破産管財人ってどういう意味?役割や報酬、権限など詳しく解説
自己破産の手続きを進める場合、破産管財人がつく場合とつかない場合で、弁護士費用が変わるって聞いたんだけれど本当?
そうなんだ。 破産管財人がつくとその分費用が多くかかってしまう事になるんだよ。
そもそも、なんで破産管財人がつく場合とつかない場合があるの? 破産管財人にはどんな役割があるの?
よし! では早速、破産管財人の意味や役割について、詳しく見ていこう!
破産手続を裁判所の内部の裁判官や事務官だけで行うのは無理な場合があります。
個人破産の大半は「同時廃止」といって配当や調査が行われません。
しかしもう一つの手続き類型である「管財事件」は破産者の財産の調査や、換価(お金に換える)と財団債権配当など煩雑な業務がありますので「破産管財人」の選任が前提となります。
そこで、破産管財人とは何か、具体的にどのようなことを行っているのか、そこにかかる費用などを考えてみましょう。
破産管財人とは
破産管財人は「裁判所の補助的役割」とされ、かなり深い法的知識を必要とするためもっぱら弁護士が就任しますが、自己破産の手続きを申し立てられた地方裁判所が選任します。
破産管財人の役割
破産管財人は、どんな役割があるの?
破産者の財産の管理や財産換価などを行うんだ。 その他の破産管財人の役割を詳しく説明するね。
破産管財人は具体的にどんな仕事をしているのかを詳しく確認してみましょう。
破産財団に属する財産の管理
前提として、破産手続開始決定がされると破産者は、自らの財産の中でも「破産財団」に属する財産についての管理処分権限を失うということがあります。
破産財団とは、「債権者への配当に回される予定の財産の集合体」であり、要するに「破産者の手元に残すことができない財産」です。
なお、債務者の手元に残せる財産の範囲(自由財産)については注意すべきポイントがあります。
- 自由財産として残せる財産の具体的金額は全国で統一されていない。
各地方裁判所の判断に委ねられているため基準が異なる場合も多い。 - 自由財産は、各債務者の個別事情により拡張できることがある。
申立代理人弁護士から裁判所に「自由財産拡張の申立て」を行って認められた場合にのみ拡張することができる。 - 差押禁止財産は民事執行法で規定されている部分(給料債権の4分の3など)。
- 新得財産は、「破産手続開始決定」以降に取得した財産。
※破産財団に属していた財産であっても、「売却不能」などさまざまな事情で破産財団から放棄されることがあります。
換価、配当に関する破産管財人の業務は、破産財団に属している財産の価格を評定することから始まります。
債権者への通知などの代行
東京地裁はその案件数の多さから他の裁判所にはない独自の運用を行っていますが、
- 「債権者が多数」
- 「破産管財人の協力が得られる」
という場合に限り、破産財団の費用を使って「破産手続開始決定通知書」や「破産債権届出書」などの発送を破産管財人から行っています。
差押等がついている場合は執行の停止
また、事案によっては破産手続開始決定の前に債務者の財産に差押え等がされている場合がありますが、これらの取消を裁判所に上申したり、債権者に取り下げの交渉をします。
破産者の財産換価(お金に換える)
上記のとおり破産者は自分の財産を「自由財産」として手元に残してよいとされた分以外は基本的にすべて失います。
これらは破産財団に属することになりますが、管理処分権を持つのは「破産管財人」となります。
どのような時期に、どのような方法で換価するかは破産管財人が判断することになっていますが、破産管財人の使命は
「どれだけ債権者への配当を増やせるか、債権者間の公平性を保てるか」
ということですので、財産をできるだけ高く売り、破産財団の内容を充実させることを目的として動いています。
否認権の行使
「否認権」というのは、破産者が破産手続開始の前に自分の財産を不当に減らすような行為をした場合それを否定するもので、破産管財人独自の権利として認められています。
自己破産すると財産を失うということはよく知られているため、安易に親族などに財産を移そうとする人がいますが、これは非常に危険な行為だということです。
もし、故意であり悪質であれば最悪の場合は「免責不許可」になる可能性もありますのでくれぐれも気をつけなければなりません。
否認権を行使される行為とは?
