自己破産すると引越しができないって本当?タイミングやケース別に解説
今回の記事では自己破産により引っ越しに制限がかかる人はどんな人なのか、制限がかかる期間について、詳しく見ていこう。
自己破産については世間で誤解されている面が多く、破産手続中や手続後に大幅に生活が制限されるようなイメージを持っている人もいます。
実際には選挙権がなくなる、戸籍に記載されるなどの情報も嘘なのですが、どこまで真実なのかがわからない部分もあるでしょう。
例えば「引っ越しができなくなる」というのも制限として言われるものの1つですが、この情報は本当でもあり嘘でもあります。
正確には「手続きの類型により引っ越しの自由が制限されるかどうかが変わってくる」ということですので、どのような場合にどのような制限がかかるのかを確認してみましょう。
自己破産手続中に引っ越しをする場合には
自己破産の手続き中であっても転勤や子供の学校など、さまざまな事情で引っ越しが必要になるケースはあるでしょう。
では、破産者の引っ越しにかかる制限はどのようになっているのでしょうか。
裁判所の許可が必要
すべての自己破産案件で引っ越しの制限がかかるわけではありません。
自己破産の手続きには「同時廃止」と「管財事件」という二種類の類型があります。
※同時廃止・・・債務者に配当できるような財産および免責不許可事由(詐欺的借入等)がないため、破産手続開始決定と同時に破産を廃止(手続きを終わらせる)すること。通常この後すみやかに免責の手続きに移り、手続き全体が非常に早く終結する。
※管財事件・・・債務者に配当できる財産があったり免責不許可事由(詐欺的借入等)がある場合に破産管財人が選任されて配当や調査などが行われる。これらが終結すると免責手続きに移るが、全体として手続きが長期化することもある。
どちらの類型に振り分けられるかは、破産申立書と添付書類すべてを提出してから裁判所がそれらを見て判断します。
以前は9割方が同時廃止に振り分けられる時代もありましたが、近年(令和元年度)は全自己破産の中で同時廃止と管財事件の割合はおよそ2:1くらいとなっています。
もし同時廃止になった場合、引っ越しについては何の制限もありません。
しかし、比較的短期間、簡易に手続きが終わる同時廃止と比べて、管財事件は事件の1つ1つに破産管財人がついて綿密に債権や破産者の状況などを調査します。
さらに管財事件の場合は、前提として破産者の財産の換価(お金に換える)や配当といった手続きが伴うため、破産者が勝手に住所を変えると手続きのスムーズな進行が阻害されます。
よって、手続中の引っ越しは裁判所の許可が必要とされるのです。
誤解してはならないのが、「引っ越しができない」のではなく「許可なく引っ越してはならない」という点です。
(破産者の居住に係る制限)
破産法第三十七条
- 破産者は、その申立てにより裁判所の許可を得なければ、その居住地を離れることができない。
- 前項の申立てを却下する決定に対しては、破産者は、即時抗告をすることができる。
なお、東京地裁については破産管財人の同意を得て、住民票に上申書を添付する取扱いになりますので、許可というより「届出」といった方がよいでしょう。
勝手に引っ越しをするとどうなるのか
では、許可を得ずに勝手に転居してしまうとどうなるのでしょうか?
もし、引っ越しにより破産者の居場所がわからない、連絡が取りづらくなるなど、破産手続きのスムーズな進行に悪影響が出るほどの状況になると最悪の場合は「免責不許可事由」に該当することがあります。
免責不許可事由というのは「破産申立人について免責(債務をチャラにする)ことが不適当である」と考えられる事情のことです。
具体的にどんな事例がこれに当たるのかは破産法252条1項に定められています。
【破産法252条1項に定められた「免責不許可事由」】
1号 |
債権者を害する目的で財産を隠す、壊す、不利益に処分するなど |
2号 |
破産手続開始を遅らせる目的で不当に債務を負担する、安価での処分行為をする |
3号 |
特定の債権者を優遇するような担保供与、債務を消滅させる行為をする |
4号 |
浪費又は賭博その他の射幸行為により著しく財産を減少させる |
5号 |
詐術により信用取引を行う |
6号 |
業務や財産状況に関する帳簿を隠す、偽造や変造をする |
7号 |
虚偽の債権者名簿を提出する |
8号・11号 |
調査協力義務違反行為をする、破産手続上の義務違反行為をする |
9号 |
破産管財人などの職務を妨害する |
10号 |
7年以内に再度の免責申立てをする |
勝手に引っ越しをして破産手続きの進行を阻害することはこの破産法252条1項8号、9号、11号に抵触するおそれがあります。
引っ越しが可能になるタイミングとは
上記のように自己破産中の引っ越しについては許可(または上申)が必要であると説明しましたが、手続きが終わってしまえばもちろんまた自由に引っ越しをすることができます。
では、この「引っ越しに制限がかかる時期」というのは具体的にいつからいつまでなのでしょうか。
居住制限がかかるのは「破産手続中」で、かつ「管財事件になった場合」ですので、「管財事件への振り分けが決まってから、免責決定の確定」が実際に制限される期間ということになります。
自己破産前後に注意すべき事
