相続の特別縁故者って誰がなれるの?もし特別縁故者になると何ができる?
今回の記事では、特別縁故者について、詳しく見ていこう。
日本の民法では「相続できる人」の範囲が定められており(法定相続人という)、血縁があれば誰でも相続人になれるわけではありません。
もし法定相続人が誰もいないケースではどうなるのでしょうか。
被相続人(亡くなった人)と特別に親しい関係にあり身の回りの世話をしていた人などが、「特別縁故者」という立場で家庭裁判所の認定を得て、相続財産を取得できるケースがあります。
ただ、特別縁故者として家庭裁判所の認定を得るには色々な要件があり、遺産をもらうためのハードルはそれなりに高いともいえます。
本記事では
- 特別縁故者に該当するのはどのような人か
- 特別縁故者として申出をするために必要な手続き
- 特別縁故者として認められるとどのくらいの遺産を取得できるのか
といった点を解説します。
特別縁故者とは
特別縁故者への財産分与とは、以下のような制度です。
「法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)が誰もいない場合に、被相続人と特別に親しい間柄だった人が申立てを行い、家庭裁判所の審判を経て相続財産の全部または一部を譲り受けること」
特別縁故者の制度は、民法で次のように定められています。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
民法第958条の2
前条の場合(※)において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
※相続人として権利を主張する者がいない場合
特別縁故者として相続財産分与を求める立場は、法で保護された権利というより、あくまでも国家による恩恵ということになり、分与を求める者の請求によって与えられるものです。
自身が特別縁故者であることを主張し財産分与を求める場合には、相続財産清算人選任が行われた後で、相続人捜索等の公告満了後3カ月以内に家庭裁判所への申立てを行わなければなりません(この点については下記に解説します)。
特別縁故者の要件
特別縁故者になりうる者の要件としては次のような例示がされています。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護を行っていた者
- その他被相続人と特別の縁故のあった者
ただ、特別縁故者の申立てを認めるか否かは家庭裁判所の裁量に委ねられるため、どのような関係であれば特別縁故者に該当するかを明確に線引きしたり、画一的に判断することはできません。
愛人は特別縁故者になれるのか
いわゆる「愛人」が特別縁故者になれるのかどうかは、被相続人に戸籍上の配偶者や子供がいるのかどうかで決まります。
たとえ被相続人と配偶者の夫婦関係が破綻していたり別居状態であったとしても、被相続人死亡時に戸籍上の配偶者がいれば法定相続人になるため、特別縁故者が認められる余地はありません。
しかし、被相続人と配偶者が事実婚の状態であったり離婚している状況であれば愛人が特別縁故者として認められる場合もあり得ます。
最終的にはどこまで被相続人との縁故が深いのかどうかにより家庭裁判所が判断することとなります。
法定相続人がいないこと
上記に解説した通り、特別縁故者への相続財産分与とは、あくまでも「法定相続人が誰もいない場合」に申立てることができる制度です。
法定相続人が1人でもいる場合には、そもそも特別縁故者が問題となることはありません。
なお、「相続放棄した者」であっても特別縁故者として相続財産分与の申立てを行うことができます。
稀なケースとはいえますが、被相続人の生活状況等を総合的に見て、家庭裁判所が「相続放棄した者であるが特別縁故者の適格性を有する」と判断する場合があるということです。
法人も対象
特別縁故者の相続財産分与申立てをする権利があるのは個人だけではありません。
会社等の法人や法人格のない団体、地方公共団体なども特別縁故者として認められるケースがあります。
過去の裁判では、
- 「被相続人の生前から複数回寄進の申出を受けていた寺院(宗教法人)」
- 「法的要件を欠き無効となった遺言書の中で被相続人からの寄付の意思表示を受けていた市」
