債務不履行とは?不法行為との違いと損賠賠償・時効について解説
債務不履行って何? 借金を返済できなくなってしまうと、債務不履行となってしまうの? そうだね。 返済をするという契約をしたのにも関わらず、返済することができないわけだから、債務不履行となってしまうんだよ。
債務不履行は、不法行為とは違うの? 今回の記事では、債務整理と不法行為の違いや、その特徴について、詳しく見ていこう。 まずは、借金とはどんな契約となるのか、説明していくよ。
「債務不履行」とは、契約や取引の慣行から「果たさなくてはならない義務」を果たさなかった(果たせなかった)ということですが、借金を返済できなくなった人は法律的に見て、まさにこの状態に陥っています。
債務不履行があると損害賠償を請求されるであろうということは何となく想像できるでしょうが、「不法行為」による損害賠償とはどのように異なるのでしょうか?
「債務不履行」と「不法行為」両者の特徴や違いについて理解した上で、もし自分が借りたお金を返すことができない状況になったら具体的にどのように行動すればよいのか考えてみましょう。
※債権法を中心とした民法大改正が現在すでに衆議院・参議院を通過して公布されており、施行は2020年となる予定です。下記は2017年11月現在の法律に基づき解説していますのでご了承ください。
そもそも、借金とは?
借金とは「金銭消費貸借」という契約
お金の貸し借りを法律的な言葉で表現すると「金銭消費貸借契約」といいます。
「消費貸借」とは、借りたものそのものを返すのではなく消費することを前提として、それと同質、同量を返還することを求められる契約です。
金銭消費貸借は、借主が将来、金銭を返還することを約束した上で貸主が借主に金銭を交付することによって成立します。
つまり、この金銭消費貸借契約によって生じる義務(=債務)は、契約した返済時期、返済方法に従って金銭を返還するということなのです。
債務者(=借主)側に起因する何らかの事情でこの義務が果たせなかった場合は「債務不履行」という状態になります。
債務不履行は、契約後に違反が起こった状態のことを呼びますが、契約前に目的物の瑕疵がある場合には、瑕疵担保責任となります。
債務不履行とは
借入がどんな状態になったら債務不履行となるの? 債務不履行には3種類があるんだよ。チェックしてみよう。
債務不履行には色々な形がありますが、それぞれを確認してみましょう。
履行遅滞
履行遅滞とは「履行が可能であるのに、弁済期を徒過した」ことです。
これを簡単に言うと「支払えるのに、支払いの時期を過ぎてしまった」ということになります。
物品の場合には、配送業者(履行補助者)の過失により、到着が遅れた場合にも、履行遅滞となります。
履行不能
履行不能とは契約が終わった後の(後発的な)事情で契約の目的物(特定物)が滅失してしまうなど、絶対的に履行ができない状態になったことです。
たとえば「これらの犬10匹を売買契約する」としていても、使用者に引き渡し前にその犬が病気で死亡してしまえば、絶対に同一の犬を売却することは不可能なわけです。
ただし、債務者の責めに帰すべき(=債務者に責任がある)事情であることが必要とされています。
金銭消費貸借(お金の貸し借り)における義務というのは「金銭を返済する」ことですが、金銭そのものが世の中にある以上は「履行不能」ということはありえません。
たとえば、「債務者の事情で今は支払う金銭がない」のであればそれは単に「支払いが遅れているだけ」なので上記の「履行遅滞」ということになります。
不完全履行
不完全履行とは、履行期に債務が履行ができる状態であったにも関わらず、完全な形での履行がなされなかったことです。
たとえば、上記の特定の犬の引き渡しで「10匹」と契約していたのにそのうち「7匹しか引き渡されなかった」といったことです。
不完全履行の場合、残りの3匹が履行できる状態であるにも関わらず一部の履行のみがされた状況であることが前提です。
金銭債務の債務不履行があるとどうなるか
債務不履行となってしまったら、どうなるの? 借金問題の場合には、強制履行となってしまうんだ。
上記のように金銭債務は「お金という物(特定のコインとか紙幣)」そのものが引き渡しの対象なのではなく、約束した分量を、約束した時期に返済すれば、この世に出回っているお金のどれでもよいわけです。
つまり金銭債務を履行できない場合は「履行不能」となはらず常に「履行遅滞」となります。
履行遅滞の要件としてはこれら4つがあります。
- 履行期に履行可能であること
- 履行期を徒過した(過ぎた)こと
- 履行の遅延が債務者の帰責事由に基づくこと(※ただし、金銭債務は例外)
- 履行しないことが違法であること
では、これらの要件を満たして履行遅滞が発生するとその後どうなってしまうのでしょうか。
債権者側が選択することのできる方法として
- 「強制履行(何らかの形で強制的に履行させる)」
- 「損害賠償(損害を金銭で賠償させる)」
- 「契約解除(契約そのものを白紙に戻す)」があります。
強制履行
