家賃滞納したまま自己破産するとどうなるのか
自己破産をする時って、家賃分も自己破産に加えることはできるの?
もちろん可能だよ。 自己破産手続き前の家賃は、全て自己破産に組み込むことができるんだ。
家賃を自己破産しても、そのまま今の家に住むことってできるのかな?
滞納分を全て自己破産してしまうと、そのまま住むことは難しくなってしまう可能性が高いね。 今回の記事では、家賃滞納している時に自己破産をする時の注意点について、詳しく見ていこう!
- 借金で首が回らなくなり、家賃まで滞納してしまった
- 滞納家賃を支払えないので、自己破産したい
- 自己破産しても、家を明け渡したくない
- 自己破産するとき、家賃だけをまとめ払いすると問題がある?
借金返済が苦しくなると、家賃まで滞納してしまう方がたくさんおられます。
その場合に自己破産するとどういった影響があるのか、家を出て行かずに済むのはどういう場合か、解説していきます。
滞納家賃も自己破産で免責される
そもそも賃貸物件に住んでいて家賃を滞納しているときに自己破産すると、滞納した家賃を支払わなくて良くなるのでしょうか?
家賃の取扱いについては破産手続き開始決定前に滞納していた分か、破産手続き開始決定後に発生する分かによって異なります。
破産手続き開始決定前の滞納家賃について
破産手続き開始決定前に既に滞納していた分があれば、自己破産による「免責」の対象になるので、支払わなくて良くなります。
現状ですでに家賃を何か月も滞納していて、大家からしつこく電話や手紙などで家賃の督促を受けていたり、裁判されて差押えを受けそうだったりする場合でも、自己破産をすると滞納家賃の請求をされなくなるということです。
破産手続き開始決定後に発生する家賃について
一方破産手続き開始決定後に発生する家賃は、自己破産によっても免責されません。
家に居住している限り家賃を支払い続ける必要があります。
もし支払いをしなければ、大家から賃貸借契約を「契約解除」されて追い出されてしまうでしょう。
以上のように、すでに家賃滞納がかさんで支払えなくなっているならば、自己破産は有効な解決方法となります。
家賃滞納を自己破産に含めると退去させられる可能性
家賃分も自己破産したら、必ず退去しなくちゃいけないの?
自己破産=退去というわけではないんだけれど、3か月以上の滞納は債務不履行にあたると判断されてしまうから、退去しなければいけない可能性が高いんだ。
しかし滞納家賃を自己破産の対象に含めて免除してもらうと、家を退去させられる危険性があります。
賃貸借契約を「解除」される可能性
賃貸アパートなどの賃貸物件に居住している場合、あなた(賃貸人)と大家さんとの間には「賃貸借契約」が成立しています。
契約ですから、お互いに義務を負っています。賃貸人が大家さんに対して負っている義務は「賃料支払い義務」です。
ところが何か月も賃料を支払わず滞納してしまったら、賃貸人は重要な賃貸借契約の義務違反をしていることになります。
そこで大家さんは、賃貸人の義務違反(債務不履行)を理由に賃貸借契約を「解除」できるのです。
賃貸借契約が解除されると、契約はなかったことになりますので、大家さん側の賃貸人に対する義務もなくなります。
大家の義務は「家を住める状態で賃貸人に提供する」ということですから、賃貸人は家に住まわせてもらえなくなり、追い出されてしまう可能性があります。
賃貸借契約を解除できる条件とは
それでは、自己破産をすると必ず賃貸借契約を解除されて家を追い出されるのでしょうか?
実は、そういうわけでもありません。
自己破産は賃貸借契約の終了事由になっていないからです。
賃貸借契約を解除するには「賃借人が信頼関係を破壊するような背信行為」をしたことが必要です。
家賃滞納の場合、保証金を使い切り、おおむね3か月分以上を滞納したら、信頼関係が破壊されると考えられています。
このことは、自己破産をしてもしなくても関係ありません。
「自己破産で家賃を免除してもらったから解除はしないでほしい、家に住まわせてほしい」と言っても、聞いてもらえるものではありません。
家を明け渡すタイミングについて
そうだとすると、今度は「いつ家を明け渡すべきか」が問題となります。
破産前に家賃を滞納していた場合、自己破産の手続きと同時に家主に対し「破産手続きのお知らせ」を送り、滞納家賃についての債権届を依頼することになります。
そして、滞納家賃が免責対象になることを知らせ、もはや滞納家賃の支払いをしないことも通知します。
この時点で多くの家主は退去を申し入れてくるでしょう。
もちろん、退去を申し入れられてすぐに出て行けるのであればそれでもかまいませんが、多くの債務者の方は、自己破産申し立て直前に引越をするための費用を用意できない人がほとんどでしょう。
中には生活保護を検討しなければならない程、生活状況が悪化している人もいます。
そこで家主に話をして、明け渡しの期限を決めて合意をし、その時点までは住まわせてもらう方法をお勧めします。
たとえば「2か月以内に明け渡す」という条件で家主が納得すれば、その間に自己破産の準備と引越の準備を進めて退去すれば良いのです。
未払い家賃は自己破産によって免責されるので、前の大家からそれ以上追及されることはなくなります。
一方、大家が明け渡し期間に猶予を与えることに納得せず、裁判を起こしてきたり強制執行をして明け渡しを求めてきたりするケースもあります。
ただ裁判をしても、明け渡しの強制執行までに数か月以上かかってしまうので、すぐに退去させられることはありません。
裁判が行われている間に早めに引越の準備を進め、できるだけ早期に明け渡すのが良いでしょう。
普通に作業をすれば、明け渡しの強制執行よりは前に引越を完了できるはずです。
家賃分だけ支払う事は可能?