その他にも、自己破産をする事で、新たな賃貸契約を結ぶことができなくなってしまう事もあるから注意しよう。
上記の期間より以前であれば引っ越しの制限はかかっていないのですが、その時期の引っ越しについては注意しなければならないポイントがあります。
自己破産手続き前の引っ越し
自己破産申し立てはどこの裁判所にしても良いわけではなく、「管轄」が決まっています。
自己破産手続きは「破産手続きを申し立てる時の申立人の住所(住所と居所が異なる場合は居所)を管轄する地方裁判所」に申し立てなくてはならないため、もし「申立前」に引っ越しをした場合には管轄が変わるということになってしまいますから注意が必要です。
仮に、申立後に引っ越しをした場合にはいったん決まった管轄裁判所が変わるわけではありません。
ただ、手続きにあたって連絡等の都合があるため、すみやかに申立ての手続きをした弁護士(司法書士)および裁判所に伝えておくことが大切です。
賃貸契約が結べない事も
借家に住んでいる人が自己破産を考えた場合、転居する=新たな賃貸借契約をするということですが、ここでも問題になることがあります。
賃貸人(大家)が「保証会社をつけることが必須」と定めている場合です。
昔であれば賃貸借契約の締結にあたっては「連帯保証人必須」というのが常識でした。
しかし、核家族化などの理由から、家族や親族等で保証人になれる人を見つけてこられないケースも多くなっていること、回収の確実性等の問題から、「家賃保証会社」による保証を必須とする賃貸人が増えてきたのです。
家賃保証会社とは、借主との間で「保証委託契約」を結び、借主から保証料を受け取る代わりにいざ滞納となったら代わりに大家に家賃を弁済してくれる役割を果たしています(代位弁済)。
このことにより大家は直接債権回収業務をしなくても良いというメリットがありますし、借主も自分で連帯保証人を頼むわずらわしさがなくなります。
ただ、借主は代物弁済してもらったことにより支払いを完全に免れるわけではなく、大家に代わって保証会社から請求を受けることになります。
なお、家賃保証会社には「信販系」と「独立系」があり、信販系についてはクレジットカード発行などの業務も行っていて「信用情報機関」と呼ばれる機関を通じ、いわゆる「ブラック情報(金融事故の情報)」を取得しています。
※信用情報機関・・・個人の借金の情報を管理する機関。現在、日本には「KSC」「JICC」「CIC」の3社がある。銀行、信販会社、消費者金融などが加盟会社となっており、各社が自分の貸し付ける顧客の情報を提供し、各社が情報を共有している。
銀行、消費者金融、信販会社等からの借金がある状態で自己破産やその他の債務整理をした人は、信用情報機関の「事故情報」にブラック情報が掲載されることになります。
また、まだ自己破産申立てをしていない人でもすでに長期滞納でブラックになっていることもあります。
金融ブラックになると一般の借金やクレジットカード作成ができなくなるのはよく知られていますが、「信販系の家賃保証会社」との保証委託契約もできなくなってしまう可能性が高いということに注意しておかなければなりません。
破産手続中やその前後でどうしても引っ越しが必要という場合には、保証会社が必須とされない(=連帯保証人をつければよい)条件の物件を探さなければならなくなるということを覚えておきましょう。
旅行でも申告が必要になることも
なお、旅行であっても「住所、居所を離れる」ことにより連絡等が不自由になる可能性があるため同じように裁判所への申請をしなくてはなりません。
破産法第40条では次のように破産者等は手続きに必要な説明義務を課せられているため、長期間連絡が取れない状態では手続きの進行に影響するからです。
(破産者等の説明義務)
第四十条
1項 次に掲げる者は、破産管財人若しくは第百四十四条第二項に規定する債権者委員会の請求又は債権者集会の決議に基づく請求があったときは、破産に関し必要な説明をしなければならない。ただし、第五号に掲げる者については、裁判所の許可がある場合に限る。
一 破産者
(以下省略)
出張や帰省などきちんと説明できる理由があれば許可がおりない心配はそれほどありません。
日帰りや一泊くらいであれば差支えはありませんが、二泊以上の旅行に出かける場合には事前に破産管財人弁護士に相談、連絡するようにしましょう。
まとめ
申告を忘れてしまうと、免責不許可事由に該当してしまうから、注意しよう。
- 自己破産した人が同時廃止ではなく管財事件になった場合、管財事件となることが決定した時から免責許可決定の確定までは「裁判所の許可」がなくては引っ越しをすることができない。
- 自己破産申立て前の引っ越しは裁判所の管轄が変わってしまうこと、手続中や手続後の引っ越しでは家賃保証会社をつけた形での賃貸借契約はできない可能性があることに注意しなくてはならない。
- 旅行や出張などで二泊以上自宅から離れる際にも裁判所の許可が必要になるので、予定がある場合にはあらかじめ破産管財人に相談しておくべきである。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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