債務者が自ら債務を履行しないのであれば強制的に何らかの手段で履行させる方法があります。
強制履行の種類には次の3種類がありますが、債務の性質によりできる種類が異なり、金銭債務の場合は「直接強制」の方法のみすることができます。
直接強制 | 債務者の意思とは関係なく、強制的に債務の内容を実現させるため国家の執行機関を用いること。 |
代替執行 | 債務の内容が作為(何かを「する」こと)を目的とするときは、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求すること。
債務の内容が不作為(何かをしないこと)を目的とするときは、債務者の費用で債務者のした行為の結果を除去・処分することを裁判所に請求すること。 |
間接強制 | 債務が履行されるまで、債務者に心理的な圧迫を与えて(金銭の支払い義務を課す)間接的に債務の内容を実現させる方法。 |
直接強制を実務的な例で言えば
「債務者が自ら支払いをしない場合に、督促を経て裁判所に訴えを起こし、勝訴判決を取って差押をして強制的に債権を回収する」
ということになります。
たとえば「債務不履行となっている債務者が、勤務先に対して持っている給与の債権を差押える場合」はこのようなイメージになります。
損害賠償
損害賠償請求権をを請求するには、履行遅滞の4つの要件を満たしていることプラス、次の2つの要件も必要になります。
- 損害が発生していること
- 履行遅滞と損害の間に因果関係があること
ただし、金銭債務においては少し特殊なところがあるので確認しておきましょう。
損害賠償額は原則、法定利率による
民法第419条1項 金銭債務の不履行については、損害賠償額は法定利率によって定める
金銭債務以外の債務については「どのくらいの損害が生じたのか」という程度によって損害賠償の金額が変動します。
しかし、金銭債務については損害の程度にかかわらず、原則として「法定利率」によって損害賠償額が計算されます。
これについては特に契約上取り決めがなくても損害賠償請求権を取得することができます。
ただ、もし当事者間でこれと異なる取り決めがされていれば、約定利率(利息制限法により上限が決まっている)による損害賠償の請求も可能です。(利率の1.46倍まで)
債権者は損害を証明しなくても請求できる
民法第419条2項 債権者は、損害の証明をすることを要しない
金銭債務の場合、他の債務とは異なり、履行期を過ぎてしまえばその性質上、必ず損害が発生していると考えられるため債権者が具体的に損害を証明する必要がありません。
債務者が「不可抗力」を主張できない
民法第419条3項 債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない
たとえば「大災害に遭ってしまった」などの理由で債務者が金銭債務を履行できなかったとしても、他の種類の債務と異なり、損害賠償義務を免れることができません。
契約解除
もし債務者が「履行遅滞」に陥っている場合、債権者は「契約の解除」をすることができます(民法第541条)。
履行遅滞の4つの要件に加えて、解除するためには
- 相当の期間を定めて催告すること
- 解除の意思表示をすること
という要件を満たさなくてはなりません。
なお、損害賠償の請求と両方行うこともできます。
不法行為とは
じゃあ、不法行為は、債務不履行とどんな違いがあるの? 借金の場合には、悪質な場合ではなければ、不法行為となってしまう事はないんだよ。
不法行為とは民法709条に定められている
「故意または過失により他人の権利を侵害した者はこれによって生じたる損害を賠償する責任を負う」
という規定によって生じる損害賠償責任(民事責任)のことです。
具体的には
- 暴力をふるって相手に怪我をさせた
- いわゆるパワハラで部下の人格を否定する行為を行い、相手をうつ病に追い込んだ
- 自動車の運転を誤って歩行者を死亡させてしまった
などの事例がこれにあたります。
不法行為が成立する要件
不法行為が成立するためには次の条件を満たすことが必要です。
- 加害者に責任能力があること
- 故意または過失によること
- 被害者の権利または法的利益を侵害したこと
- 損害が発生したこと
契約関係があり、債務不履行が生じている時は同時に不法行為に該当するケースもあるため、債権者としてはどちらかを選択して、あるいは両方を求めて、財産的損害、精神的損害などの損害賠償請求(慰謝料請求)が履行請求できることになります。
ただ、債務不履行をしたことが「不法行為」とまで言えるのはかなり悪質な場合であり、たとえば「返済してもらえなかったことにより困窮して一家離散に追い込まれた」などよほどひどいケースでなければ、現実的にはあまり認められないといえます。
債務不履行との比較
債務不履行と不法行為の違いをまとめると、このようになります。
特に立証責任がどちらにあるかということは、訴訟を有利に進められるかどうかにおいて大きなポイントになります。
債務不履行 | 不法行為 | |
