債務(借金)の相続をしないために!相続放棄の手続きについて解説
父の遺産を相続する事になったんだけれど、父には借金もあったんだ。 亡くなった人に借金があった場合、その借金はどうなるの?
借金も遺産と同じように、マイナスの資産として相続する事になるんだよ。
えーっ! 借金も相続になってしまうの? 借金なんて返済できないよ・・・ どうしたら良いの?
そんな時には相続放棄を検討する必要があるね。 今回の記事では、相続と債務、そして相続放棄について、詳しく説明するよ。
「相続」と聞くと、労せずして財産をもらえるとか、相続人間で財産の奪い合いになるなどという、どちらかといえば「財産がある」ことを前提とした話になることが多いのですが、現実には相続が子供世代にとって借金地獄の原因になることもあります。
では、もし自分に借金がないのに親や家族の残した借金を背負わされてしまった、又は将来借金を相続させられそう、という人はどのような対策を取ればよいのかを考えてみましょう。
相続とは?
財産も負債も両方引き継ぐのが相続
相続とは、ある人が亡くなった時に「その人の法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)」が、亡くなった人(被相続人)の名義になっていたものを引き継ぐ制度です。
プラスの財産として預貯金、不動産、有価証券、自動車、美術品などあらゆる財産を承継する一方で、負債も受け継がなければならないものです。
財産は受け取るが負債は受け取りたくない、というわけにはいかないのです。
もし、どうしても負債を引き継ぎたくないのであれば、後述する「相続放棄」によって、財産と負債をまとめて手放さなくてはならないことになります。
相続を放棄した場合、資産となる不動産の相続も放棄する事になりますから、不動産の管理責任も同時になくなります。
相続人になるのは誰か?
では、実際に法定相続人とされているのはどのような立場の人なのでしょうか。
民法による法定相続人は実際の故人との付き合いの程度などは全く関係なく、血縁関係がどのようになっているかで決まってきます。
基本的なルールを説明します。
- 死亡時点で生存している配偶者がいるのであれば必ず配偶者は相続人になる(内縁関係は含まない)。
婚姻期間が1日でもあれば法律上の配偶者は相続人となる。
逆に、たとえ死亡前日であっても離婚していれば相続人にならない。 - 配偶者は別格として、その他の関係の人は次の順位で相続人となる(先順位が誰もいない場合に後順位の者が繰り上がる形で法定相続人になる)。
第1順位・・・子供(先に死亡している子供がおり、その子供に子供がいれば「代襲相続人」となる)。
前妻との間の子供がいればその子供も後妻の子供と同じ割合で相続人となる。
第2順位・・・直系尊属(親、親がいなくて祖父母がいれば祖父母)
第3順位・・・兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹も相続人になるが、全血の兄弟姉妹の半分の相続分となる。
先に死亡している兄弟姉妹に子供がいればその者が「代襲相続人」となる。)
これらに基づいて、自分の相続分がどのくらいになるのかを把握しておきたいものです。
負債を相続人間で分割することができるか?
プラスの財産については、法定相続分(民法で定められた相続分)での決まり事に関係なく、法定相続人の間であればどのように分けるかを自由に話し合いで決めることができます(遺産分割協議)。
しかし、もし負債も相続人が自由に責任の範囲を決められるということになってしまうと債権者としては思わぬ損害をこうむる可能性があるため、負債については勝手に分けることができません。
つまり、
「被相続人(亡くなった人)の借金については、相続と同時に当然に法定相続分に従って全員に分割され、遺産分割協議の対象にはならない」
ということになります。
親が連帯保証人だった場合の「保証債務」も同様です。
ただ、実際には「親が事業をしていて借金があったが、長男が事業を承継することになっており、銀行からの借金も長男に引き継がせるのが妥当」といったこともあります。
そこで、実務上そのようなケースでは「債権者と話し合った上で承諾を得て長男だけが債務の承継者になる(金銭消費貸借契約をし直す、あるいは債務引受をする)」といった取り扱いがされることになります。
相続放棄とは何?
