(資料:厚生労働省「生活保護の現状」より)
市役所やケースワーカー側の努力によって件数自体は減少傾向であるものの、それでも年間37,000件あまり、140億円あまりが不正受給されている現状は依然として見過ごせないものであるといえます。
生活保護の不正受給となってしまうのは
現在の生活保護制度というのは、生活困窮の原因を問わず無差別に国民が受けられるものであるとされています。
しかし、受給を受けるための条件として大切なものがあります。
それは「保護の補足性の原理」と呼ばれる考え方です。
【生活保護法第4条第1項】
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
つまり、生活保護を受けようとするなら
「まず自分の持っている物、能力を優先的に使ってください。それでも無理なら国が救済します。」
ということなのです。
自分の財産等や働いている事実を隠して生活保護を受けようとすると、その程度や状況によっては「不正受給」とみなされてしまいます。
さきほどの厚生労働省のデータでも「不正内容の内訳」が公表されています。
内 訳 |
2016年度 |
2017年度 |
2018年度 |
|||
実数(件) |
構成比(%) |
実数(件) |
構成比(%) |
実数(件) |
構成比(%) |
|
稼働収入の無申告 |
20,800 |
46.8 |
18,741 |
46.9 |
17,281 |
46.3 |
稼働収入の過小申告 |
5,632 |
12.7 |
5,112 |
12.8 |
4,462 |
12.0 |
各種年金等の無申告 |
7,632 |
17.2 |
6,742 |
16.9 |
7,156 |
19.2 |
保険金等の無申告 |
1,275 |
2.9 |
1,099 |
2.8 |
1,003 |
2.7 |
預貯金等の無申告 |
456 |
1.0 |
436 |
1.1 |
372 |
1.0 |
交通事故に係る収入の無申告 |
619 |
1.4 |
574 |
1.4 |
461 |
1.2 |
その他 |
8,052 |
18.1 |
7,256 |
18.2 |
6,552 |
17.6 |
計 |
44,466 |
100.0 |
39,960 |
100.0 |
37,287 |
100.0 |
では具体的な例を見てみましょう。
収入を隠している時
生活保護というのは、一律に「1人月額〇〇万円」などと決められるわけではありません。
まず、居住地や家族の数などによって計算式が定められた「最低生活費」と呼ばれる、「その申請人ごとに妥当と思われる生活費の金額」を割り出します。
その最低生活費から現実的に本人が得られる収入や年金等を差し引いて、足りない分を保護費で補うのが生活保護の基本的な仕組みなのです。
イメージとしては下図のようになります。
つまり、収入等がある状態にもかかわらず申告していない、実際よりも収入を少なく申告しているなどの事由があれば、それは不正受給ということになります。
別宅がある
「持ち家があると生活保護を受けられない」
よく言われることですが、これについては、YESでもNOでもあります。
持ち家については実際の現場ではケースバイケースで判断されています。
家の古さ、土地の利用権は借地権かどうか、居住人数に対しての広さはどうか?など諸事情を考慮して、状況によっては保有したまま生活保護を受けることが認められる場合もあります。
言い換えれば「持ち家がありながら生活保護=100%不正受給」というわけではないということです。
よって、持ち家に住む人が今後の生活保護を検討している場合でも、決して慌てて売る必要はなく、ひとまず市役所の保護課に相談してみるのがよいでしょう。
ただ、極端な例を挙げると「持ち家=資産の存在を隠して安いアパートで極貧な暮らしをしているように見せかけていた」とすれば、バレると保護費が停止され、不正があった期間の保護費につき返還を求められる可能性が高いと考えなければなりません。
通常は生活保護ケースワーカーが定期的に訪問しますので、ダミーとして借りているアパートにいつもいなければ早晩不正は発覚してしまいます。
