相続の際に代償分割という方法があると聞きました。この場合、相続税にも影響はありますか?
代償分割は一人が多く相続した場合にその差額を現金などで支払う方法だから、平等に分割可能だよ。
今回の記事では、代償分割について、詳しく見ていこう。
相続が発生し複数の法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)がいる場合、多くの家庭では公平性をはかるための遺産分割方法を考えなければならないことになります。
旧民法のように長子相続(家督相続)が前提だった時代とは異なり、現代では同じ順位の相続人(例えば複数の子供)はみな平等に相続権を持っているからです。
しかし、中には不動産のように公平に分割することが困難な相続財産もあります。
例えば親が保有していた不動産を売却や分割したくない場合などには、1人の相続人が相続して他の相続人に代償金を渡す「代償分割」という方法があります。
ただ、すべての場合に代償分割ができるわけではなく、また、税制面でも気をつけなければならない点があります。
本記事では
- 「遺産分割の方法にはどのような種類があるか」
- 「代償分割による相続はどのように行うのか」
- 「代償分割を行うメリット、デメリット」
- 「代償分割と税金」
といった点を解説します。
代償分割とは
代償分割とは「特定の相続人が分割しにくい財産などを現物で取得し、代わりにその財産を取得できなかった他の相続人に対して金銭等を支払って公平性をはかる遺産分割方法」です。
まずは遺産分割のいくつかの方法、特徴を確認してみましょう。
遺産の分割方法
遺産分割にはいくつかの方法があります。
具体的遺産分割方法である
- 「現物分割」
- 「換価分割」
- 「代償分割」
- 「共有分割」
のそれぞれについて、どのような特徴を持っているのか確認してみましょう。
現物分割
現物分割とは、文字通り「相続財産を現物のままの状態で」法定相続人それぞれに分ける方法です。
例えば相続財産として不動産、株式、預貯金があったとしたら「不動産を長男に、株式を次男に、預貯金を三男に」といった分け方をします。
換価分割
換価分割とは、現金や預貯金以外の財産を「現金化して」法定相続人それぞれに分ける方法です。
例えば不動産を法定相続人全員あるいは一部の名義に変更した上で第三者に売却し、仲介手数料や登記費用などの諸経費や税金を差し引いた金額を分割します。
代償分割
代償分割は上記に解説したとおり、一部の法定相続人が他の法定相続人より多く相続し、その代わりに自己の金銭などを相続分が少ない法定相続人に支払う方法です。
金銭の他にも自己の不動産など現物で代償することも可能です。
共有分割
共有分割とは相続財産の名義を相続人の共有として相続する方法です。
日本では預貯金の口座を共同名義にすることはできないため、外形からもわかる形での共有分割を行うのであれば「不動産の名義を兄弟3人で3分の1ずつにする」といった方法で行います。
代償分割のメリット
では、本記事の主要テーマとなる代償分割について、行うメリットを確認してみましょう。
- 不動産のように分けられない相続財産があっても、法定相続人間の公平を図ることが可能になる。
- 先祖から受け継いだ不動産を第三者の手に渡したくない場合でも維持し続けることができる。
- 不動産の共有は将来的にデメリットも多いが、代償分割で1人の名義にすれば共有を避けることができる。
- 被相続人と同居していた相続人が単独で相続するなどの場合は「小規模宅地等の特例」といった相続税の計算において有利な特例を適用することができ、税負担を軽減することが可能になる。
※「小規模宅地等の特例」・・・被相続人(亡くなった人)が居住や事業に使っていた土地を守るための相続税評価額軽減の措置。一定条件のもとに相続税評価額が最大80%軽減される。
代償分割のデメリット
代償分割の方法で遺産分割を行うデメリットについて確認してみましょう。
- 多く取得する法定相続人に資力がなければ代償金を支払うことができない。
- 代償金の金額をある程度正確に算出するには、不動産の価格を査定するなどの作業が必要になるが、価格の算出方法をめぐって法定相続人間の意見がまとまらないことがある。
- 遺産分割協議書の書き方で明確に代償分割であることを示さなかったり、代償金の額が著しく高いなどの事情があると贈与とみなされ、贈与税が課税されるといった不利益が生じる場合がある。
代償金を決める方法とは
だけど相続人全員の合意が取れれば、どんな方法でもOKなんだよ。
代償分割の場合、不動産を1人の相続人が相続する場合の代償金をいくらに決めるかという問題が生じるのですが、具体的な金額を決める方法にはどのようなものがあるのでしょうか。
遺産分割における不動産の査定方法は、明確に法律で定められているわけではありませんので法定相続人全員の合意が取れればどのような方法でも構いません。
いくつかの不動産査定方法を確認してみましょう。
- 現状での売却価格を知る方法としては「不動産業者2、3社に時価の査定をしてもらい、数社の平均値を取る」というものがあります。
査定だけであれば無料という業者も多いのですが、査定を取った後に「売却の時期はもうお考えですか?」などの電話営業を受ける可能性が高いことは覚悟しておかなければなりません。 - 簡単に不動産の価格を知る方法としては、固定資産税の納税通知書などに記載されている「評価額(=固定資産税評価額)」を見るというものがあります。
自治体により通知される時期は多少異なりますが、5月か6月くらいに来る固定資産税納税通知書によって「最新の固定資産税評価額」を調べることができます。 - 土地であれば「路線価」を調べる方法があります。
