強制執行(差し押さえ)の種類や流れ、期間。回避するための方法を解説
借金を滞納していると、急に差し押さえとなってしまうの?
差押えや強制執行を行う場合には、裁判所を通じた手続きが必要なんだよ。
差押えの対象になるのはどんな物なの?
差押えの対象となる物には様々な種類があるんだ。
今回の記事では、差し押さえになる対象物と、差し押さえを回避する方法について、チェックしていこう。
- 借金を滞納していたら、差押えをされるのだろうか?
- 差押えの対象になるのはどんな財産?
- 差押えの流れを知りたい
- 借金を滞納していても差押えを避ける方法はある?
借金をきちんと返済しないと、債権者が裁判所に「強制執行」を申し立てることにより、債務者のさまざまな財産が差し押さえられてしまう可能性があります。
今回は、差押えとはどのような手続きで何が差押えの対象になるのか、強制執行の流れや差押えを避けるための方法など、借金している方に必要な知識を紹介していきます。
強制執行とは
強制執行、差押えの基本知識
そもそも強制執行とはどのようなことなのか、基本的なことを理解しておきましょう。
強制執行は、債務者がきちんと義務を果たさないときに、債権者が裁判所に訴訟申立てをして強制的に権利を実現する手続きです。
たとえばお金を借りて返済しないとき、家賃を払わないとき、家の明け渡し命令が出ているのに自分から出ていかない場合などに、強制執行が行われます。
お金を払っていない場合に強制執行されると、裁判所によって財産が差し押さえられて、その財産は差押債権者へ支払われてしまいます。
そこで、強制執行は差押えと同じような意味で使われることが多いです。
ただ、差押えが強制執行と一致しないケースもあります。
たとえば家の明け渡しの強制執行の場合には、債務者の財産を差し押さえることはなく、債務者を家から追い出すだけの手続きとなります。
差押えが行われるのは、金銭債権の回収を目的とした強制執行の場合です。
その場合、債権回収するために債務者の財産を差し押さえて換価しないといけないので、前提として差押えが必須となります。
借金滞納で差押えが行われるケースとは
借金を滞納したからと言って、必ず差押えが行われるわけではありません。
債権者が差押えをするためには「債務名義」が必要だからです。
債務名義とは、以下のような書類のことです。
- 強制執行認諾条項つき公正証書
- 判決書(支払い命令)
- 調停調書
- 審判書
つまり、お金を借りたときに強制執行認諾条項を入れて公正証書を作成した場合や、裁判所で調停をして支払いの約束をした場合、相手から裁判をされて支払い命令が出ている場合、特定調停などで支払いをする内容の審判が出ているケースなどにおいて、債務名義があるので差押えが認められます。
これらの書類がなく通常の契約書しかない場合には、いきなり強制執行されることはありません。
ただし、債権者が「担保権」を持っている場合には、その担保権を行使して強制執行できるケースがあります。
典型的な担保権は不動産に対する抵当権です。
自宅などにローンを組んでいて抵当権を設定していると、ローンを滞納したときに自宅を差し押さえられて競売にかけられてしまいます。
金銭回収を目的とした強制執行の種類
差押えの対象物について、詳しく教えて!
給料などの債権や、不動産、現金や絵画などの動産が差押えの対象となるんだよ。
詳しく説明するね。
金銭債権の回収を目的とする強制執行は、差し押さえる対象物によって以下の3種類に分けられます。
- 債権執行
- 不動産執行
- 動産執行
以下でそれぞれについて、みていきましょう。
債権執行
債権執行は、債務者の持っている「債権」を差し押さえる手続きです。
債権とは、誰かに何かを請求する権利です。
消費者金融や銀行からの借入や、養育費などの支払いが滞っている場合にこれにあたります。
このように債務者によって請求される立場の人を「第三債務者」と言います。
債権者が債務者の債権を差し押さえると、債権者は第三債務者に直接債権の支払いを請求することができます。
その債権を回収することにより、自分の債権を回収できます。
たとえば債務者が他の誰かにお金を貸していたら、その貸金を回収する権利は債務者の「債権」です。
その権利自身を債権者が差し押さえてしまい、直接第三債務者から取り立ててしまうということです。
債権執行の対象になるのは、以下のようなものです。
- 給与債権(給料債権)
- 退職金債権
- 売掛金
- 賃料債権
- 貸金債権
- 預貯金払い戻し請求権
- 生命保険の解約返戻金請求債権
- ゴルフ会員権
- 敷金・保証金返還請求権
このように、会社の給料や退職金、預金や生命保険などは、すべて「債権執行」の対象となります。
債権執行は強制執行の中でもっとも簡単確実性も高いので、非常に頻繁に行われます。
不動産執行
2つめの強制執行が「不動産執行」です。
これは、債務者が所有している不動産を売却して、その売却金から債権の満足を得る方法です。
不動産執行の対象になるのは、基本的に債務者名義の不動産です。
借金返済を滞納していると、自宅などの不動産が差し押さえられて競売で売られてしまい、家に住めなくなってしまうおそれがあります。
動産執行
動産執行は、債務者の持っている動産が差し押さえられて売却され、その売却金から債権が支払われる手続きです。
動産執行の対象になるのは、以下のような財産です。
- 現金
- 絵画
- 骨董品
- 価値のある家財道具
- 時計
- 宝石類
動産執行が行われる場合、すべての債務者の所有財産を持ち去られるわけではありません。
生活必需品や仕事に必須の道具などはとられることはないので、動産執行が行われたとしても、本当に着の身着のままになってしまって生活できなくなることはありません。
自動車執行
自動車も動産の1種ではありますが、裁判所の手続きにおいて自動車執行は通常の動産執行とは異なる扱いとされています。
債務者が自動車を所有している場合、執行官やレッカー車などが自動車の保管場所にまで来られて自動車を引き上げられ、競売にかけられて売られてしまいます。
強制執行に至るまでの流れ
差押えが行われるまでの流れを詳しく教えて!
