自己破産をする場合、裁判所に行かなきゃいけないの?手続き方法について解説
今回の記事では、自己破産手続きで裁判所に出頭せずに手続きを完了させる方法について、詳しく見ていこう。
自己破産の手続きは、ほとんどの人が初めてであるはずなので、全体の流れがどのようになっているかわからず不安になることも多いでしょう。
自己破産しようとすると実際に裁判所に出向かなくてはならない機会は何度くらいあるのでしょうか?
また、一度も行かずに自己破産することができるのかどうかについても考えてみましょう。
※注:2021年2月現在、新型コロナウイルス感染防止のため密になることを避ける趣旨から、通常とは異なる取扱いがされている裁判所がありますのでご注意ください。
状況は短期間で変わる可能性もあるため、最新情報を申立先の裁判所あるいは申立代理人弁護士等から確認してください。
裁判所に行かずに自己破産手続きを進めるには
裁判所というのは大半の人が人生で一度も足を踏み入れたことがないでしょうし、もし関わらずに済むのであればそれに越したことはありません。
しかし、自己破産による免責を認めてもらおうと思えばこれが裁判所の関与する手続きである以上、やはり足を運ぶことになるのはやむを得ません。
書面審理で済むケースとは
では、例外的に書面だけで済むケースはあるのでしょうか?
これは出頭の話だけではなく手続き全般に渡る原則なのですが、
「自己破産を申立てる各地方裁判所によって実務上の運用が異なっている」
ということです。
要するに、全国すべての裁判所が全く同様に進むわけではないということです。
もちろん、破産法などによる大まかな手続方法の枠組みはあるのですが、例えば「家計収支表を何カ月分出すか」「本人に何回出頭させるか」などの細かい点については各裁判所の判断に任されています。
また、債務者の個別事情(より詳細な事情を聞くことが必要など)によって出頭回数が多くなるなど、取扱いが変わることがあります。
裁判所によって進め方が違うのは、東京、大阪などの大都市と地方都市では裁判所が抱える案件の数にかなり隔たりがあること、そして申立代理人となれる弁護士の数なども全く異なるからです。
それなら手続きが楽なところに申立てをすればよいと思ってしまいますが、当事者が自由に決めることはできません。
自己破産の申立ては「管轄裁判所」が決まっているため、原則として債務者の住所地を管轄する地方裁判所に申立てなくてはならないのです。
よって、自分の管轄となる地方裁判所のルールに従うしかないことになります。
書面審理で済む手続き
破産手続きには「同時廃止」と「管財事件」という2つの類型があります。
「破産手続開始・免責許可申立書」と「添付書類」を出すと、裁判所によってまずその内容を確認され、最初の段階でどちらかに振り分けがされます。
- 同時廃止とは
債務者に配当できるような財産および免責不許可事由(詐欺的借入等)がないため、破産手続開始決定と同時に破産を廃止(手続きを終わらせる)すること。
通常この後すみやかに免責の手続きに移り、手続き全体が非常に早く終結する。 - 管財事件とは
債務者に配当できる財産があったり免責不許可事由(詐欺的借入等)がある場合に破産管財人が選任されて配当や調査などが行われる。
これらが終結すると免責手続きに移るが、全体として手続きが長期化することもある。
振り分けはこのような基準で行われます。
※免責不許可事由
債務者に、免責を認めるのが相当ではないような事情があること。
ギャンブルで大幅に財産を失う、債権者を騙して借入れするなどが代表的。
要するに、「配当できる資産がある」もしくは「免責不許可事由がある」このいずれか、また、両方にあてはまる人は「管財事件」になり、それ以外の人は同時廃止になるのが原則的な取扱いです。
基本的に、管財事件に振り分けられた人は、一度も出頭せずに手続きを終わらせられることはほぼないと考えなくてはなりません。
なぜなら管財事件では債権者集会の開催や本人から破産に至るまでの事情をより詳細に聞くことが大切なプロセスであるため、必然的に裁判所が本人に関わる機会が多くなるからです。
ただ、同時廃止の場合には裁判所によっては一度も出頭させずに書面のみで審理し、免責させている例もあるようです。
もちろんこの取扱いはすべての裁判所でされているわけではないため、原則としては「免責審尋」といって、一度は裁判所に出向いて審尋を受けなくてはならないものと考えておかなくてはなりません。
書面審理が利用できない場合には
債務者の出頭が必須とされている裁判所でより負担を少なくする方法はあるのでしょうか。
裁判所に行く回数を減らすには専門家に依頼する
裁判所に限らず法務局や税務署など役所の関係手続全般に言えることなのですが、士業などの専門家が介在することにより、その案件に対する役所側からの信頼が増すのは事実です。