路線価とは、その土地が面している道路がどのように値付けされているかをもとに、一定の計算式にあてはめて算出された評価額のことです。
計算のもとになる路線価を調べるためには、税務署に備え付けられている路線価図を参照する、またはウェブサイトで調べるといった方法があります。
計算の仕方がわからない場合は税務署員や税理士に相談してみるとよいでしょう。
法定相続人の間で公平を図るためには、まず法定相続分(民法で定められた相続分)を計算することが必要です。
算出された法定相続分に対し、多く相続しすぎる相続人は他の相続人の法定相続分に満つるまでの金額を金銭で渡すというのが原則的な方法です。
しかし、さまざまな事情で調整を行いたい場合は、法定相続人全員が遺産分割協議の中で合意すれば増減することも可能です。
代償分割が利用されるケースとは
代償分割が利用されるケースとはどのようなものが考えられるのでしょうか。
上記に解説した「代償分割のメリット」に挙げたように、先祖代々の不動産をそのまま維持したいが誰か1人が相続すると不公平が生じるなどの場合に、他の法定相続人の不足分を金銭で補うというのが代表的なケースでしょう。
また、法定相続人の1人が親と同居していたためそのまま住み続けたり、家業を引き継ぐなどの場合に、承継する相続人からその他の相続人に金銭を渡すこともあるでしょう。
代償分割を利用しない方が良いケースとは
代償分割を避けた方がよいケースとしてはどのようなものが考えられるのでしょうか。
- 多くもらおうとする法定相続人がいても、代償金の準備をすることがそもそも不可能である。
- 多くもらおうとする法定相続人からの「金銭で代償金を渡す」との提案に対し、他の法定相続人が了承しない。
- 不動産を残したい法定相続人と、売却することを提案する法定相続人の間で意見が対立している。
遺産分割協議は法定相続人全員の同意が必要ですので、上記のような状況になれば換価分割など他の方法を検討するしかないことになります。
代償分割による相続で発生する税金とは
代償分割で注意しなければならないのは、相続税以外に予想していなかった税金がかかってしまうことですので、どのような税金が発生する可能性があるのかを考えてみましょう。
代償分割を用いて、ある法定相続人から他の法定相続人に金銭等を渡す場合は、単なる贈与とみなされてしまうと贈与税が課税されることがあります。
よって、単純な贈与ではないことを示すため「代償分割による遺産分割を行うにあたって相続人Aから相続人Bに代償金(または不動産などの代替物)〇〇万円を交付する」といった内容を遺産分割協議書に明記する必要があります。
贈与税の税率は国税の中でも非常に高いレベルに設定されており確実に課税を回避することが必要であるため、極力弁護士、税理士、司法書士といった法律専門家に遺産分割協議書の作成を依頼することをおすすめします。
代償金の交付時期についても、遺産分割の一環としての交付であることを裏付けるためにも、遺産分割協議の日付からあまり期間を置きすぎない方がよいでしょう。
代償分割と相続税の関係
逆に代償金を受け取った側は、代償金を合わせた金額に対して、相続税が発生する事になるんだ。
代償分割による相続の場合でも相続税の基礎控除額を超えていれば通常通り相続税が発生します。
※相続税の基礎控除・・・不動産、預貯金、有価証券などすべての相続財産の合計額で「3000万円+(法定相続人の数×600万円)」
ただ、代償分割の場合は実際に取得した金額が多額になっている人と少額になっている人が存在するため、調整して計算することが必要になります。
代償分割での相続税の調整方法
代償分割による遺産分割を行った場合の相続税計算において、各相続人の課税価格は以下のように調整されます。
相続財産から多く取得し、自己の財産から他の相続人に代償金を払った人⇒ 相続または遺贈により取得した財産の価額ー他の相続人に交付した代償金の価額
相続財産から少なく取得し、他の相続人から代償金を受け取った人⇒ 相続または遺贈により取得した財産の価額+交付を受けた代償金の価額
となります。
要するに、「相続財産だけに着目すると多く相続した人」は支払った代償金の額を差し引いて相続税評価額を抑える、「少なく相続した人」はもらった代償金の額をプラスして、本来の適正な相続税額にするということです。
金銭以外の財産で代償金(代償物)を交付した場合、さらに時価に基づく調整計算が必要な場合があります。
相続税の計算は複雑なプロセスを経て行われるため、上記のように遺産分割協議書作成の段階から税理士などの専門家に依頼しながら行えば間違いを防ぐことにもつながります。
まとめ
- 代償分割とは、主に分割できないことを理由として特定の法定相続人が多くの相続財産を相続する代わりに、多く受け取った者から他の法定相続人に対し、金銭などで代償金を支払う遺産分割方法である。
- 代償分割を使えば、先祖代々の不動産を処分することなく維持できるなどのメリットはあるが、代償金の準備ができなかったり、他の相続人の同意が得られない場合はできないといったデメリットがある。
- 代償分割においては、方法を間違えると莫大な贈与税がかかってくることがあるため、遺産分割協議書を作成する段階から法律専門家に相談して行うことが望ましい。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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