求償権とは?時効になる前に、連帯保証人なら必ず知っておきたい権利
保証人として債務者の代わりに借金を支払った場合、その後、債務者に支払った分の借金を返してもうらう事ってできるの?
求償権の事だね! 求償権とは、連帯保証人として債務を支払った場合には、債務者に返済した金額を返してもらう事ができる権利なんだ。 求償権は、色々な場面で行使されているんだよ。
どんな時に求償権が行使されるの?
住宅ローンの返済ができなくなってしまった場合に、保証会社が求償権を行使するような場合もあるし、保証連帯債務者である場合にも、1人が債務を完済した場合には、求償権により、各自に負担分を請求することができるんだ。 その他にも、A宅で火災が起き、被害を受けたB宅が、自分の火災保険会社を利用して修繕を行った場合、保険会社がA宅へ求償権を利用するというような事もあるんだよ。 今回の記事では、求償権について、詳しく見ていこう。
法的な知識を何もつけないまま連帯保証人を引き受けるのは危険です。
もちろん、最初から連帯保証人にならないのが一番良いのでしょうが、親子関係などでどうしても保証契約をせざるを得ない状況が発生することもあります。
そのような時に備えて、万一、連帯保証人になった時に行使できる権利の一つである「求償権」について知っておきましょう。
求償権とは
求償権というのは、「補償を求める権利」と書くことからもわかるように「私が代わりに払ってあげたのだから元の債務者であるあなたがその分を私に返してください」と言える権利のことです。
では、どのような場合に求償権を行使できるのかを確認してみましょう。
保証会社が弁済した
実務上、求償権が最もよく使われる例として「保証会社(信用保証協会)が債務者の代わりに支払ったので、債務者に請求する」というものがあります。
イメージしやすいものでは
「銀行からの住宅ローンを組む際に諸費用として『保証料』を支払って保証会社に依頼する。もし債務者が弁済できなくなった時には保証会社によって銀行に『代位弁済』がされる。その後は銀行に代わって保証会社から請求が来る。」
というケースでしょう。
これが典型的な求償権行使です。
図にするとこのような仕組みになります。
なお、もし購入物件を抵当に入れている債務者がローンを支払えなくなった場合には、保証債務となる物件は競売にかけられますが、それに先立ってまず保証会社が代位弁済します。
よって、抵当権を実行する(=競売にかける)場面ではすでに保証会社が求償権を獲得していることが大半です。
大規模な金融機関などは自行の子会社、関連会社として保証会社を持っていることが多く、上記の事態を想定して最初の段階で「保証会社」が抵当権を設定しておくことが一般的です。
この登記簿の例は「保証会社が取得する求償権を担保する」目的で「保証会社が抵当権者になって」抵当権を設定しているものです。
個人の債務者が住宅ローンを組む場合、登記簿はこのようになっていることが非常に多いといえます。
権利部 (乙区)(所有権以外の権利に関する事項) | |||
順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
1 | 抵当権設定 | 平成〇年〇月〇日 第〇〇〇〇号 |
原因 平成〇年〇月〇日保証委託契約に基づく求償債権平成〇年〇月〇日設定
債権額 金〇〇〇万円 損害金 年〇% 債務者 〇〇市〇〇町1丁目1番2号 甲野 太郎 抵当権者 〇〇市〇〇町3丁目4番5号 〇〇保証株式会社 |
連帯保証人が弁済した
求償権は、上記のような法人の例だけではなくて「連帯保証人になった個人」にももちろん発生します。
連帯保証人が主たる債務者に代わって全額弁済した場合、連帯保証人は主たる債務者に対して求償権を行使することができます。
ただ、一部を弁済した場合が問題となります。
たとえば、債権者A銀行が債務者Bに貸し付けた1000万円のうち、連帯保証人CがA銀行に500万円を弁済したとします。
この場合、Cは500万円の求償権を取得しますが、それとともに元の債権についてA銀行と共に債権者の権利を行使できることになります。
一つの例が「抵当権の実行(=担保に入れた物件を競売にかけて売却代金の配当を受ける)」です。
理屈から言えばCは自分の判断で抵当権が実行できる立場を得たわけですが、実務上、Cが自分の好きな時期に勝手に抵当権を実行してしまうのはA銀行としても不都合です。
そこで、現在の条文上(民法502条)では、「代位者(一部を弁済した保証人、本例ではC)は債権者Aの同意を得ることができれば共に権利を行使できる」と規定し、同意を要することを明確にしています。