まずは支払督促が行われるんだ。
そのまま放置していると、裁判になり、最終的に差し押さえや強制執行になるんだよ。
借金を滞納したら、どのような流れで強制執行になるのでしょうか?
電話や手紙などによる督促
借金を滞納すると、まずは債権者から電話や郵便などによって滞納者へ支払の督促が行われます。
この時点で支払いをすれば、強制執行されるリスクはありません。
内容証明郵便による督促
借金返済をせずに放置して2か月程度が経過すると、債権者が内容証明郵便によって借金の一括払いを請求してきます。
内容証明郵便には「このまま支払いをしない場合、裁判や強制執行をします」などと書かれていることも多いですが、この差押予告通知が送られた時点でも、まだ強制執行は行われません。
裁判
内容証明郵便が届いても対応しないと、次に裁判が行われます。
裁判が始まったら裁判所から訴状や呼び出し状が届きます。
ただし裁判が続いている間は強制執行されることはありません。
判決
裁判が終了すると、裁判所が支払い命令の判決を下します。
判決が出てから2週間で判決の内容が確定します。
その後異議申し立てを行わなければ、債権差押通知書により通達が行われ、債権者は強制執行できる状態になります。
強制執行の申し立て
判決が確定して強制執行できる状態になると、債権者は債務者に財産がないかどうかを探します。
ときには事前に調べて把握しているケースもあります。
そして債権者は裁判所に強制執行を申したてて、債務者の財産や債権を差し押さえます。
このように、借金を滞納し始めてから強制執行が始まるまでにはかなり長い期間がかかります。
ケースにもよりますが、早くて4か月程度、遅い場合には数年経ってから強制執行されることもあります。
抵当権がついている場合の強制執行までの流れ
どんな借金でも、差し押さえになるまでの流れは変わらないの?
抵当権が付いている場合には、裁判を通さずに差押えを行うことができるから注意が必要だよ。
借金に「抵当権」がついている場合には流れが変わってきます。
抵当権者は優先的に不動産から貸付金の弁済を受ける権利を持っているので、裁判を起こさなくても強制執行できます。
そこで抵当権がついている場合にローンを滞納すると、すぐに不動産の競売が開始されてしまう可能性があります。
ただし、突然競売にかかるのではなく、この場合にもいくつかのステップがあります。
内容証明郵便で一括請求される
住宅ローンや不動産ローンを滞納している場合、3か月か6か月分程度支払いを滞納した時点で、債権者(銀行等)が内容証明郵便を使って残ローンの一括払いを請求してきます。
保険会社による代位弁済が起こる
一括払いに応じないで放置していると、保証会社が金融機関に「代位弁済」を行い、残元本や利息、遅延損害金を一括払いしてしまいます。
このことにより、保証会社へ債権譲渡され、新たな債権者となります。
その後保証会社は債務者に対し、金融機関に立て替え払いをしたローンの元本と利息、遅延損害金などの支払いを請求してきます。
保証会社が不動産競売を申し立てる
債務者が支払いをしないで放置していると、保証会社は担保権にもとづいて不動産競売を申し立てます。
これにより不動産が差し押さえられて売却され、債務者の手元から失われます。
強制執行の対象財産は債権者が明らかにする必要がある
差押えを逃れる方法ってないのかな?
