少額訴訟を起こされたら?通常訴訟との違い
延滞を放っておいたら裁判所から少額訴訟の通知がきたんだ。 少額訴訟って何? 通常訴訟とは何か違うの? 少額訴訟とは、借り入れ額が少ない場合に債権者が利用する民事訴訟のことを呼ぶんだ。 少額訴訟となってしまっても、通常訴訟に切り替える事も可能なんだよ。 今回の記事では、少額訴訟と通常訴訟の違いについて詳しく調べてみよう。
個人がしている借金は少額であることも多いものです。
小さな金額であってもなかなか債権回収できない場合、債権者としては債務者が任意に支払ってくれないのであれば強制執行として支払わせるための動きに入りますが、通常の訴訟をするのは手間や費用を考えたらいささか大袈裟で使いづらいところもあります。
そこで少額債権について取りうる方法として、「支払督促」や「少額訴訟」という簡易な小額裁判への手続きがあります。
債権者にとってはこれらの手続きは「早くて安くて便利」となりますが、逆に債務者にとっては非常に早く債務名義(それによって差押ができる書面)を取られてしまうため警戒しなければなりません。
では、少額訴訟とは通常訴訟と何が違うのか?
もし少額訴訟を起こされたらどのような対応をするのがベストなのかを考えてみましょう。
少額訴訟とはどんなもの?
金額、請求内容が限定されている
少額訴訟とは、「60万円以下の」「金銭の支払いを求める場合に限り」利用できる、簡易裁判所における特別の訴訟制度です。
利用者にさほど訴訟の知識がなくてもできてしまうことも多いため、個人間の貸し借りであっても少額訴訟を起こされてしまうこともあります。
弁護士を立てずに「本人訴訟」として行う債権者もいます。
なお、この「60万円」というのは「元本」のみで判断します。
利息や損害金はこれに含まれません。
審理回数の制限がある
少額訴訟は、原則として1回の期日で審理を終えて、すぐさま判決を出します。
なお、被告(訴えられた人)は、少額訴訟を起こされた場合にはその期日に出席して「通常の訴訟に移行させて下さい」と言うことができることになっています。
相手が弁護士や保険会社である場合など、通常の民事裁判に移行されてしまう事がほとんどです。
つまり、何か反論の材料(即時に取り調べることができる証拠以外)を持っている被告はすぐに通常訴訟への移行を申し出た方がよいこともあるのです。
証拠調べなどの制限がある
原則として1回の期日しか設けることができないため、「即時に取り調べることのできる証拠」しか調べてもらうことはできません。
十分な証拠調べを要求したい場合は通常訴訟に移行させる方がよいでしょう。
少額訴訟をすることができない場合
少額訴訟ができないのはどんな場合なの? 60万円をこえている借り入れである場合や、原告が利用回数をオーバーしている場合など、少額訴訟ができない事由となるね。
訴額オーバー等の場合
上記の「訴額60万円」の制限を超過している場合や、対象になる請求の内容が異なっている場合です。
年間回数を超えているの場合
一人の原告が同じ簡易裁判所で年間に少額訴訟を利用できる回数は10回までと決まっています。
よって、少額訴訟で訴えを提起する場合に、その簡易裁判所でその年に少額訴訟を利用した回数を届け出なくてはなりません。
公示送達を使わなくてはならない場合
相手の住所や居所がわからない場合、裁判所の掲示板に2週間「この訴訟に関する書類を預かっているので取りにくるように」という掲示物を出しておき、期間が過ぎたら「訴状の送達がされたもの」とみなされる制度(公示送達)があります。
しかし、この公示送達は少額訴訟では利用できないため、債務者の住所等がわからなければ通常の訴訟で行わなければならないのです。
少額訴訟は通常訴訟と何が違うの?
少額訴訟と通常訴訟にはどんな違いがあるの? 少額訴訟の場合には、控訴や反訴ができないんだよ。 裁判費用や弁護士費用は通常訴訟の方が高くついてしまう事になるね。
では、もう少し具体的に少額訴訟のイメージを考えてみましょう。
訴訟自体の雰囲気
普通は「訴訟」と言うと、厳かな雰囲気の法廷で裁判官が一番高いところに座って・・というイメージがわくのではないでしょうか。
しかし、少額訴訟では少し趣が違っており、円卓のようなフラットなところで「話し合い」という雰囲気で行われることが多くなっています。
控訴できるかどうか
通常の訴訟では、もし判決に不服があれば控訴、上告をすることができます。
少額訴訟において判決が出されてしまった場合、控訴や上告はできず、その代わりに「異議」という制度が用意されています。
もし異議が出されたら簡易裁判所で通常の訴訟として審理がされますが、その場合は上記のような期日の回数、証拠調べに関する制限はありません。
そして、これにより出された判決に対しては控訴をすることができません。(上図参照)
反訴できるかどうか
少額訴訟においては「反訴」を提起することはできません。
「反訴」というのは、ある訴えに対して、訴えられた被告がそれと関連する内容の訴えを原告に対して行いたい場合に、同じ訴訟手続きの中で行い、まとめて解決するための手段です。
たとえば、甲が乙と殴り合いの喧嘩をし、双方が怪我をしたとします。
甲が乙に「怪我をさせられた慰謝料として30万円を支払え」とする裁判を起こした場合、乙が「最初に手を出してきたのは甲なのだから自分が甲に請求したいくらいだ」と考えたとすると、乙は甲に対する慰謝料の請求を同じ裁判の中で「反訴」として行うことができるのです。
上記のように、これは少額訴訟の中ですることはできません。
もし、被告がこの「反訴」を行いたい場合は通常訴訟に移行させなくてはならないのです。
少額訴訟の被告になってしまったら?