退去しなきゃいけないのは困るから、自己破産の前に、家賃だけ支払ってしまえば良いのかな?
任意整理の場合には、家賃の支払いを債務整理に組み込まないことができるけれど、自己破産の場合には、全ての借金を破産手続きに組み込まなくてはいけないんだ。 だから、自己破産手続き前に家賃分だけを支払うと、偏頗弁済とみなされて、最悪の場合自己破産の手続きができなくなってしまう事があるから注意しよう。
次に、自己破産をしても家を出て行かずに済む方法がないのか、検討しましょう。
滞納家賃を含めず自己破産する方法はNG
家賃を滞納している場合、自己破産をすると滞納家賃が免責されるので、不払い状態になって家から追い出されてしまいます。
そうであれば、滞納家賃を自己破産の対象に含めずに支払をすれば退去せずに済むのでしょうか?
実はこのように「滞納家賃だけを支払う」と、自己破産の手続き上問題が発生します。
自己破産では「特定の負債のみを支払う」という「偏頗弁済」が禁止されているからです。
偏頗弁済とは
偏頗弁済とは、「特定の債権者だけを特別扱いする」ことです。
たとえば優先的に支払をしたり担保提供をしたり、債権者の存在を隠して自己破産の免責対象から外したりすると「偏頗弁済」となります。
偏頗弁済は「免責不許可事由」の1種です。
つまり自己破産をしても債務の免除をしてもらえなくなる可能性があります。
破産管財人がつき、免責不許可になると、滞納していた家賃だけでなくすべての負債が免除されずそのまま残ってしまいます。
自己破産するとき、偏頗弁済は絶対やってはいけません。
滞納家賃だけ支払ってはいけない
滞納家賃の債権者である大家も債権者の一人なので、特別扱いは許されません。
家賃だけを支払うと、「偏頗弁済」となって自己破産の効力が否定されてしまうリスクが高まります。
滞納家賃の存在を隠して自己破産した場合はもちろんのこと、自己破産の直前に家賃を「まとめ払い」することも許されません。
たとえば家賃を3か月分滞納していて大家から「支払いをしないのであれば出ていってほしい」と言われているとき、「家賃を支払ってから自己破産しよう」と思って家賃を支払うと、免責不許可事由になってしまいます。
このように家賃を滞納している場合
- 家賃を払わないまま自己破産する。家からは退去する
- 家賃を支払って家に住み、自己破産はしない
どちらか2択になってしまい、困った状況になってしまいます。
破産手続き開始決定後の家賃はきっちり支払う
なおこれは「破産手続き開始決定前に発生した家賃」の問題であり、破産手続き開始決定「後」に発生する家賃については、支払いをしても問題ありません。
破産手続き開始決定後の家賃は免責の対象となる破産債権にならないからです。
むしろ支払わないと追い出されるので、きちんと払ってください。
家を退去せずに済む方法とは
家賃の自己破産をしても、退去せずに済む方法はないのかな?
同一生計以外の家族に家賃の支払いを依頼するか、大家さんと話し合って、自己破産手続きが開始となってからまとめて支払えば、退去せずに済む場合もあるよ。
家賃をすでに滞納しているけれど自己破産をして借金の免除を受けたい場合、借金の免除を受けつつ家も退去せずに済ませる方法はないのでしょうか?
