自己破産をすると海外旅行に行けないって本当?
自己破産をすると、海外旅行に行けなくなるって聞いたんだけれど本当?
そんな噂もあるけれど、実際には、海外旅行に行けなくなることはないんだよ。
じゃあ自己破産の手続きをしている時には、旅行に制限がかかることはあるの?
旅行に出かける時には、必ず裁判所の許可が必要となるんだ。 今回の記事では、自己破産手続中に、旅行など自宅を空ける時の注意点について、詳しく見ていこう。
自己破産と海外旅行の関係には、選挙権などと同様、かなり誤解されている面があります。
自己破産をすると一切、海外旅行に行けなくなるとか、国内旅行や引っ越しもできないなどという情報がありますが、合っている部分も間違っている部分もあります。
では、それらを正しく理解しておきましょう。
自己破産をすると海外旅行に行けなくなるのか
自己破産と海外旅行の関係
破産者は、自己破産手続きの際には裁判所や破産管財人などに対し、誠実に協力しなければなりません。
具体的には、破産者は破産管財人に対して「破産に関する必要事項の説明義務」を負っています(破産法40条)。
そうは言っても管財手続きの途中で肝心の破産者と電話がつながらない、家にもいないという状況になればこの条文自体が意味のないものになってしまいます。
そこで、免責決定までの間は、破産者は債権者集会などに説明に出向くため常に連絡の取りやすい場所にいる必要があるのです。
破産法では以下の条文が定められています。
破産者は、裁判所の許可がなければ、居住地を離れることができない(破産法37条1項)。
これは、引っ越しや旅行などの際に一定の「居住制限」により行動が制限されることを意味します。
「自由に移動することによる手続きへの悪影響」を最小限にするためです。
誤解してはならないのが「居住地を離れることができない」のは「許可がない場合」であり、許可さえあれば移動することはできるということです。
つまり、「自己破産すると永遠に国外に出られなくなる」などというのは全くのデマだということがわかります。
なお、移動の許可に限りませんが、管財事件になった場合の破産手続きでは、破産者はまず破産管財人に相談し、ある程度許可の見通しをつけてから裁判所に申請する形を取ることが多くなります。
管財事件の場合に限って移動が制限される
破産手続中は・・という説明をしましたが、破産手続きのうちで上記の制限がかかるのは「管財事件」になった場合だけです。
自己破産には「同時廃止」と「管財事件」がありますが、前者はすぐに破産手続きが廃止されて免責許可の手続きに移るため、債務者にそれ以上の説明や協力をさせる必要がないので移動の制限をつける必要がないのです。
実務上は、大体自己破産申立てがされたうちほぼ9割が同時廃止、1割が管財事件となっています。
両者の詳しい説明は下記リンクの記事に掲載されています。
万一、管財事件になった場合に許可なく移動をしてしまうと「免責不許可事由(最終的に借金をチャラにすることができない可能性が出てくる)」となる場合があるので注意しましょう。
海外旅行に行けなくなる期間とは
もちろん、破産者とはいっても永遠に裁判所の許可を得なければ移動できないわけではありません。
裁判所の許可を得なければ自由に移動できない期間は、破産手続きの進行中ということになり、さらに具体的に言えば「破産手続開始決定~免責許可決定が確定するまで」ということになります。
この期間が具体的にどのくらいになるのかは、その破産者の抱える状況(債権者の数、債務額、換価処分する財産の内容、不動産の有無など)により異なります。
財産の内容が預貯金や生命保険の解約返戻金など、換価しやすいものであれば2カ月以内くらいに手続きが終了することもありますし、複雑な事情の不動産があれば1年以上かかることもありますので、ケースバイケースといえます。
破産手続き中でも海外旅行に行きたい場合には
破産手続きの進行中は、スムーズな手続き完了のためになるべく移動しない方が望ましいのですが、何らかの事情で行かなければならない事態も考えられます。
そのような場合は裁判所に対して移動許可の申立てをすることになります。
日本国憲法第22条第1項では
「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」
として、国民の移動の自由を謳っています。
よって、基本的には破産者といえども「破産手続きを妨げる意図が明らか」な場合を除き、移動の許可をしなければならないものと考えられています。
常識的に考えれば、多重債務者が自分の財産で海外旅行に行けるはずもないと思えますが、「出張」「会社負担の社員旅行」「親が年金から出資してくれて家族旅行」「退職金から自由財産を使って」などは十分に考えられます。
移動を希望する理由を裁判所にきちんと説明すれば、よほど長期で手続きに支障が出るというのでない限りは認められると考えてよいでしょう。
引っ越しの制限はあるのか
移動する時には許可を得なければいけないって事は引越しをする場合にも許可が必要になるの?
