かぼちゃの馬車のオーナーがスルガ銀行に減額交渉!金融ADRとは
先日から世間を騒がせている「かぼちゃの馬車」と「スルガ銀行」のトラブルですが、新たな動きがあったようです。
多額の債務を負ったかぼちゃの馬車のオーナー達が、スルガ銀行宛に「ADR」を使って債務の減額交渉を始めており、金融庁、消費者庁からもスルガ銀行に「金融ADR」を使うようにと言う行政指導がありました。
金融ADRとは一体何なのか?
これによって不動産ローンを減額してもらうことなど可能なのか?
正直なところ、これで「元金」が減るようなことがあったら他の債務者にも示しがつきませんし、実際どうなってしまうのか・・・。このあたりのことを元弁護士である福谷陽子さんに執筆頂きました。
今回の記事で詳しくみていきましょう。
前提|スルガ銀行が不正によってかぼちゃの馬車オーナーに貸付をしていた
先日、シェアハウス投資を行っていたかぼちゃの馬車のオーナーたちが、ローン借入先であるスルガ銀行に対する債務の減額交渉を開始したというニュースが流れました。
かぼちゃの馬車とは、一時期人気を博していた女性専用シェアハウスのシリーズです。
スマートデイズという不動産会社が主となって運営しており、多くの投資家に呼びかけてシェアハウスのオーナーになることを勧め、スマートデイズ自身はサブリース契約を行い、サブリース賃料を得るという形で関与していました。
その後スマートデイズは破綻し、オーナー達に賃料は支払われなくなっています。
かぼちゃの馬車に投資する際、多くの投資家は「スルガ銀行」でシェアハウス投資向け融資を組みました。
スルガ銀行は、かぼちゃの馬車のオーナーに対し、他の金融機関と比べて緩い審査で貸付を決定してくれたからです。
不動産投資用ローンは高額です。
なぜ、スルガ銀行は緩い審査で多くの投資家に多額の貸付をしたのでしょうか?
それは、スルガ銀行がより多くの顧客にローン貸付を行って、大きな利益を上げたかったからです。
一般に不動産投資用ローンは住宅ローンなどよりも高金利ですし、貸付金額も大きいので、もうけの利幅も高額になります。
スルガ銀行は、そういった利益を獲得するために、多少無茶な方法を使っても不動産投資向け融資を通していた実態があったようです。
そのためには、ローン審査用の通帳や売買契約書などの資料を偽造・変造していた行員もいたと言われています。
このように、スルガ銀行は、かぼちゃの馬車のオーナー達に対し、「不正融資」によって多額のローン貸付をしていたのです。
かぼちゃの馬車オーナーが債務の減額を求める
今回スマートデイズが破綻して賃料も入ってこなくなり、かぼちゃの馬車のオーナーの中にはスルガ銀行から借りたローンの返済ができなくなってしまった人がたくさんいます。
一般的に、負債を返済できないのであれば、自己破産するしかありません。
ただ、かぼちゃの馬車のオーナーたちは、自己破産を選択せずに、「ADR」という方法を選びました。
ADRとは
ADRとは「裁判外紛争解決手続きを行う解決機関」のことです。
つまり、各種のトラブルについて裁判所を使わずに解決する手助けをしてくれる機関と考えると良いでしょう。
トラブルが発生したとき、かつては裁判所しか解決できる場所がありませんでした。
しかしそうすると、いちいち裁判の重厚な手続きが必要になって手間ですし時間もかかります。
また裁判では、必ずしも各方面の専門家が関与するとは限らないので、専門分野のトラブルの場合、妥当な結果を得られるとは限りません。
さらに裁判では法的な権利義務の存否しか判断されないので、柔軟な解決ができず、当事者が満足できないことも多々ありました。
そこで、各種の専門分野について、「ADR」を作り、そこで迅速かつ妥当なトラブル解決を目指そうということになりました。
今回、かぼちゃの馬車のオーナー達が利用したのは「不動産ADR」という不動産専門のADRです。
専門委員が物件や不動産売買などの不動産取引について調査を行い、貸付の経緯なども聞いた上で負債の減額を含めた債務の減額を提案する予定になっています。
スルガ銀行に対する行政処分
このような状況下において平成30年10月5日、スルガ銀行が不正をしていたことを理由に、金融庁がスルガ銀行に対し業務停止命令を下しました。
そこではスルガ銀行に対し、シェアハウスのオーナー(つまりかぼちゃの馬車の被害者)に対する不動産投資ローンについての金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADRを利用した元本の一部カットをするように求められています。
つまり、金融庁はスルガ銀行に対し「かぼちゃの馬車のオーナーに配慮してローンを減額するように」と言っているのです。
