電気料金などの公共料金を滞納して払えない場合、債務整理の対象にできる?
今回の記事では、公共料金を債務整理をするにはどの方法がお勧めとなるのか、債務整理手続き中に電気を使う事はできるのか、詳しく解説していくよ!
何社もの貸金業者や銀行などから借金を重ねている人は、多くの場合、税金や公共料金等も滞納しているものです。
では、もし電気代のような公共料金を滞納してしまった場合、債務整理で減額などすることはできるのでしょうか?
電気料金は債務整理できるのか
下水道料金以外であれば、自己破産手続きにより債権をチャラにする事ができるけれど、自己破産の申し立て後には、公共料金を支払わなければいけないため注意しよう。
電気料金等の公共料金も、債務整理の種類によっては整理の対象になりますが、一般の債権者とは少し異なる取扱いがされることに注意が必要です。
電気料金の任意整理はできない!
現在、一般的に良く使われる債務整理の方法として「任意整理」「個人再生」「自己破産」がありますが、このうち任意整理については裁判所を通さずにもっぱら弁護士(司法書士)が代理人となって債権者と交渉する方法です。
任意整理にはこのような特色があります。
- 特定の債権者だけを選んで債務整理できる。
- もし、過去に(主に平成20年の貸金業法改正以前くらいまでに設定されていた)年利29.2%やそれに近い高金利の業者から借入れ、返済を繰り返していた人で過払い金が発生している場合は取り戻して他の業者への返済に充てられることがある。
具体的には、旧法時代に「グレーゾーン金利」と呼ばれていた「払い過ぎ利息」の部分を「元本分を支払っていた」とみなす(=利息制限法上限利息への引き直し計算)ことで、債権者の主張する残債務よりも債務を減らす。
- 基本的に将来の利息、損害金をカットできる。
- いわゆる「利息引き直し計算」をした後の元本についてはそれ以上の減額はできないが、ある程度長期の分割払いを認めてもらえることがある(どの程度まで認められるかは業者ごとに基準が異なる)。
※利息引き直し計算…貸金業法改正前の高金利で行われていた消費者金融などの取引を適正な利息に直すための計算。
※任意整理の詳しい概要や流れについてはこちらの記事を参照してください
任意整理の効果が最大限に発揮されるのは「利息が高かった時期(平成20年より以前くらい)に長く取引していたために利息の払い過ぎが見込まれる一般の消費者金融や信販会社」です。
もともと法改正後の低くなった金利で借りている人(適正金利だった人)の場合は、引き直し計算する余地がありませんし、元本からの減額がほぼできません。
つまり、任意整理をするにあたっては「分割払いで月々支払額を軽減する」「将来利息等がなくなる」という効果しかありません。
そして電気、水道、ガスなどの公共料金に関して言えば、任意整理の手続きに組み込んで他の債権者と同じ手法で分割払いの交渉をすることはできません。
ただ、公共料金の他にも多数の貸金業者からの債務を抱えており、そちらを任意整理によって長期分割にし、月々負担が減ることで公共料金の支払いを楽にすることができるケースなら、任意整理する意味があるといえます。
手続きに踏み切る前に、公共料金以外の債権者の支払いがどの程度楽になる見込みがあるのかを弁護士にシミュレーションしてもらっておく方が良いかも知れません。
もし、公共料金のみ滞納している場合には、住んでいる地域によっては滞納分を分割払いにすることを認めてくれるケースもありますので、ひとまず供給事業者に相談してみるのもひとつの方法です。
公共料金を含む個人再生は可能だが、減額されるわけではない
個人再生とは、裁判所の関与はあるものの、元本自体が一定の金額まで減額されて基本3年の分割払いにできるという手続きです。
次のような特色があります。
- 全債権者を平等に取り扱う(特定の債権者を除外することができない)。
- 利息引き直し計算をした後の債務から、さらに元本を減額することができる。
一般の債権者(貸金業者など)についての減額幅は下表のとおり法定されている。
- 裁判所を通じた手続きのため、書類も多く煩雑で期間がかかる。
- 基本は3年(36回)の分割払いとなる(例外的に5年となることもある)。
全債権者の中に公共料金がある状況で個人再生することはできますが、公共料金は「共益債権」と呼ばれる特別な性質の債権です。
共益債権とは、「全債権者の利益のためになる債権」という意味であり、民法上「先取特権」と呼ばれるものの一種で、他の債権者よりも弁済の優先権がある債権です。
具体的に言えば、債務者が電気や水道を使って生活していくことは他の債権者への弁済資金をひねり出すためにも必要なものである、との考え方によるものです。
共益債権については民事再生法の中で次のように特別の取扱いが定められています。
【民事再生法121条】
1項 共益債権は、再生手続によらないで、随時弁済する。
2項 共益債権は、再生債権に先立って、弁済する。
つまり、個人再生手続きに組み込まれた債権者への債務を勝手に支払ってはならないが、共益債権は特別扱いとされるため払ってしまってもよい、という意味です。
