離婚した場合は相続対象になるの?子供はどういう扱い?
だけど、離婚をしても子供の相続権はなくならないんだ。
今回の記事では、離婚した場合の子供の相続割合や、元配偶者に新たに子供が出来た場合の相続割合について、詳しくみていこう。
人が死亡した場合、配偶者がいれば配偶者は必ず法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)となります。
ただ、もし離婚している「元配偶者」の場合は、相続においてどのように扱われるのでしょうか。
また、元配偶者との間にできた子供や、再婚相手の「連れ子」についての相続権はどうなるのでしょうか。
本記事では
- 離婚が相続権に与える影響
- 自分に相続権がなかった場合の対処法
- 再婚相手の連れ子の相続における立場
といった点を解説します。
離婚後の相続権
日本の民法ではいかなる場合でも婚姻中の配偶者が法定相続人となりますが、離婚した場合、その後元配偶者が死亡したとしても相続権は一切ありません。
逆に、死亡時に籍が入っている配偶者は、たとえ婚姻期間が1日だったとしても相続権を持っています。
そのため、年齢が高くなってからの再婚というのは、子供など周囲の人たちから「相続で揉めるから」という理由で反対を受けることもしばしばあるのです。
離婚後の子供の相続権
夫婦が離婚した場合、その後片方が死亡した場合でも元配偶者は相続権がない、という点は上記に解説しましたが、元夫婦の間に生まれた子供の相続権が失われるわけではありません。
例えば、離婚により母方に引き取られた子供がその後何十年も父親と会っていないといったケースはしばしばありますが、その場合でも子供は父親の相続人になります。
ただ、問題となってくるのは「父親の離婚後の生活状況が不明なため、財産と負債がどうなっているか全くわからない」ことです。
プラス財産だけであればまだしも、離婚後に生活が荒れて借金を持っていたなど、相続により子供に思いもよらなかった悪影響が及ぶこともあります。
相続とはプラス財産だけではなく負債も引き継いでしまうため、父親が返済しきれずに死亡した借金は子供がそっくり返済しなければならなくなります。
もし負債の方がプラス財産より多ければ「相続放棄」を検討するべきということになりますが、音信不通になっている親子では、財産と負債の額を把握することそのものが難しい場合も多いといえます。
よって、調査するまでもなく相続放棄を選択する子供も少なくありません。
なお、相続放棄については手続きできる期間が決まっていることに注意が必要です。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第915条
- 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
- 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
相続放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に相続放棄申述書を提出して行わなくてはなりません。
ただ単に、他の相続人に「相続しません」と告げただけでは法律上の相続放棄とはならないのです。
そうは言っても、音信不通だった親の生活状況などはわからないことがほとんどですから、しっかり調査しようと思えば時間がかかります。
財産や負債調査をしてから相続放棄するかどうか決めたいものの時間を要する場合には、家庭裁判所に対して「期間伸長の申立て」をすることで猶予してもらえることがあります。
また、死亡の事実や借金があったことを知らなかったケースも珍しくないため、死亡より数か月経過してからいきなり債権者から「督促状」などが来て、初めて自分が相続人となったことを知る場合もあります。
そういった場合は、債権者からの督促状のコピーを提出することによって「督促状が到達してから3カ月以内」に限って相続放棄を認めてもらえることもあります。
相続放棄できる期間を過ぎている、または過ぎてしまいそうだという心配がある人は、早急に弁護士や司法書士に相談し、上記のような手段で相続放棄ができるかどうか検討してみることをおすすめします。
元配偶者の子供と再婚してできた子供との相続割合
元配偶者の子供と、再婚後にできた子供が両方いるケースもありますが、どちらの子供も相続については同一割合です。
ただ、再婚相手となった配偶者が相続開始時にまだ存命であれば現配偶者にも相続権はあるため、結果として元配偶者の子供の相続分が思ったより少なかったという状況はあり得ることです。
仮に、前妻との間に子供が2人、後妻との間に2人いたとして、夫の死亡時に後妻はまだ存命だったとします。
このケースでは、後妻の法定相続分(民法で定められた相続分)は8分の4、前妻と後妻の子供4人がそれぞれ8分の1ずつを相続することとなります。
元配偶者の子供が相続できないケースとは
だけど、遺留分の権利を行使すれば、遺言書があっても、一定額の相続を受けることが可能になるんだ。
その他にも、相続人廃除されていると、相続できなくなってしまうよ。
では、元配偶者の子供が相続できなくなってしまうケースにはどのようなものがあるのでしょうか。
遺言書の存在
被相続人(亡くなった人)が「遺言書」を残し、「後妻の子供にだけ相続させる」などと指定していた場合は、前配偶者との子供が遺産を相続できなくなることがあります。
遺言者は基本的に自分の遺産について思った通りに相続の配分を指定することが可能ですので、前妻の子供とは一緒に暮らしていなかったため後妻との子供にだけ相続させる、といった指定も可能です。
ただ、法定相続人の間で明確な理由もなしに極端な差をつけたり、相続させる理由をはっきりさせないとトラブルの原因となることがあります。
もし遺言書を読んだ相続人が内容に納得できない場合は「遺留分の権利を行使する」という方法があります。
遺留分の権利とは
遺留分の権利とは、法定相続人のうち
- 第1順位相続人である子供
- 第2順位相続人である直系尊属
に対して必ず留保される一定の相続割合のことです。