金融ADRとは
スルガ銀行が利用を命じられた金融ADRとは、銀行融資や証券取引、生命保険などの金融関連のトラブル解決を目的としたADRです。
金融の分野は、日々新しい問題が発生しており法改正も頻繁に行われる非常に専門性の高い分野です。
そこで、金融トラブルに専門的に対応するため、平成22年「金融ADR」という制度が作られました。
金融ADRでは、銀行の取扱い商品についてのトラブルや生命保険会社とのトラブル、証券会社の扱う投資信託などのトラブルについて、利用者(顧客)と金融機関との間に入り、解決にあたります。
金融ADRを利用すると、専門知識を持った弁護士などの第三者委員会(紛争解決委員)が間に入って、金融機関側と利用者側の話合いのあっせんを行います。
そして、紛争解決委員から「和解案」の提示があります。
これを利用者側と金融機関側の両方が受け入れると、ADRによる和解が成立して、問題が解決されます。
利用者側は和解案の受諾を断ることができますが、金融機関側は、原則として紛争解決委員からの和解案を尊重しなければならないとされています。
つまり、何かよほどのことがない限り、銀行は紛争解決委員からの和解案を受け入れないといけない、ということです。
金融ADRにはどのようなものがあるのか?
金融ADRは裁判所ではありませんが、金融関連のトラブルを解決するための重大な役割を負っています。
そこで「金融ADR」となるためには、きちんと国から指定される必要があります。
2018年11月時点において金融庁が発表している金融ADRは、以下のとおりです。
一般社団法人生命保険協会
- 生命保険業務
- 外国生命保険業務
一般社団法人全国銀行協会
- 銀行業務
- 農林中央金庫業務
一般社団法人信託協会
- 手続対象信託業務
- 特定兼営業務
一般社団法人日本損害保険協会
- 損害保険業務
- 外国損害保険業務
- 特定損害保険業務
一般社団法人保険オンブズマン
- 損害保険業務
- 外国損害保険業務
- 特定損害保険業務
- 保険仲立人保険募集
一般社団法人日本少額短期保険協会
- 少額短期保険業務
- 日本貸金業協会
- 貸金業務
特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター
- 特定第一種金融商品取引業務
金融ADRにかかる期間と費用について
金融ADRを利用する場合、裁判所よりもずっと早く解決できる可能性が高いです。
平成29年度上半期の金融庁発表のデータによると、3か月未満で解決できた件数が25%、3か月以上6か月未満で解決できた件数が48%であり、全体の7割以上が半年以内で終結しています。
また、一部のADRをのぞいて費用は無料です。
この点でも裁判所より利用しやすいと言えるでしょう。
金融ADRと最終解決率
金融ADRでは、紛争調停委員から和解案が示されるので、自分たちだけで話し合うよりは和解が成立しやすいですが、必ずしも解決できるとは限りません。
解決の見込みなしとして途中終了してしまう件や、一方がADRを放棄して離脱してしまう件もあるからです。
実際に、平成29年度上半期の金融庁のデータによると、すべての件数のうちでもっとも多かったのは「解決の見込みなし」として終了した件で53%、次が「和解」の35%、3番目が特別調停の7%となっています。
つまり、半数以上は金融ADRを使ってもトラブルを解決できていないわけですから、決して解決率が高いとは言えません。
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金融ADRの弁護士について
金融ADRを利用すると、「紛争解決委員」として金融問題に詳しい弁護士などが関与しますが、この弁護士は「利用者の代理人」の弁護士ではありません。
利用者側にも立たず、金融機関が輪にも立たない「公正中立の立場」の弁護士です。
そこで、紛争解決委員の提示する和解案は、必ずしも利用者にとって有利な内容とは限りません。
場合によっては、金融機関側に有利な内容であることもありますし、双方とも納得しにくい可能性もあります。
また、金融ADRは、基本的には「和解をあっせん」するための機関であり、当事者に何らかの義務を強制する権限はありません。
そこで裁判所のように、強制的に当事者に命令を出すことはできません。
提案はできても、当事者に受け入れられなかったら終わってしまいます。
債務が減額される可能性について
今回、かぼちゃの馬車のオーナーたちは、スルガ銀行から借りたローンを返済できないので、負債を圧縮するように求めています。
金融ADRによってローンが圧縮される見込みはあるのでしょうか?