などが特別縁故者として認められた例があります。
法定相続人も特別縁故者もいない場合には
特別縁故者の申立てをする者がいなかったり、申立人がいても全員却下されたような場合、
- 相続財産が「共有財産」だった場合は他の共有者に帰属
- 相続財産が「単有財産」だった場合は国庫に帰属
ということになります。
他の共有者への帰属については、民法第255条が根拠となります。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
民法第255条
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
登記等が必要ない財産であれば手続きは不要ですが、不動産を共有している場合、被相続人の持分を他の共有者に移転させる登記が必要となります。
特別縁故者として相続する方法
その後、法定相続人がいないことが確認され、法定相続人がいなければ、特別縁故者の申請が可能になるんだ。
特別縁故者として相続財産の分与を受けるためにはどのような手続きが必要になるのか確認してみましょう。
特別縁故者といえどもいきなり相続財産に対して分与の請求をすることはできず、請求の相手方として「相続財産清算人」という役割の人が存在する必要があります。
これらをもう少し詳しく見てみましょう。
相続財産清算人選任申立ての準備
被相続人に法定相続人が誰もいない場合、相続財産を分配するための最初の段階として「相続財産清算人」の申立てを家庭裁判所に対して行い、選任審判を下してもらうことが必要です。
法定相続人がいない状態の相続財産は、相続開始と同時に「相続財産法人」という取扱いになります。
相続財産法人は設立などの行為を要せず、相続開始と同時に成立するとされています。
相続財産清算人とは、この相続財産法人からの弁済などを行い、清算を終結させる(相続財産をゼロにする)ための業務を行う人のことです。
なお、相続財産清算人とそれにまつわる手続きは、令和5年4月1日より改正法が施行され、相続財産が清算されるまでの最短期間が10カ月⇒6カ月まで短縮されました。
相続財産清算人を選任するための要件は次のようになっています。
- 相続が開始していること
- 相続人のあることが明らかではないこと
- 相続財産が存在すること
- 利害関係人または検察官から申立てがあること
相続が開始していることや相続人がいるかどうかを確かめるには、被相続人の戸籍を死亡から出生まで遡り、民法上法定相続人にあたる人がいるか、法定相続人が生存しているかどうかを特定する作業が必要です。
また、相続財産の存在は不動産の全部事項証明書(登記簿)を調査したり、預貯金などは金融機関に残高証明書を出してもらうことで調査する必要があります。
申立権者として「利害関係人または検察官」と定められていますが、利害関係人の具体例としては「受遺者、相続債権者、相続債務者、相続財産上の担保権者、特別縁故者、国や地方自治体」などが挙げられます。
ただ、市役所や金融機関から個人情報にあたる書類を取り寄せる際に、相続人以外の人が行くと利害関係等の証明が難しくなかなか取得できないことが考えられます。
よって、特別縁故者申立てを前提に相続財産清算人選任申立てを行う場合、検討する段階から弁護士に依頼してしまった方がスムーズに進むといえます。
相続財産管理人清算人が選任される
「利害関係人または検察官」により適切な申立て書類が提出されると、家庭裁判所は通常、相続財産清算のための費用を予納することを申立権者に命じることができます。
東京家庭裁判所では原則として予納金の金額を「100万円」と定めていますが、事案によりもっと少額になることもあります。
家庭裁判所が審理を行い、「利害関係の有無」「清算人選任のための法的要件」「予納金が必要な場合は納付されたこと」を確認すると、相続財産清算人選任審判がおります。
なお、相続財産清算人は債権者への弁済や特別縁故者への分与、国庫への帰属など高度な法的知識に基づく業務を執行しなくてはならないため、弁護士や司法書士が選任されることが一般的です。
相続人の捜索を行う
相続財産清算人が選任されると、「相続財産清算人選任公告と相続人捜索の公告」が行われます。
