差押えの「第三債務者」って誰?対応や陳述書についても解説
借金を滞納していると、第三債務者にも迷惑がかかるって聞いたんだけれど、第三債務者って何?
第三債務者とは、債権の債務者の事を呼ぶんだ。
簡単にいうと、債務者の返済が滞っている場合には、給料の債権差押命令を裁判所が下す事ができるよね。
その給料を支払っている会社の事を第三債務者と呼ぶんだよ。
第三債務者は支払いを拒否する事はできないの?
よし!では早速、第三債務者について、詳しく説明するね!
借金を滞納して債権者から「差押え」を受けたとき、自分だけではなく「第三債務者」に迷惑をかけてしまうケースが多々あります。
第三債務者とは、預貯金を持っている場合の銀行や勤務先の会社などです。
あなたが何らかの債権を持っているとき、その差押債権の相手が「第三債務者」となります。
今回は第三債務者の意味と具体例、第三債務者がとるべき対応など、必要な知識をご紹介していきます。
第三債務者とは
そもそも第三債務者とは何か
いきなり「第三債務者」と言われても、何のことかわからない方が多いでしょう。
第三債務者は、債務者が持っている債権の相手方(義務者)です。
抽象的ではわかりにくいので、具体例を示しましょう。
第三債務者の典型は、給料を支払う「会社」です。
あなたが借金を滞納したら、債権者は裁判所の債権執行により、あなたの給料を差し押さえることができます。
このとき差し押さえられるのは「給与債権(貸金債権や給料債権とも呼ぶ)」という債権です。
給与債権は、あなたが会社に給料を請求できる権利です。
それを債権者が自分のものとして差し押さえて行使するのです。
給与債権を実行するには、債権者は債権差押命令申立書(執行文をつけて)を裁判所に送付し、裁判所から許可が得た場合にのみ、債権者は会社に連絡をして会社から直接給料を支払ってもらう事ができます。
ただ、会社自身が債権者からお金を借りたわけではありませんから、会社は債権者にとっての「債務者」ではありません。
債務者はあくまであなたです。
そこで「第三債務者」と言います。
第三債務者が問題になるのは「債権差押え」が行われるケースであり、主に裁判所とのやり取りや、債権執行手続で出てきます。
普段の生活や債権者とのやり取りで「第三債務者が…」という話題が出ることはほとんどありません。
第三債務者の例
第三債務者としての債権回収にはどんな種類があるの?
給料や預貯金、生命保険や売掛金などが、強制執行債権として、差押え対象となるんだ。
執行費用も全て差し押さえの金額に含まれる事になるんだよ。
第三債務者が問題になる例としては、以下のようなものがあります。
銀行預金
銀行預金は、給与と並んで頻繁に差押えの対象になります。
預金は現金とは違い、「預金債権(金銭債権)」という債権です(現金は債権ではなく動産です)。
この場合の第三債務者は「銀行」です。
そこで預金が差し押さえられると、債権者は銀行に直接連絡を入れて、あなたが銀行に対して持っている「預金債権」を取り立てて預金を出金します。
生命保険
生命保険も、差押えの対象になることが多いです。
生命保険の場合には「解約返戻金請求権」が差し押さえられます。
解約返戻金とは、生命保険を解約したときに戻ってくるお金です。
生命保険を契約していると、いつでも生命保険を解約して生命保険会社に解約返戻金の支払を求めることができるので、借金を滞納するとその権利を差し押さえられるのです。
この場合の第三債務者は「生命保険会社」です。
生命保険を差し押さえられると、債権者が生命保険会社に直接連絡を入れて生命保険を強制的に解約し、解約返戻金を取り立てます。
給料
給料は給与債権です。
給与が差し押さえられると債権者は会社から直接給与を取り立てます。
ただし給与差し押さえの場合、全額の差し押さえは差押禁止債権となります。
労働者にも生活があるからです。
給与の手取り額が44万円以下の場合には手取り額の4分の1まで、給与の手取り額が44万円を超える場合には33万円を超える部分を全額差押えられます。
賃料、地代
債務者が不動産登記をしており不動産経営や所有権を行っている場合や、誰かから賃料や地代を受けとっている場合には、その賃料や地代の請求権が不動産執行となり、差押えの対象になります。
この場合の第三債務者は、建物や土地の「賃借人」です。
賃料や地代が差し押さえられた場合、債権者が賃借人に直接連絡を入れて、「今後は賃料をこちらに支払うように」と通知し、賃料や地代を取り立てるようになります。
売掛金
商品などを売却して売掛金がある場合、その売掛金債権も差押え対象となります。
第三債務者は「購入者(買主)」や「取引相手」です。
売掛金を差押えられると、債権者は直接売り掛け先に連絡を入れて、「売掛金を差押えたので、支払いはこちらにしてほしい」と通知します。
敷金返還請求権
あなたが賃貸物件を借りている場合にも、債権差し押さえが行われる可能性があります。
物件を借りるときには「敷金」を差し入れることが多いからです。
敷金を入れると物件解約時に敷金の返還請求ができますが、敷金返還請求権が差押え対象になります。
この場合の第三債務者は、「大家(賃貸人)」です。
敷金返還請求権が差し押さえられると、債権者は大家に連絡を入れて、敷金を返還する際には自分の方へ払うよう求めます。
債権差押えと第三債務者の例まとめ
債権の種類 | 第三債務者 |
銀行預金 | 銀行 |
生命保険 | 生命保険会社 |
給料 | 勤務先の会社 |
賃料、地代 | 賃借人 |
売掛金 | 売り掛け先、取引先、購入者 |
敷金 | 大家、賃貸人 |
差押債権目録に記載してある債権を全額支払いとなった場合には、取り立て完了届を提出して手続き終了となります。
第三債務者相手に差押えをされたときのデメリット、リスク
第三債務者によって返済が行われると、債務者にはどんなデメリットがあるの?