共益債権は債権者平等の例外といえるものです。
電気料金を債務整理する場合には自己破産がおすすめ
もし、他にも多くの債務がある上に、滞納した電気料金がまとまった金額になっており、それが生活を圧迫する一因になっているようであれば「自己破産」の選択が適していることもあります。
自己破産は「税金、社会保険、養育費」等、一部の特殊な債務を除いてはすべての債務が免責される(=チャラになる)手続きです。
自己破産すると、債務者が所有している財産は、「自由財産」と呼ばれる一部の財産を除き「債権者に配当するための財産」となります。
これは破産管財人の管理下に入りますが、この財産の集合体を「破産財団」と呼びます(配当すべき財産がなくて「同時廃止」となった場合を除く)。
※破産財団や自由財産について詳しくはこちらの記事を参照してください。
財産が破産財団に組み込まれると、債務者はそこから勝手に債権者に弁済することはできなくなり、基本的には破産手続きの中で配当額などが決まっていきます。
しかし、この原則が適用されず「例外的に破産手続きによらなくても直接破産者の財産から支払ってよい債権」があり、破産申立てをした月1ヶ月分の公共料金もこの類型に入りますので「青い矢印部分」については支払わなくてはなりません。
そしてそれより以前の滞納分(赤い矢印部分)については破産手続きの中で免責されます。
ただ「下水道」については「地方自治法」によって租税と同じ位置づけがされているため、自己破産によって免責を受けることができません。
つまり、破産の前後を問わず払い続けなくてはならない債務ということです。
なお、破産手続きが始まってから将来に向かっての部分(緑の矢印部分)については通常通りに支払いをしなくてはなりません。
電気代を債務整理すると電気は使えなくなるのか
では、電気代等の公共料金を債務整理した場合、電気を止められてしまうようなことがあるのでしょうか?
債務整理をしても利用可能
自己破産で過去の滞納分についての公共料金が免責されると説明しましたが、未納部分を結局払わなかったのであれば電気等を止められてしまうのではないか?という心配もあるのではないでしょうか?
これについては心配はなく、破産手続に則って滞納分をきちんと処理した場合、電気等は止められないことになっています。
【破産法第55条】
1項 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。
ただ、破産手続開始決定後の部分については上記のとおり、支払いをしなければなりませんのでこの部分を滞納していると止められることがあるという点に注意しましょう。
自己破産手続中に電気代の支払いはできるのか
電気を止められていて困っているんだけれど、どうしたら良いのかな?
過去の滞納分を自己破産で処理し、免責を受ければ電気等がストップすることはないと説明しましたが、破産手続きがまだ終わっていない状況ではどうでしょうか?
公共料金の支払いは偏頗弁済にならないことが多い
自己破産手続中に現在使っている請求分の公共料金を支払うことは問題ないということを説明しましたが、過去の滞納分を解消したいと考えて支払ってしまった場合はどうでしょうか。
上記のように本来、過去の公共料金については免責の対象となりますので、それを他の債権者に先駆けて支払ってしまうと厳密には「偏頗弁済」といって、債権者を平等に取り扱う自己破産のルールに反する行為となります。
しかし、電気代や水道代などは生活のために最も必要かつ基本的な費用といえるものですので、実際に支払ってしまっても実務上では偏頗弁済とはみなされないことが多いといえます。
とはいえ、やはり滞納分を支払うことについては勝手に行わず、必ず弁護士に相談するようにしなくてはなりません。
もちろん、上記のとおり、今後発生する部分についてはきちんと支払って生活を健全に維持し、経済的な再建を早くできるようにすることも大切です。
まとめ
電気が止められてしまう事なく手続きを進めることができるってわかって安心したよ。
公共料金を自己破産する時には、申し立て後、支払いを滞納することがないように注意しよう。
- 電気代などの公共料金については「任意整理」の手続きに組み込んで分割払いなどの交渉をすることはできないが、他の債権者に対する債務が多い人はそちらを整理することで公共料金の支払いを楽にする方法もある。
- 公共料金を「個人再生」の債権者として挙げることはできるが、債務を減額する対象にはならない。
- 公共料金を「自己破産」した場合、過去の滞納分については免責の対象になるが、申立月を含めた将来の部分は普通に払っていかなければならない。
ただ、過去の分を支払ってしまったとしても実務的には偏頗弁済の取扱いにはならないことが多い。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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