自己破産したことがある場合、転職に影響ってあるの?転職先に伝えなければいけないの?
職業制限がかかる職業だとしても、制限がかかるのは、免責許可がおりるまでだから、その期間だけ注意が必要になるんだ。
今回の記事では、自己破産による職業制限について、詳しくみていこう。
自己破産をした場合の影響については、選挙権がなくなるとか戸籍に掲載されるなどのデマも時々みられます。
ただ、自己破産のデメリットに関する情報ではいくつか正しいこともあり、その一つが「職業制限」です。
職業制限というと今の会社を辞めなければならないのか?と考える人もいるでしょうが、制限がかかる期間は限定的であり、制限職種も特定のものに限られます。
本記事では、
- 「自己破産によりどのような職業に制限が課せられるのか」
- 「転職にあたり自己破産がどのように影響するのか」
- 「自己破産すると現在働いている会社との関係はどうなるのか」
などについて解説します。
自己破産による制限がかかる職業とは
自己破産による制限がかかる職業を確認してみましょう。
もっぱら、他人のお金を取り扱ったり、管理する職業が影響を受けることがわかります。
制限される職種
自己破産により就業が制限される職種は数多くありますが、主なものは以下の通りです。
- 「貸金業者」
- 「外国証券業者の役員」
- 「行政書士」
- 「警備業者、警備員」
- 「一般建設業・特定建設業」
- 「公証人」
- 「公認会計士・公認会計士補」
- 「公庫(中小企業金融公庫等)役員」
- 「司法修習生」
- 「司法書士」
- 「(信託法における)受託者」
- 「質屋」
- 「信用金庫の会員・理事・監事・支配人」
- 「社会保険労務士」
- 「証券業・証券仲介業者及びその役員」
- 「税理士」
- 「測量業者」
- 「宅地建物取引士」
- 「教育委員会委員」
- 「通関業・通関士」
- 「土地家屋調査士」
- 「外国法事務弁護士」
- 「一般廃棄物処理業者・産業廃棄物処理業者」
- 「風俗営業者・風俗営業の営業所管理者」
- 「不動産鑑定士・不動産鑑定士補・不動産鑑定業者」
- 「弁護士」
- 「弁理士」
- 「生命保険募集人・損害保険代理店」
- 「後見人・後見監督人」
- 「遺言執行者」
- 「投資顧問業」
- 「旅行業者・旅行業者代理業者」
- 「旅行業務取扱主任者」
- 「一般労働者派遣事業者・特定労働者派遣事業者」
大まかに言えば、「士業」のように他人のお金を取り扱うことが多い職種や、保険、金融業などが主な制限職種といえます。
これらはやはりお金に困っている人が就いてしまうと、顧客の金銭を適切に管理できなくなるおそれがあるからです。
士業の場合は「その職業に就く人には品位を保持する義務がある」こともひとつの理由です。
ただ、医師や看護師などの国家資格を必要とする職種であっても、財産よりむしろ人間の身体にかかってくるような仕事には職業制限がかかっていないことにも注意が必要です。
士業以外で注意が必要な職業
士業は自営であることが多いのですが、例えば金融や保険の分野で会社勤めをしている人、また、今後金融や保険関係に就職活動をしようとしている人は注意が必要です。
自己破産により住所と氏名が政府の機関紙である「官報」に掲載されますが、官報は一般の人がわざわざ毎回見ているということはほとんど考えられません。
ただし、金融機関や保険会社などであれば話は別です。
顧客や申込者、社員などの情報を収集するために官報を丹念にチェックしていることも十分あり得るため、もし自己破産がバレたら職場での配置換えや、入社試験での不採用になる事態も考えられます。
よって、今後就職を希望する人は職種の変更も含めて考えておいた方がよいでしょう。
制限がかかる期間
自己破産による職業制限は永遠に続くわけではなく、「復権(破産者が法律上の資格制限から解放されること)」までと、期間が限定されています。
裁判所から最終的に債務の免責許可決定がおりて確定した場合には破産手続きは完了し、ここからは破産者ではなくなりますが、このことを当然復権(下で解説します)といいます。
当然復権の場合、職業制限が続くのは、最初に自己破産の申立書を出して裁判所から「破産手続開始決定」が出た時から、免責許可決定の確定までです。
実際の期間はどのくらいになるかというと「事案によりまったく異なる」というのが実情です。
自己破産には「同時廃止」と「管財事件」という二種類の処理方法があり、どちらに振り分けるのかは裁判所が決定します。
大まかに言えば、
「管財事件では債権者に配当できるまとまった財産があることが多いため、財産の換価(お金に換える)と配当で手続き期間がより長くなる」
といえます。
管財事件でも、具体的な期間がどのくらいかは財産の内容により異なりますが、不動産がある場合は売却までに1年以上かかることもありますので、職業制限の期間もそれだけ長引くことになります。
債務者にみるべき財産がない場合には同時廃止となりますので、最短であれば2カ月程度で職業制限から解放されることもあります。
なお、上記の「当然復権」以外にも破産者の立場から復権できるパターンがありますので、次項で解説します。
復権とは
上記のとおり、破産者が破産による制限から解放されることを「復権」とよびます。
復権する方法としては「当然復権」と「申立てによる復権」があります。
【当然復権となるケース】
- 「免責許可決定が確定した場合」
破産手続が滞りなく進み、最終的な免責の段階までいくとほとんどは免責許可決定がおりるため、実務的にはこれが多いと考えられます。 - 「債権者の同意による破産手続廃止の決定が確定した場合」
破産手続の途中であっても、届出期間内に届出た債権者が同意した場合には破産手続を廃止することができます(同意廃止)。
