コインチェック社倒産の可能性と保証について元弁護士が語る
先日、国内大手仮想通貨交換所(仮想通貨取引所)である「コインチェック」から580億円相当もの仮想通貨が流出するという被害が発生しました。
このことにより、コインを預けていた顧客に、お金(仮想通貨)が返ってこなくなる可能性が取りざたされています。それだけではなく「コインチェックは破綻するのか?」という噂も広がっており、心配になったり関心を持ってみていたりする方もたくさんおられることでしょう。
もしコインチェック社が倒産してしまったら、どのくらいの保証を受けられるものでしょうか?
そこで今回は、コインチェック社倒産の可能性とその場合の保証の見込みについて、考えてみたいと思います。
前半は事件の概要を見直していますので、結論から読みたい方はこちらからどうぞ。
コインチェックからのコイン流出事件とは
そもそも、今回の「コインチェック」からの大量の仮想通貨流出事件は、どのようなものだったのでしょうか?
以下で、「コインチェック」と流出した「XEMコイン」、そして「保証」を含めたコインチェック社の現状について、説明をします。
コインチェックとは
コインチェックは、日本の「仮想通貨取引所」です。
仮想通貨を購入したり交換したりするためには、どこかの仮想通貨取引所で口座を開設しなければなりません。
昨年は、ビットコインや他の仮想通貨が大きく値上がりして、仮想通貨取引に参入する方も増えたので、コインチェックで口座開設した方も多かったはずです。
コインチェックは、他の仮想通貨取引所と比べて取扱いコインの種類が非常に多いこと(13種類)や取引手数料が安いこと(無料となる部分があります)、クイック入金などもできて利便性が高いことなどからとても人気があり、利用者数も多かったです。
コインチェックを運営していたのは「コインチェック株式会社」です。
XEMコインとは
引用:https://cc.minkabu.jp/pair/XEM_JPY
今回流出したのは、XEM(ネム)コインという仮想通貨です。
ビットコインではありません。
XEMコインは、ビットコインよりも新しい仮想通貨です。取引の速度が速く、ビットコインの抱えていたさまざまな問題を克服していると言われていて、世間からの期待も高かったものです。
実際に、2017年中にはXEMコインが大きく値上がりしていたので、「利益がでた」と思って喜んでおられた方も多かったはずです(年明けからは、多少下落していました)。
コインチェックからのXEM流出事件
このように、とても取引量が多く世間からの信頼もあつかったコインチェックですが、2017年1月、
「多額(580億円分)のXEMコインが流出する」
という被害が発生しました。
外部からの不正アクセスを受けて、時価総額580億円(650億円とも言われています)ものXEMコインが失われてしまったというのです。
被害を受けたXEMコインの利用者は26万人にものぼります。
コインチェックでは、2018年1月26日、まずXEMコインの売買や出金が停止され、続いて日本円や他のアルトコインの売買も停止されました。クレジットカードなどによる入金も停止されて、現在も取引再開の目処が立っていません。
コインチェックによる管理体制
今回、どうしてコインチェックから600億円に近いコインが流出したのでしょうか?
1つには、コインチェック社による仮想通貨の管理体制に問題があったと考えられます。
今回同社の発表によって明らかになったことですが、コインチェック社は「ホットウォレット」という方法で、仮想通貨を管理していました。
ホットウォレットとは、ウェブ上でオンラインの状態でコインを管理する方法です。
オンライン上にコインがあるのですから、不正アクセスの被害を受けやすくなるのも当然です。
たとえば、ビットフライヤーなどの他の有名な仮想通貨取引所は「コールドウォレット」という方法でコインを管理しています。これは、オフラインでコインを管理する方法であり、こちらの方が、圧倒的に安全性が高いのです。
また、コインチェックは「マルチシグネチャ」にも対応していませんでした。
マルチシグネチャとは、1つの口座について複数の秘密鍵を必要とする管理方法です。マルチシグネチャにすると、カギが1つの場合よりも安全性が高まることは、わかりやすいでしょう。
たとえば、他の大手のか創通か取引所であるビットフライヤーやGMOコイン、QUOINEXやビットバンクなどはマルチシグネチャウォレットに対応しています。
以上のように、コインチェックは、他の仮想通貨取引所と比べても、もともとセキュリティが弱かったと言えます。
それが、今回の流出事件につながったと言われても、仕方がないと言えるでしょう。
コインチェック社による保証は?