訪問頻度はケースワーカーにより異なりますが、まめな人であれば月1回ということもあり、この訪問を受給者が拒否することはできません。
訪問時にいつも不在であればやはり不審がられるということです。
1人暮らしと申告しているのに他にも住んでいる人がいる
よく問題になるのが、生活保護受給者および同居家族として申告されていた以外の人がその世帯に住みついてしまうケースです。
シングルマザーなどで生活保護を受給している人に受給開始後交際相手ができた、また、1人暮らしとして申告していたのに老親を呼び寄せて一緒に住んでいたなど、役所側で把握している以外の人が居住してしまえば受給権に影響を及ぼすことがあります。
生活保護の保護費には
- 「生活扶助」
- 「教育扶助」
- 「医療扶助」
など内容別にいくつかの種類がありますが、その中でも最も中核をなすのが「生活扶助」です。
生活扶助の金額を割り出すための大切な要素に「居住地域」や「世帯人数」「構成員の年齢」といったものがあります。
仮に、他の人が一緒に居住しているとなれば同居人の人数や年齢も加味されますし、同居人自身の収入や同居人が親族から得られる援助額等も考慮しなければなりません。
同居人の存在により世帯全体の収入が増えるのであれば、保護費の金額を減額したり、場合によっては支給を停止するのが筋です。
よって、同居人の存在を隠すことは決してしてはなりません。
不正受給がバレるとどうなる?
悪質な場合には刑事告訴になってしまう事もあるんだよ。
では、不正受給がバレてしまった場合はどのような措置が取られるのかを確認してみましょう。
不正に受給した分の返還を求められる
生活保護をもらい過ぎた場合、そのすべてが「悪意をもった不正受給」ではないこともあります。
入院などやむを得ない事由で本来保護課に申告すべき手続きが遅れた、また、後からもらい過ぎに気づいて受給者自ら申告してきたなど「悪質性が感じられない、もしくは低い」場合もあります。
その一方で、明らかに「故意に」申告すべき事項を伝えなかったり虚偽の内容を伝えていたりすることもあります。
前者の場合は生活保護法第63条に基づいて返還を求められる「返還金」となり、後者の場合は同法第78条に基づく「徴収金」という扱いになります。
いずれも多くもらいすぎていたため返さなければならない点は同じですが、その性質の違いから取扱いに次のような差が生じてきます。
返還金 (悪質性が低い) |
徴収金 (悪質性が高い) |
|
自己破産の場合 |
免責される |
免責されない |
返すべき金額を保護費から天引きできるか |
できない |
できる |
返還請求権の消滅時効 |
5年 |
5年 |
生活保護の打ち切り、もしくは減額になる
生活保護が打ち切られたり減額される事由としては、大まかに次の三点があります。
- 被保護者が保護を必要としなくなったとき(生活保護法第26条)
収入から必要経費を差し引いた状態で厚生労働大臣が定める最低生活費を上回る場合。 - 被保護者がその義務に違反したとき(生活保護法第62条3項)
福祉事務所の指導指示に従わなかったり、決められた施設に入る義務を果たさなかった場合。 - 被保護者が立入調査を拒み、妨げ、もしくは忌避し、または医師もしくは歯科医師の検診を受けるべき旨の命令に従わないとき(生活保護法第28条5項)
もし仕事を始めた、援助が見込めるようになった等で収入が増えたのであれば1を根拠として打ち切り、減額となるでしょう。
しかし虚偽申告や調査拒否などであれば2もしくは3が根拠での打ち切りとなりますし、バレた時点でもらい過ぎていたようであれば、状況によっては上に説明した返還義務も合わせて負うことになります。
刑事告訴になる
では、あまりにも悪質性の高いケースでは、どうなるのでしょうか。
受給の経緯や年数、金額などによっては刑事告訴(刑事裁判にかけられ懲役刑などを課せられる)という事態になることもあります。
ある自治体では、約4年にわたり1500万円余りを不正受給していた受給者を刑事告訴しました。
この受給者は自立できる十分な収入があるにも関わらずそれを隠して受給を続けていましたが、結果的には詐欺罪で3年の懲役刑に課せられています。
故意に行う不正受給は税金を詐取するという意味で、れっきとした「犯罪」ですので、決して「仕事をしていてもバレないだろう」などという軽い気持ちで受給を考えてはならないということです。