少額訴訟の通知が来たら、どうしたら良いのかな? 弁護士など専門家に相談する方が安心だね。 このまま少額訴訟として進めるのか、通常訴訟に切り替えるのかの判断も、弁護士と相談しよう。
では、少額訴訟の特色を理解したところで、もし裁判所から少額訴訟の訴状や期日呼出状が送られてきたらどうすればよいのかを考えてみましょう。
放置するのは絶対NG
債権者が訴えを起こしてくることを予測できる場合もできない場合もあるかと思いますが、いずれにせよ、裁判所から訴状が届いたのにこれを無視、放置するのは絶対にしてはならない対応です。
これは、通常訴訟と少額訴訟どちらにも言えることですが、たとえ被告(債務者)が正しいとしても、それをきちんと裁判上で主張しなければ原告(債権者)の言うことが認められてしまい、結果として裁判に負けて差押えまでされてしまうこともあります。
もし、自分にも言い分があると考えるのであれば「答弁書」という書面を裁判所に出しておかなくてはなりません。
少額訴訟の場合、被告に送られる書面は次の内容になっています。
- 口頭弁論期日呼出状
- 訴状
- 少額訴訟手続きの内容を説明する文書
- 答弁書の書き方、定型の答弁書について説明する文書
説明文はある程度素人にもわかりやすい書き方になっているものの、やはりそれでもわからないという人もいるでしょう。
また、解釈を間違えて取り返しのつかないことになっては大変です。
これらの文書が来た時点で、できれば法律事務所に相談しておきたいものです。
通常訴訟に移行すべきなのはどんな場合?
上記のように、被告が「通常訴訟に移行させてください」ということもできると説明しましたが、少額訴訟のまま弁論するか、通常訴訟に移行させるか、どのような基準で選択すればよいのでしょうか?
一般的には「被告にとって」少額訴訟で手続きすることのメリット・デメリットは次のようになります。
メリット | デメリット |
・紛争の早期解決を図ることができる。 | ・反訴を提起することができない。 |
・支払猶予や分割払いを認められることがある。 | ・証拠制限がある。 |
・不服申立て(控訴や上告)の制限がある。 |
すべての少額訴訟がどちらかに有利、不利とかいうことはなく、事案の中身によって判断しなくてはならないため、基準を確認してみましょう。
ただ、あくまで目安であるため、個々のケースでのベストな判断は弁護士(司法書士)のアドバイスを受けた方がよいでしょう。
少額訴訟のままでよい場合
一般的に、次のような場合は少額訴訟のまま進めるのが被告に有利と考えられます。
- 原告の主張する内容に不服はないので早期に解決したい。
- 原告の主張が明らかにおかしい。
そして、そのことを被告側がすぐに証明できるような証拠が手元にある。 - 原告の主張する内容は正しいが、一括では支払えないので分割払いを求めたい。
「分割払いを求めることができる」という点は少額訴訟における「被告にとっての大きなメリット」です。
裁判所が期限の利益(分割払いにしてもらえる時間的猶予)を付与することができるのは次の条文があるからです。
民事訴訟法 第六編 少額訴訟に関する特則
(民事訴訟法第375条)
裁判所は、請求を認容する判決をする場合において、被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があるときは、判決の言渡しの日から三年を超えない範囲内において、認容する請求に係る金銭の支払いについて、その時期の定め若しくは分割払いの定めをし、・・(以下省略)
このように、請求額の分割払いが必ず認められるというわけではありませんが、裁判所が必要と判断した場合には認められる可能性があるということです(実際の訴訟では和解によって解決することも多くみられます)。
なお、原告の請求を認容した上で被告が「自分自身の現在の資力を説明して裁判所に分割払いを求める」という場合は、答弁書に記載しても構わないのですが、答弁書は原告にも見られてしまうものですからプライバシーの観点から抵抗感を感じる人もいるでしょう。
そこで、下記のような「上申書」として別途、裁判所に提出する方法もあります。
平成○○年(少コ)第○○○号 貸金請求事件
原告 甲野 太郎
被告 乙野 次郎
上 申 書
平成○○年○月○日
○○簡易裁判所 御中
上記被告 乙野 次郎 印
上記当事者間の貸金請求事件につき、被告は、原告の請求を認めていますが、被告の資力等の実情は次のとおりですから、原告の請求が認められる場合は、下記内容の支払猶予の判決を希望していることを上申いたします。
