破産者の行為に対しての否認権というものがあると聞きました。どういった行為が否認権の対象になりますか?
特定の人にだけ借金を返済すると、破産管財人か否認権を行使することがあるんだ。
今回の記事では、否認権の対象となる行為について、詳しく見ていこう。
個人が自己破産を申し立てるには、「支払不能」の状態になっていることが必要です。
破産者の手持ち財産の中から債権者に公平な配当を行い、それでも返済不能となったすべての債務につき最終的に免責してもらう(税金等の例外を除き債務ゼロにする)のが自己破産の目的です。
つまり、すべての債権者に対し誠実かつ公平な対応が必要なのであって、破産者が自分の持っている財産を破産手続きの外で処分したり、勝手に一部の債権者に返済することがあってはなりません。
破産手続において一定の財産を持つ破産者には、裁判所により選ばれた破産管財人(一般的に弁護士)がつきます。
破産管財人には破産者(または同視される第三者)のした債権者を害する行為を「覆滅(ふくめつ:くつがえすこと)」させる権利があり、これを「破産法による否認権」とよびます。
本記事では
- 「破産の要件となる支払不能や支払停止とは何か」
- 「否認権とはどのような権利か」
- 「どのような行為が否認権の対象となるか」
- 「否認権はどのように行使されるのか」
といった点を解説します。
支払不能、支払停止とはなにか
自己破産手続きや否認権行使を理解する前提として、「支払不能」「支払停止」という言葉の意味を理解しておく必要があります。
破産手続が開始される原因(要件)として「支払不能となったこと」がありますが、「支払停止」の状態になったことは支払不能を推定するための事実となります。
以下の解説で、破産者によるどのような行為が否認権行使の対象になるかを挙げていますが、破産者の行為が行われた「時期」が問題になることがあります。
支払不能や支払停止の「前か後どちらの行為なのか?」というのは、否認権を行使できるかどうかの判断をする上で重要な概念になってくるので確認しておきましょう。
支払不能
上記のように「支払不能」とは破産手続を開始するための要件にもなっていますが、破産法では、支払不能について次のように定めています。
破産法第2条11項
この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(〜中略~)をいう。
支払能力のあり、なしというのは「現在保有している財産」だけを基準にするのではなく、財産以外にも信用、労力、技能といったものを総合的に見て判断する必要があります。
上記いずれも持たないのであれば支払能力なしということになりますが、現在の資産に関わらず今後の収入を得られる技能などを持っている場合、支払能力が残っていると判断できます。
また、支払不能とは「弁済期(支払等の期限)にあるもの」を支払えない状態なので、「将来的に弁済期が到来するものが確実に支払えないと思われる状態でもいまだ支払不能とはいえない」とされています。(裁判例として東京地判平成22年7月8日等)
さらには、支払不能の状態は一時的なものではなく継続的な資金等の不足でなければならず、債務者の主観的状況だけでなく第三者から見た客観的状況であることも必要とされます。
支払停止
支払停止とは、債務者が支払能力がないために継続的に債務の支払をすることができないと考え、その旨を明示的、黙示的に外部に表示する行為をいいます。(裁判例として最判平成24年10月19日等)
外部に表示するとはどのようなことをさすのでしょうか。
例えば、弁護士の受任通知のように書面等により支払拒絶を伝えるのは明示の表示行為ですが、閉店や夜逃げなどのような黙示の表示行為も支払停止に該当します。
また、銀行取引停止処分の前提となる手形の不渡りについても支払停止に該当しますが、1回目の不渡りが支払停止に該当するか否かについては議論があります。
否認権とは
だけど、債務者がその財産を減少させるような行為を行うと、破産管財人によって否認権を行使されてしまうんだよ。
否認権とは「破産者や破産者と同視される第三者の行為によって流出した破産者の財産を返還させ、破産財団を元の状態に戻す」という、破産管財人に与えられた権能です。
破産財団というのは「破産者の財産の中で、破産者の手元に残すことを法や裁判所により許された財産(自由財産)を除く財産の集合体」のことで、破産財団に属する財産は本来、債権者に公平に配当されるべきものです。
しかし債務者の行為により破産財団に属するべき財産が減少するケースがあり、財産減少行為によって配当を受けられるはずの債権者の利益が害されることがないように否認権が認められているのです。
否認権の種類
否認権の行使が認められる対象の行為には「詐害行為」「偏頗行為」があり、それぞれ
- 「詐害行為否認」
- 「偏頗行為否認」
とよばれます。
詐害行為否認というのは、「破産者(債務者)が自らの財産を相場より安く売買するなど、不当に減少させる行為」について否認権を行使することです。
偏頗行為否認というのは「破産者(債務者)が支払不能または破産手続開始の申立後の既存債務について行った、債権者に担保を提供したり弁済等の債務を消滅させる行為」について否認権を行使することです。
否認権の対象となる行為とは
一部の債権者にだけ返済するのは偏頗行為となるよ。
では、さらに具体的に「否認権」の対象となる行為について詳しく見てみましょう。
詐害行為となるのは
否認権を行使される可能性がある詐害行為について確認してみましょう。
『廉価売却(不当な安売り)等の行為』
廉価売却等が詐害行為として否認権行使の対象になる場合、行為当時の破産者や受益者の主観的状態によって「否認権行使が可能か否か」の結論が異なります。
1.下記2つの要件を満たす場合、「行為が行われた時期を問わず」否認権行使が可能です。
・破産者が詐害意思を持っていること
