日本刀などの相続には通常の相続税とは別に登録費用なども必要になるのでしょうか?売却する場合には不要ですか?
今回の記事では刀剣を相続した場合の手続き方法や必要な費用、刀剣の処分方法について詳しく見ていこう。
相続とは、被相続人(亡くなった人)の所有していたあらゆる財産的価値のあるものが、借金など負の財産も含めて法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)に引き継がれることです。
相続という言葉から一般的には不動産や預貯金、有価証券などが連想されますが、それ以外に若干特殊といえる相続財産もあります。
古銭や刀剣(日本刀)といった美術的骨董的価値を有するものや農機具、船舶のように相続時の価格が推測しにくい動産については、相続税申告の際に専門的知識や判断が必要となります。
これら動産の中でも「刀剣」は特殊といえる相続財産であり、登録などの手続き面から注意すべき点があります。
日本では危険を予防する観点から、原則として銃砲刀剣類は所持できないことになっています。
しかし、銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」と記載)で許可された場合、また美術品としての価値が認められたものについては登録を受けることにより所持できるとされています。
本記事では
- 「相続する刀剣の種類による手続方法の違い」
- 「刀剣の登録とはなにか、相続による名義変更の方法や費用」
- 「相続した刀剣を売却等で処分したい場合はどうすればよいのか」
といった点、特に美術品としての価値を有する刀剣の相続について重点的に解説します。
相続する刀剣の種類を確認する
相続する動産の中に刀剣が含まれている場合、銃刀法による制約が生じるため、刀剣の種類による適切な対処が必要です。
まずは、相続する刀剣が
- 美術品としての価値を有しない(例・狩猟等の業務、演劇等の芸能に使用する)一般的な刀剣
- 美術品としての価値を有する刀剣
のどちらに該当するのかを確認する必要があります。
美術品としての価値を有しない刀剣は「許可」
1の「一般的な刀剣」に該当する刀剣は、所持にあたって銃刀法に定めるとおり都道府県公安委員会の許可を受けている必要があります。
銃刀法では、以下のように定められています。
銃刀法第二条(定義)※抜粋
第1項
この法律において「刀剣類」とは、刃渡り十五センチメートル以上の刀、やり及びなぎなた、刃渡り五・五センチメートル以上の剣、あいくち並びに四十五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ(刃渡り五・五センチメートル以下の飛出しナイフで、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であつて峰の先端部が丸みを帯び、かつ、峰の上における切先から直線で一センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して六十度以上の角度で交わるものを除く。)をいう。
銃刀法第四条(許可)※抜粋
次の各号のいずれかに該当する者は、所持しようとする銃砲等又は刀剣類ごとに、その所持について、住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない。
第1項
六 狩猟、有害鳥獣駆除、と殺、漁業又は建設業の用途に供するため必要な刀剣類を所持しようとする者
七 祭礼等の年中行事に用いる刀剣類その他の刀剣類で所持することが一般の風俗慣習上やむを得ないと認められるものを所持しようとする者
八 演劇、舞踊その他の芸能の公演で銃砲等(拳銃等を除く。以下この項において同じ。)又は刀剣類を所持することがやむを得ないと認められるものの用途に供するため、銃砲等又は刀剣類を所持しようとする者
九 博覧会その他これに類する催しにおいて展示の用途に供するため、銃砲等又は刀剣類を所持しようとする者
十 博物館その他これに類する施設において展示物として公衆の観覧に供するため、銃砲等又は刀剣類を所持しようとする者
第2項
都道府県公安委員会は、銃砲等又は刀剣類の所持に関する危害予防上必要があると認めるときは、その必要の限度において、前項の規定による許可に条件を付し、及びこれを変更することができる。
一般的な刀剣が相続する動産の中に含まれている場合、銃刀法の許可は被相続人の死亡によって効力を失うため、相続人等はすみやかに銃刀法の許可証を返納しなくてはなりません。
相続人が相続した刀剣を再度所持する場合には、あらためて上記に引用した銃刀法第4条の許可を受ける手続きを行わなくてはなりません。
また、相続財産を調査している過程で未登録の刀剣を発見した場合は、発見した地域を管轄する警察署に「発見届」を提出しなくてはなりません。
美術品としての価値を有する刀剣は「登録」