実務上は最初の保証委託契約の際に「Cが債権者の権利を行使できる地位に置かれてもその権利を放棄する」と定められることが多くなっています。
不貞行為の不倫慰謝料を片方だけが支払った
なお、契約に基づいて支払う金銭債務以外にも求償権が問題となることがあります。
比較的身近な例が
「不貞行為があった場合に、不貞行為の当事者である二者のうちどちらかだけが慰謝料を支払い、もう一方に求償権を行使する」
というものです。
(夫)A男と(妻)B子が婚姻関係にあるにもかかわらず、A男と不倫相手の第三者C子が不貞行為に及んだとします。
この状況を法的に見ると、A男とC子がB子に対して「共同不法行為」を行ったということになるため、配偶者B子は「慰謝料」を請求することができます。
示談書を交わして決まった不貞慰謝料の請求は、A男に対しても、不貞相手C子に対してもすることができ、半分ずつの金額を両者に対してすることもできます(トータルの金額は同じ)。
このような事例では、離婚せず、婚姻継続を前提とする場合にはB子がC子に全額の不倫慰謝料請求をすることが多いのですが、C子はB子に慰謝料額全額を支払った後でA男に対して「自分が支払った金額の半分」を求償することができます。
保証人複数の場合の求償権
保証人が何人もいる場合には、求償権の扱いはどうなるの?
分別の利益のありか、なしかによって変わってくるんだ。 分別の利益と、求償権の関係について、詳しく見てみよう。
連帯保証人が一人の場合であれば比較的話は単純なのですが、若干難しいのが「他にも保証人がいる場合」です。
保証人が複数いる場合は、ある保証人から別の保証人に求償することもできるのです。
共同保証とは?
ある債務について複数の保証人で保証することを「共同保証」といいます。
原則から言えば
「複数の保証人がいる場合はそれぞれの保証人が人数に応じて頭割りした金額を保証すればよい」
ことになります。
これを「分別の利益」といいます。
ただし、債権者から見たら、それぞれの保証人に頭割りした金額しか保証してもらえないのであれば複数の保証人をつけた意味がない、とも考えられます。
そこで、下記のような場合は「分別の利益がない」とされており、実務上はこれに当たるケースが非常に多いといえます。
「分別の利益」がない場合
【それぞれが連帯保証人である場合】
保証人それぞれが「通常の保証人」ではなく「連帯保証人」である場合には分別の利益は認められていません。
これは過去の裁判例によっても明確にされています。
【保証人が分別の利益を放棄している場合】
通常の保証人(=連帯保証人ではない)であっても、最初の契約で「各保証人が全額について負担する」としている場合はそれぞれの保証人が全額を保証することになります。
このことを「保証連帯」といいます。
【債務自体が不可分の場合】
そもそも債務の性質上、分けることができない場合は当然に分別の利益がないことになります。
分別の利益と求償権の範囲
では、「分別の利益のある、なし」が求償権の範囲にどのような影響を与えるのかを見てみましょう。
債権者A、債務者B、保証人C、保証人Dがいる、AはBに1,000万円を貸し付けてCとDが保証しているという前提で解説します。
- 分別の利益が「ある」場合
上記3類型に当てはまらない、つまり分別の利益が「ある」場合であれば、それぞれの保証人は債務額を頭割りした分の保証だけすればよいことになります。
つまり、CはAから「Bが支払ってくれないので1,000万円を支払ってください」と言われても、「私は500万円分しか責任がないのであとの500万円はDに請求してください」と言うことができます。
また、保証人相互での求償権行使も可能です。
仮にCがAに700万円を支払った場合には、Cは自分の責任の範囲である500万円を超えた200万円をDに請求することができます。
- 分別の利益が「ない」場合
分別の利益が「ない」保証人の場合は債権者Aからの請求に対しては全額に応じなければならず、500万円を支払ったから自分の責任はここまで、というわけにはいきません。
ただし、保証人同士の関係では「負担部分」という考え方が存在するので、仮にCとDがそれぞれ500万円ずつの負担部分にすると定めていた場合、Cは700万円をAに支払ったらDに200万円を求償することができます。
このように、対債権者と他の保証人との関係は異なりますが、求償権を行使できる条件なのであれば忘れずに使うことを覚えておきたいものです。
連帯保証人になったら
連帯保証人になってしまった場合には、どんな事に注意すれば良いのかな?