〔実情〕
月額収入 ○○万円
1ヶ月の生活費 ○○万円
他の債務の合計 ○万円
毎月の債務返済額 ○万円
希望する内容
分割払い ○回払いなら支払可能です。
以上
通常訴訟に移行すべき場合
これに対して、次のような場合は通常訴訟に移行させた方が被告に有利と考えられます。
- そもそも、訴訟をされたこと自体、身に覚えがなく不本意であるがどのように反論してよいのかすらわからない。
- 原告の主張に対して反論があるが、証拠の提示がすぐにできないなど、ややこしくなりそうである。
- 原告に対して反訴(上記に説明)を提起したい。
- 遠隔地(管轄外)の裁判所に訴えを起こされてしまった。
事案が込み入っているため、弁論や証拠調べをしっかりと行いたい場合は通常訴訟の場に移して戦うべきでしょう。
その場合、本人訴訟ではやはり難しいと考えられるので弁護士をつけるのが妥当ではないでしょうか。
司法書士でも「簡易裁判所の訴訟代理権」を持つ者であれば訴訟代理人になることができますが、訴訟代理権の資格の有無だけでは実務経験を判断することはできません。
訴訟業務を日常的に行っていることを標榜しており、実際に訴訟の数をこなしている司法書士を探して依頼するようにしなければなりません。
通常訴訟に移行させたい場合には裁判所に「通常手続移行申述書」という書類を提出しておく方法があります。
平成○○年(少コ)第○○○号 貸金請求事件
通常手続移行申述書
原告 甲野 太郎
被告 乙野 次郎
本件は、通常手続に移行の上、審理及び裁判をされたく申述します。
平成○○年○月○日
〒 ○○○-○○○○
○○県○○市○○町○丁目○番○号
被告 乙野 次郎 印
TEL ○○○○-○○-○○○○
○○簡易裁判所 御中
もし、裁判所から送られてきた答弁書の雛形を使用する場合には、答弁書に「□(原則として1回の期日で審理を完了する)少額訴訟ではなく通常の手続による審理及び裁判を求めます。」と記載されていますので、こちらにチェックを入れておけばよいことになります。
答弁書を提出する前に上の「通常手続移行申述書」だけを出しておいてもかまいませんが、追ってできるだけ早く答弁書を提出しておく必要があります。
最初の段階では「少額訴訟でよい」と思って答弁書も出していたが、後からやはり通常訴訟に移行させたいと思った場合は、最初の口頭弁論期日の弁論を開始する時までであれば可能です。
そして、いったん通常訴訟に移行させる旨の申述をしてしまった場合は、これを撤回することはできない点にも注意が必要です。
ベストな対処がわからなければ弁護士へ
ここまでの説明で「状況に応じて少額訴訟のままいくか、通常訴訟に移行するかの判断をするべき」としましたが、少額訴訟の訴状を受け取った段階でこれを的確に判断することが難しい場合も多いでしょう。
少額訴訟は簡易な手続きであるだけに、あっという間に判決まで至ってしまうこともあります。
よって、対処の仕方を自分で判断せず弁護士(司法書士)に委ねるというのが賢い方法です。
少額訴訟を起こされたら?通常訴訟との違い、まとめ
少額訴訟と通常訴訟の違いについて、詳しく説明してくれてありがとう! どちらを選ぶべきかは、借り入れの状況によって変わってくるんだね。 少額訴訟の通知が来てしまった場合には、出来るだけ早く対策を取ることが必要だよ。 不安に感じる事は、弁護士に質問し、回答を得ることが非常に大切となるよ。
- 少額訴訟とは「60万円を超えない金銭債権の請求金額」に使われる簡易な手続きである。
- 少額訴訟は、訴訟内での反訴の禁止、証拠調べの制限、控訴や上告の禁止など、通常訴訟とは異なる独自のルールがある。
- 被告は、口頭弁論期日までに「通常訴訟に移行させる」申述をすることができる。
- 少額訴訟のまま進めることが被告にとって有利か不利かはその訴訟の状況によって異なる。
- 少額訴訟の訴状を受け取ったら絶対に無視してはならず、どのように対処するのがベストなのかを弁護士(司法書士)にすぐ相談するべきである。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
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債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
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