(遺留分の帰属及びその割合)
民法第1042条
1.兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
1.直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
2.前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
(以下省略)
「直系尊属(親や祖父母)のみ」が法定相続人となる場合は、自分の法定相続分に対して3分の1が遺留分となります。
それ以外の組み合わせで法定相続人が構成されている場合は、自分の法定相続分に対して2分の1が遺留分となります。
つまり、被相続人に配偶者、子供がなく両親が健在である場合、両親それぞれの法定相続分は2分の1であるため、遺留分は「6分の1ずつ」となります。
被相続人に配偶者と子供2人がいる場合は配偶者の法定相続分が4分の2であるため遺留分は「4分の1」、子供の法定相続分がそれぞれ4分の1であるため遺留分は「8分の1ずつ」となります。
なお、第3順位相続人である兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺留分とは、関係の近い親族の生活保障などの意味合いもありますが、兄弟姉妹はより関係が遠いため対象となっていないのです。
基本的には、遺言書で相続分が指定されていれば自分の法定相続分を下回っていても遺言書の指示に従って相続します。
ただし、法定相続人全員が合意すれば遺言書と異なる配分で相続することも差し支えありません。
もし遺言書で指定した相続の割合が「遺留分(下記に解説)」を侵害していた場合、侵害を受けた側が不服なのであれば侵害している人に対して「遺留分侵害額(減殺)請求」という権利を行使することが可能になります。
遺留分を侵害されている人は、侵害されている金額を金銭で請求できるとされています。
遺留分というのは権利を持つ側が侵害額(減殺)請求を行って初めて取り戻しが可能となるのであり、侵害されていた分が自動的に戻ってくるわけではありません。
遺留分侵害額(減殺)請求には「1年もしくは10年」の時効があるため注意
遺留分侵害額(減殺)請求はいつまでもできるわけではなく「時効期間」が定められています。
いつまでも請求できるとすると法律関係が安定しないためです。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
民法第1048条
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
上記のとおり「遺留分の侵害を知ってから1年」「相続開始から10年」で時効にかかってしまうため遺留分を請求できなくなりますから注意が必要です。
なお、いったん遺留分侵害額を請求したら、それは「金銭債権」となり、上記の遺留分の時効とは別に通常の金銭債権の時効(民法第166条)にかかるため、早期に回収しておく必要があります。
相続人廃除していた場合
将来の相続人が被相続人になる者に対して重大な非行(虐待など)を行っている場合、被相続人になる者は「この人を相続人から外す」と指定することができます(廃除)。
(推定相続人の廃除)
民法第892条
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
廃除の手続きは被相続人からしか行うことができず、ある相続人から他の相続人に対して行うことはできません。
虐待や侮辱、著しい非行の程度については廃除の事由になるかどうかはケースバイケースです。
例えば、廃除が認められた事例としては
- 家族の共同生活を破壊するほどの言動
- 養親の不動産を無断で売却
- 親に対して『死ね』などの暴言を繰り返す
といったものがあります。
廃除は「生前に家庭裁判所に申立てを行う」方法の他、「遺言書に相続人廃除の旨を記しておく」方法でも行うことが可能です。(民法第893条)
生前に家庭裁判所の審判で廃除された場合は審判確定の時から推定相続人ではないとして扱われます。
また、遺言書に記載されていたため遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をした場合は、死亡の時に遡って効力を生じます。
再婚相手の子供の相続権
いわゆる「連れ子」に相続権があるかどうかは、養子縁組をしたか否かで結論が異なります。
【例】
A男がB女と離婚したが、二人には子Cがいた。
B女はD男と再婚したケースで
D男はCと養子縁組した ⇒ CはD男の相続人となる。
D男はCと養子縁組していなかった ⇒ CはD男の相続人とならない。
また、その後にB女とD男が離婚したとしてもCとD男の養子縁組がそのまま維持されていれば(=離縁しなければ)CはやはりD男の相続人となる。
要するに、養子縁組と婚姻関係は必ずしもリンクしていないということになります。
実務では、自分に相続権があると誤解して不動産を売却する契約をしてしまい、後から自分に相続権がないため相続登記できない(=売却できない)ことが発覚するといった事例も見受けられます。
自分が相続人となるのかが不明な場合、自己判断せず必ず弁護士や司法書士といった法律専門家に相談するようにしましょう。
まとめ
- 離婚した配偶者は相続人にはならないが、子供の相続権は両親の離婚によって失われない。
- 遺言書を残すことによって相続人のうち誰に相続させるかを指定することができるが、被相続人の直系尊属と子供には「遺留分」があるため、遺留分を侵害する相手に対して「遺留分侵害額(減殺)請求」を行う権利がある。
- 前配偶者、後配偶者の子供はどちらにも等しく相続権があるが、いわゆる「連れ子」については養子縁組をしている場合に限って相続権がある。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
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