債権者とは?債務者との違いも含め、わかりやすく意味を解説
お金の貸し借りをする時って、債権者や債務者なんて言葉が良く出てくるけれど、債権者って実際にはどういう意味なの?
債権者について知るためには、まずは債権とはどんな物なのかを調べる必要があるね。
ただお金を貸した人だけが債権者となるわけではないんだよ。
今回の記事では債権者とはどんな権利があるのかを説明するね。
早速、債権について、詳しくみていこう。
借金問題を語る上で欠かせないワードである「債権者」ですが、一般の人には「金貸し」「取立てに来る人」などといったイメージしか持てないことも多いのではないでしょうか。
しかし債権、また債権者という言葉は多くの場面で発生し、色々な種類のものがあります。
では、債権の種類や債権者の持つ権利、そして債権者の地位が引き継がれるケースなどについて解説します。
「債権」とは何か?
「債権」とは、債務者である他人(法人も含む)にお金や物の給付等の行為を要求することのできる権利です。
一般的に債権は、当事者が何かを契約することによって発生するというイメージを抱きやすいのですが、契約以外にもいくつかの発生原因がありますので確認してみましょう。
発生原因1「法律行為(契約等)」
一番典型的といえるのが、当事者が契約で合意することによって発生する債権です。
たとえば、AがBに「パソコンを売りましょう」と言い、Bが「では買いましょう」と言えばそれで契約は成立します。
契約書を交わさなくても良いのだろうか?と疑問に思うところですが、民法の上では売買契約は「諾成契約」といって、口頭だけであっても有効に成立します。
実務におけるフォーマルな場面で取引先や企業と契約書を交わすのが当然となっている理由は、あくまでも後々の商取引のトラブルを防ぎ、裁判等になった場合の証拠を確保することが目的です。
つまり、たとえ口約束による契約であってもAはBに「代金を支払ってもらう」という内容の債権を獲得していますし、BはAに「売買の目的物(上記例ではパソコン)を引き渡してもらう」という内容の債権を獲得しています。
発生原因2「事務管理」
事務管理というのは平たくいえば「他人によるお節介」です。
AがBのためになると考えて、Bから頼まれてもいないのに何らかの行為を行っても、状況によっては債権債務関係が発生するということです。
たとえば隣人Bが海外旅行に行っていることを知っているAが、Bの留守中に台風でB宅の門扉が破壊されたのを気の毒に思って修理の発注をしてあげたとします。
もし、事務管理者AがBのために有益な費用を支出したと認められる場合はAはBに対してその費用を償還してもらうよう請求することができます(=債権を獲得します)。
ただし、Bが承諾してもいないのにAに好き勝手かつ中途半端なことをされ、その上に「費用を払え」などと言われるのはBにとってあまりにも理不尽です。
そこで、民法の事務管理には
- 管理者の通知義務 → Bに既に知っている場合を除き、AはBにすみやかに通知しなければならない。
- 管理者による事務管理の継続 → Aはやり始めた事務管理を、まだ本人等が継続できない状態なのに途中で放り出してはならない。
といった定めがあります。
本来「要らぬお世話」であるはずの事務管理に対し、本人(上記ではB)のために有益で、かつ本人の意思に反していない場合は「BによるAへの委任」があったのと同様の法律関係を持たせようという趣旨です。
発生原因3「不当利得」
不当利得とは「得をする理由、権利などないのに得をしている」という状態です。
- 他人の財産や労務によって利益を受けている。
- それにより他人に損失を及ぼしている。
- それらに因果関係がある。
- 利益を受けることに法律上の原因がない。
これらの条件が揃うと「不当利得」とされ、損失を受けた人は「利益を受けた相手方」に対し、現存する利益を返還することを請求できます(=債権を獲得します)。
債務整理や私的整理に関連する不当利得として一番典型的なのは「過払い金」です。
消費者金融などは以前、「グレーゾーン金利」と呼ばれる高金利を利用者から取ることが当然になっている時代がありました。
しかし後から、裁判例等でその部分の利息の請求が否定され、結果的に「法律上の理由がないのに貸金業者が不当に利息をもらった」状態になってしまったのです。
つまり、「過払い金返還請求」の本質は、「不当利得返還請求権」ということになります。
発生原因4「不法行為」
不法行為も、やはり契約関係がない当事者の間であっても債権が発生するパターンの一つです。
故意または過失によって他人の権利等を侵害した者は、これにより生じた損害を賠償しなければなりません。
つまり、権利を侵害された被害者側が加害者側に対して損害賠償を請求できることになります(=債権を獲得します)。
不法行為による損害賠償責任は、被害者の意識としては「報復感情」が主であることもしばしばありますが、法的な趣旨としては報復、制裁が中心的機能なのではなく、「被害者の救済(損失補填)」と「将来の不法行為の抑止」が主たる目的になっています。
債権の内容による分類
債権には色んな種類があるんだね。
なぜ債権は分類されるの?