- 詐害行為
詐害行為とは、破産者が自分の財産を絶対的に減少させるような行為です。
「不当に安く売る」などが典型的なものです。
また、破産申立ての時期に近い離婚で、配偶者に不相応に高額な財産分与や慰謝料を給付しているケースがあります。
このような場合、「慰謝料の要素を含めても不相当に財産分与額が大きい」または「慰謝料について破産者が負担すべき損害賠償額を超えているとみられる」のように判断されれば「過大と判断される部分に限って」否認されることとなります。
- 偏頗(へんぱ)行為
すべての債務の支払いが不能になったことがわかった時期、または破産手続申立てをする時期になって特定の債権者にだけ担保を提供したり、債務の弁済やそれに準じる行為(相殺など)をした場合です。
否認権行使の方法
上記のように否認権行使は破産管財人独自の権利ですが、いくつかのパターンがあります。
- 自ら原告になり、否認訴訟を起こす。
- 破産管財人を被告とする訴訟で抗弁(相手の言い分に対して法律的に言い返すこと)する
- 裁判所に対し否認請求を申し立てる
否認権行使の効果
否認権が行使されると、流出してしまった財産が当然に破産財団に復活します。
もちろん、安価に売却した例で相手方が対価を支払っているなどの事情があればそれを破産財団から相手方に返還します。
債権者集会に関する手続き
債権者集会とは、債権者に対して破産に至る経緯や配当できる財産の状況などを報告するために行うものです。
破産者の中には債権者から罵倒されることを恐れている人もいるのですが、実際にはドラマの中で見るような怒号が飛び交う債権者集会は、マスコミで話題になるレベルの会社破産など本当にごく一部です。
実際の債権者集会は債権者が出席しないことも多く、出席したとしても淡々と報告がされて短時間で終わることが大半です。
東京地裁の場合、全件について「財産状況報告」のための債権者集会を開くことになっていますが、破産管財人はその準備も大切な仕事です。
- 事前に(1週間前までに)裁判所との間で打ち合わせ(電話やFAX)
- 当日には財産目録、収支計算書、破産手続開始に至った事情などの報告書を提出
債権者集会の当日は書面による資料もあるため、口頭では簡単な説明を行います。
事件の複雑性によって何回の債権者集会を開くかが決まってきますが、個人破産の場合は1回で済むことが多くなるでしょう。
配当や廃止などに関する手続き
上記で、「破産者の財産を換価する」と説明しましたが、換価した財産を使って
- 破産手続きに必要な費用の支弁(まかなう)
- 債権者への配当
を行います。
破産管財人が必要となる場合とは
破産管財人が選任されるのは、どんな場合なの?
財産がある人や、免責不許可事由がある場合などは、破産管財人が必要となるんだよ。
では、実際に破産管財人が選任されるのはどのような場合なのでしょうか?
個人の破産手続きで破産管財人が選任されるのは大きく分けて2つです。
- 配当すべき財産がある
- 免責不許可事由が存在する
免責不許可事由とは、財産隠しをする、債権者をだまして借り入れた、破産手続きに協力しなかった、ギャンブルで財産の大半を失ったなど、普通に免責させるには道義的に問題があり慎重に免責を判断する必要がある事由のことです。
1と2のいずれか、あるいは両方が存在する場合に裁判所はその事件を「管財事件」に振り分け、破産管財人を選任することになります。
本来であれば、破産手続きの原則は、「管財事件(破産管財人を選任する手続き)」です。
ただ、実務的には配当すべき財産を持っている債務者の方が圧倒的に少ないため、多くのケースが(7割~9割、年度や地域によっても若干異なる)同時廃止事件となってしまっているのです。
破産管財人が選任された場合の破産者への影響
破産管財人がつく場合には、破産者に何か影響はあるの?
郵便物の転送や、事情聴取、財産の換価などが行われる事になるから、同時廃止よりも長い期間がかかってしまう事になるね。
では、破産管財人が選任される(管財事件になる)と、破産者本人に与える影響としてはどのようなものがあるのでしょうか?