また、2の「美術的価値を有する刀剣」に該当する刀剣は、都道府県の教育委員会等に登録されることにより所持を認められています。
銃刀法では、以下のように定められています。
第十四条(登録)※抜粋
第1項 都道府県の教育委員会(地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三十一年法律第百六十二号)第二十三条第一項の条例の定めるところによりその長が文化財の保護に関する事務を管理し、及び執行することとされた都道府県にあつては、当該都道府県の知事。以下同じ。)は、美術品若しくは骨とう品として価値のある火縄式銃砲等の古式銃砲又は美術品として価値のある刀剣類の登録をするものとする。
第2項 銃砲又は刀剣類の所有者(所有者が明らかでない場合にあつては、現に所持する者。以下同じ。)で前項の登録を受けようとするものは、文部科学省令で定める手続により、その住所の所在する都道府県の教育委員会に登録の申請をしなければならない。
第3項 第一項の登録は、登録審査委員の鑑定に基いてしなければならない。
刀剣の所有者から登録の申請を受けた都道府県の教育委員会等は、銃砲刀剣類に関して学識経験がある者を審査委員に任命します。
美術品としての価値が学識経験者による「登録審査会」を経て認められると、都道府県教育委員会等から「銃砲刀剣類登録証」が交付されます。
では、具体的にどのような刀剣であれば美術品としての価値があるとされるのでしょうか。
文化庁のウェブサイトでは次のように定義しています。
登録の対象となる刀剣類は、「日本刀(※)」であって、以下のいずれかに該当するものとなります。
- 姿、鍛え、刃文、彫り物等に美しさが認められる、又は、各派の伝統的特色が明らかに示されているもの
- 銘文が資料として価値のあるもの
- ゆい緒や伝来が史料的価値のあるもの
- 上記に準ずる刀剣類で、その外装が工芸品として価値のあるもの
(※)ここでの「日本刀」とは、武用または観賞用として、伝統的な製作方法によって鍛錬し、焼き入れを施したものを示します。
上記に該当しない銃砲刀剣類は、登録の対象となりません。登録の対象とならない刀剣類としては、以下のようなものがあります。
- 全体的にはなはだしいさびや傷等がある、又は、製作が著しく劣っているもの
- 昭和刀や満鉄刀等の名称で呼ばれる素延べ刀・半鍛錬刀・特殊鋼刀等であり、日本刀に類似するが、日本刀としての製作工程を経ていないもの
- 外国製刀剣
- 指揮刀や儀礼刀
- 社寺へ奉納された焼入れをしていない剣やほこ、御神体となっている刀剣、考古品(出土品)である刀剣
美術品としての価値を有する刀剣の相続方法
美術品としての価値を有する刀剣を相続する場合の注意点および手続きについて確認します。
刀剣の登録証を確認し、なければ登録手続きを行う
相続財産の中から刀剣を発見したら、上記に説明した「銃砲刀剣類登録証」が一緒に保管されているかどうかを確認しなければなりません。
もし登録証が見つからなかった場合、適切に登録されていなかった可能性があるため、そのまま何も手続きせず所持し続ければ銃刀法違反となります。
よって、刀剣を発見した相続人はまず「発見届」を発見場所の管轄警察署に提出しなくてはなりません。
警察署から教育委員会に登録希望者の通知書が送付され、その後上記に解説した「教育委員会が選定した審査委員による登録審査会」が行われますが、登録が認められると登録証が新規に発行されます。
発見された刀剣を新たに登録する場合の流れは下図のとおりです。
相続税がかかる場合には早めに鑑定を行う
もし相続財産全体をざっと見て相続税がかかることが見込まれる場合は、刀剣の価格を確定させるため早めに鑑定を行う必要があります。
ちなみに相続税は発生した相続すべてに対して課せられるわけではなく、被相続人の所有していた不動産、預貯金、有価証券、動産等を合わせた「相続財産の総額」が一定の金額を上回らなければ申告義務がありません。
この「一定の金額」を「相続税の基礎控除」とよびますが、具体的には「3000万円+(法定相続人の数×600万円)」とされ、下図のようなイメージになります。
上記に述べたとおり、相続財産総額が基礎控除を超えそうな場合(=相続税申告が必要になる場合)は、早めに刀剣の鑑定をしてもらい、相続税申告での価格を確定させるべきです。
急ぐ理由としては、「相続税は相続人が被相続人の死亡を知ってから10カ月以内に申告と(原則現金での)納税まで済ませなければならない」とされているからです。
(例えば被相続人が1月6日に死亡した場合、申告期限は同年の11月6日となります。)
なお、刀剣が5万円以下の場合には他の家財と合わせて「家財一式」としてまとめて10万円から50万円程度の価格で申告することになるので、個別に計上する必要はありません。