債権者に、銀行口座や財産内容がバレないようにすれば、差し押さえを防ぐことが出来る可能性もあるんだ。
詳しく説明するね。
強制執行を心配する債務者の方が知っておくと役に立つ情報があります。
それは、強制執行の対象にする財産は、債権者が探して特定せねばならないことです。
裁判所が財産内容を調べて相手に教えることはありません。
たとえば預貯金であれば「〇〇銀行△△支店」まで明らかにする必要があります。
給料なら勤務先を、生命保険ならば生命保険会社を特定しなければなりません。
これらが特定されていなければ、裁判所も差押えの申し立てを受け付けません。
相手が間違った場所に差押えをしても、空振りになって終わってしまうので、財産を取られることはありません。
つまり「相手に知られていない財産は差し押さえられる心配がない」ということです。
今の勤務先を知られていても、転職して相手の知らないところに勤務するようになったらそこでの給料は差し押さえられない可能性があります。
相手が費用倒れになりやすい強制執行
もう1つ、強制執行について押さえておきたい知識が「費用倒れ」の問題です。
強制執行にはお金がかかります。
一方入ってくるお金は、差し押さえた物が売れた代金や回収できた債権額のみです。
回収額が費用より低ければ、債権者は損をしてしまいます。
強制執行は、必ず利益が保証された手続きではないのです。
債権執行はあまり費用がかかりませんが(1万円~数万円程度)、動産執行や不動産執行、自動車執行には何十万円や百万円単位の費用がかかります。
不動産が高額で売れたら元が取れますが、空振りに終わった場合や安値でしか売れなかった場合には、足が出てしまいます。
このことをおそれて、動産執行や自動車執行をあえて行わない債権者もいます。
強制執行を回避する方法
じゃあ、差し押さえを回避するにはどうすれば良いの?
少しでも早く、自己破産や個人再生などの債務整理を行うのがお勧めだよ。
それでは債務者の立場からして、強制執行を回避する方法はあるのでしょうか?
一番良いのは債務整理です。
債務整理の中でも、個人再生と自己破産には直接的に強制執行を停止させる効果があります。
個人再生の「個人再生手続き開始決定」や自己破産の「破産手続き開始決定」が下りると、債権者はその後に改めて強制執行の申し立てをすることができなくなります。
そこで、債権者から裁判をされていて「支払いをしないと差押えをする」と言われているときでも、早めに個人再生や自己破産を申し立てて開始決定を出してもらったら差押えを受ける危険性がなくなります。
また給与差押えを受けている場合であっても、個人再生手続き開始決定や破産手続き開始決定があると、強制執行の手続きが停止されたり失効したりします。
すると給料の差押えが止まり、後でまとめて受けとれたりその翌月からは普通に支払われるようになったりするので、メリットが大きいです。
なお任意整理は債権者との交渉なので、必ず強制執行を止めてもらえるとは限りません。
効果的に強制執行を止めたいのであれば、早めに個人再生か自己破産をすべきです。
まとめ
差押えになるまでの流れと、差押えの対象物について、詳しく教えてくれてありがとう!
差押命令が下されるまでには長い期間があるってわかって少し安心したよ。
差押えまでには期間があるからって、安心していてはいけないよ。
支払いができない事に気が付いたら、出来るだけ早く、弁護士事務所などに相談にいって、弁護士回答を得るようにしよう。
借金を滞納していると、最終的に待っているのは差押えです。
そこまでいったら日常生活を普通に送るのも難しくなってしまうので、その前に債務整理を行い、借金問題を解決しておきましょう。
早い段階なら任意整理も有効なので、困っているなら司法書士などの専門家に相談すると良いでしょう。
福谷陽子
元弁護士・ライター。
弁護士としての活動した約10年間のうち、7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては債務整理案件を多数担当し、任意整理・個人再生・自己破産のみならず、過払金請求も手がける。
その経験をもとに、現在はライターとして法律関係の記事を執筆している。
■略歴
・京都大学法学部在学中、司法試験合格
・京都大学法学部卒業後、司法研修所入所
・弁護士登録・某法律事務所にて勤務
・独立し、陽花法律事務所を設立
・弁護士活動を停止し、ライターに転身
■ご覧のみなさまへのメッセージ
借金問題を抱えていると、追い詰められた気持ちになるものです。
「どうしようもない」「借りた自分が悪い」「借りたからには返さなければ」と律儀な思いを持ち、必死で返済を続けている方もおられるでしょう。
しかしどんなに頑張っても返済できない借金があるものです。
法律は借金返済できない方や苦しくなった方に救済手段をもうけています。
債務整理をすると嘘のように借金問題を簡単に解決できるケースが本当に多いです。
借金問題に悩んでいる時間はもったいないです。
債務整理は恥ずかしいことではないので、勇気を出して専門家へ相談していただきたいと思います。
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