強制執行となった場合に、この分類が必要となるんだよ。
債権の発生原因について見てきましたが、少し視点を変えて「債権の内容」に着目してみましょう。
ざっと分類すると以下のようになります。
作為債務 | ある行為を「する」ことを債務の内容とするもの。(例・指定の時期までに建築物を完成させる) |
不作為債務 | ある行為を「しない」ことを債務の内容とするもの。(例・騒音を出す設備を設置しない) |
引渡債務 | 「与える債務」ともいい、物の引き渡しを目的とする債務。(例・品物を給付する) |
行為債務 | 「為す債務」ともいい、物の引き渡し以外を目的とする債務。(例・プロ歌手がコンサートに出演する) |
金銭債権 | 金銭の給付を目的とする債権。(例・売買代金の請求権) |
非金銭債権 | 金銭以外の給付を目的とする債権。(例・自動車の引き渡し請求権) |
特定物債権 | 代替できないものを目的とする債権。(例・〇区〇町〇番の土地を給付する) |
不特定物債権 | 代替可能なものを目的とする債権。(例・〇〇社のテレビ〇台を給付する) |
これらを分ける意味というのは、たとえば強制執行をする場合に選択できる方法が変わってくること等にあります。
たとえば、「金銭の給付」であれば債務者が履行しない場合に直接履行を強制することもできますが、「騒音を出す設備を設置しない」という約束を債務者が破ってそのような建物を放置している場合、債務者自身をその現場まで引っ張っていって取り壊しの作業をさせるわけにはいきません。
このような場合は「代替執行」といって、業者に設備を取り壊させてその代金を債務者に請求するという方法があります。
また、歌手のコンサート出演などのように「代替執行」が不可能な性質の債務である場合は、「間接強制」といって、出演しなかった場合に一定の金銭を負担させるといった方法で強制執行することもあります。
「債権者」とは何か?
債権について良く分かったよ!
という事は、債権を持っている人が債権者って事だね?
そういう事!
次は債権者にはどんな権利があるのか、チェックしていこう。
上記に述べたように、さまざまな発生原因によって発生した債権で、「相手に対して何らかの権利を持っている側」を債権者と呼びます。
債権者、債務者は裏返しの関係にあり、契約当事者の間では「何を請求できるか」によって同一の契約で両方の立場をあわせ持つことがあります。
たとえば、不動産売買契約において、不動産の引渡しに着目すれば買主が債権者ですが、金銭の給付に着目すれば売主が債権者ということになります。
債権者の権利
債権者であれば誰でも次のような権利を持っています。
- 給付保持力(債務者から受けた履行を手元に保持する権利)
- 訴求力(履行がない場合に裁判などを起こし、積極的に履行を促すことのできる権利)
- 執行力(勝訴判決や和解調書などを取り付けた場合に債務者の財産に強制執行できる権利)
状況によっては、債務者である取引先が、民事再生法による、民事再生手続開始や、会社更生手続を進める事もあります。
そのような場合、事業再生が見込めるのであれば、再生計画案を受け入れ、今後も取引を続けることになります。
しかし、債権カットは免れないと考えましょう。
その他にも、債務者が破産手続きや倒産手続きを進めた場合には、破産法の定めるルールに従い、破産者の財産が分配される事になります。
債権者の種類
債権者は基本的に平等ですが、債権の性質により、また、抵当権の登記など特別な手続きを取ることによって他の債権者に先駆けた地位を獲得できることがあります。
一般債権者
抵当権など、他の債権者に優先する担保を持たない債権者のことです。
いざ、債権を回収できなくなった場合、下記の「担保権者」よりも不利な立場に置かれることも多くなります。
ただ、一般債権者が自分の持つ債権が回収困難とみた場合には、積極的に債務者の責任財産(弁済に回すべき財産)を確保する方法があり、これが債権者代位権や債権者取消権です。
これらは、債務者が他人に対して行使できる権利を債務者に代わって行使したり、債務者が自分の責任財産を減らすような行為をした時にこれを取り消せる権利です。
担保権者
抵当権、根抵当権、質権など担保を確保している債権者のことです。
たとえば抵当権者であれば担保の登記を設定している不動産につき、抵当権者としての立場で競売の申立てをすることができ、不動産の売却代金について優先的に配当を受けることができます。
ただ、担保権者といえども「複数の抵当権者がいるため配当を受けられない場合」も存在します。
たとえば抵当権は「登記」によって債権者が自分の権利を公示していますが、すでに1番抵当権がついた不動産に2番以降で抵当権の登記を入れるとしましょう。
そのこと自体はできるのですが、実際の配当の場面では1番抵当権者が最優先されるため2番以降は満額はおろか「1円も受け取れない」ということも考えられるのです。
そこで、担保権者=いかなる場面でも一般債権者より有利、とは言い切れない側面もあります。
また、自動車のローンなどでよくあるのが「所有権留保」ですが、これはローン返済が終わるまでは自動車の所有権がローン会社にあるというものです。
そこでローン返済が滞るとローン会社が他の債権者に関係なく自動車を引き揚げて、売却代金を弁済に充てることができます。
債権者が死亡した場合には
もし債権者がなくなってしまった場合には、債権の権利はなくなってしまうの?