相続放棄をするには、どうしたら良いの? 遺産をもらわなければ、放棄した事になるの?
3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをしなければ、相続放棄をする事はできないんだよ。
相続放棄は、被相続人(亡くなった人)の最後の住所地の家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することによって行います。
他の相続人に対して「自分は相続財産を引き継がない」という意思表示をしただけでは相続放棄したことにはなりません。
また、相続放棄ができる期間は
- 「相続開始および自分が相続人となったことを知った翌日から3カ月以内」
という熟慮期間がありますので、少し考えているとあっという間に期限が来てしまうことに注意が必要です。
相続放棄ができなくなるのはどんな時?
相続放棄することが出来ないような場合もあるの?
遺産を使ってしまうと、財産を引き継ぐ意思があると判断されてしまうから注意しよう。
相続放棄とは、いかなる場合にもできるわけではありません。
客観的に見て「この相続人は相続財産を引き継ぐ意思があるのだろう」と判断されるような行為をしているにも関わらず相続放棄を認めてしまうと、債権者をはじめとした周囲の人たちとの法律関係が安定しないことになるからです。
相続を承認したとみなされる場合とは?
相続人が「相続します」ということを言葉で表さなくても、相続を承認したとみなされてしまうことがあり、これを「法定単純承認」といいます。
法定単純承認とは、相続人が行った「相続財産に関する行為」などに着目して、「これをやってしまうともう相続放棄できなくなる」ことを定めた規定です。
これは、民法921条に定められています。
条文だけ読んでもなかなかわかりづらいので、一つずつ解説していきます。
民法921条第1項(相続財産の全部または一部の処分)
相続人が相続財産の全部又は一部を「相続人自身のために使った」という場合は、相続を承認したとみなされても異論はないでしょう。
難しいのは、自分のためではない用途に使ったなどの場合です。
実際に問題になった事例を見てみましょう。
- 葬儀費用を相続財産から支払ってしまった
葬儀費用は本来、被相続人の財産から支出するべきものではありません。
なぜなら、死亡後に発生する債務だからです。
葬儀費用の負担を誰がするべきかというのは法律上、明文で定められておらず
- 「喪主が支払う」
- 「法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)が折半する」
- 「相続財産から支払う」
- 「慣習による」
など、ケースバイケースで行われています。
では、相続財産から葬儀費用を支出した場合、その相続人は相続放棄できなくなるのでしょうか?
これについては、
「身分相応の葬儀を執り行ってその費用を相続財産から支出した場合は相続財産を処分する行為とはいえず、よって相続放棄は受理される可能性が高い」
といえます。
ただ、絶対ではありませんので、もし相続放棄が認められなかった場合は「即時抗告」という不服申立をする必要が出てくることもあります。
- 被相続人の借金を返済した
すでに弁済期(借金の返済期限)が来た債務を支払いをしただけなのであればそれは相続財産を処分したことにはなりませんので、相続放棄が認められる可能性が高いといえます。
- 預金の移し替えを行った
預かり金口座に相続財産である預貯金を移したという場合ですが、「故○○預かり金口○○」という口座を作ることができたとしたら、そこに移しても単なる「保存行為」とみられる可能性もあります。
しかし、そもそもそのような口座を作ることに関しては、現在は金融機関も厳しいので応じてもらえないと考えられます。
- 相続債権の取立て
被相続人が持っていた債権を取り立てる行為そのものは「時効の中断」にもなることから、単なる保存行為であるため、処分にあたらないという考え方になるのではないでしょうか。
しかし、取り立てた金銭を消費すれば当然、法定単純承認となり、相続放棄はできなくなると考えられます。
民法921条第2項(相続放棄、限定承認の期間を過ぎた)
上記のように相続放棄には「死亡および自分が相続人になったことを知った翌日から3カ月」という制限があります。
この期間を過ぎてしまえばもはや相続放棄はできなくなります。
ただ、これについては「親の死亡を知っていたが負債があることを全然知らなかった」ということもありますので、家庭裁判所の判断で相続放棄が認められることもあります。
民法921条第3項(相続放棄後の隠匿など)
第1項では、相続の承認、放棄を決定する「前に」相続財産の処分行為を行ったら相続放棄ができなくなるという話でしたが、第3項では、相続放棄や限定承認を行った「後での」背信的な行為について規定しています。
基本的には相続放棄後に「隠匿、消費、悪意で財産目録に記載しなかった」といった行為があれば相続放棄や限定承認の効力が認められなくなるのですが、もしその人が相続放棄したことによって次の順位の人がすでに相続人になっていれば、相続放棄の効果はそのまま持続します(但し書きの部分)。
そのような場合、新たに相続人になった者が背信的な行為をした者(元々相続人になるべきだった者)に対して責任追及をするべき、という意味でこのような規定になっているのです。
相続放棄したければ相続財産には触れない
このように、相続放棄したいと思っている者が不用意に相続財産に触ってしまうと、そのようなつもりがなかったのに「承認」とみなされてしまうことがあります。
文句なしに「保存行為」と判断できるような場合以外は、相続財産には基本的に触れずにそのままにしておくのが正解ということです。
親の債務を相続してしまったら?
