相続対象に美術品が含まれていた場合、価値はどのように決まりますか?相続税への影響は?
今回の記事では、美術品を相続する場合の注意点や、相続税が発生しないケースについて、詳しく見ていこう。
相続とは、被相続人(亡くなった人)の名義であった財産すべてが法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)に当然に引き継がれる制度ですが、具体的な相続財産にはさまざまなものが含まれます。
特に日本人の場合、代表的な相続財産としては不動産が最もイメージしやすいでしょう。
しかし、不動産等以外にも「動産」とよばれる財産が相続税や遺産分割の対象となります。
動産とは自動車、預貯金、現金、株式などですが、絵画や骨董品、刀剣などを所持していた人の場合、絵画等の価格を把握して相続財産に含めることが必要です。
本記事では
- 「美術品が相続の対象になる場合の評価方法」
- 「美術品に相続税が発生する場合の納税猶予や免除の制度」
- 「美術品の相続税対策」
といった点を解説します。
美術品は相続の対象となるのか
冒頭に述べたように、不動産等と同じく被相続人が所持していた美術品(書画、骨董)も「動産」として相続の対象となります。
相続の対象となる動産には
- 「一般動産」
- 「棚卸商品」
- 「牛馬等」
- 「書画骨董品」
- 「船舶」
があり、一般動産は「事業用資産」と「家庭用財産」の二種類に分けられます。
美術品のすべてが上記「書画骨董品」のカテゴリーに入るわけではなく、価格が比較的安価な物であれば「書画骨董品」ではなく「家庭用財産」に、高値がつく物だけが「書画骨董品」に分類されます。
動産の価額は原則として1個または1組ごとに評価しますが、「家庭用動産」のカテゴリーに入る物については1個または1組の価額が5万円以下の物であれば「家財一式」として一世帯ごとに評価することができます。(財産評価基本通達128)
※財産評価基本通達・・・国税庁により定められた「財産評価」のルールであり、税に関する実務ではこの通達に沿って評価することが一般的である。
つまり、安価な美術品については、ひとつひとつ列挙しなくても他の動産と「まとめて」計上してよいということになります。
美術品の評価方法
美術品の相続における評価方法には「売買定例価額」と「精通者意見価格」があります。
一言で「美術品」といっても、宝石やブランド品、書画骨董などの種類によって適切な評価方法や留意すべき点が異なってきます。
前提として行わなければならないのは、対象物の「真贋(本物か偽物か)」を確かめることです。
鑑定書等やそれに類する証明書があることにより価値が高まる可能性がある場合は、専門家による判定が必要になることもあります。
それぞれの評価方法について見てみましょう。
売買定例価額とは
売買定例価額とは、簡単にいえば「中古として売却した際の相場価格」です。
骨董品店やネットオークションなどでどのくらいの価格で取引されているかを見て、類似品の価格を参照する方法です。
対象物あるいは類似した物がどのくらいの価格で流通しているかをみるため、希少性が高く一般的に流通していない物については査定が難しく、比較的安価に、そして多数取引されている物に適しているといえます。
注意点としては、被相続人が購入した際の契約書等を参照しても、購入時の「時価」と相続発生時の価額とは開きがあることも考えられるため、そのまま採用することが適切ではない可能性もあることです。
評価が難しい場合、より正確に判定するためには次の「精通者意見価格」の方が適しているといえます。
精通者意見価格とは
精通者意見価格とは、「対象となる美術品に関する知見を持つ者により価格を求める」方法です。
ただ、美術品の評価独特の難しい点として、鑑定を依頼する先によっては信頼性が高いといえず、後日税務署の税務調査が入る可能性もあることです。
よって、仮に鑑定料が高額になっても、鑑定の対象物に関する専門性が高い機関に依頼するべきです。
国税庁ウェブサイトによれば、「書画、骨董が有名な作品であっても箱書、奥書、鑑定書がある場合とない場合、また、鑑定者の知名度等によっても大幅に価格の開きが出ることがある点に留意すべき」とされています。
