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相続分の譲渡ができるって聞いたけど、相続放棄とは何が違うの?

 

ウサギ
相続って譲渡できるって聞いたんだけれど、相続放棄と相続譲渡はどう違うの?
ミミズク
相続譲渡は自分の持分を被相続人や第三者に譲り渡すことができるものなんだ。
今回の記事では、相続譲渡とはどんな制度なのか、相続放棄との違いや相続譲渡のメリット、デメリットについて詳しくみていこう。

法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)が、自分の相続権を他の相続人や第三者に譲り渡せる制度として「相続分の譲渡」があります。

相続権を手放すという内容からすると一見「相続放棄」と似ているようにも思えますが、「相続分の譲渡」と「相続放棄」は、その効果にかなり違いがあります。

よって、両者の違いを正しく理解した上で、自分にとってよりメリットのある方法を選択する必要があります。

本記事では

  • 相続分の譲渡とはどのような制度か
  • 相続分の譲渡と相続放棄の違い
  • 相続分の譲渡を行うメリット、デメリット

等について解説します。

相続分の譲渡とは

「相続分の譲渡」とは、財産と負債を包括した相続権(全部または一部)を他の法定相続人や第三者に譲り渡すことです。

有償と無償、どちらにすることもできますが、遺産分割協議を行う前に譲渡しなくてはなりません

譲渡する相手は1人であっても複数であっても構いませんし、他の法定相続人に対してでも、関係ない第三者に対してでも譲渡することができます。

家庭裁判所の関与は必要なく、様式や方法等も特に定められていませんが、書面に残しておくことは後日の紛争を防止するためにも必要といえます。

なお、相続財産の中に不動産がある場合は相続登記を行う必要がありますが、相続分の譲渡が行われていれば譲渡人がすでに遺産分割協議に参加する権利を失っていることを証明する必要があります。

よって、通常の戸籍等必要書類に加え、下記のような「相続分譲渡証書」を作成し登記申請の際に添付しなければなりません。(あくまでも一例です)


相続分譲渡証書

令和〇年〇月〇日

被相続人   山田太郎

死亡年月日  令和〇年〇月〇日

本籍     〇〇市〇〇町一丁目二番地

最後の住所  〇〇市〇〇町一丁目二番三号

上記被相続人の死亡により開始した相続につき、私が有する相続分の全部を本日、貴殿に無償で譲渡しました。

〇〇市〇〇町三丁目四番五号

相続分譲受人 山田花子 殿

〇〇市〇〇町一丁目二番三号

相続分譲渡人 山田一郎(実印)


相続分の譲渡の具体的なメリットとデメリットについては下に詳しく解説します。

相続分の譲渡を利用するケースとは

あえて自分の法定相続人としての権利を他人に譲り渡す場合としては、具体的にどのようなものが考えられるのでしょうか。

例えば下記のような状況が挙げられます。

  • 遺産分割協議で他の法定相続人と顔を合わせたくない、話し合いで揉めたくない
  • 他の法定相続人など特定の人に相続させる目的がある
  • 相続放棄を選択すると法定相続人としての立場そのものを失い(後述)、各種事務手続き等で不便になるため、あえて法定相続人の立場を残せる相続分の譲渡を選ぶ必要性がある
  • 遺産分割協議には参加したくないがすぐに現金は欲しい

相続譲渡の対象者

相続分の譲渡をする対象者としては、上記のように「他の法定相続人」の他に、「法定相続人ではない第三者」とすることも可能です。

また、1人だけではなく複数人へ譲渡することも可能です。

譲渡できる割合

相続分の譲渡は自分の法定相続分(民法で定められた相続分)全部でも、法定相続分の一部でも構いません。

相続放棄とは

ウサギ
相続放棄はどんな時に利用する事が多いの?
ミミズク
負の遺産が多い場合に利用する事が多いね。
相続放棄をする場合には、必ず家庭裁判所で手続きを進めなければいけないよ。

相続放棄とは「被相続人(亡くなった人)の残した財産と債務、両方をすべて手放す」ことであり、「相続開始時に遡って最初から法定相続人ではなかったものとみなされる」制度です。

相続放棄を利用するケースとは

相続放棄を利用する主なケースとして以下のような状況が考えられます。

  • 明らかにプラス財産より債務が超過しているため、債務の返済を免れたい
  • 離婚して母親が親権者となり父親とは数十年交流がなく、生活状況が不明であるため、父親の相続を承認してしまうと後から負債が発覚するおそれがある
  • 被相続人との関係が遠く(伯父伯母と甥姪の関係であるなど)交流もないため、自分は相続に関わりたくない