相続する時に、借金があるのかどうかを調べるにはどんな方法があるの?
遺品の確認や、個人信用情報の照会をして、債務を確認しよう。
では、不幸にも被相続人に借金がありそうな状況で死亡したら、相続人としてはどのように対応すればよいのかを考えてみましょう。
親の借金をどうやって調べるか?
被相続人の借金を調べる方法としては「遺品を丁寧に見ていく」「心当たりのある金融機関に照会する」ことのほかに、個人の借金に関する情報を持っている「信用情報機関」に照会をかける方法があります。
- 銀行の残高証明書を請求する
被相続人(亡くなった人)の取引銀行に相続人としての立場で「残高証明書」を請求することができます。
この場合、相続人であることを示す戸籍などの提示が必要になりますが、その銀行の他の支店の預金まで洗い出すことができる上に、カードローンなどの借金が判明することもあります。
被相続人がどこの金融機関と取引していたかというのは、いくつか調査の方法があります。
まず、遺品から通帳、カード、請求書などを探し出すというのはオーソドックスな方法ですが、それ以外に、金融機関からもらったであろうカレンダー、ボールペン、メモ帳、タオルなどいわゆる「粗品」が家に残っていないかどうかを調べる方法もあります。
定期預金などを作っているとこれらの粗品をもらいますので、そこから相続人が把握していなかった銀行が判明することもあります。
- 信用情報機関に情報開示請求する
銀行などの他に消費者金融、信販会社などから借金がある人の場合、「信用情報機関」に照会をかけることも有効な方法です。
日本には「JICC」「CIC」「KSC」という3種類の信用情報機関があり、ここでは加盟している金融機関、貸金業者に関する個人の借金の情報を集約しています。
借金をしている本人から情報を照会できることはもちろんですが、本人が死亡した場合、相続人であることを戸籍などで証明すればその人からの照会をかけることもできます。
親は主債務者だった?連帯保証人だった?