そして官報公告と同時に裁判所の掲示場や見やすい場所に掲示を行わなくてはなりません。
なお、この公告の期間は6カ月を下ることができません。
また、相続人捜索の公告の満了日までに満了するように、2カ月以内の期間を定めて「相続債権者及び受遺者に対する請求申出の公告」および、知られている債権者への個別催告も行わなくてはなりません。
相続債権者・受遺者の申出遺産分割
相続人捜索の公告を行った結果、相続人であることを裏付ける資料を提出して相続人の申出を行った人がいる場合、明確に不適当な主張でない限りは家庭裁判所に受理されます。
そして、相続人か否かを判断する手続きは、最終的に裁判によることになります。
もし相続人であることが確定されれば相続財産法人は最初からなかったものとされ、相続財産清算人から相続人に相続財産が引き継がれ、相続財産清算人の相続財産に対する代理権は消滅します。
また、相続債権者や受遺者の請求申出が行われた場合には法によって決められた順序で弁済することになります。
特別縁故者の申請
相続人公告等を経て、相続人申出をした者がいなかったり、いても裁判所に却下された場合には「相続人不存在」が確定します。
次の段階として、「特別縁故者による相続財産分与の申請」を行うことができる期間が「3カ月」設けられています。
特別縁故者となることができる要件等は上記に解説したとおりです。
具体的には
- 「内縁の配偶者」
- 「事実上の養子」
- 「継親子」
といった関係の人が認定されるケースが多くなるでしょう。
申し立てに必要な書類
特別縁故者に対する相続財産分与申立ては「被相続人の相続開始地(死亡地)の家庭裁判所」が管轄となっており、次の書類を提出して行います。
※管轄裁判所や案件の内容により、下記以外にも追加書類を求められることがあります。
申立てにかかる費用は「収入印紙800円、各家庭裁判所が定める予納郵券(切手)」となります。
- 被相続人の死亡から出生までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 被相続人の財産関係資料(預金通帳、不動産登記簿など)
- 申立人の住民票または戸籍附票
- 申立書
※裁判所ウェブサイト 「相続財産清算人の選任の申立書の記入例」より
上記の申立書には、被相続人と特別な縁故があったことを記載しますが、家庭裁判所が縁故に関する調査のきっかけにできる程度に具体的な内容でなくてはなりません。
- 特別縁故者であることを裏付ける資料
被相続人と親しくしていたことを証明できる資料としての写真、手紙、メールなどを添付します。
被相続人との関係を詳しく記述した「陳述書」を提出すれば、家庭裁判所側も調査しやすくなります。
ただ、これらの資料と申立人の陳述のみで特別縁故者と認めてもらうことは簡単ではありません。
過去の裁判例では
- 「生前に被相続人と親密な間柄にあったという客観的な資料(写真や手紙など)がない」
- 「被相続人と申立人が60年以上別居しており、被相続人の財産増加に申立人が貢献したという事実は認められない」
- 「両者の関係は通常の親戚付き合いを超えるものではない」
といった理由で特別縁故者の認定がおりなかったこともあります。
よって、長年被相続人の看護や介護に務めた、財産増加に貢献したなどの深い交際があったとまでいえない場合は、特別縁故者の相続財産分与申立て自体をすべきかどうか、あらかじめ弁護士等に相談しておく方がよいでしょう。
特別縁故者の財産受領
特別縁故者の相続財産分与申立てを行い、特別縁故者と認定された場合には申立人は分与を受けることができますが、「全部分与」か「一部分与」かは家庭裁判所の裁量に任されています(詳しくは下記に解説します)。
特別縁故者が認められないケースとは
上記の通り、特別縁故者の相続財産分与申立てをしても、認められるかどうかは被相続人の生前の申立人との関係の濃さなどにかかってきます。
また、そもそも特別縁故者の相続財産分与申立てをすることが不適切なケース(法定相続人がいないとはいえないケース)として下記のようなものがあり、それぞれに取るべき対応が異なります。
- 法定相続人が生存していることは明らかだが連絡が取れない
- 法定相続人の行方がわからない
