親子共有名義の不動産の場合、相続はどういう扱いになるの?
今回の記事では、共有名義の不動産を相続する方法や、共有名義人が死亡した場合の手続き方法について、詳しく見ていこう。
不動産というのは1人だけではなく2人以上の名義で登記することが可能であり、これを「共有」とよびます。
例えば2人の共有状態になっている不動産について、片方が死亡した場合には不動産の処理はどのように行われるのでしょうか。
単有(1人の名義)の場合よりも若干話がややこしくなることもあります。
本件では
- 「共有名義になっている不動産を相続する方法」
- 「共有者の死亡と銀行ローンの関係」
- 「相続する割合が変わるのはどのような場合か」
- 「共有者が死亡した場合はどのような手続きを行えばよいのか」
といった点を解説します。
共有名義の不動産の相続方法
親子や夫婦共有名義になっている不動産はどのように相続されるのでしょうか。
片方の共有者がもう片方の相続人だからといって、優先的に相続権があるわけではありません。
あくまでも不動産の共有持分は「相続財産」となりますので、すべての法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)に相続権があります。
法定相続分(民法で定められた相続分)とは下図のように定められています。
- 配偶者がいれば配偶者は必ず相続人となる。
- 配偶者以外の親族には相続の順位が定められており、
「第一順位・・子」「第二順位・・直系尊属(親や祖父母)」「第三順位・・兄弟姉妹」となっている。 - 子が親より先に死亡している場合は子の子が相続人となる(代襲相続)。
ただ、法定相続分はあくまでも一つの目安であり、必ずこの通りに相続しなくてはならないわけではありません。
(下記の「相続割合が変わるケースとは」に解説しています)
法定相続人の間で話し合って他の共有者に優先的に相続させることは可能であり、今後の不動産全体の管理を考えると、片方の共有者に相続させてその結果、単有にする方が合理的といえます。
夫婦共有名義のケース
夫婦で2分の1ずつの共有名義にしており、子供が1人いるケースを考えてみましょう。
上記の法定相続分で考えると、もし夫が死亡した場合、妻と子が夫の持分だった2分の1のさらに2分の1(つまり妻と子が4分の1ずつ)を法定相続分として保有していることになります。
この例では主に3つの相続方法が考えられます。
- 夫の持分をすべて妻に相続させる(妻の単有名義にする)
- 夫の持分を妻と子で半分ずつ相続する(不動産全体では相続後、妻4分の3、子4分の1となる)
- 夫の持分をすべて子に相続させる(不動産全体では相続後、妻と子が2分の1ずつの共有となる)
できれば1の方法をとり、単有名義にしておいた方が後々のことを考えると楽になります。
1の方法で妻の単有にした後、もし複数の子供がいるケースでは不動産を相続させる子を1人に特定する遺言書などを作成し、子孫の代まで単有の状態を維持することをおすすめします。
共有名義は団信でローン免除になるのか
夫婦共有名義で所有権の登記がされており、なおかつ銀行等のローンを利用していることにより抵当権が設定されている場合の団信の取扱いを考えてみましょう。
※団信(団体信用生命保険)・・・ローンを借り入れた債務者が死亡や高度障害などの状態になった際に、保険金で住宅ローンを返済してもらえる制度。
がんの診断を受けたら返済が0になるなどのオプションを付けられる商品もある。
団信を利用する場合、住宅ローン借り入れの際に契約、加入して金利に上乗せするなどの形で保険料を払い込む。
民間金融機関では原則、加入が必須となるが、フラット35については 任意となる。
では、共有名義になっている不動産の場合は共有者一方の死亡等によりローンはどのような取扱いになるのでしょうか。
連帯債務の場合
連帯債務とは、
「夫婦が法律上は『連帯債務者』という形で対等の立場として金融機関と1本のローン契約を締結するた、(一般的には)所有権も夫婦共有にするタイプのローン形式」
です。
ただし、債務者と金融機関との間では「主債務者」をどちらかに決め、そちらの口座から引き落とすことになります。
連帯債務者については「主債務者」のみしか団信に加入できない場合、主債務者とその他の連帯債務者の両方をカバーする団信に加入できる場合があります(連生団信とよばれます)。
主債務者のみ団信に加入している場合は、主債務者の死亡や高度障害に対してしか保険がおりません。
しかし、連生団信に加入していれば、夫婦のどちらに万一のことがあった場合でも保険金によってローン残高を0にすることが可能です。
ペアローンの場合
ペアローンとは
「夫婦二人がそれぞれ別個に金融機関とローン契約を締結し、所有権を共有にした上で夫婦が互いに連帯保証人になるタイプのローン形式。」
です。
夫婦それぞれのローンが完全に独立しているため、2人が別個に金融機関とローン契約を締結し、団信も個別に加入することになります。
ただ、夫の加入した団信では夫の死亡や高度障害にしか対応できないため、妻の分のローンは残ってしまうことになり、逆の場合でも同じです。
相続割合が変わるケースとは