(国税庁ウェブサイト:法令等・事務運営指針「第5章第3節 美術品等の評価」より)
信頼性の高い鑑定をしてもらうためには「日本税理士共同組合連合会」の指定する鑑定機関を利用する方法もあります。
なお、鑑定料はあくまでも相続発生後に「相続人について発生した債務」と考えるため、相続財産から差し引くことができず相続人の自己負担となります。
繰り返しになりますが、誤った鑑定を行ってしまい後日税務調査が入って過少申告加算税等が課せられるリスクを考えると、相続人にとっては負担に感じるかも知れませんが必要な出費といえます。
相続税が個別に発生しない美術品とは
上記のとおり、1個または1組が5万円を超える場合は相続税申告において個別に計上する必要がありますが、5万円以下の場合は個別に計上はせず、他の家財とともに「家財一式」として評価します。
一般家庭であれば家財一式をまとめて10万円くらいに評価するのが一般的です。
美術品の相続税の納税猶予とは
相続される美術品等が「重要文化財」や「登録有形文化財のうち一定のもの」に認定された場合に、対象となる美術品を美術館等に寄託する(預ける)ことによって相続税が猶予あるいは免除される制度があります。
この「特定の美術品についての相続税の納税猶予及び免除」は、次世代への確実な美術品の承継、適切な保存、公開活用を促進するためにつくられた制度です。
ただし、この制度を利用するためには一定のプロセスを経なくてはなりません。
本制度の対象となる美術品や納税猶予、免除の要件などを確認してみましょう。
対象となる美術品
相続税の納税猶予等の対象になる美術品は「特定美術品」とよばれる、次の要件を満たす物をいいます。
- 文化財保護法第27条第1項の規定により重要文化財として指定された絵画、彫刻、工芸品その他の有形の文化的所産である動産
- 文化財保護法第58条第1項に規定する登録有形文化財(建造物を除きます。)のうち世界文化の見地から歴史上、芸術上または学術上特に優れた価値を有するもの
※国税庁タックスアンサーNo.4154:「特定の美術品についての相続税の納税猶予及び免除」より
なお、この制度が適用されるのは「2019年(平成31年)4月1日以降に相続又は遺贈により取得をする特定美術品にかかる相続税について」となります。
納税猶予、免除手続の流れ
上記の要件を満たす「特定美術品」について納税猶予がされる場合の手続きの流れを確認してみましょう。
※認定保存活用計画・・・文化財保護法により定められた認定重要文化財保存活用計画 認定登録有形文化財保存活用計画
※相続税申告期限・・・被相続人の死亡を知った翌日から10カ月以内
【被相続人による特定美術品の寄託】
被相続人は、生前に美術館等の設置者との間で「寄託契約」を締結しておかなければなりません。
寄託された特定美術品は、文化庁長官により認定された認定保存活用計画に従って保存活用されます。
【被相続人死亡後、相続人が寄託を継続】
寄託相続人(相続した特定美術品の寄託を引き続き行う者)は、相続税の申告期限までに遺産分割を完了して寄託契約を継続するとともに、本制度の適用を受ける旨を記載した相続税申告書等を税務署に提出します。
また、税務署に対し納税猶予される額及び利子税に見合う担保を提供します。
要件を満たすことにより相続税の申告期限後も納税が猶予されますが、申告期限の翌日から3年を経過した後も納税猶予を継続する場合、本制度の「継続届出書」を税務署に提出しなければなりません。
【猶予されていた相続税と利子税を納付しなくてはならない場合】
寄託相続人が特定美術品を譲渡した、特定美術品が滅失した、寄託契約が終了したなど一定の場合には猶予されていた相続税と利子税を納付しなければなりません。
【寄託相続人の死亡等】
寄託相続人が死亡した場合は「免除届出書」等を提出することにより、猶予されていた相続税の納付が免除されます。
また、寄託相続人が特定美術品を寄託先の美術館に贈与したり、特定美術品が一定の災害により滅失した場合にも同じく相続税が免除となります。
美術品を相続した場合の相続税対策