相続放棄とは「当該相続について一切の関係を絶つ」という位置づけの手続きになります。

相続放棄は家庭裁判所への申述が必要

相続放棄は「被相続人の死亡及び自己が相続人になったことを知ってから3カ月」以内に被相続人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して行います。

よく「遺産分割協議」で「相続財産は要らない」と意思表示することが相続放棄であるという誤解がされていますが、両者はまったく異なるものです。

遺産分割協議を行っただけでは債権者の承諾なく債務を免れることはできませんので、返済したくない意思が明確な場合は相続放棄を選択するべきであることに注意が必要です。

相続放棄申述書と添付書類を提出し、通常は家庭裁判所から申述人に対し「照会書(タイトルが異なる場合もある)」が送られ、簡単な質問がいくつか行われます。


照会書を返送し、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送られてくれば手続きは完了です。

相続分の譲渡と相続放棄の違い

ウサギ
相続譲渡と相続放棄にはどんな違いがあるの?
ミミズク
相続譲渡は、負の遺産があった場合、譲り渡した人に返済義務が生じてしまうんだ。
その他にも相続譲渡の場合には、相続人を指定する事ができるけれど、相続放棄の場合には相続する人を指定する事ができないという違いもあるよ。

相続分の譲渡は自分の法定相続分を手放す行為ではありますが、上記に解説した「相続放棄」とは法的効果がだいぶ異なります。

借金の返済

相続分の譲渡は、自己の相続権を割合的に譲り渡すことです。

債務に関しても割合的に譲渡された状態にはなるものの、譲渡人が債務を免れたことを債権者の合意なしに主張することはできません。

つまり、もし債権者が相続分の譲渡に同意せず返済を請求した場合には、相続分の譲渡を行った相続人も法定相続分の割合での返済義務があります。

一方、相続放棄については家庭裁判所から相続放棄の申述が受理されたことを証明する書面を提示すれば、債権者の同意を問わずに返済を免れることができます。

相続人の指定

相続分の譲渡については前述したように、譲渡者が法定相続人である立場を失うわけでなく、自己の相続分を譲渡する相手を指定することができます。

一方で相続放棄はあくまでも「本来相続するはずのすべてのプラス財産と負債を放棄し、相続人としての立場そのものを手放す」ことです。

相続放棄をする人が出てきた場合、その後の法定相続人が誰になるか、またはどのような割合になるかは民法に定められています。

よって、相続放棄により相続分が増える人や、放棄者の代わりに法定相続人となる相手を放棄者が定めることはできません。

相続分の譲渡のメリット

ウサギ
相続譲渡にはどんなメリットがあるの?
ミミズク
相続放棄と違って、特定の人に譲渡できるというメリットがあるよ。
分割協議に時間がかかってしまうことが予想される場合には、先に譲渡を進めてしまうことで、金銭を早く受け取ることが可能になるというメリットもあるよ。

相続分の譲渡をした場合、どのようなメリットがあるのかを考えてみましょう。

特定の人に譲渡できる

上記のとおり、特定の法定相続人や第三者を選んで自己の相続分を譲渡することができます

相続放棄であれば上記のとおり、最初から相続人ではなかったものとみなされてしまうのですが、相続分の譲渡は相続人としての立場を維持しつつ遺産分割協議から離脱することも可能です。

例えば法定相続人が多数いて、全員が一堂に会することが難しい場合には他の法定相続人の中で信頼できる人に相続分を譲渡し、自分の代わりに遺産分割協議に参加してもらうというのも一つの方法です。

分割協議前に金銭を受け取ることができる

相続分の譲渡を「有償で」行うことにより、厄介な遺産分割協議を避けつつ早い時期に金銭を取得することも可能になります。

分割協議のトラブルを避けられる

上記のとおり、相続分の譲渡を行った人は遺産分割協議に参加する必要がなくなり、相続分を譲り受けた人が代わりに遺産分割協議に参加することになります。

自分が出席することが負担になったり紛争の種になると予測できる法定相続人は、あらかじめ相続分の譲渡を行っておくことで遺産分割協議の場でトラブルになることを避けることもできます。