事情聴取を受ける
上記の
- 「配当財産がある」
- 「免責不許可事由がある」
どちらのタイプでも、破産管財人になった弁護士の事務所に破産者が出向いて、打ち合わせや事情の聴き取りをすることになります。
前者(配当財産がある)の場合であればどこまでの財産を換価すべきかという問題があります。
生活状況によっては「自由財産(破産者の手元に残すことを許される財産)」を拡張することが必要なこともあるため、家計全体がどのようになっているかを把握する必要もあるのです。
管財事件での換価について、実際にあったのはたとえばこんな事例です。
本来、保険を解約して返戻金を配当するべきだったが、破産者の家計や、その保険が子供のために掛けていた学資保険だった関係上、将来の進学に必要と思われる一定の契約を残してもらうことができた
また、後者(免責不許可事由がある場合)では、極端な浪費などが原因で免責不許可事由に該当する場合は、その背後に複雑な事情(精神疾患)などが潜んでいることもあります。
事情によっては破産管財人が最終的に裁判所に「免責相当」という意見を出して「裁量免責」することもあります(むしろそうなるケースの方が圧倒的に多いといえます)。
このように破産者個人個人を「ケースバイケース」で見る必要があるため、破産管財人と破産者の面談は入念に行われなくてはなりません。
裁判
本来、債務者自身がすべきだった訴訟を、破産者として破産管財人がついたために破産管財人が代理して行うこともあります。
これは、より多くの資産を破産者の手元に回収して債権者への配当を増やすためです。
たとえば
- 貸金、売掛金回収のための訴訟
- 消費者金融などに利息を払い過ぎていた場合の「過払い金返還請求訴訟」
のようなものです。
郵便物が転送される
管財事件に限ってのことですが、破産者あての郵便物が破産管財人に転送されるという処理がされることがあります。
これは、裁判所が郵便事業者に対して嘱託(依頼)する形で行いますが、現在の破産法ではこの転送嘱託は任意となっています(東京地裁については管財事件全件で行う運用になっています)。
郵便物には債権債務や財産に関係するものも多く、これらをチェックすると隠していた債権額や債務者の資産がわかることもあるからです。
ただ、転送嘱託がされた場合でも、破産管財人の手元で「破産手続きに関係なし」と判断された場合には破産者に返却してもらうことができます。
この場合、破産管財人から破産者に送ると結局また転送で破産管財人のところに戻ってきてしまうため、破産管財人の事務所に取りに行くことが通常です。
財産の換価
財産については上記のとおり「自由財産」として債務者の手元に残せる部分以外は換価し、配当されます。
- 預貯金であれば自由財産以上の残高があるものを解約する
- 自由財産以上の返戻金がある保険があれば、契約そのものを解約して解約返戻金を取得する
- 不動産であれば「任意売却」などの方法で現金化する
破産管財人への費用
破産管財人が選任されると、破産者はどの位の負担を強いられる事になるの?
だいたい20万円前後の費用がかかってしまう事になるんだよ。
では、破産管財人が職務をしてくれる分の費用はどのようにして賄うのでしょうか?
これは、破産手続きが裁判所によって「管財事件」に振り分けられた時点で「予納金(特にこのような場合を『引継予納金』と呼ぶ)」を納めることにより支払います。
破産管財人費用はどのくらい、いつ、誰が負担するか
破産管財人の引継予納金は管財事件への振り分けが決まって裁判所の指示があり次第、すみやかに納めます。
破産者本人に負担義務があります。
個人の破産事件で裁判所の運用方法として用いられる「少額管財」においては、引継予納金は20万円程度になることが多いです。
なお、申立を代理する法律事務所や弁護士への報酬とは別であることに注意しましょう。
納付の明確な期日はありませんが、これを納付しなければ破産手続きは先に進んでいかないため、急ぐに越したことはありません。
破産管財人費用が工面できなかったら?
破産管財人の費用は上記のように「引継予納金」の形で支払いますが、破産者でありながら20万円という金額を一括で支払える人はそう多くはありません。
このような場合、実務的にはどのような対応をしているのでしょうか?
- 弁護士(司法書士)の報酬を長めの分割払いとする。
ただし、対応の可否は各事務所の判断によるため、分割払いにしてもすべての報酬の支払いが終わらなければ進めてくれない事務所もあります。 - 家族、親戚などで援助してくれる人がいれば費用の援助を受ける。
これも家族の経済状態や協力態勢次第となりますが、家族が何度も肩代わりしたにも関わらず借金を繰り返しているなど「病的」なレベルの債務者については安易に周囲が援助しない方がよいこともあります。 - 裁判所に引継予納金が貯まるまで半年程度待ってもらう。
これは完全に各地方裁判所レベルでの運用ですので、待ってくれない(いったん免責許可申立て自体を取り下げるよう言われる)裁判所もあります。また、待ってもらうというのは裁判所に対して分割払いができるという意味ではなく、全額貯まった時点で一括払いします。 - 法テラスに引継予納金の分を借りる
「生活保護受給者について」という条件付きではありますが、法テラス(国が設置している法律相談や各種扶助を行っている機関)で管財費用(20万円が限度)の貸与を受けることができます。
法テラスから貸与された費用は基本、返還が必要ですが手続きが終了してもなお生活保護を受けていれば返還が免除されることもあります。
※法テラスによる貸与(法律扶助制度)について詳しくは法テラス公式サイトをご覧ください。
破産管財人を拒否する事は可能か
破産管財人がついてしまうと、費用もかかるし、破産手続きにも時間がかかるよね? 破産管財人を断る事ってできるの?