今回、コインチェック社から流出したXEMコインは、同社が保有する「ほとんどすべて」のXEMコインであったことを、コインチェック社が認めています。
ということは、同社にXEMコインを預けていた方は、お金が返ってこなくなるのでしょうか?
コインチェック社による保証の予定について、見てみましょう。
コインチェックの保証制度
実は、コインチェック社には、もともと不正アクセス被害に対する保証制度があります。
個人の口座が不正アクセスに遭い、コインが流出した場合には、最大100万円分までのコインが保証される(コインチェックから支払われる)というものです。
しかし、今回は、個人の口座が不正アクセスを受けたというレベルのものではありません。コインチェックにおける取引がほとんどすべて停止されるという重大な事態に至っており、同社の倒産可能性までささやかれているのですから、個人保証が行われることは期待しにくいです。
コインチェックが発表した保証の概要
ただし、コインチェックは今回の事件を受けて、顧客向けに保証を行うことを発表しています。
今回コインチェックからのXEM流出被害を受けた顧客は26万人と言われていますが、それらの方に対し、
「88.549円×XEMの保有数」を、
日本円で、保有口座に対して返金する
と言っているのです。
しかし、実際にいつこの保証が実行されるのかは明らかにされていません。
このままコインチェックが倒産してしまったり、状況が変わったりしたら返金保証が受けられなくなる可能性が十分にあります。
金融庁による業務改善命令
引用:https://www.fsa.go.jp/
今回、コインチェックがずさんとも言える管理体制によって多額のXEMコインを流出させたことにより、金融庁はコインチェックに対し、業務改善命令を出しています。
命令の内容は、以下の通りです。
- 今回のコイン流出事件の事実関係と原因の究明
- 顧客への適切な対応
- システムリスク管理の経営管理態勢の強化と責任の所在の明確化
- 実効性のあるシステムリスク管理態勢の構築と再発防止策の策定
これらについて、2018年2月13日までに、書面によって報告しなければならないとされています。つまり、コインチェックは預かりコインの管理体制やセキュリティ体制などについて再検討を行い、増強しなければならないのです。
また、後に説明するように、コインチェックは実はまだ「仮想通貨交換業者」としての認可を受けておらず、現在は「申請中」の状態だったのですが、今回の事件があったために正式に認可を受けることは難しくなったかも知れません。
仮想通貨取引所が破綻することがあるのか?
さて、今回コインチェックから多額の仮想通貨が流出し、取引も止められていることなどから「コインチェックは倒産するのではないか?」と心配されている方がたくさんおられるはずです。
そもそも、仮想通貨取引所は倒産するものなのでしょうか?
仮想通貨取引所の倒産件数は?
引用:https://www.mtgox.com/
仮想通貨取引所としては、コインチェックやビットフライヤー、ZaifやGMOコインなどが有名ですが、実は、世界中には数え切れないほどたくさんの仮想通貨取引所があります。
日本では、厳格な登録要件がもうけられているので、取引所の数が限られますが、海外ではそういった規制のない国も多いのです。日本からでも、そういった海外の取引所について、ウェブを通じて口座開設することは可能です。
こうした仮想通貨の取引所は脆弱なものや資金力のないものも多いので、ハッキング被害を受けると容易に経営状況が悪化します。
世界レベルで考えると、毎月1社くらいの仮想通貨取引所が倒産しているとも言われています。
これまで起こった有名なハッキング被害や倒産事例には、以下のようなものがあります。
- 2014年2月、 MTGOX社がハッキング被害で破綻する
- 2014年3月、 Poloniexがハッキング被害に遭う
- 2015年1月、 BitStampがハッキング被害に遭う
- 2015年2月、 BTERがハッキング被害に遭う
- 2015年5月、 Bitfinexがハッキング被害に遭う(1回目)
- 2016年4月、 Cryptsyがハッキング被害で破綻する
- 2016年5月、 Gatecoinがハッキング被害に遭う
- 2016年8月、 Bitfinexがハッキング被害に遭う(2回目)
- 2016年10月、 Bitcurexがハッキング被害で破綻する
- 2017年12月、 マイニングプールNiceHashがハッキング被害に遭う
- 2017年12月、 韓国のユービットがハッキング被害(北朝鮮からと見られている)によって破産する
いかがでしょうか?