実はそんな都合の良い方法が、いくつか存在します。
家族が滞納分を支払う
1つは、自分以外の人に滞納家賃を払ってもらう方法です。
自己破産するとき、破産者本人が特定の債権者を優遇すると「偏頗弁済」となり免責不許可事由になってしまいます。
ただし破産者以外の人が支払うのであれば、偏頗弁済にはなりません。
また賃貸借契約の負債は、必ずしも債務者本人が支払わねばならないものではなく、第三者が弁済することも認められます。
そこでまずは家族などの周囲の人に、家賃を代わりに支払ってもらえないか頼んでみましょう。
親や兄弟など支払いをしてくれる人がいたら、とりあえずお願いして支払ってもらえば家を追い出される危険性はなくなります。
さらに連帯保証人がいたら、その人には連帯債務として、もともと支払義務があるので、連絡して支払いをお願いしてみましょう。
家族に頼む場合の注意点
家族に家賃の立て替えを依頼するとき、注意点があります。
それは、同一家計の家族に立て替えを依頼するとまずいことです。
たとえば夫が自己破産するときに専業主婦である配偶者(妻)に家賃の立て替えを依頼したとします。
妻が生活費の口座から家賃を支払ったら、結局破産者本人である夫が支払ったのと同じ結果になります。
妻が妻の実家からお金を出してもらって家賃を支払ったのであれば問題になりませんが、同一家計の家族がお金を出した場合、裁判所も「実質的には偏頗弁済ではないか?」という厳しい目で見てくるので注意が必要です。
破産手続き開始決定後に支払う
もう1つの方法が、破産手続き開始決定後に滞納家賃を支払う方法です。
自己破産の手続きでは「破産手続き開始決定時」がターニングポイントとなります。
このときまでに溜まっていた負債が免責の対象となり、このときに存在していた財産が配当の対象になります。
そこで破産手続き開始決定後に取得した財産や破産手続き開始決定時に自由財産と認められた財産については、自由に使っても良いのです。
つまり破産手続き開始決定後であれば、滞納家賃のみを支払ってもかまわないということです(ただし使って良いのは自由財産と新たに取得した財産であり、配当すべき財産から支払いをするのは禁止です)。
自己破産の予定がある場合、事前に大家と相談をしておいて、破産手続き開始決定まで待ってもらい、手続き開始決定があったら分割などで家賃を払っていくと家に住み続けることが可能となります。
滞納家賃があって自己破産するなら家主との話し合いが必須
以上のように、破産手続き開始決定前に家賃滞納があったら基本的に「免責」の対象になって支払わなくて良くなりますが、その場合、退去リスクが発生します。
退去しないためには、家主との話し合いが必須となるでしょう。
親族や友人知人にまとめ払いしてもらうとしても、破産手続き開始決定まで支払いを待ってもらうにしても、家主による理解を得ておくべきです。
この時点で家主との関係が悪化してしまったら、その後賃貸借契約を継続するとしてもトラブルの原因になる可能性が高まるからです。
滞納家賃が溜まって支払いが苦しくなっているならば、自分がどうするのかを決めて(明け渡すのか引きつづき住みたいのか、誰がいつ滞納賃料を払うのかなど)、大家や管理会社に連絡を入れましょう。
自己破産しても新たな賃貸借契約は可能
自己破産をすると、新たに賃貸契約を進めるのは難しくなるのかな?
そんなことはないよ。 まれに賃貸保証会社と金融業者と保証会社が同じような場合には、断られてしまう事もあるんだけれど、自己破産をしていても、新たな契約には影響がないことがほとんどだよ。
家賃を滞納している場合、その家に固執せずに退去して別の賃貸物件を借りる選択肢ももちろん存在します。
ここで1つ問題があります。
自己破産をすると、いわゆる「ブラックリスト」状態となってローンやクレジットを使えなくなってしまうことが知られていますが、不動産の賃貸借契約はできるのでしょうか?
まずブラックリスト状態により、不動産の賃貸借契約に影響はありません。
基本的にはどのような物件も借りることができます。
ただし自己破産するとクレジットの審査に通らなくなるので、家賃を「クレジット払い」するタイプの賃貸物件は利用できない可能性が高くなりますから、事前に情報収集を行っておくようにしましょう。
それ以外のケースであれば問題になることはほぼないので、安心しましょう。
まとめ
家賃滞納と自己破産の関係について、良くわかったよ! 自己破産をしても住みつづけることが出来る可能性もあるんだね。
大家さんとの関係が悪くなってしまうと、たとえ自己破産の後に滞納分を支払ったとしても、退去して欲しいと言われる事もあるから、自己破産の手続きの前に弁護士を交えて話し合いをするのがお勧めだよ。
家は生活の基本となる重要な要素なので、住むところがなくなるのは重大な問題です。
滞納家賃の問題でお困りであれば、一度債務整理が得意な法律事務所や司法書士事務所に相談し、弁護士回答を得た上で検討すると良いでしょう。
福谷陽子
元弁護士・ライター。
弁護士としての活動した約10年間のうち、7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては債務整理案件を多数担当し、任意整理・個人再生・自己破産のみならず、過払金請求も手がける。
その経験をもとに、現在はライターとして法律関係の記事を執筆している。
■略歴
・京都大学法学部在学中、司法試験合格
・京都大学法学部卒業後、司法研修所入所
・弁護士登録・某法律事務所にて勤務
・独立し、陽花法律事務所を設立
・弁護士活動を停止し、ライターに転身
■ご覧のみなさまへのメッセージ
借金問題を抱えていると、追い詰められた気持ちになるものです。
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