弁護士(司法書士)に依頼すれば自己破産の書類一式をすべて作成してもらうことができますし、弁護士の場合であれば「申立代理人」としての役割も果たしてくれます。
東京などの大規模裁判所では非常に多くの申立てがされるため「効率良く案件を処理する」ための工夫がされています。
その中の一つが東京地裁の「即日面接」と呼ばれるものであり、弁護士が代理人となっている申立てについては当日中または3日以内に弁護士と裁判官が面接を行います。
そして、この面接によって「同時廃止」か「管財事件」かの振り分けが決まります。
他の裁判所では、通常申立て書類を提出してから2週間くらいで「補正(書類の不備などを訂正する)」の連絡が来て、申立人側が補正を完了してから1週間程度でようやく同時廃止か管財事件の振り分けが決まるところもあります。
それに比べると、東京地裁の場合は即日面接を採用していることで非常にスピードアップが図られているといえます。
ただ、気をつけなくてはならないのが、仮にここで弁護士の準備不足のために裁判所が追加で調査しなくてはならない事項が多数発覚すると、本来は同時廃止で済むはずの事件が管財事件になってしまう可能性もあるのです。
よって、手続きを依頼する事務所を選ぶ際はなるべく自己破産案件を多く手掛け、実績を出している事務所を選定することが大切です。
同時廃止の場合
同時廃止になるか管財事件になるかというのはその年度、その管轄裁判所により割合が変化しますが、近年ではおおよそ6:4か7:3くらいの割合で同時廃止が多くなっています。
同時廃止になった場合には基本的に「免責審尋」の1回だけ出頭すればよいという裁判所が多いでしょう。
しかも一定以上の規模の裁判所では通常「集団審尋」というスタイルが取られているので、自分1人で裁判官に向き合うという緊張感はないでしょう。
何か特別な事情があり裁判官が本人から聞き取りをしたいという場合は、免責審尋の前に個別に呼び出しがかかることもあります。
出頭回数を極力少なくするためには、申立の時に添付書面とされている「破産に至る経緯」のような説明文書で事実関係についての詳細な記載をすること、そして破産に至ったことに対する反省や経済的再生に関する決意をしっかり含めておくことが大切です。
※2021年2月現在、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から集団で行う免責審尋の期日を延期する裁判所もあり、その場合は免責の決定が遅くなることもあります。
管財事件の場合
管財事件の場合は同時廃止よりも手続きが複雑ですが、どの程度大変なのか、何カ月くらいかかるのかは案件によりかなりの差があります。
そして、最初に申立をしてくれた代理人弁護士とは別の弁護士が「裁判所によって」破産管財人として選ばれます。
※破産管財人・・・裁判所により選任される、自己破産手続きを補助する役職。
ほとんどは弁護士であるが、申立書を作成した弁護士とは別の者が選任される。
破産事件の内容を調査したり、債権者集会を開催したり、財産の換価配当を行ったりする。
破産管財人が選任された後、債務者はその破産管財人と面会した上で手続き進行に関する打ち合わせなどをするのが一般的です(裁判所ではなく破産管財人の事務所で行うこともあります)。
また、管財事件の場合は「債権者集会」という手続きがあり、ここには債務者と代理人弁護士が裁判所に出向く義務がありますが、病気の診断書があるなど正当な理由がない限り欠席することはできません(通常、仕事は正当な理由になりません)。
ただ、債権者側(特に消費者金融や銀行等の法人)が個人破産の債権者集会に出てくることは特別な事情を除いてはかなり稀だと思ってよいでしょう。
また、東京地裁のように債権者集会の後、別期日ではなく同日に免責審尋を行っている裁判所もあります。
管財事件の場合にもやはりできる限り出頭回数を減らしシンプルに済ませるためには、申立て書類の段階で不明瞭な点を極力減らしておくことが大切です。
自己破産を専門家に依頼する方が良い理由
自己破産の手続きは法的に見れば自分でできないこともないのですが、可能な限り弁護士(司法書士)に依頼する方がよいでしょう。
その理由を考えてみましょう。
必要な書類を不備なく用意可能
自己破産に必要な書類は膨大な数にのぼります。
よほど事務手続きが得意という人でない限りは途中で挫折してしまうことも珍しくありません。
【自己破産の必要書類】
申立書に添付するもの |
債権者一覧表 |
家計収支表 |
|
戸籍謄本 |
|
住民票の写し |
|
委任状(弁護士への) |
|
送達先一覧表 |
|
収入に関する資料 |
申立人の確定申告書2年分 |
申立人の給与明細書3カ月分 |
|
申立人の源泉徴収票2年分 |
|
申立人の課税証明書2年分 |
|
年金等受給者については受給証明書 |