予想以上にたくさんのハッキング被害や取引所の破綻が起こっていると思われたのではないでしょうか?
仮想通貨取引所の有名な破綻事例
今回、「コインチェックが倒産するのか?」と考えるとき、過去の事例を参考にするとわかりやすいです。そこで、日本で非常に有名な仮想通貨取引所の破綻事例をご紹介します。
それは、2014年のMTGOX社(マウントゴックス社)の事件です。
数年前、「ビットコイン流出事件」が起こり、多くの顧客にビットコインが返ってこなくなって、大騒ぎになったことがありました。当時はテレビなどでも大きく取り上げられて報道されたので、覚えている方も多いのではないでしょうか?
MTGOX社は、決して零細業者ではなく、取引量も利用者数も非常に多かった仮想通貨交換業者です。
しかし、2014年、同社から時価500億円に近い量のビットコインが流出したのです。
内訳は、顧客からの預かり分が410億円、MTGOX社の保有分が55億円分ということでした。
流出したコインの種類は違いますが、今回のコインチェックの事例ととても似ています。
MTGOX社の場合には、結局、流出したビットコインを取り戻すことはできず、顧客への返金も不可能となったため、「倒産」しました。
具体的には、2014年2月28日、東京地方裁判所に「民事再生」という手続きの申請をしたのです。
民事再生とは
民事再生とは、会社が再建するための手続きです。
民事再生をすると、会社が抱えている債務を圧縮することができます。圧縮された分のみを返済したら、残りの債務が免除されて、会社をやり直せるという制度です。つまり、MTGOX社は、当初は会社をつぶさずに再建しようとしていたのです。
しかし、民事再生では処理を進めることが困難と判断されたため、2014年4月16日、東京地方裁判所はMTGOX社の民事再生申立を棄却してしまいました。そして、同月24日、破産に以降して、現在に至っています。
破産とは
破産は民事再生とは異なり「会社がつぶれる」手続きです。破産すると、会社の資産をすべて債権者に配当して、会社は最終的に消滅するからです。つまり、MTGOX社の場合、自分たちでは何とか再生したいと思ったのですが、裁判所はそれを認めず、破産させられることになったということです。
破産手続き開始後の経緯
MTGOX社の破産手続き開始後、一時は債権届出額が263兆円にもなったとされていますが、その後精査を行い、456億円程度に落ち着いたようです。
MTGOX社の現状と保証
それでは、MTGOX社の債権者は、どのくらいの配当を受けることができたのでしょうか?
通常企業が破産すると、債権者に十分な配当が行われることはほとんどありません。
破産する企業はもともと債務超過ですし、すでにすべての資金を使い果たしており、配当するような資産を持ち合わせていないことが多いからです。
また、残っている資産についても、管財人が廉価で早期に売却してしまうので、高額な配当資金が集まることは少ないのです。
破産事件の配当率は、10%以下の配当となることが一般的です。1~3%という事例も珍しくありません。
そして、実は、MTGOX社の破産手続きは、事件から4年が経過して、未だに継続しています。
みなさまご存知の通り、ビットコインは2014年から現在に至るまでに、非常に大きく値上がりしています。昨年1年で20倍になったことからもわかります。
そこで、この4年の間にMTGOX社が保有しているビットコインが大きく値上がりして、同社の資産が拡大し「満額配当」できるのではないかと言われるようになったのです。つまり、ビットコイン値上がりにより、MTGOX社の資産が負債額である456億円を上回るようになったということです。
これを受けて、MTGOX社の債権者は、反対に裁判所に対し、「民事再生」を申し立てました。
つまり、同社を存続させて、きちんと債務を支払わせようということです。
現在、MTGOX社の手続きを、再度破産から民事再生に移行するかどうか、裁判所で検討されています。
もしかして、MTGOX社の債権者(ビットコインを預け入れていた人)には、予想以上に高い配当(満額配当も含む)が行われる可能性も出てきています。
コインチェックは倒産するのか?