ただ、配当を受けられない状態で債権者全員が同意することは稀であるため、同意廃止による復権は決して多くはありません。 - 「再生計画認可の決定が確定した場合」
破産手続開始後に民事再生が申し立てられ、裁判所が再生手続開始決定をした場合は破産手続は中止されます。
その後の再生手続によって再生計画が認可されて確定すると破産手続は効力を失い、破産者だった者は復権します。 - 「破産者が破産手続の開始以後、詐欺破産罪について有罪の確定判決を受けることなく10年を経過したとき」
仮に免責を受けられなかったとしても、破産手続開始決定から10年を経過していれば破産手続は終了しているとみられ、10年という長期に渡り資格制限を課すことは妥当ではないことから復権が認められます。
【申立てによる復権となるケース】
当然復権にあてはまらない人は「申立てによる復権」といって、手続きを経た上での復権となります。
申立てによる復権が認められるためには
「すべての債権者に全額弁済をした上で、裁判所に復権の申立てをする」
ことが必要です。
なお、当然復権や申立てによる復権により、確実に復権できたのかを確認するには、市区町村役場で「身分証明書」を発行してもらう方法があります。
身分証明書とは、いわゆる本人確認書類のことではなく、公的な書類として次のことを証明した書面のことです。
- 「本籍」
- 「氏名」
- 「生年月日」
- 「禁治産または準禁治産の宣告を受けていない」
- 「後見の登記の通知を受けていない」
- 「破産宣告の通知を受けていない」
つまり、身分証明書を取得すれば破産宣告の通知を受けていない、つまり破産者ではなくなったことを証明できることになります。
転職先に自己破産を伝える必要はあるのか
自己破産をした後、仮に転職するとしたら転職先に自己破産したことを伝える必要はあるのか、また、バレることがあるのかを考えてみましょう。
自己破産を伝える必要はない
原則として、転職先に自己破産をわざわざ自分から伝える必要はありません。
ただ、上記に解説した制限職種に該当する仕事に就こうとしている人で、まだ免責許可決定が確定していない段階、つまり職業制限がかかっている状態であれば、伝えざるを得ません。
ただし、職業制限がかかる職種であっても、すでに免責許可決定が確定するなどで「復権」を得ていれば破産者ではないため、伝えなくても差し支えありません。
自己破産は転職先にバレるのか
自己破産したことを自分から申告しなかったにも関わらず、転職先にバレることはあるのでしょうか。
破産者の情報として唯一公的に記載されるのは上記に解説した「官報」です。
しかし、官報をよく見ているのは金融や保険など一部の職種にすぎず、ほとんどの会社ではわざわざ応募者が破産者かどうか確認しているということは考えられません。
よく「破産すると戸籍に載る」といった誤解がされていますが、戸籍謄本や住民票といった公的書類には自己破産の事実は記載されません。
よって、一部の職種を除いてはほとんど自分で言わない限り、バレる心配はありません。
自己破産は転職に不利になるのか
自己破産をしたこと自体が直接的に転職に不利になるのかといえば、影響を受けることはほとんどないでしょう。
もちろん職業制限を受ける職種であれば仕事にブランクができるなどの形で影響を受けるリスクもありますが、その他の職種ではバレることもないため実質的影響はありません。
自己破産がバレると解雇されるのか
仮に、在職中に自己破産がバレてしまうと解雇される危険があるのでしょうか。
自己破産は正当に解雇ができる事由とはならないため、もちろん自ら退職する必要もありませんし、会社にバレたとしても解雇したら「不当解雇」となります。
会社に自己破産がバレる状況として考えられるのは、「源泉徴収票」「退職金見込証明書」など、会社の経理を通じて取得し裁判所に提出する書類の発行の発行を依頼した際、経理担当者に勘づかれる可能性があることでしょう。
ただ、このような書類でも「住宅ローンの審査に出す」など適当な理由をつけて発行してもらうこともできるため、実際にはバレないことも多いといえます。
とにかく大切なのは「自分からうっかり漏らしてしまわない」ことです。
法的には解雇事由にならなくても、自己破産の噂が広まってしまい居心地が悪くなって辞めるというパターンを避けなくてはならないからです。
自己破産後に少しでも家計を健全化するためにも、やはり収入源だけは死守しなければなりませんから、職場の居心地はより良くしておくに越したことはありません。
まとめ
- 士業や生命保険募集人、警備員などの職業は、破産手続き開始決定から免責決定確定など「復権」とよばれる状態になるまでそれら職種に従事することができなくなるが、これを「職業制限」という。
- 破産手続中に資格制限を受けていた者であっても、復権を得た後であれば特に今までのような制限はないため、資格制限中に業務のブランクができることを除いて実質的な影響はほぼないといえる。
- 自己破産したことは通常、保険や金融業などで「官報」を閲覧している職場以外であれば知られる可能性がほとんどなく、自己破産を理由として退職する必要もなく転職の際も伝える必要はない。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
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債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
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