生活保護期間中にやってはいけない事
保護費を貯金に回したい場合には、目的を明確にしておく必要があるよ。
では、不正受給とみなされないためにも、生活保護を現在受けている人がしてはならないことを確認してみましょう。
貯金
貯金については生活保護を受けている人でも全面的に禁止されているわけではなく、認められるかどうかは主に次の点がポイントになります。
目的を持った貯金であるかどうか
過去の裁判例では、病院に付き添いをする際の費用を準備するための貯金や、子供の高校入学の際の一時納入金のための貯金が認められたものがあります。
つまり、ある程度合理性を持つ理由があるなら認められやすいということです。
逆に全く貯金が認められないとなれば生活保護を脱して自立する際、スムーズに移行できないケースが出てきてしまいます。
そのため、むしろ過度な金額でなければ認める方が「先々の受給者の自立を促す」という生活保護の趣旨に沿うともいえます。
ちなみに「厚生労働大臣が定める最低生活費の6カ月分くらい」までを貯蓄できる限度としている自治体もあります。
貯金をしたいと考える際に「バレたら保護費の返還を求められるのでは?」と心配な人はケースワーカーなどに事前の相談をする方が良いでしょう。
生活を無理に切り詰めていないか
生活を無理に切り詰めて貯金をしている人については、ケースワーカーから指導が入ることもあります。
適切な食生活ができていない、夏場でもエアコンをつけないなどで健康に悪影響を及ぼしていないかといった点です。
場合によっては生活に必要な家電製品の購入を指導され、貯金額を減らすことを促されることもあります。
借金
もし生活保護受給を希望する人に借金がある場合、通常は「自己破産」の方法で債務整理することを促されます。
債務整理には他にも「任意整理」や「個人再生」といった方法がありますが、これらは「返済型」の手続きであるため、これから生活保護を受けようとする人が選択することはできません。
なぜなら保護費は税金で賄われているため、生活保護受給者が返済を続けること=税金を返済に回すことになるからです。
自己破産の手続費用自体が捻出できないという人も多いのですが、これについては「法テラス(国の相談機関)」に相談し「法律扶助(手続費用が出せない人に国が費用を貸与する)」を受けて手続きすることもできます。
生活保護レベルの人であれば貸与された扶助の返還を免除してもらえる可能性もあります。
このようにして借金をきれいにしてから保護を受けることが原則ですが、受給が始まってからは絶対に新たな借り入れをすることは禁物です。
すでに自己破産している状況の人は正規の業者からは借りられず、当分の間いわゆる「ヤミ金(違法業者) 」から借りることしかできないのですが、このようなところに借りてしまったら、超高金利の返済に追われ、完済できることはないと考えるべきです。
また、血税で賄われている保護費がヤミ金への返済に回るようなことが決してあってはならないからです。
このようなことにならないためにも受給中はしっかりと家計管理をして、生活保護から脱却しても月々の収入の範囲で生活できるような習慣を身につけなければなりません。
まとめ
生活に変化が生じた時にはケースワーカーに相談する方が安心だね。
- 生活保護支給の要件として「貧困に至った理由」は問われないものの、あくまで本人が持っている資産や能力を最大限活用して、それでも足りない場合に支給されるという点に注意しなくてはならない(補足性の原理)。
- 資産、収入の存在や同居人など、生活状況が変わった場合にすみやかに報告しなかったり、申請時故意に隠していたりすると、保護の停止や減額、また最悪の場合は保護費の詐欺として刑事告訴されることもある。
- 生活保護を受けていても目的を持った一定金額までの貯蓄は認められることがあるが、過度な貯蓄をしてはならず、また、借金は厳に慎まなくてはならない。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
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