債務名義とは?取得方法と、債務者が知っておきたい知識
債務名義って何?? 債務名義を取られてしまうっていうのはどんな意味なの?
債権者に債務名義を取られてしまうという事は、差し押さえになってしまうという事なんだよ。
え?! 債務名義って差し押さえと関係があったんだね… なんとか回避する方法はないのかな?
よし!では債務名義とは何か、取得までの流れや回避する方法について、詳しく見ていこう!
「債務名義」とは日常生活ではなかなか聞き慣れない法律用語です。
しかし、現在借金を抱えていて返済できない人にとって、債務名義はとても重大な意味を持っており、これを債権者に取られてしまったことで生活ががらりと変わることもあります。
では、債務名義とは何か、債務名義を取られることによりどのような法律的効果があるのか、債務名義を取られてしまったらどうすればよいのかを見てみましょう。
債務名義とは
債務名義というのは、一言で表現すれば
「債権回収が困難になった債権者がそれを取得することにより、債務者の財産を差押えること(強制執行)を可能にする書面」
ということになります。
たとえ借金を滞納しても、すぐに回収できなかった債権者がやってきて債務者の財産を差し押さえるわけではありません。
実は債権者側も、民事執行手続として規定された煩雑な手順を踏む必要がありますし、差押えに至るまでには安くない訴訟費用や手続費用の負担がかかっているのです。
それでも訴訟等をしようとする背景には、再三の請求に対して債務者が応じてこなかったり、時効の成立を食い止めるためといった事情があります。
では、実際の債務名義にはどんな種類のものがあるのか、どのように債権者がそれを取るのか、差押えを回避する方法はあるのかなどを確認していきましょう。
債務名義を取得する方法
債務名義は、債権者なら誰でも簡単に取得できてしまうものなの?
債務名義を取得するためには、裁判を起こしたり、公正証書を作成したりと、書類作成のための手続きが必要になるんだよ。 債務名義取得方法の種類について、チェックしていこう。
債務名義の種類にはいくつかのものがあります。
一番ポピュラー、王道といえるのは「通常の訴訟」を経て執行判決や和解などの内容を書面にし、それを債務名義とするものですが、それだけではありません。
もっと簡易な「少額訴訟」や「支払督促」などの方法もありますし、「公正証書」を作成する方法もあります。
では、各手続きの特徴などを解説します。
通常訴訟
通常訴訟は原告が訴状を裁判所に提出し、裁判所から被告に訴状が送達されることによりスタートします。
そして、指定の「期日(実際に裁判所で審理を行う日のこと)」を何度か経て、争っている内容についてお互いが陳述、主張を行い、証拠調べなどを経て弁論が終結します。
この間に、裁判官から「和解の勧告」がされることもしばしばあります(むしろ判決が出されるよりも和解で終結する方が多いといってもよいかも知れません)。
判決に対しては「控訴」という不服申立ての手段が準備されていますが、判決正本が送達されてから2週間以内に控訴が行われなければ判決は確定し、それが債務名義となります。
ただ、この点も誤解している人が時々いるのですが、判決が確定したからといって裁判所が自動的に強制執行(差押え等)を行うわけではありません。
確定判決に基づく内容の履行を債務者が任意に行えばもちろん強制執行という話にはなりませんが、任意の履行がなかった場合でも、債権者自身が改めて執行の手続きを取らなければならないのです。
これは、通常訴訟に限らず他の手続きでも同様です。
少額訴訟
少額訴訟とは、60万円以下の金銭請求に限って利用することができる訴訟手続きです。
原則として1回限りの審理で終わり、判決が言い渡されるというスピーディさが特徴です。
あくまでスピード重視のため、証拠調べについても、即時に取り調べることができる証拠に限り提出することができます。
もっと複雑な証拠調べ等が必要になってくる事件については、そもそも少額訴訟には向いていないので通常の訴訟を利用することになります。
もしここで出された判決に不服がある場合、被告は通常の裁判のように「控訴」をすることはできず、「異議申立て」を行うことになります。
もし異議が申し立てられると事件は通常の裁判に移行します。
実際には双方、弁護士が代理人としてついているような訴訟は、最初から少額訴訟ではなく通常訴訟で行われることがほとんどです。
支払督促
支払督促は、債権者が裁判所書記官に申し立てることにより、債務者に対して迅速に「支払え」という命令を出してもらう手続きです。
実務的には、消費者金融など大量の債務者に法的手続きをしなければならない業者の場合、支払督促が利用されることが多くなっています。
もし、出された支払督促に対して債務者に異議があれば、督促異議を申し立てることにより通常の訴訟に移行します。
上記の少額訴訟との違いは、「裁判等の期日を経ることなく、債権者だけの言い分によってただちに督促が出される」という点です。
支払督促が債務者にとって怖いところは、異議の申立て期間が非常に短いため、対応の仕方がわからなくて迷っていたりするとあっという間にそれが債務名義になってしまうところです。