債権者の権利は、相続により引き継がれる事になるんだよ。
ある人が債権者になっていた場合、債務の履行を受け終わる前に死亡することも考えられます。
そのような場合にその債権はどうなってしまうのでしょうか。
債権者が死亡すると、被相続人(亡くなった人)の持っていた債権はなくなってしまうわけではなく、「相続」されます。
相続とはある人に属していた財産的価値、事業価値のあるもの、そして負債がすべて民法で定めた範囲の相続人に受け継がれることです。
債権には
- 「可分債権(分けることができる債権)」
- 「不可分債権(分けられない債権)」
があり、可分債権としては金銭等の請求権が、不可分債権としては建物の引渡し請求権などが考えられます。
ただ、可分債権だから遺産分割をしなくても各相続人が各々行使できるのかというと、必ずしもそうではありません。
相続において可分債権をどう扱うかについては見解が分かれており、
- 共有の債権と考え、遺産分割をしなければ各相続人に承継されない
- 分割債権と考え、相続発生と同時に法定相続分に応じて各相続人に分割承継される
などの考え方があります。
実務上よく問題になるのが「預貯金」です。
預貯金の本質は金融機関に対する「払戻し請求権」という債権ですが、最近の判例でこれについては従来の判例と異なる判断がされました。
「預金債権は相続開始と同時に相続分に応じて分割されるのではなく、遺産分割の対象となる(平成28年12月19日最高裁大法廷)」
従前の判例では、預金債権については相続開始と同時に各相続人に分割承継されると判断されていました(それでも相続人の合意で遺産分割の対象とすることはできていた)が、それが覆されたことになります。
ちなみに、実務上は以前から「金融機関は各相続人の相続分だけの払戻しには応じない」という対応が主流でしたが、上記の最高裁判例が出たことにより今後もますます「遺産分割協議前の個別払い戻しには応じてもらえない傾向が強まる」と考えるべきでしょう。
相続人がいない場合や、相続人が相続放棄した場合には、相続財産管理人の選任のために、家庭裁判所へ申請書を提出必要があります。
債権者とは?わかりやすく解説、まとめ
お金を貸す人のことを債権者って呼ぶのかと思っていたけれど、債権にもいろんな種類があるんだね。
債権の権利や種類について知っておくと、何かトラブルが生じた時にも対処しやすくなるね。
それでは今回のまとめだよ。
- 「債権」とは債務者に対してさまざまな行為(お金や物の給付、その他)を請求できる権利のことである。
- 債権は、契約等の法律行為のほか、事務管理、不当利得、不法行為によっても発生する。
- 債権は、給付の内容によって区別することもでき、強制執行の方法などに違いがある。
- 債権者には担保を持たない「一般債権者」と担保を持つ「担保権者」に分けられ、後者は担保物について優先弁済権を持つ。
- 債権者が死亡した場合、債権は法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)に引き継がれる。
- 預金債権は近年の最高裁判例では「相続人に分割承継されるのではなく、遺産分割の対象になる」と判断されている。
よって、相続人から個別に自分の相続分の払戻しを請求することはますます難しくなったといえる。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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