上記に解説した「法定相続分」はひとつの目安となりますが、必ずしも法定相続分に従って分配する必要はなく、相続する割合が変わるケースがありますので確認してみましょう。
遺産分割協議を行うケース
法定相続人全員で遺産分割協議を行うことにより、相続分を変更することが可能です。
ただし、遺産分割協議には下記の要件があります。
- たとえ相続人の中に「行方不明」や「認知症」の人がいる場合でもそれらの人を外して協議することができず、法定相続人全員で行わなくてはならない。
仮に行方不明者がいる場合には「不在者の財産管理人」を、認知症の人がいる場合には「成年後見人」を選任しなければならないため、裁判所への選任申述が必要となる。 - 法定相続人全員での合意が成立したら、遺産分割協議書に内容を記載して全員の実印を押印、印鑑証明書を添付しなければ銀行や不動産登記などの手続きができない。
遺言書があるケース
被相続人(亡くなった人)が生前に作成した遺言書がある場合には、原則として遺言内容の通りに相続しなくてはなりません。
遺言の内容として「長男に全財産を相続させる」といった内容になることも考えられるわけですが、一定範囲の相続人には「遺留分」という権利が保障されています。
遺留分の割合は次のとおりです。
どのような組み合わせの相続人がいるのかにより「全体に対しての遺留分」が決まり、それに応じて各相続人の遺留分も決まってきます。
具体的には下表のようになります。
相続人となる人 |
遺留分 |
各相続人の持つ遺留分 |
配偶者 |
2分の1 |
配偶者2分の1 |
配偶者と子供 |
2分の1 |
配偶者4分の1、子供4分の1 |
配偶者と直系尊属 |
2分の1 |
配偶者6分の2、直系尊属6分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 |
2分の1 |
配偶者2分の1、兄弟姉妹0 |
子供 |
2分の1 |
子供2分の1 |
直系尊属 |
3分の1 |
直系尊属3分の1 |
兄弟姉妹 |
なし |
なし |
遺留分は、遺留分の権利を持つ人が自ら遺留分を侵害している相手に対して請求しなければなりませんが、請求に期限があります。
被相続人の相続開始(死亡)後、自分に遺留分の権利があることを知ってから1年、相続開始から10年が期限であり、期限を逃すと請求できなくなります。
相続欠格事由があるケース
相続欠格として法律に定められた事由を持つ人は、本来の法定相続人であっても相続資格をはく奪されます。
相続欠格は下記の「廃除」と比べて、「被相続人が誰に相続させたいか」という意思にはまったく関係なく、法的に「当然に」相続資格を失う制度になります。
相続欠格の規定は民法第891条に定められています。
第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
- 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
大まかにまとめると、被相続人や先順位、同順位相続人に対する殺人や殺人未遂、被相続人殺害の事実の秘匿、遺言に関する詐欺や脅迫、偽造といった事実が相続欠格事由に該当するということです。
廃除を受けているケース
相続人の「廃除」は、被相続人が家庭裁判所に手続きを行うことにより、相続人の権利をはく奪するというものです。
被相続人の生前であれば家裁の「許可」が必要ですが、遺言書により行うこともできます。
第892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
被相続人に対する虐待や重大な侮辱というのは、推定相続人による度重なる暴力で被相続人に怪我をさせるなどの、ある程度重大な事由が必要とされ、単に疎遠になっていた程度で認められるものではありません。
また、たとえ廃除の手続きを行っていても、被相続人の気が変わった場合には廃除取り消しの手続きをすることも可能であり、その際にも家裁に申立てを行うことになります。
相続放棄しているケース
相続放棄とは、相続が発生してから法定相続人自らが家庭裁判所に申立てを行うことにより「最初から相続人ではなかった」とする制度です。
第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
- 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
- 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
相続放棄申述の原則的な期間は「相続開始を知ってから3カ月」ですが、
- 「被相続人と疎遠であったため、相続人が死亡を知らなかった」
- 「被相続人の死亡自体は知っていたが、相続人が借金の存在を知らなかった」
などの状況も時々あります。
事案によっては3カ月を過ぎてからでも受理されることがあるのですが、3カ月経過後に相続放棄を申述する場合には弁護士や司法書士などの専門家に手続きを依頼することをおすすめします。
相続放棄をすると、放棄した人はプラス財産も負債も引き継がないこととなりますので、最初から相続人の人数にカウントせず、その他の相続人で遺産を分配します。
共有名義の相続手続き方法
共有名義になっている不動産の相続手続きについて解説します。.