予定していたお金が入ってこなくなるわけだから、生活が厳しくなってしまったり、会社の運営が成り立たなくなってしまう事も考えられるね。
第三債務者に対する債権差押えをされると、債務者本人にとっても大きなリスクやデメリットがあります。
以下でどのような問題があるのかみてみましょう。
お金が入ってこなくなる
1つ目の問題は、予定していた入金がなくなることです。
たとえば給与を差し押さえられたらお金が入ってこなくなって生活に困るかもしれませんし、預金や生命保険を勝手に解約されたら財産が減ってしまいます。
賃料収入や売掛金が入ってこなくなるのも困るでしょう。
信用がなくなる
2つ目の問題が、信用を失うことです。
債権差押えの場合、第三債務者に差押えの通知をされてしまうので、第三債務者に差押えの事実を知られます。
すると「借金を支払えていない人だ」と思われますし、差し押さえに対応しなければならないので迷惑だと感じる人もいます。
信用を失ったら、継続的な取引が難しくなってしまうケースもあり、単純にお金が入ってこなくなる以上の損害が発生します。
会社にいづらくなる
給与債権を差し押さえられると、執行裁判所から会社に債権差し押さえ通知が届き、債権者からも連絡があるので会社に事情を知られてしまいます。
解雇理由にはなりませんが、会社にいづらくなってしまう可能性は十分にあります。
取引を切られる
売掛金などを差し押さえられると、裁判所から売り掛け先に「債権差押え決定書」が届きます。
この時点で売り掛け先が驚くケースも多いですし、債権者から取り立てを受けてさらに迷惑が及んでしまいます。
また「支払いが苦しくなっている相手だ」と思われるので、これ以上かかわりたくないと思われて取引を切られてしまう可能性もあります。
賃借人が出て行ってしまう
賃貸物件を経営していると、賃料や地代を差し押さえられてしまうことがあります。
すると裁判所から賃借人へと差押え決定通知書が届きますし、債権者からは賃料を自分の法へ支払うように求められます。
通常、入居先で裁判所や差押えなどの面倒な問題に巻き込まれたくないものですから、このようなトラブルがあると賃借人が出て行ってしまいますし、今後新たな入居者も探しにくい状況となってしまいます。
差押えが起こったときに第三債務者が取るべき対応
第三債務者は、陳述書が送られて来たら、どうすれば良いの?