そうだね。 通常の引越だけではなく、単身赴任から一時的に自宅に戻る場合にも、許可を得ておく方が安心だね。
引っ越しは典型的な「移動」にあたるので当然に裁判所の許可の対象となります。
単身赴任で元のところに住民票を置いたまま数カ月、数年単位で住む場所を変える場合も許可を取るべきでしょう。
許可申請書はこのようになります。
平成〇年(フ)第〇〇〇号
破産者 〇〇 〇〇
住所変更許可申請
平成〇年〇月〇日
〇〇地方裁判所 第〇民事部 〇〇係 御中
破産者申立代理人
弁護士 〇〇 〇〇
頭書事件につき、破産者は、下記の地に住所を変更したく、許可を申請致します。
記
新住所:
上記申請に同意する。
平成〇年〇月〇日
破産管財人 〇〇 〇〇
国内旅行の制限はあるのか
1泊の国内旅行でも許可を得ておく方が良いのかな?
1泊であれば、それほど問題になることはないけれど、2泊以上の外泊の場合には、許可を得ておく方が安心だね。
国内旅行であっても一定の条件のもとに制限されます。
2泊以上の国内出張や旅行などはやはり「許可の対象となる移動」にあたります。
海外であれば、国外に出るだけでも(1泊だけでも)移動にあたります。
自己破産の手続き中にパスポートの申請は可能か
パスポートの申請も許可が必要になるの?
パスポートの申請には許可は必要ないよ。
自己破産手続き中でもパスポートを申請することは可能です。
海外旅行目的だけではなく、運転免許証の代わりに身分証明書として取得したい人もいるでしょう。
実際、海外に出るということになれば裁判所の許可は要るものの、パスポート申請自体に何か制限がかかるわけではありません。
旅券法13条では「一定以上の重い刑法犯」「旅券偽造歴があり刑に処せられた者」などは一般旅券の発給や渡航先の追加をしない、と定めていますが、自己破産はもちろん刑法に抵触することではありませんのでこのような制限はかからないのです。
自己破産の影響で入国を拒否される事はあるのか
自己破産をすると、海外から入国を拒否されてしまうことってあるの?
自己破産手続き中の場合でも、何も問題なく入国審査は行われる事になるから、安心して大丈夫だよ。
自己破産中だからといって、海外で「入国を拒否されるのではないか?」という心配はまったくありません。
裁判所の許可を得た移動であり、パスポートも取得できる以上、入国拒否となる根拠がないからです。
自己破産後に海外に行く場合の注意点
自己破産の後に海外に行く場合には、何か注意する点はあるの?
自己破産によって、クレジットカードが使えなくなってしまう人がほとんどだよね。 新たなカードを作ることもできなくなってしまうから海外でお金を使う時には、注意が必要だね。
クレジットカードが作れない
自己破産の手続きが終了すれば移動の制限は何もなくなりますが、海外に行く場合は今までと勝手が違うこともあります。
一番不便な思いをする可能性があるのが「クレジットカードを作れない、使えない」ということです。
日本と比べて海外は「クレジットカード文化」が浸透しているため、破産前の海外旅行ではほとんどカードで過ごしてきたという人もいるでしょう。
それがほぼ現金のみということになるとやはり不便さは否めません。
日本と比べてほとんど海外の国は治安が悪いため、あまりに多額の現金を持ち歩くことも危険なので、そこまで大きな買い物をすることはできなくなります。
また、海外でのATMの使用方法などをよく調べて、必要な時に現金がおろせるようにしておくことが大切です。
クレジットカードが持てない人の強い味方である「デビットカード」の利用も検討してみるとよいでしょう。
デビットカードは自分の口座にある預金の分しか決済できないためそもそも作成の際の「審査」がありません。
ただし、「J-Debit」のように海外では使えないものもあるので注意しましょう。
会社から海外出張を命じられたら?