今回のコインチェックからのXEMコイン流出事件と過去のMTGOX社からのビットコイン流出事件は、とても似ています。
それでは、今回のコインチェックの件でも、MTGOX社と同じように、顧客は満額に近い配当を受けられる見込みとなるのでしょうか?
コインチェックとMTGOX社との違い
コインチェック社の件とMTGOX社の件には、似た点もありますが、異なる点もたくさんあります。それは、以下の通りです。
- ビットコインの値上がりという偶然
- 資金決済法による規制
以下で、それぞれがどのようなことか、見ていきましょう。
ビットコインの値上がりという偶然
1つには、ビットコインの値上がりという偶然が起こったことです。
MTGOX社の場合、たまたま破産手続きの進行中にビットコインが大きく値上がりしたため資産が増大して、配当の可能性が出てきたものです。
もともとは、同社自身が申し立てた民事再生が棄却されて破産を命じられるほど逼迫した状況でした。
しかし、コインチェックの場合、これからXEMコインが大きく値上がりするとは限りません。そこで、同社が保有している仮想通貨の価値が上がって十分に配当できるようになる可能性は、高いとは言えません。このようなことは、完全に偶然のなせる産物です。
資金決済法による規制
もう1つ、こちらの方が大きなポイントかも知れませんが、「資金決済法による規制」があります。
資金決済法は、仮想通貨取引所に対する規制を定めている法律です。
日本では、仮想通貨取引所を運営するときには「仮想通貨交換業者」の登録をしなければなりません。
そのためには、一定の要件を満たす必要があります。
このように、仮想通貨交換業者を登録制にしたのは、健全に仮想通貨の取引が行われることと、顧客保護のためです。
セキュリティが脆弱で資金力もない業者が仮想通貨取引所を開くと、ハッカーからの不正アクセス被害を受ける可能性が高いです。資金力もないので、簡単に倒産して、顧客に迷惑をかけてしまいます。
そこで、仮想通貨取引所を開く業者に厳しい要件を課すことにより、ハッキングや倒産のリスクを抑えて顧客保護を図ろうとしているのです。
資金決済法によると、仮想通貨交換業者として登録するためには、以下のような要件が必要とされています。
- 資本金が1000万円以上
- 純資産がマイナスになっていない
- 利用者財産と会社の財産を分別管理すること
- 年1回以上の外部監査を受けること
- 仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制が整っていること
このように、厳しい要件を課すことにより、財務状況や管理体制が整備されている仮想通貨交換業者のみが、仮想通貨取引所を開けるようにしています。
MTGOX社の時代には、このような規制がなかったので同社の財務状況や管理体制は不明瞭でしたが、今は資金決済法があるので、日本の仮想通貨取引所は、基本的にすべて上記の要件を満たしています。
コインチェックは「仮想通貨交換業者」として登録されていない!
ところが、コインチェックは、正式に「仮想通貨交換業者」として登録されていません。
それなのに、営業をしていました。これはいったいどうしてなのでしょうか?
資金決済法の特例とは
実は、資金決済法には特例があるからです。
資金決済法は2017年4月1日から施行されたものですが、それ以前から仮想通貨取引所を開いていた業者がいくつかありました。その中には、多くの顧客を抱えており、国内でも有数の取引所になっていたものもあります。コインチェックもその1つです。
そこで、資金決済法制定の際、2017年4月より前から取引所を営んでいた仮想通貨取引所については、資金決済法の施行後も、引きつづき取引所を開いていて良いという特例が設けられたのです。
その代わり、そうした取引所は資金決済法施行後半年以内に正式に仮想通貨取引所に登録するための申請をしなければなりません。申請をした場合、承認が下りるまでの間は2017年10月を過ぎても営業ができると定められているのです。
コインチェックも、2017年4月以降に正式な仮想通貨交換としての登録申請を出しており、現在は承認待ちの状態でした。
コインチェックは国内でも有数の取引所であるため、承認が下りることはほとんど確実で、時期も目前であると考えていた方もたくさんいたはずです。
しかし、今回の件により、正式登録の道は遠くなったと言えるでしょう。
その意味では、コインチェックにお金を預けている方は、同社が破綻しなくても、いずれはお金を出金してコインチェックの利用をやめることになるかもしれません。
仮想通貨交換業者として登録されている16社とは
それでは、より安心な「登録された仮想通貨交換業者(仮想通貨取引所)」は、どこなのでしょうか?