(実際には、「仮執行宣言付支払督促」の段階までいって初めて執行力が生じることになります)
ただ、異議を申し立てると通常訴訟になってしまうため、申し立てる債務者はそうなった場合の対応策も考えておかなければならないといえます。
よって、支払督促の書類が裁判所から送られてきたら迷っている暇はなく、すぐ弁護士(司法書士)に相談しなくてはなりません。
債務者の現在の状況により分割払いを提案(相談)する方向で動く、または債務整理を選択して債権者に通知するなど適切に対応する必要があるからです。
公正証書の作成
公正証書とは、公証役場に行って公証人の面前で契約、支払いの内容や時期、方法などの取り決めをし、公証人のお墨付きをもらった書面のことです。
ただ、公正証書といってもそのすべてが債務名義になるわけではなく、一定の条件を満たしている必要があります。
- 金銭の一定額の支払いまたはその他の代替物、もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とすること
- 強制執行認諾条項がついていること
※強制執行認諾条項とは、「この契約の内容が履行できなければ強制執行されても異議がない」という条項のこと
これらがついている公正証書のことを「執行証書」と呼びます。
実際の執行証書に記載されている強制執行認諾条項は、次のようなイメージです。
民事調停
民事調停は、訴訟ではなく当事者同士の話し合いで紛争を解決する「裁判外紛争解決手続(ADR)」の一つです。
裁判は完全に一般公開であることに対し、民事調停は非公開ですので落ち着いて話し合いをすることができます。
また、当事者同士だけで話していると感情的になりがちな場合でも、民事調停であれば裁判官1名と調停委員2名の主導によって進められますので公平中立な解決をはかることができます。
ただ、どのような人が調停委員になるかにより当事者の結果への満足度が変わってくることもあるため、弁護士のように完全に自分の側についてくれるわけではないことも踏まえた上で調停を申し立てることが必要です。
また、裁判のように「公示送達(送達したものが到達したものとみなす制度)」がないため、相手方の住所がわからない場合は利用できないことになります。
民事調停は裁判ではないものの、もし調停が成立したらそこで合意されたことは訴訟によって出された判決と同じ効力があります。
よって、ここで作られた「調停調書」を債務名義にして差押え等をすることもできるということです。
民事調停については弁護士(司法書士)などを通さずに行われることも珍しくありませんが、特にそのような場合は事前に制度の仕組みや手続きの進め方を理解しておくことが大切です。
和解調書作成
和解には「起訴前の和解」と「訴訟上の和解」があります。
起訴前の和解は簡易裁判所に「請求の趣旨、原因、争いの実情」を示して和解を申立て、和解内容を書面にしてもらうものです。
すでに合意内容が成立していてあとは書面にするだけ、という場合に多く使われます。
また、裁判の中で裁判官から和解の勧告がされ、それに応じて和解するのが「訴訟上の和解」です。
どちらも「債務名義として、確定した判決と同様の効力を持つ」ことは同じです。
債務名義取得方法を選ぶには
債務名義の取得方法には色々な種類があるんだね… 実際に債務名義の取得方法は、どうやって選ぶの?
借り入れをしている金額や、手続きにかかる期間などが関係してくるよ。 それぞれのメリットやデメリットも併せて表で確認してみよう。
では、債権者側の立場に立った場合、どの方法で債務名義をとることが望ましいのかということですが、これは個々の案件によって異なります。
まとめると次のようになります。
向いている事件 | メリットやデメリット | |
通常訴訟による判決 | 混み入った証拠調べや証人尋問が必要な事件、訴額の大きい事件 | しっかりと弁論や証拠調べなどをした上で判決を出してもらうことができるが、時間、手間、費用がかかる |
少額訴訟による判決 | すぐ取り調べられる証拠が揃っている事件、60万円を超えない少額の事件 | 費用が安く、原則として1日で終結するが、相手方が異議を申し立てると通常訴訟になるのでかえって遠回りになることがある |
支払督促 | 債務者に異議が出ないと思われる金銭等の督促に関する事件 | 素早く督促を出してもらえる反面、債務者から見ると対策を考える時間が非常に短い |
和解調書 | 当事者双方が歩み寄り、合意が成立しそうな事件 | 判決を待つより素早い解決をはかることができるが、中途半端に和解をすると当事者どちらにも不満が残ることもある |
公正証書 | 債務者が公正証書の作成やその内容、任意に履行しない場合の強制執行に合意している事件 | 債務者が同意しないと作成することができない |
調停調書 | 裁判には抵抗があるが非公開なら当事者同士に話し合いの意思がある事件 | 裁判ほど大袈裟にしたくない場合に非公開で話し合うことができるが、調停委員の進め方に不満が生じることもある |
債務名義取得後の流れ
債務名義を取得されてしまったら、すぐに差し押さえになるの?