前提として契約が存在するか | 原則として契約が必要。 例外的に取引慣行などから債務が生じていると考えられることもある。 |
契約がある場合もない場合も成立する可能性がある。 |
立証責任がどちらにあるか | 債権者が債務不履行の事実を立証すれ(損害を立証する必要はない) | 被害者側が加害者の故意・過失責任がある。 |
時効期間がどのくらいか | ・本来の債務の履行を請求できる時から10年 ・商事債権(営利企業などが債権者となっている場合は5年) |
・損害と加害者を知ってから3年 ・不法行為の発生から20年 |
債務不履行になった場合の対処
債務不履行となってしまったら、どうすれば良いの? 放置していても良いのかな? 返済できなくなってしまったら、まずは債権者に連絡をしよう。 裁判所から通達が来てしまう前に、債務整理を検討する事も1つの方法だよ。
では、理論的な部分を確認したところで、実際に自分が「債務不履行」に陥ってしまったら、どうすればよいのかを考えてみましょう。
もちろん、支払いたくなくて債務不履行になったのではない、払いたくても払えないのだという人が大半でしょう。
ただ、金銭債務について「不可抗力」という抗弁ができない以上は現実的に何らかの対処をするしかないことになります。
予想される債権者の動き、そしてそれに対する対応を考えてみます。
督促への「無視」は絶対にNG
履行が遅滞する(=支払日に遅れる)と最初に電話や手紙などで「督促」されます。
上記で「金銭債務の履行遅滞」に対する手段として説明した「直接強制」の最初の段階です。
その段階での債務者の対応というのは結構大切で、無視や開き直りなど、債権者の心証を害する対応をしてしまうと債権者の態度が硬化することもあります。
大手業者であればある程度マニュアル通りの対応になるでしょうが、中小業者だと予想より早く訴えを起こされることになるかも知れません。
逆に、なぜ遅れているのかということについて誠意をもって説明すれば柔軟な対応をしてもらえることもありますので、電話に出ない、手紙に対して何のリアクションもしないという不誠実な態度だけは避けたいものです。
裁判所からの書類が来たら待ったなし
本来であれば上記の「督促」の段階で対応することが必要ですが、それを過ぎてしまい、裁判所から直接下記のような「裁判期日の呼出状」が来たらもう時間的な余裕はあまりありません。
黙って裁判の期日を欠席すれば、そのまま債権者勝訴の判決が出てしまうことになります。
どうしてもその日に出廷できない事情があるのであれば、裁判所書記官に連絡して「期日の変更」などの対処をお願いしておくべきです。
裁判所が遠くて出向くことができないのであれば、事案によっては「移送の申立て(別の地域の裁判所で裁判をやってほしいという申立て)」をできることもあります。
また、実際に出向くことはできないが自分が言いたいことにつき書面を出しておくことにより「陳述擬制」という状態を作ることもできます。これは、あらかじめ提出された「答弁書」に書かれた内容を被告が述べたものとみなして裁判を進める方法です。
簡易裁判所の場合は2回目以降の期日でもこの陳述擬制を使うことができます。
実際に答弁書を作成しようとしても、法律の素人が自分で裁判に耐えうるようなものを作るのは非常に難しいでしょう。
明らかに一般の人が書いたと思われる答弁書は理論構成がしっかりしておらず、ただ感情論を述べただけのものになりがちだからです。
よって、もし期日の呼出状が届いた場合、すみやかに弁護士(司法書士)に相談し、具体的な対処方法、答弁書を作成するのであれば作成の代理を依頼するのが正しい対応といえます。
債務不履行とは?不法行為との違いと対処法、まとめ
一般的な借り入れの延滞は、不法行為となってしまう事はないんだね。 少し安心したよ。 不法行為となっていないからといって、借り入れを延滞するのではなく、返済できない場合には、弁護士事務所に相談し、弁護士回答を得るなど、適切な対処を取り入れるようにしよう。
- 債務不履行には「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」という3つの態様があるが、金銭債務の履行を怠った場合は「履行遅滞」に該当する。
- 債務不履行に陥ると債権者から「強制履行」「損害賠償」「契約解除」といった措置を取られることがある。
- 金銭債務の不履行については債務者は「不可抗力」を抗弁とすることができないため、いかなる理由があっても損害賠償に問われる。
- 債務不履行と不法行為は契約の存在、立証責任、時効期間などで違いが生じるが、実際に不履行の事実が不法行為とまでいえるのは非常にレアケースといえる。
- もし債権者からの督促や裁判所からの期日呼出状が来たら絶対に無視してはならず、すぐ弁護士(司法書士)に相談して対処方法を検討するべきである。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
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