2018年2月4日時点では、以下の16社です。
関東財務局所管
第00001号 | 平成29年9月29日 | 株式会社マネーパートナーズ(取引所は準備中) |
第00002号 | 平成29年9月29日 | QUOINE株式会社(QUOINEX) |
第00003号 | 平成29年9月29日 | 株式会社bitFlyer(bitFlyer) |
第00004号 | 平成29年9月29日 | ビットバンク株式会社(bitbank) |
第00005号 | 平成29年9月29日 | SBIバーチャル・カレンシーズ株式会社(SBIバーチャル・カレンシーズ) |
第00006号 | 平成29年9月29日 | GMOコイン株式会社(GMOコイン) |
第00007号 | 平成29年9月29日 | ビットトレード株式会社(BitTrade) |
第00008号 | 平成29年9月29日 | BTCボックス株式会社(BTCBOX) |
第00009号 | 平成29年9月29日 | 株式会社ビットポイントジャパン(BITPoint) |
第00010号 | 平成29年12月1日 | 株式会社DMM Bitcoin(DMM Bitcoin) |
第00011号 | 平成29年12月1日 | 株式会社ビットアルゴ取引所東京(取引所は準備中) |
第00012号 | 平成29年12月1日 | エフ・ティ・ティ株式会社(Bitgate) |
第00013号 | 平成29年12月26日 | 株式会社BITOCEAN(BITOCEAN) |
近畿財務局所管
第00001号 | 平成29年9月29日 | 株式会社フィスコ仮想通貨取引所(FISCO) |
第00002号 | 平成29年9月29日 | テックビューロ株式会社(Zaif) |
第00003号 | 平成29年12月1日 | 株式会社Xtheta Xtheta(シータ) |
これから仮想通貨取引をするのであれば、上記の正式に登録された取引所を利用する方が安心です。
コインチェック倒産の結論
今までのさまざまな考察を元にして、結局コインチェックが本当に倒産する可能性があるのか、検討します。
ポイントは、以下の点です。
- 多額の仮想通貨が流出
- 仮想通貨交換業の登録をしていなかった
- 登録申請中であった
今回、コインチェックから流出したXEMコインは600億円前後であり,非常に多額です。いかにコインチェックに資金力があるとは言っても、かなりのダメージを受けることは明らかでしょう。
過去に大手取引所であるMTGOX社が500億円弱のビットコイン流出で破綻したことからしても、今回のコインチェックの件で同社が破綻する可能性は高いと言えます。
また、同社は仮想通貨交換業の登録をしていませんでした。このこともマイナスポイントです。
ただ、コインチェックは、一応必要な手続きをとり、仮想通貨交換業者として申請中で、登録も目前と思われていました。このことからすると、実際に登録されてはいなかったとしても、登録できるだけの要件はそろえていたと考えられます。
すると、MTGOX社のときのように簡単には倒産しないと考えられます。実際、MTGOX社の場合、ビットコイン流出から数日後には民事再生を申請していますが、コインチェックの場合そのようなことにはなっていません。
どちらつかずの結論になってしまいましたが、前例のように簡単にはいかないまでも破産の可能性はありえるというところでしょうか。
仮に破綻した場合の保証について
最後に、仮にコインチェックが破綻(倒産)した場合の保証にも少し触れておきます。
まず、仮想通貨交換業者については、銀行のような保証制度がありません。銀行が破綻した場合には1000万円までの預金が保証されますが、仮想通貨の場合、こうした政府による保証は一切ありません。そこで、破産や民事再生したときの配当に頼るしかありません。
しかし、先に少し説明しましたが、企業が破産したときの配当率は、10%以下であることが普通です。そこで、この先コインチェックが破綻したら、10%以下のお金しか返ってこない可能性が高いです。
民事再生になったとしても、全額が返ってくるわけではありません。よくて数十%です。
そこで、今後コインチェックが本当に破綻してしまったら、多くの保証や返金を期待することは難しいでしょう。