査定額が5万円を超えそうな見込みで、かつ万一申告期限に間に合わない場合は、いったん多めの金額に見積もって仮の価格で相続税申告し、後から更正の請求をして還付を受けるのが現実的でしょう。
仮に見積もった価格が少なすぎた場合は後から延滞税等を課せられる可能性が出てくるので、申告にあたっては税理士と相談しながら慎重に行わなくてはなりません。
登録証の名義変更方法
相続によって自己が刀剣の所有者となった相続人は、所有者になってから20日以内に所有者変更の届出を行わなければなりません。
また、住所変更の場合も届出が必要になります。
なお、名義変更をしても登録証自体は新しく発行されるわけではありません。
届出は登録証に記載されている都道府県に行いますが、郵送による手続き、電子申請による手続きが設けられています。
東京都教育委員会については下記ウェブサイトから書式等がダウンロードできます。
※東京都教育委員会「所有者変更や住所変更・貸付保管委託の手続」
なお、登録証を紛失しているなどで手元にない場合は再発行手続きが必要になりますが、管轄する登録機関に紛失等の旨を連絡して手続きの詳細を確認することになります。
時間がかかることもあるので早めに対処することが大切です。
登録に必要な費用
刀剣の登録にあたっては、手数料が必要になります。
新規で登録する場合には6,300円、紛失再交付の場合には3,500円(1本あたり)となっています。
所有者変更の場合の手数料は原則無料です。
なお、手数料の支払いについてはキャッシュレス決済(電子マネー、クレジットカード等)を導入している自治体がありますので確認しておきましょう。
相続した刀剣を処分したい場合には
美術品としての価値のある刀剣を相続したものの、売却等で手放したい場合はどうすればよいのでしょうか。
売却にあたり登録証の存在は必須ですが、加えて専門家の鑑定書もあれば売却時の価格が上がることもあるため、探しておくとよいでしょう。
なお、売却そのものについては基本的に手数料はかかりませんが、新たに発見し売却を前提として登録するのであれば、前述した新規登録等の手数料がかかります。
見つかった登録証については前提として名義を相続人に変更しておくことが必要ですが、売却や寄贈、廃棄等をどのように行えばよいか確認してみましょう。
専門店への売買
相続した刀剣を売却したい場合、骨董品や古美術品を買い取ってくれる専門の業者への売買が、最も適正価格でかつ安心できる取引ができる方法といえます。
フリマサイトなどでの取引は手軽ではあるものの、刀剣のような特殊な危険物の取引がサイトの規約で禁止されている場合もありますし、顔が見えない相手との取引になるためおすすめできません。
刀剣が本物かどうか(模造刀ではないか)、保存状態がよいかどうか、製作者が誰であるか、いつの時代の物であるかなどが価格を左右することになりますので、まずは査定を依頼しましょう。
美術館への寄贈
相続した刀剣を美術館や博物館に寄贈するという選択肢もあります。
東京都の「刀剣博物館」など、文化を継承するための展示物として日本刀の受け入れを行っている施設があります。
寄贈を希望する博物館の学芸員等に相談したのち、受け入れ可能であれば寄贈の手続きを案内してもらいましょう。
廃棄
刀剣を相続したものの、相続人が所持したくないため廃棄を希望する場合もあるでしょう。
その場合はまず警察に連絡し、「刀剣が見つかったが廃棄したい」という旨を伝えます。
発見した刀剣を勝手に現在の保管場所から移動させると銃刀法違反になってしまうことがあるため、現状のままで警察への連絡を行うことが大切です。
連絡ののち身分証明書や印鑑などを持って警察に行き、廃棄のための手続きを行いますが、廃棄される場合は仮に美術品としての価値がある刀剣であっても価値にかかわらず溶解や裁断されてしまいます。
一定の価値が見込まれる刀剣の場合は売却する方がメリットを得られる場合もあるので、廃棄する前に慎重に判断しましょう。
価値がない刀剣であっても、くれぐれも警察を通さず勝手に自分で処分するようなことがないように気をつけなければなりません。
まとめ
- 刀剣を相続したら、まず「一般の刀剣」か「美術品としての価値を有する刀剣」かを判断する必要があるが、価値を有する刀剣であれば「登録証」が一緒に保管されているのが通常である。
美術品としての価値があるが未登録の場合、登録審査会を経て登録手続きをしなければならず、手数料がかかる。 - 価値を有する刀剣を相続した場合、相続税の申告期限に間に合うように査定しなければならないため専門の業者に早めに依頼する必要がある。
- 刀剣を相続したが所持したくない場合は専門業者等への売却、博物館等への寄付、警察に連絡して廃棄などの方法がある。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
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