手続きの前提として「被相続人の死亡から出生までの戸籍」「相続人の戸籍や住民票」といった書類を取得して法定相続人を書類上特定できる状態にしておきます。
自分で取得することが難しい人は、司法書士に依頼して職権で取得してもらうことも可能です。
遺産分割協議
法定相続分と異なる配分で共有名義不動産を相続する場合には、上記に解説した「遺産分割協議」を行います。
遺産分割協議は必ず法定相続人全員で合意する必要があり、合意した内容を遺産分割協議書にまとめ、各相続人が実印を押印して印鑑証明書を添付します。
なお、不動産の相続手続きについては遺産分割協議書を法務局に提出する必要がありますので、法務局の審査に通る形式にしなくてはなりません。
よって、相続登記を依頼する司法書士に、遺産分割協議書の作成を併せて依頼することが望ましいといえます。
相続税申告と納付
相続税申告が必要な場合には、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に申告と納税を行わなくてはなりません。
相続財産を調査し、遺産の分配方法を決めて計算し、納税資金を準備するというところまで10カ月という期間内に行うのは実際のところかなりタイトなスケジュールといえます。
葬儀や49日法要などの事務的手続きを行っているだけでも2カ月くらいは経過してしまうため、相続税がかかりそうな人は1日でも早く遺産に関する資料や戸籍などを持っていき、税理士に相談するべきです。
ただ、相続税がかかる人というのは全相続発生数の中で数%(都道府県の地価などにより異なる)に過ぎません。
下記の「基礎控除」の枠内であれば相続税申告は必要ないからです。
相続税の基礎控除=「3000万円+(法定相続人の数×600万円)」
ただ、相続税の課税対象となる財産は、民法で定められる「遺産分割の対象となる財産」とは若干範囲が異なります。
明らかにかからないという人なら別ですが、微妙なラインにいる人はできれば税理士に相談しておいた方が無難でしょう。
相続登記を行う
遺産分割協議が成立したらいよいよ「相続登記」を行います。
相続登記は自分で申請することもできますが、共有持分の相続の場合、通常の所有権移転と異なる点もあるため、極力司法書士に依頼して代理申請してもらう方が無難です。
なお、2024年の4月1日からは「相続登記が義務化」され、原則「相続発生および不動産取得を知ってから3年以内」に相続登記を行わなくてはなりません。
さらには、施行日前に発生した相続についても義務化の規定が適用されます。
具体的には各パターンで次のように3年の期間の始期と終期が設定されています。
もし相続登記を上記期間内に正当な理由なく行わずにいると、「10万円以下の過料」に処せられることもあります。
特に法定相続人の人数が多い場合は話し合いに時間がかかることもしばしばあるため、できるだけ余裕を持って遺産分割協議を開始することをおすすめします。
まとめ
でもなんだか分割協議や相続登記って面倒だなぁ~
手続き方法も合わせてサポートしてもらうことができるよ!
- 不動産の共有持分も相続の対象財産となるが、相続後の持分はなるべく単有、あるいは少人数になることが望ましい。
- 相続の割合は基本的な法定相続分として民法に定められているが、遺産分割協議や遺言書、相続放棄などの事由で変更されることもある。
- 相続登記は2024年4月1日から義務化が施行されるが、施行から3年以内に相続登記を行わないと10万円以下の過料に処せられることがある。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
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