自己破産をすると選挙権や職業・就職、資格の制限がかかるって本当?専門家が詳しく解説
だけど職種によっては、制限がかかってしまう物があるっていうのは本当だよ。
今回の記事では、自己破産で制限を受ける職業や制限を受ける期間はどの位になるのかを詳しく見ていこう。
自己破産をすると実際にどのようなデメリットがあるのかということはあまり知られていません。
ネット上などでもマイナスイメージに基づく間違った情報が数多く流れていますが、現実には自己破産による制限やデメリットは意外と少なく、しかもその期間も短いことがあります。
ただ、ある業界の人にとっては非常に深刻となるデメリットのひとつに「自己破産による職業制限」があります。
本記事では、これから自己破産しようとする人にとってはまさに死活問題でもある「今の仕事を続けられるかどうか?」という点を詳しく確認していきます。
自己破産で制限がかかるものとは
これらの資格を取得する場合にも制限がかかるから注意しよう。
自己破産すると選挙権がなくなるとか戸籍に載るといった話は全くのデマですが、
- 決められた一定の職種について一定期間制限される
- 信用情報機関の事故情報(いわゆるブラック情報)により、一定期間借金やクレジットカード作成ができなくなる
- 官報への掲載によって闇金から借金の勧誘を受ける
などは事実です。
※信用情報機関・・個人の借金の情報を管理する機関。
現在、日本には「KSC」「JICC」「CIC」の3社がある。
銀行、信販会社、消費者金融などが加盟会社となっており、各社が自分の貸し付ける顧客の情報を提供し、各社が情報を共有している。
まったく関係ない職種の人には何のデメリットもない「職業制限」ですが、該当する職種の人にとっては今後の生活を左右する、非常に重要な問題です。
誤解してはならないのが、(これは債務整理全般について同じなのですが)基本的には「債務整理したからといって必ずしもその職場を辞めなければならないわけではない」点です。
特に中小零細企業に勤務する人の中には「会社全体が借金についてとても厳しい雰囲気です。債務整理するなら会社を辞めることになってしまうのでしょうか?」といった心配をしていることもあります。
しかし、債務整理したことにより解雇というのはまったく根拠がありませんし、退職せざるを得ないような圧力をかけるのであればそれは労基署などしかるべき機関に相談するレベルの話です。
そもそも自分から借金していることや債務整理することを会社に告げる必要もありませんし、退職金見込証明書などを会社から取得しなければならない場合でも、それが債務整理のためであることを申告する義務もありません。
基本的に職業制限に該当しない労働者は、きちんと雇用主に対して求められた労務を提供さえできていればよいのです。
では、具体的にどのような職業が「自己破産による職業制限」の対象となるのでしょうか。
自己破産で制限がかかる職業
自己破産によって業務を行うことを制限されるのは、主に
- 他人のお金を預かる
- 他人にお金を貸す
などの業務に深く関わる業種です(もちろんこれに該当しない職種で制限がかかるものもあります)。
例えば士業と言われる資格職、公務員の中の一部の職種、金融業、生命保険募集人、旅行業取扱管理者、警備員、銀行の取締役等です。
また、許可申請が必要な職業で「許可を取るための要件としての欠格事由」に該当してしまうことがあります。
建設業許可、風俗営業許可などがこれに当たりますが、「復権すれば」許可を取ることができるため、時期をずらして許可申請をするという手段はあります(時期の問題は後述します)。
自己破産で制限がかかる資格とは
自己破産によって最も厳しい制限がかかるのは「弁護士、弁理士、公認会計士、税理士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士、社会保険労務士」のような国家資格に基づく職業です。
これらの仕事は国家資格という信用を与えられており他人の金銭を預かる機会も多く、高い職業倫理が求められているため、他の職種よりもその規制が厳しいものになっています。
- 自己破産して復権しないうちは登録欠格事由になる(登録できない)
- すでに登録されている上記資格者は、自己破産したらそれぞれの会(弁護士会など)への申告義務があり、会側はその会員を登録抹消しなければならない(「できる」ではなく「しなければならない」点に注意)。
- ただし、国家資格の合格自体が取り消されるわけではないため、復権すれば再度登録することができる。
なお、「生命保険募集人」などのお金を取り扱う仕事についても、自己破産すると仕事ができないというのは比較的知られていますが、こちらについては「登録を取り消すことができる(=必要的取消ではない)」という点で士業等とは若干異なります。
「警備員」については通常、警備業を営む会社に警備員として登録することになりますが、その際に多くの会社は欠格事由に該当しない(=自己破産していない)旨が記載されている「身分証明書」という書類を提出することになりますので、自己破産した人は登録できません。
※ここで言うところの「身分証明書」とは、一般的に言うところの運転免許証などとは異なり、公的文書として市役所などで取得するものです。
身分証明書
本籍 東京都〇〇市・・・・
本人氏名 山田 太郎
生年月日 昭和〇年〇月〇日
1.禁治産又は準禁治産の宣告の通知を受けていない
1.後見の登記の通知を受けていない
1.破産宣告又は破産手続開始決定の通知を受けていない
上記のとおり証明する。
令和〇年〇月〇日
〇〇市長 〇〇〇〇
実際に警備員として働いている最中の自己破産では、短期間で復権した場合などはバレない可能性もありますが、万一バレてしまえば会社が責任を問われることになりますので手続き前に必ず会社に相談しなくてはなりません。
自己破産で制限を受ける期間
自己破産したことによる職業制限は期間限定のものです。
「破産手続開始決定」から「免責許可決定の確定(=復権)」までの期間が制限を受けることになるのですが、これが具体的に「何カ月(あるいは何年)になるか?」については、本当に個人差があります。
制限がかかる期間とは
では、職業制限を受ける期間について図を見ながらイメージしてみましょう。
赤枠で示した「職業制限がかかる期間」は一般的にどのくらいになるのでしょうか?