一つの例ですが、自己破産したことを会社に内緒にしていたところ、急な海外出張で会社の総務部からクレジットカード番号を知らせるようにと言われたというものがあります。
もちろんデビッドカードを普段から持っておけばこのような場合にも対応できるのですが、それもなければ新規にクレジットカードの作成を求められることも考えられます。
カード審査に落ちたことを会社に知られたら自己破産の事実がバレてしまい、解雇や不利な扱いをされるのではないか?と心配する人もいますが、債務整理手続きは個人再生や任意整理など、どんな種類であっても法律上、解雇の正当事由にはなりません(ただし、自己破産では「職業制限」といって、他人のお金を扱う一定の職種には手続中は従事できないことがあります)。
もちろん、左遷などの不利な扱いをする理由にもなりません。
ただ、やはり周囲の目が気になることから、どうしても隠したいという人もいるでしょう。
カード審査に落ちる理由は決して債務整理だけではなく、すでに自動車ローンや住宅ローンなどが重なっていて枠が足りない、年収等の「属性」が申し込んだカードの条件に合致しないなどの理由である場合もあります。
通常、審査落ちの理由は申込者にも知らされないため、当然会社にわかってしまうことはありません。
ローンを複数組んでいるため、今回は通らないかも知れない・・ということを最初に理由として言っておけば「会社バレ対策」にはなるのではないでしょうか。
破産者の「引致」とは?
許可を得ずに旅行に行くとどうなるの?
免責不許可になってしまったり、引致と呼ばれる制度により、強制的に裁判所に出廷しなければいけない事もあるんだよ。
居住・移動の制限に関連して、「引致(いんち)」という制度もあります。
「裁判所は、必要と認めるときは、破産者の引致を命ずることができる」という規定があります(破産法38条1項)。
引致とは、「引っ張って連れて来ること」です。
要するに、必要な説明などを求めるためであれば破産者を強制的に連れて来ることができる、という規定なのです。
なお、引致は破産手続申立て後、破産手続開始決定前でも可能です(破産法38条2項)。
破産者自身だけではなく一定範囲の人も対象になる
居住・移動の制限、引致に共通することですが、破産者本人のみならず、それに準じる人達のについてもこれらの規定が適用されます。
具体的には、
- 破産者の法定代理人
- 支配人
- 破産者の理事、取締役、執行役及びこれらに準じる者
とされています(破産法39条)。
要するに、本人に代わって説明する義務があると思われる人は手続き中自由に移動ができないことになります(保証人など含まれていません)。
どうしても旅行する必要がある人は弁護士に相談
どうしても居住地を離れなければいけない場合には誰に相談すれば良いのかな?
申し立て代理人弁護士や破産管財人弁護士に相談しよう。
上記のように、本来であれば破産手続中は不要不急の旅行はしないのがベターですが、どうしても事情があって旅行に行きたい場合もあるでしょう。
そのような人はあらかじめ申立代理人弁護士や、破産管財人弁護士がすでにいる場合はそちらの弁護士に事情を説明し、許可が下りるかどうかの見通しを立てておくようにしましょう。(許可については個々の事情に基づいて判断されるため、一般的法律相談で回答を得るのは難しいでしょう)
自己破産をすると海外旅行に行けないって本当?まとめ
自己破産の手続き中だからといって、海外に行くことが出来ないわけじゃないって事がわかって安心したよ。
旅行ができないわけではないけれど、所定の手続きを踏んだ上で旅行に行くようにすることが大切だよ。
- 自己破産手続きの間は裁判所の許可を得なくては自由に移動することができないが、手続きが終了すればその制限はなくなるため、永遠に海外旅行に行けなくなるわけではない。
- 自己破産には同時廃止と管財事件があるが、後者の場合に限り移動が制限される。
- 移動の制限がかかる具体的な期間は、破産手続開始決定から免責許可決定の確定までである。
- 破産手続きを妨げるような内容、動機であることが明らかな場合を除き、基本的には許可がおりると考えてよい。
- パスポート申請や(許可を得た上での)外国への入国は、自己破産を理由に制限されることはない。
- 引っ越しも海外旅行と同様に制限される。
- 国内でも長距離移動や2泊以上の移動などは制限されることがある。
- 自己破産手続き中や自己破産手続きの後、海外旅行で注意しなくてはならないのは「クレジットカードが作れない、使えない」ことである。
- デビットカードは自分の銀行口座にある金額分しか使用できないため、クレジットカードの代替として使うことができる。
- 破産者の協力義務を実効性あるものにするために、居住・移動の制限の他、「引致」といって、強制的に破産者を説明のために連れて来ることができる。
- 破産者自身だけでなく、それに関連する一定範囲の人もこれら制限の対象となる。
- 自己破産中に海外旅行などを検討している人はあらかじめ申立代理人弁護士や破産管財人弁護士に相談し、弁護士回答を参考に判断することが望ましい。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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