|
住居の状況に関する資料 |
賃貸借契約書 |
生活状況に関する資料 |
同居人の給与明細書3カ月分 |
同居人の源泉徴収票2年分 |
|
財産に関する資料 |
預金通帳 |
残高証明書 |
|
貸付金の契約書 |
|
退職金見込額証明書(または就業規則) |
|
保険証券 |
|
解約返戻金見込証明書 |
|
有価証券 |
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車検証 |
|
車両の時価がわかる資料 |
|
不動産登記簿謄本 |
|
固定資産税評価証明書 |
|
査定書 |
|
被担保債権の残高証明書 |
|
その他の財産があれば時価がわかる資料 |
※上記は一例であり、地方裁判所によりこれ以外の書類を要求されることもあります。
これらの書類をどこで取得すればよいのかを調べ、実際に請求の手続きをし、不足のないように準備しようとすれば、特に普段仕事をしている人には相当な負担になります。
役所関係は平日の昼間しか空いていないことも多いため、場合によっては仕事を休んで書類の準備をしなければならないことにもなるでしょう。
弁護士(司法書士)に依頼する場合、通帳など自分で準備しなくてはならない物もあるのですが、役所関係の取得を代行してもらえることもあり、自分ですべてを行うよりはずいぶん楽になるはずです。
裁判所に行く回数を少なくできる
自己破産申立て書類は郵送でもできますが、できれば一般の人が自分で申立てる場合は窓口に行ってその場で発見できる不備などを指摘してもらうことが望ましいといえます。
ただ、やはり裁判所の窓口も平日の昼間に行かなければならないためそれが負担になることもあるでしょう。
法律家に依頼しておけば本人と打ち合わせの上で作成した書類を裁判所に提出するところまでやってもらえますので、書類提出で裁判所に行くために仕事の休みを取ることがなくなります。
裁判所へ同行してくれる
上記の債権者集会のように債務者側が出席して説明しなければならない場面でも、弁護士がついていれば同行して質問への回答などをしてもらえるため、心理的負担を軽減することができます。
免責許可がおりやすい
本人申立ての場合はやはり最初の申立書類の段階から補正を何度もさせられたり、内容的にも不明部分の説明を求められたりと無駄な工程が多くなり、時間が余分にかかってしまうおそれがありますが、代理人がいればスピーディに処理することができます。
また、免責不許可事由がある案件で裁判所を納得させられるような説明ができれば、より「裁量免責」に持ち込みやすくなります。
ただ、元々どのようにしても免責許可がおりないような案件を弁護士が力技で免責に持ち込める、というわけではないため、免責の可否について過剰な期待は禁物です。
※免責不許可事由・・・債務者に、免責を認めるのが相当ではないような事情があること。
ギャンブルで大幅に財産を失う、債権者を騙して借入れするなどが代表的。
※裁量免責・・・免責不許可事由があるため本来であれば免責が難しい事件につき、事情を鑑みて裁判官の判断で免責を許可すること。
あくまで免責までに無駄な時間をかけずスムーズにおりることが主なメリットであると考えておいた方がよいでしょう。
弁護士(司法書士)に依頼するともちろん報酬が発生しますが、債務整理を手がける事務所は分割払いを認めていることが圧倒的に多いですし、運が良ければ消費者金融などから「過払い金」を取り戻すことにより法律家の報酬を賄うこともできます。
最近は無料相談を行っている事務所も多いため、費用が払えないのではないかと心配している人も、一度相談してみると不安が解消されることもあるのではないでしょうか。
まとめ
裁判所によって、対応が変わってくるって事が良くわかったよ。
- 自己破産手続きの運用は各地方裁判所によって異なる部分があり、基本的には一度は裁判所に出頭しなくてはならないが、手続きが同時廃止になった場合は一度も出頭しなくて済む裁判所もある。
- 自己破産手続きで極力出頭回数を減らすためには、申立書類の段階でなるべく不明瞭な部分がないようにしておくことも大切である。
- 申立ての手続きを弁護士(司法書士)に依頼すると、書類作成や提出を代わりにやってもらうことができ、裁判所からの手続きへの信頼性が高まる、全体としての手続き期間の短縮ができるなどのメリットがあるため、なるべく自分でやるより法律家に依頼する方が望ましい。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
法律家に「言われるがまま」ではなく、自分の意思で、納得して手続きに入るためにも当サイトで正しい知識をつけていただけたら幸いです。
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