相続分の譲渡のデメリット

ウサギ
じゃあ逆に、相続譲渡にはどんなデメリットがあるの?
ミミズク
負の遺産があった場合、借金返済義務が残ってしまうというデメリットがあるよ。
その他にも、税金が発生してしまうことがあるから注意しよう。

相続分の譲渡をした場合、どのようなデメリットがあるのかを考えてみましょう。

借金返済義務が残る

上記のとおり、相続分の譲渡とは法定相続人の立場そのものを手放すことではありません。

自己の相続分を譲渡した場合、負債にあたる部分を譲渡したことについて債権者の合意が得られれば返済を免れることもできますが、債権者が認めなかった場合は返済義務が残ります。

税金が発生

相続分の譲渡と税金の関係は少々ややこしいところがあるため、整理してみましょう。

相続分の譲渡には上記のとおり「無償譲渡」と「有償譲渡」があり、また「他の相続人への譲渡」と「法定相続人以外の第三者への譲渡」があります。

パターン別に譲渡人と譲受人にかかる税金を整理すると次のようになります。

それぞれのケースで税理士に相談し、正しく申告、納税しなくてはなりません。

「他の法定相続人」に相続分の譲渡を行う場合

相続税

贈与税

無償譲渡

譲渡人

・相続分全部を譲渡⇒課税されない

・相続分一部を譲渡⇒「譲渡しなかった部分」に課税

譲受人

「譲受人自身の相続分+譲渡を受けた相続分」に課税

有償譲渡

譲渡人

「譲渡の対価」に課税

譲受人

「譲受人自身の相続分+譲渡を受けた相続分ー譲渡の対価」に課税



「法定相続人以外の自然人」に相続分の譲渡を行う場合

相続税

贈与税

無償譲渡

譲渡人

・申告期限までに遺産分割完了⇒「実際に取得した相続分」に課税

・申告期限までに遺産分割未了

「一旦法定相続分で申告」「遺産分割完了後に修正申告」

譲受人

「譲渡を受けた相続分」に課税

有償譲渡

譲渡人

無償譲渡と同様に課税

※譲渡の対価に対して所得税も課税される

譲受人

譲渡の対価が著しく低い場合はみなし贈与として課税の可能性あり

取り戻し請求が行われることも

遺産分割の前に法定相続人が第三者に相続分の譲渡を行った場合、譲渡人以外の相続人はその価額、費用を譲受人に償還した上で相続分を取り戻すことができます。

相続分の取戻は、本来相続に関係のない第三者が遺産分割協議に参加してくることを防止するために行われるものです。

よって、相続分の取戻は、あくまでも「法定相続人以外の第三者」に対して相続分の譲渡が行われた場合に限って可能であり、他の法定相続人への譲渡の場合は取り戻しができないと解されています。

相続分の取戻は譲渡から1カ月以内に行わなくてはなりません。

あまり長期間が経過した後にも取戻しが可能とすることは法律関係の安定性を害することになるからです。

相続分の譲渡をする際にはここまでに解説したメリット、デメリットをよく理解し、法律と税務の両面に注意しながら行う必要があります。

自身の関与する相続について相続分の譲渡や相続放棄を行う場合には、弁護士、税理士、そして不動産の相続登記が絡む場合には司法書士にも相談してから行うことをおすすめします。

まとめ

ウサギ
相続譲渡と相続放棄って同じように思っていたけれど、違う点が多いんだね。
ミミズク
相続譲渡を検討している場合には、早めに専門家に相談するのがオススメだよ。
相続放棄すべきかどうかも相談する事ができるから、相続が発生した場合には相談してみよう。
  • 相続分の譲渡とは、ある法定相続人が他の法定相続人や第三者に対し、有償または無償で自分の相続分(財産、負債)を譲り渡すことである。
  • 相続分の譲渡は相続放棄とは異なり、法定相続人としての立場を維持したままで遺産分割協議への参加義務を免れることができるため、主なメリットとしては遺産分割協議におけるトラブルを予防する効果が挙げられる
  • 相続分の譲渡を行っても、債権者の同意なくして譲渡人が債務を免れることはできず、また、譲渡先や有償譲渡、無償譲渡の違いによって課税される内容が異なるなどの点に注意が必要である。
  • 相続分の譲渡と相続放棄の違いを正しく理解し選択するためにも、あらかじめ弁護士、税理士、司法書士などの専門家に相談してから決定することが望ましい
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西岡容子

青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。

平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。

「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。

債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。

■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年   青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格 
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設

■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087

■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属

■注力分野
債務整理
不動産登記
相続

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