債務名義取得の手続きの後には、執行分の付与という手続きが必要になるんだよ。
債務名義へ執行文の付与
債務名義は、それがあることにより「強制執行(差押え等)が可能になる」書面であると説明しました。
しかし、その債務名義があることのみでは「現在、すでに執行が可能な状況かどうか」まではわかりません。(まだ支払い期限が到来していない、条件が成就していないなどもあり得るから)
そのため、債務名義に基づいて実際に執行しようと思えば「執行文の付与」という手続きを踏まなくてはならないことになっています。
執行文とは、執行文付与の申立てをすることにより、その債務名義の事件記録が存在する裁判所書記官が(執行証書はその原本を保管する公証人が)付与します。
実際の執行文付与とは「この債務名義により強制執行をすることができる」と記述した紙に裁判所書記官等が押印し、それを債務名義に添付してひと綴りにするだけのシンプルなものです。
強制執行
強制執行とは、民事執行法に規定された手続きですが、債権者が債務者の財産を差押え、合法的に売却したり、債権であれば直接に取り立てたりして弁済を受けられなかった金額に充当するものです。
判決等で執行文が付与されると、執行裁判所(その事件の執行処分を行う「執行機関」としての地方裁判所)に対し、いよいよ差押えの申立てができることになります。
この差押えを行うことが強制執行の第一歩となります。
債務者としては、ここまで来たらもう財産を失う一歩手前のところまで来ていることになります。
たとえば、債権の差押え(一例では、債務者が勤務先に対して持っている給与の請求権)についてはこのような形の申立書が債権者から出されます。
~裁判所ウェブサイトより引用~
差押えの対象物
どんなものが差押えの対象になるのかな?
お金に換えることができる物はほとんど差押えの対象になるんだよ。
実際に債権者が何を差し押さえてくるかというのは、債務者の財産の内容にもよります。
不動産執行、動産執行、債権執行などさまざまな種類の執行手続きがあります。
具体的に差し押さえる対象物になり得るのは次のようなものです。
- 不動産(持ち家、土地、マンションなど)
- 預貯金
- 有価証券(株式など)
- 債権(勤務先からの給与や売掛金など)
要するに、換価(お金に替える)できるものであれば差押えを受ける可能性があるということです。
一応、債権者から債務者への「財産開示手続」も準備されていますが、債務者が開示しない場合のペナルティも「過料(刑罰ではない)」に過ぎないことから、あまり実効性はないと言われています。
債権者から見れば、それなりに高い費用を払って手続きをするわけですから、差押えが空振りに終わらないようにできるだけ確実性の高い物にかかってくるのが普通です。
特に給与(債権執行手続)の場合、差し押さえられると下図のように勤務先から債権者に直接支払うことから、確実に勤務先に知られてしまうことに気をつけなくてはなりません。
なお、もし強制執行できない対象物に差押えなどがされてしまった場合は、執行抗告、執行異議といった救済方法があります。
債務名義を取得されたら
債務名義を取得されてしまったら、差し押さえを待つしかないのかな?
そんなことはないよ。 債権者との交渉の余地はまだあるから、債務名義を取得されてしまったからといって、黙って待っているのではなく、出来るだけ早く弁護士に相談しよう。
では、債務名義を取られてしまったらどうすればよいのでしょうか。
もちろん、支払える状態にある人は裁判や和解などで決まった内容通りに支払うだけなのですが、それらの支払方法に従うのが無理な状態なら、決して放置してはなりません。
債権者側の立場に立ってみても、できれば手間と費用がかかる差押えは回避したいものです。
本来であれば、訴訟等を起こされる前の請求の段階で何らかの対応をしておくことが一番望ましいのですが、そのタイミングを逃してしまった人にはここが最後のチャンスともいえます。
たとえ債務名義を取られていても、強制執行が始まる前には何らかの形で債権者にコンタクトをとり、「分割払いの交渉をする」「債務整理を始めることを知らせる」などの形で強制執行を阻止する方向に動かなくてはなりません。
まずは弁護士(司法書士)の無料相談を利用して債権者への正しい対応をアドバイスしてもらうようにしましょう。
債務名義とは?取得方法と、債務者が知っておきたい知識、まとめ
債務名義を取得されてしまうと差し押さえの危険があるんだね。 債務名義と差押えの関係について、詳しく理解できたよ。
債務名義を取得されてしまうという事は、返済が全くできていない状態なわけだから、差し押さえの手続きを踏まれてしまう前に、出来るだけ早く弁護士事務所に相談するようにしよう。
- 債務名義とは、「債権者がそれを持っていることにより、債務者の財産を差押えて売却などを行い、債権の弁済に換えること(強制執行)が可能となる書面」である。
- 債務名義となるものはいくつかあるが、通常の訴訟や少額訴訟での確定判決、支払督促、公正証書、民事調停、裁判上や裁判外での和解などで作られた書面がそれに該当する。
- それぞれの債務名義には特色があり、複雑で時間をかけるべき事件なら通常訴訟で判決正本や和解調書を取ることが多いが、消費者金融のように大量案件を持つ業者の場合、支払督促で素早く債務名義を取ることが多い。
- 債務名義を使って実際に強制執行をしようとする場合、原則として裁判所書記官や公証人による「執行文の付与」という手続きが必要になる。
- 強制執行は不動産や預貯金、有価証券、債権など換価できる財産に対して行われる。
- もし債務名義を取られてしまうと、そこで約束された債務の履行ができなければ強制執行されてしまうため、支払いが難しいと感じたら分割払いや債務整理などの対策を講じるため弁護士(司法書士)に相談するべきである。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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