陳述書通りに支払いをする必要があるね。
次に、債権差し押さえが行われたときに、第三債務者としてとるべき対応をご紹介します。
第三債務者の陳述書とは
債権差し押さえが行われると、裁判所から第三債務者へと債権差押え決定書が届き、同時に「陳述書」が送られてくるケースが多いです。
第三債務者の「陳述書」とは、債権の有無や内容、金額などを記載するものです。
債権差押えが行われても、必ずしも債権者の思った通りの債権があるとは限りません。
ときにはすでに弁済が行われていたり会社を辞めたりしていて、債権が存在しないケースもあります。
また、給料や解約返戻金など、具体的にいくらの債権があるのかは第三債務者にしかわかりません。
そこで差押えを実行する前提として、第三債務者へ債権の状況について照会し、陳述書を提出させるのです。
第三債務者へ陳述書提出を求めることを「陳述催告の申し立て」と言います。
差押命令の際、陳述催告の申し立ては義務ではありませんが、ほとんどのケースで行われます。
そこで、債権差押え決定が出ると、第三債務者のもとには回答用の陳述書が送付されてきます。
陳述書を提出する
陳述所が裁判所から送付されてきたら、第三債務者は必要事項を記入して裁判所に返送する必要があります。
どのような種類の債権があるのか、その債権額はいくらなのか、支払時期がいつになっているのかなど、記入します。
債権がないのであれば「なし」と書いてかまいません。
債務があれば支払をする
陳述書を返送して1週間ほどが経過すると、債権者から第三債務者に直接連絡があります。
そのとき、実際に差押え対象の債権が存在するのであれば、債権者に支払いをする必要があります。
債務者(第三債務者にとっては債権者)に許可を取る必要はありません。
たとえば給与が差し押さえられたとき、会社は債務者に何の連絡や断りもせず、給与の一部を債権者に支払うことができます。
銀行預金や生命保険などでも同じで、差し押さえられたら債務者が承諾しなくても勝手に解約されて返戻金が債権者に払われます。
先に出金、解約することは難しい
このような流れを知ると、債務者の方は「債権者が第三債務者に連絡をして取り立てをするまでに自分で先に預金や保険を解約して回収してしまったら良いのではないか?」と考えることがあります。
しかしそのようなことは、基本的は困難です。
第三債務者への債権差押え決定通知は、債務者による直前の出金等を防ぐため、債務者よりも1~2週間早い段階で行われるからです。
銀行預金などは差し押さえ通知と共に凍結されるので、債務者が差押えに気づく頃にはもう出金できなくなっています。
生命保険や売掛金なども同じです。
第三債務者は支払を拒否できるのか
第三債務者が支払いを拒否するとどうなるの?
第三債務者から返済してもらえるように、訴訟を起こされてしまう事が多いんだ。
だから拒否せずに支払うようにしよう。
第三債務者が債権者から支払い請求されたとき、拒否することは可能でしょうか?
債権差押えは法律上認められる債権者の権利です。
それが裁判所を通じて行われている以上、第三債務者は従わねばなりません。
もしも債権があるのに差押え命令に従わず支払わなかったら、債権者は第三債務者に対して「取り立て訴訟」を起こします。
取立訴訟で第三債務者が負けると、債権者は第三債務者自身の財産を差し押さえて取り立てることが可能となります。
このようなリスクがあるので、差押えがあったとき、第三債務者としては拒否せず支払いをした方が得策です。
ただし実際に債権がないのであれば、支払をする必要はありませんので拒否できます。
第三債務者の供託とは
複数の債権者から第三債務者の通知が届いたらどうすれば良いの?
供託を利用して、供託所となる法務局にお金を預けておけば、複数の債権者が取り立ててくるような事はなくなるよ。
債務者がいろいろな支払いを怠っていると、複数の債権者による債権差押えが競合するケースがあります。
つまりたくさんの債権者が差押えを行い、第三債務者としては誰にどのくらいの支払いをして良いかわからなくなってしまう可能性があるのです。
このような場合でも、第三債務者には支払義務があるので、放っておいてはいけません。
各債権者から取立訴訟を起こされてしまう可能性があるからです。
第三債務者としては、差押え対象となる金員を「供託」することにより、義務を免れることができると、民事執行法で定められています。
供託とは、法務局にお金を預けることです。
供託してしまえば、後は債権者が自分達で権利を確定して供託金を取り戻すので、第三債務者自身が対応する必要がなくなります。
なお供託したら、第三債務者は「供託書」と「事情届」を裁判所に提出する必要があります。
まとめ
第三債務者について、詳しくわかったよ!
差押えが行われると、様々な人に迷惑をかけてしまう事になるんだね。
第三債務者への影響を避けるためには、借金は延滞せずに返済をする事が大切だね。
債権差押えが行われると、自分だけではなく第三債務者に対する影響も大きくなります。
このことで信用が失われていろいろな問題が発生する危険性も高まるので、借金を滞納しているときには差押えを回避することが重要です。
債務整理をすれば差押えを防止できるので、債権者から差し押さえ予告を受けているならば、早めに弁護士や司法書士に相談しましょう。
福谷陽子
元弁護士・ライター。
弁護士としての活動した約10年間のうち、7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては債務整理案件を多数担当し、任意整理・個人再生・自己破産のみならず、過払金請求も手がける。
その経験をもとに、現在はライターとして法律関係の記事を執筆している。
■略歴
・京都大学法学部在学中、司法試験合格
・京都大学法学部卒業後、司法研修所入所
・弁護士登録・某法律事務所にて勤務
・独立し、陽花法律事務所を設立
・弁護士活動を停止し、ライターに転身
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