今回、スルガ銀行は、ローン申込みの際に「通帳や売買契約書などの偽造や改ざん」を行っていたもようです。
また、不動産融資前に顧客の口座に見せ金を入金し、審査に通りやすくするという不正も行っていたとされています。
このようなことから金融庁から行政処分を受けて新規の不動産投資ローン貸付業を禁止されていますし、「金融ADRを使って元本を減額するように」というお達しも受けています。
そこで、紛争解決委員からスルガ銀行に向けて、元本減額を含めた利用者に有利な内容の提案がなされる可能性が高いと言えるでしょうし、スルガ銀行としても受け入れざるを得ないと考えられます。
金融ADRからの提案が予想される和解案
具体的に、金融ADRからはどのような和解案が提示されると予想されるのでしょうか?
- 元本減額
ローンを元本ごと減額してもらう方法です。
金融庁からはっきり「元本減額するように」と言われているので、おそらく提案されるでしょう。
ただしその場合、どこまで減額されるのかは問題となる可能性があります。 - 利息のカット
元本の減額とともに、利息をカットしてもらうことが考えられます。 - 支払期間の延長
現在の支払い計画では返済が苦しいため、支払期間を延ばす可能性があります。 - 元本支払いの猶予
元本の支払を猶予して利息だけの支払いにしたり、一部の元本の支払いを先送りにしたりする方法です。
金融庁から「利息の引き下げ、支払い条件の変更」などと言われていることからすると、上記の複数を組み合わせた提案になる可能性が高いです。
オーナーによって解決が区々となる可能性も
今回、金融ADRが行われたとしても、すべての問題が解決するわけではありません。
紛争解決委員から解決案を示されても、受け入れるオーナーと断るオーナーが現れるだろうからです。
資金的に余裕のあるオーナーや、融資金が少ないオーナーの場合、比較的厳しい条件でも受け入れて解決できるでしょうけれど、資金的に厳しいオーナーであれば、かなり大幅な譲歩をしてもらわないと解決できません。
解決案では救われないオーナーがいたら、そのときには、いよいよ自己破産をしなければならない可能性が濃厚になります。
かぼちゃの馬車の全オーナーが救われる日が来るのかどうかはまだまだ予断を許しません。
ADRと弁護士について
今回は、金融ADRについて解説しましたが、金融ADRに限らずADRを利用するときには、弁護士に依頼することができます。
中立の金融ADRの弁護士(紛争解決委員)ではなく、自分のために働いてくれる弁護士を雇える、ということです。
ADRを弁護士に依頼すると、ADRへの申立の手続きや紛争解決委員への主張、書面の準備や提出など、すべて行ってもらえます。
また話合いの期日には同行してくれて、依頼者の主張をADRや相手方(金融ADRの場合には金融機関側)に伝えることも可能です。
紛争解決委員からの和解案を受け入れるべきかどうか迷ったときにも自分の弁護士に相談できて安心なので、もしもADRを利用する機会があれば、是非とも1度、弁護士にも相談してみてください。
福谷陽子
元弁護士・ライター。
弁護士としての活動した約10年間のうち、7年間は独立開業して事務所の運営を行う。
実務においては債務整理案件を多数担当し、任意整理・個人再生・自己破産のみならず、過払金請求も手がける。
その経験をもとに、現在はライターとして法律関係の記事を執筆している。
■略歴
・京都大学法学部在学中、司法試験合格
・京都大学法学部卒業後、司法研修所入所
・弁護士登録・某法律事務所にて勤務
・独立し、陽花法律事務所を設立
・弁護士活動を停止し、ライターに転身
■ご覧のみなさまへのメッセージ
借金問題を抱えていると、追い詰められた気持ちになるものです。
「どうしようもない」「借りた自分が悪い」「借りたからには返さなければ」と律儀な思いを持ち、必死で返済を続けている方もおられるでしょう。
しかしどんなに頑張っても返済できない借金があるものです。
法律は借金返済できない方や苦しくなった方に救済手段をもうけています。
債務整理をすると嘘のように借金問題を簡単に解決できるケースが本当に多いです。
借金問題に悩んでいる時間はもったいないです。
債務整理は恥ずかしいことではないので、勇気を出して専門家へ相談していただきたいと思います。
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