・受益者が行為当時、破産者の債権者(=破産債権者)を害することを知っていたこと
※詐害意思・・・破産者が財産減少行為をするにあたって破産債権者に損害を与える旨を認識していること
破産管財人は、否認権を行使するにあたって破産者の詐害意思を立証しなくてはなりません。
2.以下の2つの要件を満たす場合、「支払停止後の行為に限って」否認権行使が可能です。
・破産者が支払停止または破産手続開始の申立てがあった後に破産債権者を害する行為をしたこと
・受益者が行為当時、支払停止等があったことおよび破産債権者を害することを知っていたこと
支払停止等があった後に詐害行為が行われた場合は、破産者が債権者を害することを認識していないことはあり得ないため、詐害意思の立証は不要とされています。
『贈与や債務免除等の行為』
贈与や債務免除等の行為を「無償行為」とよびます。
破産者が支払停止等の後またはその前6カ月以内にした無償行為、および無償行為と同視される有償行為については否認権の対象となります。
無償行為については、詐害意思等を立証することが否認権行使の要件になっていません。
支払停止後の無償行為は、それ自体非常に債権者を害するリスクが高いといえます。
よって、破産者の詐害意思等がなくても否認権行使することが妥当であると考えられているのです。
偏頗(へんぱ)行為となるのは
否認権を行使される可能性がある偏頗行為について確認してみましょう。
偏頗行為というのは「一部の債権者にのみ弁済をしたり、担保を提供したりする行為」のことです。
すでに支払不能であることが明らかなのに、例えば「親しい取引先」にのみ弁済するようなことがあると、その他の債権者を害し「債権者の公平をはかる」という破産手続の趣旨に反することになるからです。
ただ、否認権の対象となる偏頗行為は「支払不能又は破産手続開始の申立後」の行為に限られます。
(支払不能となる要件、客観的判断基準については上述したとおりです。)
いまだに支払不能でないのなら、特定の債権者に返済しても通常の返済ですから何ら問題はありません。
支払不能状態になっているのに特定債権者にだけ返済するからこそ問題になるのです。
また、偏頗弁済等を受けた債権者(つまり受益者)が悪意(=知っていたこと)であったことが否認権行使の要件となります。
ただ、支払不能後と破産手続開始後では「悪意」の内容(つまり、「何を知っていたか」)について若干異なります。
- 支払不能後の偏頗行為については、破産者に支払不能または支払停止があったことについて債権者が悪意であったことが必要です。
- 破産手続開始後では、破産手続開始の申立があったことについて債権者が悪意であったことが必要です。
否認権を行使するには
訴訟を提起する場合には、破産管財人と裁判所で事前協議を行い、許可を得る必要があるよ。
否認権の行使は破産管財人のみに認められた権能ですが、具体的にどのような方法で行使されるのか確認してみましょう。
否認権を行使する流れ
破産管財人が破産者の行為につき否認権を行使できる場合、まずは弁済や贈与等を受けた相手方に対し内容証明等で財産の取戻しを求める「任意交渉」を行うことが一般的です。
例えば、債務者甲がすでに支払不能の状態であるにもかかわらず債権者の1人である乙に債務を返済したとしましょう。
破産管財人は乙に連絡を取った上で交渉するのですが、乙がどうしても返還を拒むような場合は、破産裁判所(その破産事件を担当している地方裁判所)に対し「否認訴訟」を提起することもあります。
なお、訴訟を提起する場合は破産管財人と裁判所の間で事前協議を行い許可を得る必要があります。
破産管財人は該当する偏頗行為等があった事実を裁判所に対して疎明(確からしいと思わせること)しなくてはなりません。
否認権行使の効果
金銭以外の場合には引き渡し、不動産の場合には移転した登記の否認登記を破産財団が行うことになるよ。
破産管財人が行った否認権行使はどのような効果をもたらすのでしょうか。
金銭を弁済した場合、その他の財産権等を移転した場合、無償否認(贈与等)の場合で効果は異なります。
例えば金銭の弁済を受けていた受益者は、否認権を行使されると弁済された金銭等を破産財団に返還しなければならないだけでなく、受領日からの法定利率による遅延利息を支払う義務も負います。
また、金銭以外の物や権利については破産管財人は移転した相手方から引き渡しを受け、対抗要件を備えなくてはなりません。
※対抗要件・・・取得した権利を第三者に主張するための登記や登録など、法律的な条件
不動産の場合、破産者から他者に移転した登記を否認するための登記を破産管財人が行うことになります。
弁護士に相談しながら行うことが大切
破産者による行為を否認権を行使して破産管財人が覆すことは破産手続きの遅延にもつながり、裁判所から意図的な財産隠しとみなされると最終的な免責の可否にも影響します。
上記に説明してきたとおり、資金調達が難しくなった時期以降の弁済等については後から覆される可能性があります。
よって、債務整理を委任する前であっても弁済が難しいと思われた時期以降の財産の移転については、弁護士に相談しながら慎重に行うことを心がけておかなくてはなりません。
まとめ
- 支払不能、支払停止の状態になってからの一部債権者への弁済や贈与等の行為は破産管財人によって否認される可能性がある。
- 否認権の対象となる破産者の行為は「詐害行為(債権者を害する不当な財産処分行為)」と「偏頗行為(一部の債権者のみに偏った弁済等)」である。
- 否認権を行使される行為が不正、不当な財産隠しと裁判所に認定されると、最終的な免責に影響することもあるため、支払不能状態になる前後の弁済等については弁護士に相談しながら慎重に行う必要がある。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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