本当に債権者も少なく単純な事案で、「同時廃止」の手続きになる人は最短2、3カ月程度で免責までいけることもありますが、まとまった財産があったり、免責不許可事由があるなどの人は「管財事件」となり1年以上かかることもあります。
※同時廃止・・破産手続の種類。債務者に配当できるような財産および免責不許可事由(詐欺的借入等)がないため、破産手続開始決定と同時に破産を廃止(手続きを終わらせる)すること。
通常この後すみやかに免責の手続きに移り、手続き全体が非常に早く終結する。
※管財事件・・破産手続の種類。債務者に配当できる財産があったり免責不許可事由(詐欺的借入等)がある場合に破産管財人が選任されて配当や調査などが行われる。
これらが終結すると免責手続きに移るが、全体として手続きが長期化することもある。
※免責不許可事由・・債務者に、免責を認めるのが相当ではないような事情があること。
ギャンブルで大幅に財産を失う、債権者を騙して借入れするなどが代表的。
弁護士(司法書士)に相談した時点ではまだ制限は受けませんので、法律家と話している中で
- 自分は職業制限に引っかかるのか?
- 引っかかるのであれば自己破産以外の手続きを選択するべきか?自己破産を回避できる余地があるのか?
- 転職した方がよいのか?会社と相談して対処してもらうなどの方法を取れるのか?
こういった点を検討していくことになります。
復権とは
上記の図では代表的な「復権」のパターンである「免責許可決定が確定した」事例を挙げました。
これ以外にも復権できるケースが破産法により定められています。
こちらは免責許可決定の確定等を含む「当然復権」と呼ばれるパターンです。
破産法第255条
1項 破産者は、次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には、復権する。次条第一項の復権の決定が確定したときも、同様とする。
一 免責許可の決定が確定したとき。
二 第二百十八条第一項の規定(破産債権者の同意)による破産手続廃止の決定が確定したとき。
三 再生計画認可の決定が確定したとき。
四 破産者が、破産手続開始の決定後、第二百六十五条の罪(詐欺破産罪)について有罪の確定判決を受けることなく十年を経過したとき。
また、当然復権の他には、破産法第256条により「申立てによる復権」が認められています。
破産法第256条
1項 破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は、破産者の申立てにより、復権の決定をしなければならない。
いつ復権するか?は職業制限にかかる職種に就いている人にとっては重要な問題です。
自分の案件が上記の「同時廃止」「管財事件」のどちらになりそうか、免責を得られるまでに何カ月くらいかかりそうかを、あらかじめ手続きを依頼する弁護士(司法書士)との間で打ち合わせ、見通しを立てておくことが大切です。
自己破産は就職に影響するのか
自己破産中、自己破産後に就職活動をしようとした場合にはどうなるのでしょうか。
破産者の就職への影響について考えてみましょう。
自己破産は就職や転職に影響しない可能性が大
自己破産した場合、基本的には自分から言わなければその事実がわかる可能性は非常に低いです。
ただ、一つだけ注意したいのが、「自己破産」や「個人再生」の手続きをすると「官報」という国の機関紙に住所と氏名が掲載されてしまいます。
仮に、毎回それをチェックしているという人に限ってはどこの誰が破産したという事実を知ることができるのです。
そこで、金融、保険関係や自己破産などをした人を避けたい企業においては応募者がそれに該当していないか官報をチェックしてデータ化している可能性もないわけではありません。
しかし金融に関連しない職種であれば官報まで見ている可能性は極めて低く、履歴書に経歴として記載する必要もなければ面接で申告する義務もありません。
就職や転職に自己破産が影響する場合とは
なお、上記に挙げた「制限の対象となる職種」に就きたい人は就職、転職の時期については注意する必要があります。
上記のように、一般的に自己破産の事実を会社に告げる必要はないのですが、制限対象職種であれば手続がまだ終了していない(=復権していない)のであれば事実上業務ができないため、応募することができなくなってしまいます。
もしも復権までそれほどかからない見通しであれば、復権を待ってから活動を始める方がよいでしょう。
ただ、想定より復権の時期が遅れれば希望の会社に応募できない可能性があること、そして、現在すでに制限職種についていて自己破産を予定している場合には、会社に部署替えなど何らかの対処をしてもらうか、最悪の場合退職する必要が出てくることもあります。
どのような対応が望ましいのかは自己破産手続きの種類や職種、勤務先の会社によっても異なりますので完全にケースバイケースといえますから、手続きを依頼する弁護士(司法書士)のアドバイスを受け会社とも相談しながら慎重に判断するようにしましょう。
まとめ
制限を受ける職場で働いている場合や、制限を受ける職業に就きたい場合、資格を取得する場合には注意が必要なんだね!
- 自己破産することのデメリットのひとつに「職業制限」があり、対象の職種は「士業」「警備員」「旅行業取扱管理者」「生命保険募集人」など多岐にわたる。
- 職業制限を受ける期間は「破産手続開始決定~復権(免責許可決定の確定など)」であり、人によって2、3ヶ月~1年以上のように幅がある。
- 職業制限を受ける人は、復権するまでは就職や転職活動、現在の就業に影響することがあるため、弁護士(司法書士)や勤務先などに相談して対応を決める方がよい。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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