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特定調停をしたあとに過払い金請求はできるか

 

特定調停によって債務整理が終わったとしても、その後に過払い金の存在が判明することがあります。既に終わったことだからと諦めている人もいるかも知れません。たしかに、特定調停で合意に達した調停調書には確定判決と同様の効果があります。

それでは、特定調停後の過払い金返還請求は無理なのかといえば、ケースバイケースで検討する必要はあるものの、取り返せる可能性は少なくないのです。

特定調停は特定債務者の債権や請求権を確定する手続きではない

特定調停の大前提は、特定債務者の経済的再生のために弁済について話し合うことです。つまり、特定債務者と債権者の間にどのような債権債務が存在しているかを確定して、その請求支払いを調整する目的の手続きではないということです。

とはいえ、特定債務者が負っている債務が判然としないのでは、経済的再生のための話し合いもできません。その範囲において、取引履歴の開示、利息制限法での引き直し計算という手続きが入ってきます。

この過程で、過払いになっていることが判明した場合は、大前提により債務が存在しないことを確認して調停が終わります。過払い金の返還請求は別途訴訟なりの手続きを行う必要があります。

また、特定調停法ができる前の一般民事調停における債務弁済協定や、特定調停初期の頃には、単に債務が存在しないとするのではなく、相互に債権債務が存在しないとする清算条項を入れるケースがありました。

しかし、その後の特定調停では、このような清算条項を入れるのではなく、単に債務の不存在を確認するだけの方が主流のようです。この運用も過払い請求を意識したものと考えることができます。

つまり、債務の存在を否定しただけの特定調停であれば、過払い金の返還請求を妨げる根拠にはならないのです。従って、過払い金を取り戻す作業は比較的容易にできるといえるでしょう。
そこで、問題になるのは清算条項が入っている場合の調停調書の効力です。

利息制限法という強行法規違反の和解は無効とする下級審の例

特定調停における調停調書は確定判決と同じ効果を持つものであり、調停調書に記されている「相互に何等債権債務が存在しない」とする文言を否定するには、確固たる法的根拠が必要になります。

清算条項が入った特定調停の結論を無効として、過払い金返還請求を認めた下級審判決の内容を見ると、錯誤無効とするロジックを用いています。

・特定調停自体は法によって行われたものであり、ただちに無効になるものではない
・しかし、強行法規である利息制限法に違反しているのであれば不当利得である
・従って、取引履歴の開示が不十分である場合には動機の錯誤があり無効である

このような構成で過払い金の返還請求を認めるケースがあるのです。
この判旨で考えると、以下の場合には返還請求が棄却されることになるでしょう。

・取引履歴の開示が十分であり引き直し計算もしっかりと行われ、過払い金の存在は明らかであるのに、その上で債権債務なしと合意した場合
・みなし弁済規定をクリアしていた場合

※みなし弁済規定とは、利息制限法上限利率を超える金利を有効とする条件を定めた規定です。ただし、事実上クリアは不可能とされています。

さて、もうひとつ似たような構成ながら別の切り口で請求を認めた下級審判決があります。強行法規である利息制限法に違反した特定調停は公序良俗に反しており無効だとするものです。
公序良俗違反という判断が確定すれば、特定調停における清算条項は一般に無意味という話になるところです。しかし、この判決が確定することはありませんでした。

特定調停後の過払い請求に関する最高裁判所の初判断は微妙

公序良俗に反するとする不当利得返還請求訴訟の原判決に対して、上告審となった最高裁判所第三小法廷は、平成27年9月15日に、特定調停後の過払い金返還請求について初めての判断を示しました。ちなみに、この判決は5名の裁判官全員一致で出されています。

その判旨は次のとおりです。
・特定調停手続きは特定債務者の有する金銭債権等を確定させることを当然には予定していない
・本件調停の目的は、特定の期間内の債務についてのものであり、確認条項も清算条項もこの目的を前提とする
・従って、調停の目的に含まれない過払い請求権は調停の影響を受けない
・調停の目的となる取引について、利息制限法で引き直した結果を超えない支払義務を確認することは利息制限法に違反しない
・本件清算条項には、債務者の過払金返還請求権等の債権を対象とする文言はない
・以上のことから、公序良俗に反してはいない

その結果として、特定調停の目的となっていない古い部分の過払い金返還請求を認めて、調停調書記載の支払分については請求を認めませんでした。
要するに、本来は過払いになっており払う必要がないのに、調停に従い払った部分は返してもらえないということです。

たしかに、最高裁判決が判示するように、特定期間だけを切り取ったこの調停の内容には債務者の権利を不当に制限する内容は盛り込まれていません。
しかし、焦点の当て方で結論が変わることがはっきりわかる判決といえます。

つまり、調停の目的が特定期間であり、この期間についての計算結果と支払義務の確認は違法ではないから有効。とするのではなく、調停の目的は特定期間であるが、そもそも全体として利息制限法に違反しているので無効。とすることもできるわけです。実際に、下級審の裁判官はこうした判断を行っています。

とはいえ、これは最高裁判決ですから「判例」となります。しかし、判例が変更されることもありますから、特定期間の過払い分は取り戻せないという結論が永遠に続くとは限りません。

それでも、現時点では清算条項が入った特定調停が成立してしまうと、その目的となっている部分の過払い請求権は消滅することになります。これを回避するには、公序良俗違反ではなく、錯誤無効の主張を展開する必要があるでしょう。
幸いなことに、平成28年3月15日現在で、特定調停後の過払い請求にかかる錯誤無効についての最高裁の判断はないようです。下級裁判所の判断はケースバイケースで分かれています。

それでは結論です。
特定調停を行うのであれば全期間を対象とするべきといえます。
特に、全期間を通じた場合に過払いが生じるのであれば、残債務が算出されるような特定の期間だけを対象とする特定調停は行うべきではないということです。

その理由は、清算条項を入れた調停調書は公序良俗に反しないため、その他の無効事由が無い限り、その期間の過払い請求が認められないからです。
しかし、清算条項の入っていない調停調書の場合は過払い請求が認められる可能性が高くなります。まずは、清算条項が入っているかどうかを確認することです。

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