親自身が生前、「主たる債務者」だったのか「誰かの連帯保証人だったのか」といった点も相続人の身の振り方を判断する上では重要です。
「主たる債務者」の地位を引き継げば、相続人のところには相続の事実を知った債権者からすぐ請求が来る可能性が高いので、まさに「自分自身の借金」となってしまいます。
しかし誰かの連帯保証人だったのであれば「主たる債務者」がどの程度まで返済しているか、現在は(経済的に)どのような状況なのかによって今後が左右されるからです。
もし連帯保証人だった場合、主債務者や債権者からしっかり現在の状況(残債務額、主債務者の経済的な状態)を聞いておくことが必要です。
事情により相続放棄できない人は
上記のように、相続放棄をするとすべての財産も負債もいっぺんに手放すことになるため、事情があって相続放棄はできれば避けたい、という人もいるはずです。
比較的多いパターンとしては「先祖代々の不動産をどうしても手放したくない」といったものです。
借金の金額、利息の見直し、そして債権者との話し合いで分割払いなどできる余地があるのであれば相続放棄以外の解決方法を見出せることもあります。
たとえば、親の残債務があったとしても分割でなら返済可能というケースを考えてみましょう。
その場合、借金を相続した上で「任意整理」や「特定調停」をする方法があります。
しかし、「個人再生」であれば清算価値保障の関係から不動産を維持することが難しいことが多くなります。
また、「自己破産」であれば、結局債務者の目ぼしい財産はすべて手放すことになってしまうため不動産などの高額財産は配当に回されてしまいますから、最初から相続放棄する方がよいという結論になります。
相続放棄した場合の注意点
もし相続放棄を選んだ場合、必ずやっておきたいことがあります。
それは、自分が相続放棄したことによって相続人になってしまった後順位者に、「あなたが次の相続人になるので必要なら相続放棄してください」ということを伝えることです。
家庭裁判所はある人が相続放棄したからといって次順位の相続人に連絡してくれるということはありません。
何の前触れもなく借金の請求が来た親族との間で人間関係にヒビが入るといったことを防ぐためにも、事前にしっかり伝えておくことが大切です。
なお、上記のケースでは、あくまで「長男が相続放棄したことにより、初めて父の兄弟は相続人の立場を獲得する」ことになるので、両者が同時に相続放棄の手続きをすることができず、順番に行う必要があります。
これに対して「同順位の相続人が複数いる場合」は同時に手続きすることができます(この場合、申立ての添付書類で複数人に共通するものがあれば兼用することもできますので、家庭裁判所に相談しながら行うとよいでしょう)。
相続放棄すべきラインの見極め
どこまでが相続放棄すべき案件でどこからがしなくてよい案件なのかを一般の人が見極めるのは困難なこともあります。
残債務の金額、予想される債権者の対応、債務者自身の今後の生活などを総合的に見て判断しなければならないからです。
ただ、不動産を維持したいからどうにかして借金を返そうと考えて無理をすることは禁物です。
いったんは相続したとしても、もし後から不動産の維持費(固定資産税や修繕費など)すら支払えない状況になれば、いずれ役所から税金滞納で差し押さえ、競売となってしまうので、結局不動産も取られてしまうからです。
「調べたところ親に借金はあるようだができれば相続放棄は避けたい」という人は、急いで財産や負債に関する資料を持って弁護士(司法書士)のところへ相談に行くことをおすすめします。
相続放棄しなければならなくなった場合は3カ月の期間を過ぎるわけにいきませんのでこの場合、「迷っている暇はなく、すぐ相談」ということだけは覚えておきましょう。
債務と相続放棄の関係について、まとめ
遺産を相続する場合には、債務に気をつけなければいけないんだね。 相続放棄の手続きをしなければいけないという事がわかって良かったよ!
相続放棄した方が良いのかどうかわからない場合には、弁護士など専門家にできるだけ早く相談し、弁護士回答を得ることが大切だよ。
- 相続とは被相続人の財産と負債、両方を引き継ぐことである。
- 法定相続人は民法で定められており、プラス財産を相続人の話し合いで分割することはできるが、負債を債権者の承諾なしに勝手に相続人の間で分割することはできない。
- 負債をどうしても引き継ぎたくないのであれば家庭裁判所への3カ月以内の「相続放棄」によって、財産と負債の両方をいっぺんに手放す必要がある。
- 外形上「相続を承認した」と判断されるような行為があると、相続人自身が表明しなくても相続の承認とみなされてしまうことがある(法定単純承認)ため、相続放棄したい場合は保存行為以外で相続財産に触れないのが正解である。
- 亡くなった人に債務があるという疑いが持たれる場合には、「信用情報機関への情報照会」や「遺品をくまなく調べる」などの方法で早期に明らかにする必要がある。
- 自分が相続放棄したことによって次の順位の相続人が繰り上がる場合、その人に相続放棄することを伝えておくことが大切である。
- 相続放棄すべきかどうかの判断が難しい場合、財産や負債に関する資料を持参して「すみやかに」弁護士(司法書士)のところに相談に行くべきである。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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