返金に納得できない人はどうすべきか
今回、コインチェックは、1人につき、1XEMコイン当たり約88円を返金すると言っていますが、これに納得できない人も多いでしょう。
実際にネット上などでは、「財産権侵害」「憲法違反レベルの酷い対応だ」と言って、憤っている方もおられます。
確かに、コインチェックが強制的に88円の「日本円」で返金することにより、顧客は強制的に利益確定(あるいは損失確定)させられることになりますし、これにより、税金支払い義務も発生します。
また、本来であれば(コインチェックに無理矢理利益確定されなければ)もっと値上がりして利益を得られたかも知れないのに、得られなくなって損失を受けることもあります(逸失利益)。
そこで、こうした損失分について、コインチェックに対し、損害賠償請求することが考えられます。
今回、コインチェックが約88円を返すと言っていますが、それに納得しない人は、同社に対して上記のような法的請求ができる可能性があるということです。実際に、今後、そういった人がたくさん出てくるかも知れません。
そうすると、銀行の取り付け騒ぎのようなことになって、コインチェックの支払い能力を超えてしまい、本当に倒産してしまう可能性も出てくるので、難しいところです。
コインチェックの資金力の実際の所は明らかではありませんが、今後、さまざまな仮想通貨が値上がりすることにより、MTGOX社のように、所持しているコインの価格が上昇して、大きな資産となる可能性もあります。そうしたら、流出事件の被害者である顧客に対して満額返還+αの返金をしても、十分に耐えられる可能性はあります。
このようなことを考えるなら、コインチェックに損させられた分を、損害賠償請求によって取り戻すことも十分現実的と言えるのです。
ただし、このようなことができるのは、破産や民事再生する前までです。こうした法的手続に入られると、配当によってしかお金が返ってこなくなるので、賠償請求をするのであれば、早く動く必要があります。
まとめ
今回は、コインチェックが破綻する可能性について、考察しました。
コインチェックは過去のMTGOX社の事例と似ていますが、異なる点もあり、必ずしも破綻するとは限りません。
しかし、状況は予断を許さず、見守っていく必要があります。
今回の事件の教訓は、やはり「セキュリティ」と「仮想通貨交換業者の登録」です。
仮想通貨交換業者を選ぶときには、「セキュリティが高いこと」「きちんと仮想通貨交換業の登録をしていること」を重視して口座開設すると良いでしょう。
上記で紹介した16社が認定を受けているので、これから仮想通貨取引をしたり乗り換えたりするならば、その中から選んでみてください。
法人の破産に関してもっと詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてみてください。
福谷陽子
元弁護士・ライター。
弁護士としての活動した約10年間のうち、7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては債務整理案件を多数担当し、任意整理・個人再生・自己破産のみならず、過払金請求も手がける。
その経験をもとに、現在はライターとして法律関係の記事を執筆している。
■略歴
・京都大学法学部在学中、司法試験合格
・京都大学法学部卒業後、司法研修所入所
・弁護士登録・某法律事務所にて勤務
・独立し、陽花法律事務所を設立
・弁護士活動を停止し、ライターに転身
■ご覧のみなさまへのメッセージ
借金問題を抱えていると、追い詰められた気持ちになるものです。
「どうしようもない」「借りた自分が悪い」「借りたからには返さなければ」と律儀な思いを持ち、必死で返済を続けている方もおられるでしょう。
しかしどんなに頑張っても返済できない借金があるものです。
法律は借金返済できない方や苦しくなった方に救済手段をもうけています。
債務整理をすると嘘のように借金問題を簡単に解決できるケースが本当に多いです。
借金問題に悩んでいる時間はもったいないです。
債務整理は恥ずかしいことではないので、勇気を出して専門家へ相談していただきたいと思います。
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