破産管財人がつくか否かは、裁判所が決めるから、破産者が決める事はできないんだよ。
破産管財人がつくと費用がかかる、時間がかかる、色々な免責調査を受けるということから、債務者ならなるべく避けたいという心情になることは無理もないでしょう。
しかし、あくまでも管財事件になるかどうかは裁判所が提出された破産申立書やその他一切の書類を見て判断することであり、債務者(破産者)自身が選択できるわけではありません。
もし管財事件になってしまったら、費用と時間はかかるものの、破産管財人の指示に従って本当のことをきちんと話す、そして書類の追加収集など免責手続に協力することがすみやかに免責許可決定を受けるためのコツです。
破産管財人の意味と役割、まとめ
自己破産の手続きは、個人再生よりも簡単でスムーズに進むと思っていたけれど、破産管財人がつくと、手続きが煩雑になりそうだね・・・
財産があったり、免責不許可事由があるために、破産管財人がつくことになるわけだから、少しでも手続きがスムーズに進むように、選任された弁護士に協力しながら進める様にしよう。
- 破産管財人は破産を申し立てられた裁判所が選任する「裁判所の破産手続きを補助する役割」である。
- 破産管財人の仕事は換価配当、否認権行使、債権者集会開催、破産財団を充実させるための裁判など多岐に渡る。
- 破産申立てに近い時期で安易に財産の移転をすると、破産管財人によりその行為が否認されることがある。
- 破産管財人の費用は個人破産の場合、20万円くらいかかる(裁判所への引継予納金)。
- 破産管財人の費用を工面できない場合、弁護士費用の分割払いを長めにする、裁判所に予納金が貯まるまで待ってもらう、親族などから援助を受ける、法テラスから貸与を受けるなど様々な方法がある。
西岡容子
青山学院大学卒。認定司法書士。
大学卒業後、受験予備校に就職するが、一生通用する国家資格を取得したいと考えるようになり退職。その後一般企業の派遣社員をしながら猛勉強し、司法書士試験に合格。
平成15年より神奈川県の大手司法書士法人に勤務し、広い分野で実務経験を積んだ後、熊本県へ移住し夫婦で司法書士法人西岡合同事務所を設立。
「悩める女性たちのお力になる」をモットーに、温かくもスピーディーな業務対応で、地域住民を中心に依頼者からの信頼を獲得している。
以後15年以上、司法書士として債務整理、相続、不動産を中心に多くの案件を手掛ける。
債務整理の森への寄稿に際しては、その豊富な経験と現場で得た最新の情報を元に、借金問題に悩むユーザーに向け、確かな記事を執筆中。
■略歴
昭和45年 神奈川県横浜市に生まれる
平成5年 青山学院大学卒業
平成14年 司法書士試験合格
平成15年 神奈川県の大手司法書士法人に勤務
平成18年 司法書士西岡合同事務所開設
■登録番号
司法書士登録番号 第470615号
簡易裁判所代理権認定番号 第529087
■所属司法書士会
熊本県司法書士会所属
■注力分野
債務整理
不動産登記
相続
■ご覧のみなさまへのメッセージ
通常、お金のプロである債権者と、一般人である債務者の知識レベルの差は歴然としており、「知らない」ことが圧倒的に不利な結果を招くこともあります。
債務整理の森では、さまざまなポイントから借金問題の解決方法について詳しく、わかりやすく解説することに努めています。
借金問題を法律家に相談する時は、事前に債務者自身が債務整理についてある程度理解しておくことが大切です。
なぜなら大まかにでも知識があれば法律家の話がよく理解できますし、不明な点を手続き開始前に質問することもできます。
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