債務者が破産した場合や、求償権が相続された場合、時効が近くなった時など、注意が必要だよ。 それぞれの対応策について、詳しく説明するね。
連帯保証人として、将来的に求償権を行使する可能性がある人は次のようなことも知っておきたいものです。
自己破産した人への求償権行使
上記のように、保証人が全額を弁済した場合は当然に債権者に代位(その地位に取って代わる)することになりますので債務者への求償権行使が可能です。
しかし、現実問題として、主たる債務者はすでに自己破産などしていることも多いものです。
仮に主たる債務者が自己破産していた場合、連帯保証人の権利はどうなるのでしょうか?
自己破産の手続きをする際に「債権者一覧表」の一部として連帯保証人を記入する欄もあり、ここに連帯保証人の氏名を記入すると求償権も含めて免責されてしまうため、連帯保証人が肩代わりさせられても法的に求償権は行使できないことになります。
しかし、自己破産によって免責された債務は「債務自体が完全に消滅する」説と「債務者が任意に支払うのであればそれは弁済としての効果が生じる(自然債務)」説があります。
自然債務と考えるのであれば債務者が任意に支払うことは問題ないことになりますので、主たる債務者と連帯保証人の関係によっては免責を受けた後で少しずつ支払いを受けることもありえるのではないでしょうか。
ただし、このような弁済を受ける場合は税務上「みなし贈与」とならないように弁護士や税理士に相談し、弁護士回答を受けるべきといえます。
求償権に時効はあるのか
時効の援用権とは、「債権があるものの、一定の期間行使しないことによってその債権が時効で消滅したとして債務者が支払を拒むことのできる権利」です。
時効期間は「その債権を行使できる時から起算して何年」という形で、その期間に時効の中断事由がなければ完成してしまいます。
求償権についてもずっと放置しておけば元の債権と同様に消滅時効となってしまうことがあります。
具体的に何年で消滅するかというのは「商事債権なら5年」「一般の債権なら10年」といったルールがあるので、当事者が商人か否かなどによって事案ごとに異なります。
もし、求償権を取得したが、請求しても債務者が一向に支払いをしない状況であれば何らかの形で時効を中断しておかなくてはなりません。
求償権と相続の関係
求償権は債権であり、財産の一つの形ですので不動産や預貯金などと同様に相続の対象となります。
よって、法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)にあたる人は被相続人(亡くなった人)が持っていた求償権を法定相続分(民法で定められた相続分)に応じて行使できるという結論になります。
また、遺産分割協議により相続人の間で相続する割合を決めることもできます。
求償権とは?連帯保証人なら必ず知っておきたい権利、まとめ
連帯保証人として債務を支払った場合でも、そのお金を返してもらう事ができるんだね! 求償権について、詳しく知ることが出来て良かったよ!
求償権を行使できることを知らない人は非常に多いんだ。 連帯保証人になってしまった場合には、求償権について、詳しく理解しておくことが大切だね。
- 「求償権」とは、主たる債務者の代わりに債権者に弁済者が主たる債務者に対し、自分への弁済を求めることのできる権利である。
- 求償権を行使できる者の例としては保証会社、連帯保証人、不貞行為による慰謝料を支払った当事者の一方などが挙げられる。
- 保証人が複数いる「共同保証」の場合は保証人相互に求償権を行使できることがあるが、「分別の利益のありなし(各人が頭割りした金額のみ保証するのか、各人が全額を保証するのか)」や「保証人間での負担部分の取り決め」により債権者に対する責任や他の保証人への求償可能額が決まる。
- 自己破産した債務者の連帯保証人になっている場合、破産手続きによって求償権も一緒に免責されてしまうことが通常だが、自然債務として弁済を受けることができる場合もある。
- 求償権も債権の一つなので、通常の債権と同様に時効にかかったり、相続の対象になる。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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