奨学金の返済、過払い金や時効はあるの?専門家が詳しく解説
奨学金も借金だから、過払い金が発生するのかな?
今回の記事では、奨学金の種類や金利をチェックしていく他に、奨学金と時効の関係、奨学金を返済できない時の対処法について、詳しく見ていこう。
少し前までは、奨学金というのは「払わなくても督促されない」「法的措置は取られない」といった噂が流れており、普通の債務とは違うものであるかのように考えられやすかったといえます。
しかし、実際には奨学金といえども最近非常に取り立てが厳しくなっており、油断していると給与の差押をされる危険もあるため、貸金業者などと同じように返済に行き詰まった時の対処法をしっかり考えておかなくてはなりません。
奨学金の貸付先とは
日本で一番メジャーな奨学金の貸付機関といえば「独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)」でしょう。
また、各大学の基準によって独自の奨学金制度が設けられていることもありますし、「公益財団法人 交通遺児育英会」のような団体による奨学金もあります。
奨学金の貸付金利とは
では、代表的な機関である日本学生支援機構の「貸与型奨学金」について確認してみましょう。
貸与型には「第一種(無利子)」と「第二種(利子が付くタイプ)」があります。
第一種(無利子) |
第二種(利子が付くタイプ) |
|
対象 |
国内の大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程)に在学する学生・生徒 |
国内の大学院・大学・短期大学・高等専門学校(4・5年生)・専修学校(専門課程)の学生・生徒 |
利子 |
無利子 |
年(365日あたり)3%を上限とする利子付だが、在学中は無利子 |
選考 |
特に優れた学生及び生徒で経済的理由により著しく修学困難な人 |
第一種奨学金よりゆるやかな基準によって選考された人 |
貸与額 |
学校種別(大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程))、設置者(国立・公立・私立)、入学年度、通学形態(自宅通学・自宅外通学)によって定められた貸与月額のいずれかを選択 |
大学院においては5種類の貸与月額から、大学・短期大学・高等専門学校(4・5年生)・専修学校(専門課程)においては11種類の貸与月額から、それぞれ自由に選択 |
各高校、大学等が独自の奨学金制度を設けている場合には「成績によっては無利子」であったり、「成績ごとに段階を設けて定額を支給する」といったタイプのものもあります。
奨学金に過払い金が発生する事はあるのか
奨学金も法律上の括りは「金銭消費貸借」つまりお金の貸し借りになりますが、今、CMでも盛んに宣伝されている「過払い金」が発生することはあるのでしょうか?
「過払い金」という言葉自体は最近広く知られるようになりましたが、どのような状況で発生するのかまではわからない人が多いかと思います。
平成18年~平成22年にかけて施行された「改正貸金業法」以前の法律では、利息に関する規定がとても曖昧なものでした(利息制限法と出資法という2つの法律があった)。
そのわかりづらい部分(グレーゾーン金利と呼ばれる)を利用して、消費者金融や信販会社などが非常に高い金利で貸付をしていた時代が長く続いていたのです。
しかしその後、最高裁などの判例の積み重ねによって、今までの高金利を「本来、取ってはならなかったもの」として「高すぎる金利部分の支払いは元本に充てる」と解釈することがスタンダードになったのです。
元本が0になってもなお払い過ぎた部分があれば「過払い金」として債務者に返還することになりますが、もちろんこの状態になるためには元々高金利であったことが前提となります。
一方で奨学金の場合を考えてみると、元々の金利が安く設定されているため過払い金が発生すること自体がありません。
奨学金は時効になるのか
だけど、ほとんどの場合、時効の中断(更新)が行われているから、奨学金が時効になっている可能性は非常に低いんだ。
奨学金も他の債権と同じように消滅時効が適用されます。
つまり一定の条件のもとに返済せず所定の期間が経過すると、支払義務がなくなったことを主張できる、というものです。
なお、消滅時効を含む民法の「債権」については2020年4月から大幅な改正が施行されています。
消滅時効について改正法が適用されるのは、「改正法施行後(2020年4月)に締結された契約」ということになりますので、それ以前に締結されたものについては依然、旧法の規定によります。
旧法の場合は金銭消費貸借(お金を貸す契約)については「権利を行使できる時から10年」でした。
改正法により「権利を行使できることを知った時から5年」という主観的起算点が設けられましたが、新法が適用される分の奨学金はこれに当たるので「所定の弁済日より5年」となります。
ただ、気をつけたいのが「奨学金全額がいっぺんに消滅時効にかかるのではない」ということです。
奨学金の場合は少額ずつ分割での返還(返済)となるため、各返還日の支払額が順次、消滅時効にかかっていくことになります。
また、途中で時効の中断(新法で「更新」と名前が変更)がなかったかどうかも注意が必要です。
どのような場合に中断(更新)となるのでしょうか。
時効が更新される場合とは
債権者側としても、ただ黙って時効期間が経過するのを見守っているわけではないことが大半です。
つまり、債権者が時効を完成させないための何らかのアクションを起こす、また、債務者側が債務の存在を認めるような行動を取ればそこで時効期間はリセットされてしまいます(再度時効期間が初日から始まる)。
時効が中断(更新)されるのは次のような場合です。
- 裁判上の請求や支払督促など
- 強制執行や担保権の実行など
- 承認
各項目についての詳しい内容は上記リンク記事に解説してありますが、一番注意しなければならない点は
- 「債権者から何らかの督促があった場合や、裁判所からの封書を受け取ったら決して放置してはならない」
- 「『引っ越したから督促が届かないので大丈夫だろう』というのは安易な判断であり、郵便物を届けられない場合でも裁判をして勝訴判決を取ることは可能、つまり知らない間に判決を取られてしまっていることがある」