被相続人が美術品を保有している場合に考えられる相続税対策を確認してみましょう。
前提として、相続財産の中に美術品が含まれる場合はとりわけ、相続発生前にできる相続税対策を早期に行うことを心がけなければなりません。
なぜなら、相続税は「被相続人の死亡を知った翌日から10カ月以内」に「申告」及び「(原則)現金での納税」まで済ませなくてはなりませんので、相続開始後は決して時間に余裕がある状態とはいえません。
後述しますが、美術品は評価を算出することが他の財産と比べても難しいこともあり、相続財産全体を把握することに時間を要するからです。
被相続人死亡後は葬儀や49日法要など慌ただしく過ごしているうちにあっという間に数カ月は経過してしまいますし、美術品以外の不動産や預貯金、株式等も含めてトータルでの遺産分割を行わなければなりません。
相続税申告期限までに遺産分割を終えられなかった場合、いったん法定相続分で分割したものとみなして納税しなくてはなりません。
法定相続分で分割した場合の納税では、相続人にとって有利になる税額軽減の特例等を使えなくなるため、極力申告期限に間に合うように遺産分割協議を終えることが必要なのです。
売却
被相続人の生前に美術品を売却しておくという方法です。
相続が発生した場面ですぐに準備できる「現金」を確保しておく、また、鑑定の対象になる美術品を相続財産から外しておくことは、相続税納税を期限内に行うという観点からも非常に大切です。
上記のとおり美術品そのものを相続しても、価値を把握できていない相続人が鑑定を依頼し適切な価格で売却するというのは手間も時間もかかります。
よって、相続税の申告期限に間に合わせる意味でもなるべく生前に現金化しておきたいものです。
ただし、購入時より値上がりしている場合は売却益に対する譲渡所得に対しての課税が行われることに注意が必要です。
寄託
特定美術品に該当するなど国から見ても価値の高い美術品は、被相続人が美術館に寄託しておくことで納税猶予や免除を受けられる可能性があることは上に解説したとおりです。
物納
相続税の納税は原則として現金で行わなくてはなりませんが、相続人が現金を準備できない場合は美術品そのものを「物納」できないかどうかを検討する余地もあります。
重要文化財や登録有形文化財など、国にとっても価値が高い物であれば物納が認められる場合もあるため、相続が開始したらなるべく早い時期に税理士への相談をしておくべきです。
美術品を相続する場合の注意点
上に述べたとおり、美術品については値付けが難しいという点で資産としての特殊性が高く、特に評価額の算定には気をつける必要があります。
万一、価格を安く見積もりすぎていた場合、後から税務署の税務調査が入り、過少申告加算税や重加算税といったペナルティを与えられるリスクがあります。
上にも述べたとおり、鑑定費用については相続人の負担となるため高額と感じることもあるかもしれませんが、後日のトラブルを避けるための必要費と割り切って、信頼のおける機関に鑑定依頼をするべきです。
相続財産に美術品があることがあらかじめわかっている場合は生前にできる対策を、相続開始後に判明した場合には相続開始後すみやかに税理士に財産の内容を伝え、適切な鑑定先の選定と申告を依頼することをおすすめします。
まとめ
- 美術品も相続税や遺産分割の対象となる「相続財産」である。
- 美術品の評価方法には「売買定例価額(取引される際の時価)」と「精通者意見価格等(専門家の鑑定)」がある。
- 美術品の評価を誤ると後日、過少申告加算税、重加算税等のペナルティを課せられるリスクがあるため、鑑定の際は信頼のおける機関を選定することが大切である。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
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債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
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