- 法定相続人が死亡している可能性が高い
相続人が行方不明という場合、行方不明者が相続した財産、また、行方不明者自身の財産を管理する必要があれば不在者財産管理人申立てを検討すべきです。
また、死亡していると思われる相続人がいる場合には、その者について死亡の認定をすることにより権利関係を確定させる必要があるのであれば、失踪宣告を検討すべきです。
※裁判所ウェブサイト
- 「不在者財産管理人選任」
- 「失踪宣告」
不在者財産管理人、失踪宣告いずれも要件が厳格に定められた手続きであり、裁判所に納める予納金も数十万円に上ることがあるため、申立てをするか否かは慎重な検討が必要です。
特別縁故者はどのくらい相続財産分与を受けられるのか相続できるのか
上記のとおり、特別縁故者と認定されても、相続財産のうちどのくらいの分与を受けられるのかは家庭裁判所の判断に任されています。
また、申立人が特定の財産(例えば〇〇市の不動産、など)についての分与を求めたとしても、家庭裁判所はそれに拘束されることはありません。
縁故が長期間に渡る、被相続人による分与の意思が認められるといった場合は全部分与となる可能性が高いのですが、縁故が薄かったり、交流が特定の時期に限られている場合は一部分与となることが多くなります。
近年では縁故が薄い者からの申し立ても多くあるため、たとえ特別縁故者と認められた場合であっても一部分与しか受けられない可能性があるということを覚えておきましょう。
もし特別縁故者がいない、申立てが却下された、特別縁故者への分与を経てもなお相続財産が残存したといった場合には、最終的に相続財産は国庫に帰属することになります。
まとめ
- 特別縁故者とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、被相続人と生計を同じくしていたり、被相続人の療養看護に務めた者について家庭裁判所の認定を受けて相続財産の分与を受けられる制度である。
- 法定相続人が存在しない場合、まずは「相続財産清算人」という役割の人が選任され、相続人捜索や債権者の捜索、申出や弁済などの手続きを経てからでないと特別縁故者の相続財産分与申立てを行うことはできない。
- 特別縁故者として相続財産分与申立てを行う際には、被相続人との縁故を示す写真や手紙などの資料を提出しなくてはならないが、縁故の程度が薄いと認められない、または一部分与しかされないケースもある。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
最新記事 by 西岡容子 (全て見る)
- 相続財産清算人ってどんな制度?普通の相続の時にも使えるの? - 2024年11月13日
- 相続させたくない相手に相続させない方法があるって本当?相続廃除について解説します。 - 2024年10月17日
- 相続分の譲渡ができるって聞いたけど、相続放棄とは何が違うの? - 2024年9月12日
厳選!おすすめ記事BEST3
- 1
-
債務整理のベストな選択とは?経験談を踏まえて基礎情報から弁護士の選び方まで一挙解説
もし多額の借金を抱えてしまった場合、もしくは借金を返せなくなったと思った場合、誰 ...
- 2
-
債務整理に注力しているおすすめの事務所一覧【徹底調査】
当サイトでは、実際の取材や債務整理の相談を行なった体験談をもとに、おすすめの弁護 ...
- 3
-
債務整理のベストな選択とは?経験談を踏まえて基礎情報から弁護士の選び方まで一挙解説
もし多額の借金を抱えてしまった場合、もしくは借金を返せなくなったと思った場合、誰 ...
- 4
-
任意整理の弁護士費用はどれくらい異なるの?おすすめ事務所を徹底比較
借金に関する相談は、弁護士事務所や司法書士事務所において無料で行なうことができま ...
- 5
-
債務整理のベストな選択とは?経験談を踏まえて基礎情報から弁護士の選び方まで一挙解説
もし多額の借金を抱えてしまった場合、もしくは借金を返せなくなったと思った場合、誰 ...
- 6
-
ひばり法律事務所の評判・口コミを徹底分析 直接取材でわかった依頼するメリット・デメリット
ひばり法律事務所の特長 累計1万件の債務整理対応実績 緊急性に応じて即レスするス ...