- 「時効が完成しているかどうかわからない状況で、『支払いますので待って下さい』などと言ってしまうと承認したことになり時効が更新されるので、電話で不用意な発言をしない、自己判断で手紙等に返信しない」
ということです。
仮に時効を更新させてしまったり、判例上時効の援用が認められない状況になれば取り返しがつかないことになります。
要するに、時効完成を疑うような状況があればすぐ法律家に相談することが大切なのです。
奨学金を返済できない場合には
どんな人が制度を利用できるのか、詳しく解説するね。
奨学金は、一応借りた本人(学生)が就職してから自分で返済することが予定されているのですが、昨今の経済状況だと「学費は上がっているのに給与は上がらない(むしろ悪くなっていることもある)」ということも十分考えられます。
また、就職先がいわゆる「ブラック企業」だったなどの理由でなかなか定着できないこともあります。
つまり、いったん就職さえすれば安定して返済できるとは限らず、日々の生活だけで精一杯、とても返済にまで手が回らないという人もいるのです。
そのような状況になった時に備え、正しい対処方法を知っておかなくてはなりません。
消費者金融などの債権者に比べると奨学金の場合、各人の事情が考慮されるように仕組みが作られており、下記のように「減額返還」「返還期限猶予」といった制度があるため、条件にあてはまるかどうかを確認してみることが大切です。
なお、督促の手紙を無視していると最終的には給与の差押えなどで強制的に回収されてしまうこともあるため、絶対に無視してはなりません。
減額返還制度とは
経済困難、失業、病気、災害などで月々の返還が厳しくなった人は「減額返還制度」を利用できることがあります。
これは、一定の範囲内で返還期間を伸ばし、月々返済額を1/2か1/3に減らして負担を軽減できる制度です(返還予定総額は変わりません)。
1年ごとに願い出ることが必要ですが、最長15年(180ヶ月)まで伸ばすことができるため、その場合は5年分の返還金を15年かけて返還することができるということになります。
【「経済的困難」を理由とする減額返還の収入基準】
給与所得者 |
年間収入金額325万円以下 |
給与所得以外の所得がある者 |
年間所得金額225万円以下 |
ただし、延滞している状況では審査できないので、延滞する前に願い出ることが大切です。
返還期限猶予とは
返還期限猶予とは、減額返還と同じく経済困難、失業、病気、災害などで月々の返還が厳しくなった人を対象とする制度です。
減額返還と異なるのは「願い出て認められた一定の期間中は払わなくてよい」ということです。
ただ、返還金額そのものが減るわけではないため(増えるわけでもない)、猶予期間の経過後に再度返還し始めて、終わりの時期がその分延びるということになります。
返還困難な事由が続く間、毎年願い出を行えば最長で10年(120ヶ月)まで猶予を受けることができます。
【「経済的困難」を理由とする返還期限猶予の収入基準】
給与所得者 |
年間収入金額300万円以下 |
給与所得以外の所得がある者 |
年間所得金額200万円以下 |
弁護士に相談
だけど、奨学金に保証人をつけている場合、保証人に迷惑をかけてしまうことになるから、事前に保証人に連絡を入れるなど、対策をとる必要があるよ。
では、このような制度を駆使しても返還が無理と思われる状況がわかったらどうすればよいのでしょうか。
奨学金債務も消費者金融や銀行などの債権者と同じように債務整理することができます。
ただし、奨学金の場合は自己破産や個人再生を選択しようとすると、ネックになるのが「連帯保証人」の存在です。
奨学金を借りようとする人は、「連帯保証人」をつけるか「機関保証(保証会社に保証してもらう)」を選ぶことになります。
(なかなか連帯保証人が見つけられない人は機関保証を選ばざるを得ないのですが、保証料を支払わなくてはならない上に、延滞して保証会社に弁済してもらうとその分を最終的に保証会社に返さなくてはなりません。)
もし連帯保証人をつけることを選択した場合、個人再生や自己破産では本人が全部または一部を免除される代わりに、連帯保証人に請求がいってしまうのです。
個人再生と自己破産は裁判所が関与する手続きですので、特定の債権者だけを外して手続きすることができません。
よって、債務者の全体的状況にもよるのですが、あえて「任意整理(裁判所が関与しない私的債務整理)」を選ぶこともあります。
ただ、任意整理は将来の利息をカットするところまではできるものの「利息制限法を適正な割合に直す以上の元本カットが難しく、長期間かかっても(一部例外はあるものの)元本全額を返済しなくてはならない」制度なので、安易に誰でもが選択できるわけではありません。
「債権者の数、どのような債権者なのか(大手か中小か)、本人の収入はどうか、安定して返済が可能なのか」といった総合的な情報を考慮に入れた上で、債権者との交渉経験が豊富な弁護士が判断する必要があります。
このように、若干の特殊性を持つのが奨学金債務ですので、奨学金の返還に行き詰まっていて、どのような方法を選択するのがベストなのか迷っている人はすぐ弁護士に相談する方がよいでしょう。
まとめ
- 奨学金といえども基本的には普通の「金銭消費貸借」であり、消滅時効にかかることもあるが、多くの場合は時効の中断(更新)措置が取られているため勝手に時効が完成していると判断することや、督促に自己判断で対応することは禁物である。
- 経済困難、病気や災害といった事情がある人は、日本学生支援機構の場合なら「減額返還」「返還期限猶予」といった制度があるため、利用条件にあてはまるかどうか確認してみる方がよい。
- 日本学生支援機構の奨学金は「連帯保証人」か「機関保証」のいずれかが必須であるが、連帯保証人を選ぶと個人再生や自己破産しようとした際に連帯保証人に請求されてしまうことがネックとなるため、すみやかに弁護士に相談することが望ましい。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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